福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

ムーティ&ローマ歌劇場の「シモン・ボッカネグラ」を堪能

2014-06-01 00:49:23 | コンサート


ムーティ&ローマ歌劇場の「シモン・ボッカネグラ」千秋楽。
素晴らしかった。

ムーティの指揮は、まさに円熟したもので、必要最小限の力で最大限の成果を達成するという理想形。
肩の抜けた指揮ぶりから生まれる音楽は、劇的ではありながら一切の誇張がない。
その格調の高さと懐の深さに感銘を受けた。

ローマ歌劇場のオーケストラもコーラスも、良かった。
ここのことろ、新国立劇場公演を立て続けに聴いてきたわけだが、オール現地キャスト&スタッフによる公演は違う。
新国も水準の高い公演を繰り広げているには違いないのだが、今宵体験した声、香り、光と影、そしてカンタービレは、本場イタリアならではの味わいなのだ。

歌手陣も水準が高かった。

特に素晴らしかったのは、アドルノ役のフランチェスコ・メーリ。
まさにイタリアの声、これぞベルカント!
レコードで聴く往年の名テノール歌手たちに引けを取らない美しい声と演技で聴衆を魅了した。

シモン・ボッカネグラ役のペテアン役柄の持つ心の大きさや慈愛に満ちた性格が全身から滲み出ていたし、
フィエスコ役のベロセルスキー、パオロ役のカリアも、それぞれに相応しいキャラクターを見事な歌唱で演じていた。

アメーリア(マリア)役のブラッドは、フラットリの代役として十二分の働きだったと思われる。
第1幕の初登場の場面こそ、音程が不安定でハラハラさせられたが、徐々に調子が出てきて、中盤以降はほぼ申し分なし。
ほぼ、と言ったのは、ところどころ、わたしの耳にはピッチが低く聴こえたからだが、全体の出来の前では大きな問題ではなかろう。

「シモン・ボッカネグラ」というオペラは、もともと脚本が弱い。
後に「オテロ」「ファルスタッフ」でタッグを組むアッリゴ・ボーイトの大幅な改訂によって分かりやすくなったとはいえ、
それでも、起こる事件や、登場人物たちの心の動きが唐突なので、聴衆からの感情移入のし難さは否めない。
それを、繋ぐのが独唱や重唱であり、オーケストレーションだったりするのだが、
今回の公演はそれらが本当に見事で、イタリア・オペラの愉しさを十分に堪能することができた。

因みに、本日の我が座席は1階左サイドの11列目(後ろから2列目)。つまり、2階左サイド席の真下の奥。
そのため、やや音が籠もっていた。
あと3列前であれば、天井から降り注ぐ音のシャワーによって、もっともっと陶酔できたに違いない。

A席ですら清水の舞台から飛び降りるつもりで購入したけれど、どうせなら、あと7,000円奮発してS席でも良かったか、
などと今だから思ったりしている。
が、上を見たらキリがない。
あの場に居られたことだけでも、その巡り合わせに感謝しなければ。

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
「シモン・ボッカネグラ」プロローグと第3幕のメロドラマ
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ、アッリゴ・ボーイト

Giuseppe Verdi
Simon Boccanegra
Melodramma in un prologo e tre atti
Libretto di Francesco Maria Piave e Arrigo Boito



指揮:リッカルド・ムーティ
Direttore d'orchestra:Riccardo Muti
演出:エイドリアン・ノーブル
Regia:Adrian Noble
美術:ダンテ・フェレッティ
Scenografia:Dante Ferretti
衣裳:マウリツィオ・ミレノッティ
Costumi:Maurizio Millenotti 
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ
Maestro del Coro:Roberto Gabbiani

シモン・ボッカネグラ:ジョルジョ・ペテアン
Simon Boccanegra:George Petean
マリア・ボッカネグラ(アメーリア):エレオノーラ・ブラット
Maria Boccanegra:Eleonora Buratto
ガブリエーレ・アドルノ:フランチェスコ・メーリ
Gabriele Adorno:Francesco Meli
ヤーコポ・フィエスコ:ドミトリー・ベロセルスキー
Jacopo Fiesco:Dmitry Beloselskiy
パオロ・アルビアーニ:マルコ・カリア
Paolo Albiani:Marco Caria
ピエトロ:ルーカ・ダッラミーコ
Pietro:Luca Dall'Amico
伝令:サヴェリオ・フィオーレ
Araldo:Saverio Fiore
侍女:スィムゲ・ビュユックエデス
Serva:Simge Büyükedes


ローマ歌劇場管弦楽団、ローマ歌劇場合唱団
Orchestra e Coro del Teatro Dell'Opera di Roma

2014年5月31日(土) 東京文化会館大ホール
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