引退することを表明したマリア・ジョアン・ピリスのリサイタルを聴く。
オール・ベートーヴェン・プログラムだ。
「悲愴」の第1楽章こそ、ミスタッチがあったり、低音域の大事なフレーズが十分に鳴らなかったこともあったが、それもいっときのこと。
プログラムが進行するにつれて精神的な高まりや内的な情熱が増していき、休憩後の作品111はまさに入神の域にあった。
まるで神々の庭でベートーヴェンの魂と語らうように音符たちは自由に羽ばたき、その一途なパフォーマンスに会場の清澄な空気に包まれた。
たゆまぬ精進の末、遙かな高みに至ったひとりの芸術家の魂に心よりの祝福を捧げたい。
もはやアンコールを望む気持ちも起きないほどの手応えであったが、それはあった。
6つのバガテルop.126より第5曲 クワジ・アレグレット
ベートーヴェンが最後に書き残したピアノのための作品のなんと軽やかで愉悦に満ちていたことであろう。
32の山々からなるピアノ・ソナタ創作の果てに辿り着いたベートーヴェンの心静かな境地こそ、まさにこの夜のアンコールに相応しいものであった。
2018年4月12日(木)19:00開演 サントリーホール
マリア・ジョアン・ピリス ピアノ・リサイタル
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」
Beethoven: Piano Sonata No. 8 in C minor Op.13 ” Pathétique ”
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2「テンペスト」
Beethoven:Piano Sonata No. 17 in D minor, Op. 31-2 “The Tempest”
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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調Op.111
Beethoven:Piano Sonata No.32 in C minor, Op.111