☆「コマクサ」の語る身の上話し(その6)☆
私は今年(2007年)も花をつけた岩木山の「コマクサ」です。
偉い学者先生方が『岩木山には歴史上これまで生育していなかった。また、自生はありえない。』という私たちの数奇なこれまでの運命を、皆さんに語ります。
(承前)
2005年7月上旬、弘前市のある野鳥の会が、私たちが「咲いている」その場所で、「探鳥会」を開きました。
参加者の中には、一人の花好きがいました。その人が目敏く私たちを見つけたのです。そして、熱心に撮影しました。
秋になりました。私を撮影した人は、「岩木山を考える会」の会員でした。そして、その写真を、写真展「私の岩木山」に出展したのでした。
その「出展票」には、「撮影年月は2005年7月、撮影地は岩木山、コメントには「X山、西斜面に不法に咲いていました。」とあったそうです。
コメントにある「不法に咲いていました」という意味は「これは本来の岩木山にはない花です。誰が植えたのか…。花はとてもきれいなだけにとても複雑な気持ちです。」ということだそうです。
その時は、すでに秋。花は枯れ果て、茎は折れて、種子はあちこちに飛散した後でした。それを「岩木山を考える会」は、まず単独で現況調査と観察に来ました。調査と観察の結果に基づいて「岩木山を考える会」は、この国定公園を管理している青森県自然保護課に連絡しました。ここで、私たちが「種」を蒔かれてから25年後、初めて、この事実を「行政」が知ることになりました。
9月30日には、自然保護課、林政課、岩木町、それに「岩木山を考える会」の四者で合同の調査・観察をしに来ました。
その結果、『「特別保護地域」なので、直ちに抜き取ることは出来ない。自生なのか「移植」されたものなのかを特定する必要がある。そのためには、今後継続して調査する必要がある。』ということを、四者で確認し、調査を継続することになったのだそうです。
初回の調査には、驚きました。
私たちの四方に「鉄の杭」を打って、それにテープを回して面積を計算しました。私たちは一瞬「囲い込まれる」のではないかと恐怖に駆られたものです。しかし、初回も2回目も、最終回の今年7月18日の調査も、調査方法は「私たち」を「労(いたわ)り」ながらのものでした。決して「踏みつけない」し、「抜き取らない」し、「周囲の自然形状を壊さない」し「周囲の自然植生に影響を与えない」ものであったのです。本当に、ありがとうございました。
「岩木山を考える会」の事務局長は、DNAを調べて、産地がどこなのか、園芸用の外国種なのかまで特定し、かつ、今後どうなるのかを、あと数年継続観察調査したいと言っていますね。しかし、その必要はありません。私は正真正銘の「秋田駒ヶ岳」の「コマクサ」の末裔です。
8月9日には、自然保護課から、『コマクサの自生については、過去の文献に記録がなく、植物の学識経験者に聞いたところ、コマクサの自生は確認されていないとのことでした。また、生育地が登山道から比較的近くにあり、アクセス不能な場所ではないことから、今になって初めて発見されるということは極めて考えにくいものです。よって、このコマクサは人為的に持ち込まれたものであると判断されました。
平成17年から平成19年まで3年間観察したところ、株の大きさが大きくなり、花茎の数が増え、さらに、こぼれ落ちた種から発芽した実生が株の周囲に増えていました。周囲の植生への影響はみられないものの、コマクサの生育は旺盛で、火山砂礫地に生育範囲を拡げる可能性があるものと考えられました。
このまま放置すればコマクサが火山砂礫地に拡がり、定着する可能性が高く、岩木山固有の自然景観が変わり、長い年月をかけて形成された自然生態系への影響が懸念されます。
このため、このコマクサを早期に除去するのが望ましいという結論に達しました。
さらに関係者へ情報提供したうえで、早い時期に除去作業を進める予定です。
このコマクサは誰かの手により植えられたものと思われますが、固有の自然生態系が守られている地域にあっては、望まれない侵入者にほかなりません。岩木山の今ある貴重な自然を残していこうと考えるとき、他地域から故意に植物を持ち込み、植え付ける行為は自然に反した行為であると言えます。』という文書が公開されました。
加えて、8月23日には東奥日報が私たちのことを、県の対応と「岩木山を考える会」の対応などを交えて詳しく報じました。
結論は、私たちの「抜き取り処分」でした。「生えることが許されない場所」に生えているのですから、抜き取られる覚悟はすでに、何年も前から出来ています。どうぞ、「可哀想だ」というような感情はお捨てになって、抜き取り処理をして下さい。
ただし、「根」は複雑に四方八方に伸びて、絡み合っていますから、よほど、慎重に注意深く作業をしないと、数年後にまた、「コマクサ」騒動が起こらないともかぎりません。
最後になります。お願いです。出来るのならば、「抜き取った」私たちをそっと生まれ故郷の秋田駒ヶ岳に返して下さい。
…無理でしょうね。あそこも「自然公園法」の規制を受ける山ですから、「異物」の植栽は禁止されています。人間社会の「法律」とは、何と不便なものでしょう。
ああ、私たち「コマクサ」は一人の植物愛好家の恣意によって、異郷に持ち込まれ、今また、人間が作った法律によって故郷に戻ることの出来ない状況に置かれているのです。
あとがき
身勝手な人間によって持ち込まれた「コマクサ」のことを、「コマクサ」の気持ちになって書いてみた。
そこで改めて認識したことは、「自然」から見ると、私たち人間の「個人的な行動も、また、社会的な決まり事や約束事である法律なども、所詮、「人間のご都合主義」から一歩も出ていないということだった。
