12月29日(火)、朝比奈先生の命日に行われる大フィル恒例の「第9シンフォニーの夕べ」をもって、苦難の2020年の音楽活動を締めくくった。
例年であれば、29日、30日と2日公演となるところ、今年は1公演のみ。
「第九」公演について、14名~40名という小編成のプロ合唱団による本番が主流となっている中、99名もの大アマチュア・コーラスで本番を挙行するには、大きな責任が伴う。
それだけに、新型コロナ感染対策について、大フィルと大フィル合唱団による配慮は最大限のものだったと思われる。
レッスン時より、検温とマスク着用、本番に準ずるソーシャルディスタンスを確保、と、ここまでは当たり前。
大フィル会館という、優秀な換気設備のある大きな空間を練習会場に持つことの有り難みを、これほどまでに感じたことはない。
マエストロ、オーケストラ、合唱団の下した大きな決断は、通常は行われる大フィル会館でのオケ合わせを取りやめたこと。
いかに換気の良い大フィル会館をもってしても、密となることは避けられない。
つまり、オーケストラと合唱団が会するのは、本番直前のゲネプロのみ、ということになるが、
これはオーケストラ、合唱団、尾高マエストロというお互いを知る組み合わせでなければ、成立しなかったプランだ。
三者の揺るぎない信頼関係の証という言い方も出来るだろう。
本番当日のバックステージでは、オーケストラとコーラスが同じフロアに同居しないように楽屋が配置され、さらにコーラスの男声と女声は別棟という徹底ぶり。女声楽屋からステージまでの所要時間が10分弱だったというから恐れ入る。
感染予防対策のダメ押しとして、ステージの上には、合唱団とオーケストラの間に、2メートルに近いアクリル板が置かれ、さらには、ソーシャルディスタンス確保のために広げられたステージにより、反響板にも大きな隙間が生まれてしまう。
例年より20余名少ない編成、マスク着用、巨大なアクリル板、不完全な反響板という四重苦は、合唱にとって厳しい条件であることは間違いない。正直、あの巨大なアクリル板の壁を見上げたときには、心が折れそうになった。しかし、どんな条件であれ、わたしたちは、歌うことを歓びとする集団である。舞台に立てば、マエストロの棒に応え、最善を尽くすのみ。
結果は、思いのほか素晴らしいものであった。尾高先生のアプローチはオーソドックスながら新鮮で、オーケストラの燃焼度も激しかった。
コーラスも、ゲネプロでの苦難に打ち勝って、高らかに歌い上げた。
もちろん、マスクやアクリル板がなければ、もっともっと大きなエネルギーを客席に届けることは出来たのだと思われるが、不利な条件を想定したレッスンを重ねてきたからこそ、獲得したスキルや精神性も小さくない。大フィル合唱団にとって通るべき道であったのだ、と思うことにしている。
本年の「第9シンフォニーの夕べ」は、大フィル合唱団にとって、未来への大きなステップとなったばかりでなく、歴史に残る公演だったと言えるだろう。
「第9シンフォニーの夕べ」
2020年12月29日(火)午後5時開演
フェスティバルホール
指揮:尾高忠明
独唱:髙橋絵理、富岡明子、福井敬、青山貴
管弦楽:大阪フィルハーモニー管弦楽団
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団(指揮:福島章恭)