福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

ミサ・ソレムニス ~ 高らかに歌える日を!

2020-04-11 11:39:03 | コーラス、オーケストラ

4月10日(金)、11日(土)の2日間はは、大フィル第537回定期演奏会、音楽監督・尾高忠明先生のタクトにてベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」を演奏しているはずであった。マエストロにとって、満を持しての「ミサソレ」初指揮。いつもの緻密なアナリーゼに基づいた十全なリハーサル、そして、渾身の気合いでもって演奏者のすべてを、遥かなる高みに連れて行ってくださっていたことだろう。

創設者・朝比奈先生のDNAを受け継ぐ、大フィルと大フィル合唱団にとって、ベートーヴェンこそ中核のレパートリー。記念碑的な演奏会となっていたことは間違いなく、このたびの中止は痛恨である。延期も検討されたが、少なくとも今シーズン中の開催はスケジュール的に不可能とのことであった。

合唱団員一同、気落ちしていたところに、尾高先生から、大フィルホームページに以下のメッセージが寄せられた。

≪尾高忠明からのメッセージ≫
新シーズンの始まりの定期公演。私にとって初めての、ミサ・ソレムニスへの挑戦。とても残念ではありますが、断念せざるを得ません。

この見えざる敵に対して、全世界が一つになって戦い、敵の終息を勝ち取り、全世界の平和につながるシナリオにしましょう。「この世に無意味な事はない。」と言う考え方がありますが、極力被害を少なく食い止め、各国間も友好関係を築くチャンスです。終息後には、また皆様の前で精一杯の演奏をさせて頂きたいと、強く強く思っています。来年の定期演奏会ではミサ・ソレムニスを、ぜひ取り上げたいと思います。

恩師サヴァリッシュ先生が「この曲は本当の平和を知ってから指揮しなさい。」と言う教えを残してくださいました。
終息を!平和を!

大阪フィルハーモニー交響楽団 音楽監督 尾高忠明

これには、救われた。ひとつ前の記事にも書いたけれど、希望を頂いたのである。

ところで、演奏会の中止を「痛恨」と書いたことは嘘ではないが、それが告げられた瞬間にホッと緊張の糸が解けたことも事実である。というのも、2月以降、新型コロナウイルスの感染者数が日に日に更新されゆくほどに、レッスンをつづけることの心理的負担は増大していたのだ。ホームグラウンドである大フィル会館は一般の練習会場より天井の高い大きな空間であるとはいえ、100人を超す人間が一斉に飛沫を飛ばすことに変わりはない。団員の前後左右の間隔を大きく開けるなど、感染リスクの軽減を模索しながらのレッスンをつづけたが、効果は疑わしい。

わたし自身、東京~大阪間の新幹線や飛行機の往復、大阪のホテル滞在や外食など、常に感染のリスクに晒された状況にあり、それをレッスン会場に持ち込まないという保証もない。

さらには、世情の不安から団員の出席の奮わないのも致し方のないところで、大フィル合唱団としてのベストパフォーマンスを示すには厳しい状況にはあった。本番一発の瞬間芸ではなく、レッスンの積み重ねこそが演奏の尊さであろう。

というわけで、感染への恐怖と音楽的な完成度への不安、この二つから解放されたことにより、心理的な安心がもたらされたのである。


http://rose-theatre.jp/wp-content/uploads/2014/05/vol.44.pdf

ミサ・ソレムニスは、わたしにとって最も大事な音楽である。大学生時代(1983年)、新星日響の定期演奏会にて朝比奈先生の指揮で歌わせて頂いた感動は、37年を経た現在もこの胸に生きているし、井上道義先生との出逢いもこの作品に於いてであった。2003年、静岡県富士市のロゼシアター開館10周年記念公演の本番が井上道義先生指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団であったのだ。この時の手腕が買われ、井上先生に可愛がって頂くこととなり、それが間接的に大フィル合唱団指揮者就任にも繋がったことを思うと、まさに我が運命の作品と呼ぶことはできるのである。



実のところ、この5月2日から来年2月25日への延期が決まったヴェリタス・クワイヤー東京と混声合唱団ヴォイスの紀尾井ホール公演も、当初計画されていた演目は「ミサ・ソレムニス」であった。諸事情により同じベートーヴェンの「ミサ曲ハ長調」となったわけだが、ここへきて「ミサ・ソレムニス」が二回連続お流れになったということになる。どちらも「まだ早い」という天の声であると受け止めることにしている。

尾高先生のお言葉通り、来年の定期演奏会にて再び挑むことができるのなら、合唱指揮者としての全てを賭すつもりである。大フィル合唱団メンバーも同じ気持ちでいてくれるに違いない。

新型コロナウイルス、即ちCOVID-19の収束の見通しはつかない。1年から2年かかるだろうという専門家もあるし、これは序の口で、次なる新型ウイルスの流行も起こり得るという人もいる。さらには、地震等の自然災害への心配や国際紛争の火種も尽きない。経済への未曽有の打撃は音楽界にも負の影響をもたらすであろう。しかし、このような困難な時であるからこそ、我々には常に最高の美を目指し、己と闘いつづけたベートーヴェンの音楽が必要なのである。

一日も早いレッスンや演奏会の再開の時、高らかに「ミサ・ソレムニス」を歌い上げられる日を待ち望んでいる。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 充電の日 ~ そろそろ再起動だ | トップ | 毎日休日  »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。