エピローグは出演者全員による「悲しみの報い」。
《ひとつひとつの命の叫ぶ声が響き合い重なって明日の歴史作る歌い続けよう》
from悲しみの報いとして
(ソレーヌ役ソニンさんのツィッターよりお借りしました。)
歴史の波間に浮かんでは消える、という歌詞もあったと思います。名もなき、ヒーローでもなんでもない、きっとこんな人いたんだろうなって思わせるロナンが主人公のミュージカルらしいエピローグ。革命派も王党派も市井の人々もみんな一緒に歌っています。この場面の花總さんアントワネットが全く飾り気のない衣装なのに一番少女のように美しくて好きです。神に召されたあとという設定なのか。五年後には革命派たちもみんな神に召されていく、血みどろの史実を考えるとなんとも言葉にしようのない切ないものがこみあげてきます。
ロナンが膝を立てた姿で大掛かりなセットの上段に現れてくる姿が素敵。神に召されたロナンが地上にいる人々を見守るようなやさしいまなざし。小池君、加藤さん、どちらのロナンもかっこよかったです。
「三身分=
当時のフランスは大きく分けて第一身分(僧侶)・第二身分(貴族)・第三身分(平民)と3つの身分があった。
国民の96%を占める平民においても、身分ではないが明らかな区別はあり、貧富の差は激しかった。銀行家、富農、医者、または商工業を営む裕福な平民をブルジョア、プチブルな どと呼んだ。」
まさかのテントウムシの赤い衣装で登場して客席の笑いを誘い、緊張感をほぐしてくれる坂元さんラマール警部。三部会が開かれた場面では、部下二人と共に指人形とマリオネットで観客へ説明する役割もしてくれています。安定の歌と演技。
マリオネットの場面、この五年後にはダントンとデムーランを手にかけるという史実を考えると、ロベスピエールの美しさには、ただひとり、ひんやり感が漂っているのかもしれません。ぞくっとする美しさには言葉がありません。
「ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン=
1755年、上院議員の長男として、スゥエーデンに生まれる。
1773年12月、パリの社交界にデビュー。上流階級の婦人たちの人気を集める。
1774年1月、仮装舞踏会でマリー・アントワネットと出会う。
1810年6月20日、ストックホルムで暴徒に襲われ、惨殺された。」
フェルゼンを男性が演じるとこうなるのかっていう、たぶんベルばらファン納得の、いやそれ以上の美しくかっこいい広瀬さんフェルゼン。体格と声がすごくあっているし、貴公子らしい雰囲気を申し分なく体現していると思います。民衆がベルサイユに押し寄せてきたと知ってアントワネットを救い出したい一心で駆けつけるものの、国王と運命を共にする決意をアントワネットから告げられた時の、国王夫妻の前でひざまずきながら無念のあまりこぶしを握りしめる演技がフェルゼンになり切っています。サン・ドニ大聖堂で、王太子の棺にすがりついて、「神様はいちばん重い罰を与えた」と泣くアントワネットを柱の陰で見守りながら声をかけることができない場面と、オランプと会っているところをアルトワ伯に見つかって倒されてしまった時の、倒れている姿も貴公子になりきっている感十分でいいなと思います。アントワネットを死に追いやった民衆を憎んだために最後は惨殺されてしまったという史実はきつい。
アントワネットの、「アクセルらしいわ」っていう台詞にすごく愛情がこもっているのを感じます。
「王位継承権=
ルイ16世はルイ15世の孫である。本来王位継承者だったルイ16世の父も兄も、そして母までがルイ16世が子供のころに世を去っていたため、祖父から孫へ王位が継承されたわけである。ルイ16世に継ぐ王位継承順は、まず1位が息子のルイ・シャルル、2位が国王の弟たちのブロバンス伯(後のルイ18世)、アルトア伯(後のシャルル10世)と続く。」
