福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

アルゲリッチ&カンブルランのプロコフィエフ第3!

2019-06-24 10:10:56 | コンサート
エルプフィルハーモニー前のタクシー乗り場に急いだものの、目の前で2台が行ってしまった。しかし、徒歩+バスよりは早かろうと佇んでいると、5分ほど待ってようやくタクシーの影が! いざ、乗ろうと手を上げると、たった今、やってきた二人組ご婦人が、図々しくも割って入ってきて乗り込もうとしたので、心ならずも蹴散らしたことは既に書いたとおり(笑)。まったく油断がならない(先にグイッとタクシーのドアノブを掴んだだけ。念のため)。



ヨハネス・ブラームス・プラッツに建つライスハレは、所謂ヨーロッパの伝統的な音楽ホール。現代の科学と技術の粋を尽くしたエルプフィルハーモニーを生涯最高のホールと讃えたばかりの口で言うのも変だが、こういう昔ながらの木のホールに入るとホッとするのも事実である。



マルタ・アルゲリッチ音楽祭からの1公演で、カンブルラン指揮ハンブルク響によるヴェーベルンのパッサカリア、アルゲリッチ独奏によるプロコフィエフの第3協奏曲、休憩を挟んでチャイコフスキーの第5という魅惑のプログラムだ。



座席はここ。
背もたれに背を付けると、舞台の上手半分は見えなくなる。やや身を乗り出しても3分の1は隠れる。当地では、身を乗り出す御仁が少なくなく、わたしの両隣が豪快に身を乗り出してくれたので、わたしも控え目に乗り出して聴くのに躊躇はなかった。時々、右隣の男性が、メロディーを一緒に歌い出すのには辟易したが(笑)。

第1曲、極上のヴェーベルンを耳にして、ああ、間に合って本当によかった、と思った。

なんという精緻にして、魅惑の音楽であり、演奏であったか。それでいて、頭で考えた冷たい音楽とは無縁。ケント・ナガノの力に任せた演奏の後だけに、わたしには、その優美さ、高貴さが際立って聴こえた。そう、音楽には気品というものが必要なのだ。どんなに激しいときも、どんなに弾けるときも、どんな苦渋のときにも下品であってはならない。

カンブルランは何度か聴いていてもおかしくない存在なのだが、ついに日本で聴く機会を持っていない。どうもわたしの日程と読響のコンサート・スケジュールの相性が悪いらしく、ワーグナー「トリスタン」もメシアン「アッシジの聖フランシスコ」も涙を呑んだのだ。しかし、このヴェーベルンによる出逢いは最高だった。

つづいては、アルゲリッチとのプロコフィエフ。恥ずかしながら、生のアルゲリッチは40年近く昔(正しくはあとから調べます)、小澤征爾指揮の新日フィル定期でチャイコフスキーの第1協奏曲を聴いて以来。あのときは、ボヤボヤしないで着いて来なさいよ、とばかり自由奔放なアルゲリッチに、指揮もオーケストラも翻弄されっぱなしだったのを微笑ましく思い出す。

今回のアルゲリッチも自由ではあるのだけど、その加減が絶妙であった。つまり、カンブルランの描く枠の内でもなく外でもなく、ギリギリの線を出たり入ったり、そのスリリングさが堪らない。技巧は冴え渡り、音色も輝かしく、パッションも一流となれば、終演後の聴衆の熱狂も頷けよう。拍手、歓声、足踏みなど、ライスハレに地鳴りが起こったような騒ぎ。因みに第1楽章終了時にも拍手はあったが、それは聴衆がマナーを知らないというより、コーダ以降の目眩く鮮やかさと興奮に思わず拍手してしまった、という極めて自然な流れに感じられた。



チャイコフスキーの第5も素晴らしいものであった。カンブルランの醸し出す高貴の香りがチャイコフスキーによく似合うのだ。どこまでもコントロールされながら自由を失わないオーケストラ。歌心も満点だ。第1楽章こそ、もう少し緩急を付けた方が効果的ではないかと思う場面もインテンポで通り抜けたが、第2楽章以降はルバートの悉くが自然で美しく、フィナーレのコーダの輝かしさも申し分なし。



6月23日(日)に聴いたハンブルクの3つのオーケストラでは、NDRエルプフィルの実力が頭抜けているのは明白だが、ハンブルク響も相当に高いレベルにあった。とにかく音楽的。残念ながらケント・ナガノ率いるハンブルク・フィルはかなり遅れをとる。

もしかすると、そこがエルプフィルハーモニーというホールの恐ろしいところかも知れない。良いものはそのままに、悪いものもそのままに客席に伝える、という・・。

さて、ただいま6月24日午前10時過ぎ。今宵、マルタ・アルゲリッチ音楽祭よりシャルル・デュトワ指揮のストラヴィンスキー「兵士の物語」他が、我がドイツ・レクイエム旅の締めとなる。開演まで10時間弱、荷造りや買い物などしながら、ノンビリ過ごすとしよう。
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