(最終回)
私は今年(2007年)も花をつけた岩木山の「コマクサ」です。
偉い学者先生方が『岩木山には歴史上これまで生育していなかった。また、自生はありえない。』という私たちの数奇なこれまでの運命を、皆さんに語ります。
(承前)
2005年7月上旬、弘前市のある野鳥の会が、私たちが「咲いている」その場所で、「探鳥会」を開きました。
参加者の中には、一人の花好きがいました。その人が目敏く私たちを見つけたのです。そして、熱心に撮影しました。
秋になりました。私を撮影した人は、「岩木山を考える会」の会員でした。そして、その写真を、写真展「私の岩木山」に出展したのでした。
その「出展票」には、「撮影年月は2005年7月、撮影地は岩木山、コメントには「X山、西斜面に不法に咲いていました。」とあったそうです。
コメントにある「不法に咲いていました」という意味は「これは本来の岩木山にはない花です。誰が植えたのか…。花はとてもきれいなだけにとても複雑な気持ちです。」ということだそうです。
その時は、すでに秋。花は枯れ果て、茎は折れて、種子はあちこちに飛散した後でした。それを「岩木山を考える会」は、まず単独で現況調査と観察に来ました。調査と観察の結果に基づいて「岩木山を考える会」は、この国定公園を管理している青森県自然保護課に連絡しました。ここで、私たちが「種」を蒔かれてから25年後、初めて、この事実を「行政」が知ることになりました。
9月30日には、自然保護課、林政課、岩木町、それに「岩木山を考える会」の四者で合同の調査・観察をしに来ました。
その結果、『「特別保護地域」なので、直ちに抜き取ることは出来ない。自生なのか「移植」されたものなのかを特定する必要がある。そのためには、今後継続して調査する必要がある。』ということを、四者で確認し、調査を継続することになったのだそうです。
初回の調査には、驚きました。
私たちの四方に「鉄の杭」を打って、それにテープを回して面積を計算しました。私たちは一瞬「囲い込まれる」のではないかと恐怖に駆られたものです。しかし、初回も2回目も、最終回の今年7月18日の調査も、調査方法は「私たち」を「労(いたわ)り」ながらのものでした。決して「踏みつけない」し、「抜き取らない」し、「周囲の自然形状を壊さない」し「周囲の自然植生に影響を与えない」ものであったのです。本当に、ありがとうございました。
「岩木山を考える会」の事務局長は、DNAを調べて、産地がどこなのか、園芸用の外国種なのかまで特定し、かつ、今後どうなるのかを、あと数年継続観察調査したいと言っていますね。しかし、その必要はありません。私は正真正銘の「秋田駒ヶ岳」の「コマクサ」の末裔です。
8月9日には、自然保護課から、『コマクサの自生については、過去の文献に記録がなく、植物の学識経験者に聞いたところ、コマクサの自生は確認されていないとのことでした。また、生育地が登山道から比較的近くにあり、アクセス不能な場所ではないことから、今になって初めて発見されるということは極めて考えにくいものです。よって、このコマクサは人為的に持ち込まれたものであると判断されました。
平成17年から平成19年まで3年間観察したところ、株の大きさが大きくなり、花茎の数が増え、さらに、こぼれ落ちた種から発芽した実生が株の周囲に増えていました。周囲の植生への影響はみられないものの、コマクサの生育は旺盛で、火山砂礫地に生育範囲を拡げる可能性があるものと考えられました。
このまま放置すればコマクサが火山砂礫地に拡がり、定着する可能性が高く、岩木山固有の自然景観が変わり、長い年月をかけて形成された自然生態系への影響が懸念されます。
このため、このコマクサを早期に除去するのが望ましいという結論に達しました。
さらに関係者へ情報提供したうえで、早い時期に除去作業を進める予定です。
このコマクサは誰かの手により植えられたものと思われますが、固有の自然生態系が守られている地域にあっては、望まれない侵入者にほかなりません。岩木山の今ある貴重な自然を残していこうと考えるとき、他地域から故意に植物を持ち込み、植え付ける行為は自然に反した行為であると言えます。』という文書が公開されました。
加えて、8月23日には東奥日報が私たちのことを、県の対応と「岩木山を考える会」の対応などを交えて詳しく報じました。
結論は、私たちの「抜き取り処分」でした。「生えることが許されない場所」に生えているのですから、抜き取られる覚悟はすでに、何年も前から出来ています。どうぞ、「可哀想だ」というような感情はお捨てになって、抜き取り処理をして下さい。
ただし、「根」は複雑に四方八方に伸びて、絡み合っていますから、よほど、慎重に注意深く作業をしないと、数年後にまた、「コマクサ」騒動が起こらないともかぎりません。
最後になります。お願いです。出来るのならば、「抜き取った」私たちをそっと生まれ故郷の秋田駒ヶ岳に返して下さい。
…無理でしょうね。あそこも「自然公園法」の規制を受ける山ですから、「異物」の植栽は禁止されています。人間社会の「法律」とは、何と不便なものでしょう。
ああ、私たち「コマクサ」は一人の植物愛好家の恣意によって、異郷に持ち込まれ、今また、人間が作った法律によって故郷に戻ることの出来ない状況に置かれているのです。
あとがき
身勝手な人間によって持ち込まれた「コマクサ」のことを、「コマクサ」の気持ちになって書いてみた。
そこで改めて認識したことは、「自然」から見ると、私たち人間の「個人的な行動も、また、社会的な決まり事や約束事である法律なども、所詮、「人間のご都合主義」から一歩も出ていないということだった。
(最終回)