『レディ・ベス』のルナール閣下。『モーツアルト』の劇場の支配人からさらに磨きがかかって裏切らない、王位を狙うアルトワ伯のいやらしさを十二分に体現している吉野さんアルトワ伯。オランプに催眠術をかけて眠らせようとする場面、ルイ16世に、民衆の蜂起を「兄上の弱気が招いた結果です」と武力で鎮圧するようたきつける場面など、不思議な髪形と相まって絶妙の演技です。
アルトワ伯がオランプに飲ませようとした媚薬を、オランプをかばいたいラマール警部がかわりに飲んでしまって、「ドキドキしてきた」っというところも絶妙。
「優雅な貴族の遊び=
不労所得が多く、労働に多くの時間を費やさない貴族にとっては遊びが仕事のようなもの。アントワネットもルイ16世が自分の趣味の世界に没頭していたため、さびしかったに違いない。かといって3人の叔母様方の相手も退屈でたまらず、連夜の舞踏会や歌会、カルタ遊びなどのカードゲーム、はては賭博にまで手を出すようになった。」
また、プチ・トリアノンで、宮殿ではかなわなかったインテリアに凝ったり、農民ごっこや小劇場で芝居を演じたりすることを楽しんでいた。
狩りや、馬での遠乗りなど、アウトドアの遊びも盛んであった。特に狩猟には、ルイ16世も夢中になった。」
「王族の恋愛事情より抜粋=
愛人を持つことが当然だった当時の貴族社会で、ルイ16世は愛人を生涯持たなかった稀有な国王なのである。」
一幕では、王室の危機が迫っているというのにのんきに狩りに行こうとするルイ16世にいらっときましたが、王太子の葬儀とアントワネットがフェルゼンに別れを告げる場面では、アントワネットへの優しさと愛情にあふれています。夜の仮装舞踏会の場面で、アントワネットに改良したギロチンの模型をみせようともってくるのも愛情表現ですね。
「国家の財政=
フランス革命が起こった直接のきっかけは、財政破綻であった。
まず、ルイ14世時代以前から長引く他国との戦争費用や、アメリカの領土争いでイギリスと何度も戦争をしていたことが大きく影響している。ルイ14世が20年もかかって造営したベルサイユ宮殿にも莫大な費用がかかっている。
さらにフランス革命前にアメリカ独立戦争の支援につぎ込んだ20億リーブルが、疲弊しはじめていたフランス財政に拍車をかけた。これは国費の約三倍の費用にあたる。
確かにアントワネットは宝石やプチ・トリアノンの建設、寵臣への給料なので多大な国費を使ったが、実際には、国庫をおびやかすほどの金額ではなかった。ただ、ドレスや髪形の派手さや、首飾り事件での悪印象、さらに、スイス人で平民上がりの大蔵大臣ネッケルやカロンヌが、首になったときにことさらに強調したため、目立ってしまったのだ。」
オランプがアントワネットに別れを告げる場面が心に残りますが、国外に逃げようとするポリニャック夫人がアントワネットと抱き合い、「ではお元気で」別れを告げる場面も何気に好きです。ベルばらではあまり印象のよくないポリニャック夫人。そんなつもりでみていたら、この舞台では、フェルゼンからの手紙を聖書に挟んでアントワネットに差し出す場面の間なども、アントワネットへの愛情がある感じがしていいなあと思います。アントワネットが王妃としての役目を全うしようと決意をしたたおやかなたたずまいでポリニャック夫人をねぎらい、ポリニャック夫人もなにかしら去りがたさを感じさせるものを残していました。
思いつくままに書き連ねてみました。登場人物が多いし、場面がいろいろとあってきりがありませんね。
引用は全て池田理代子著『ベルサイユのばら大事典』2002年、集英社発行からです。手元にある本ですが、今さらながらになるほどと勉強になります。
トップの写真は4月7日の初日前記者会見の様子。クランクインから転用しています。
舞台写真はすべて東宝の公式FBから転用しています。