ようやく7時間半ほど眠れた土曜日、それでも眠いですがなんとか生き返っています。訪問で坂を歩いたのが足腰にがっときていますが、気味悪いオッサンの部屋から物音がやたらと聞こえてくるちっそくしそうな部屋にいたくないので今日も逃避行中。『モーツァルト』初日の観劇日記を、ばらばらと書いていたのをまとめながらあらためて書こうと思います。
2018年5月26日(土)帝国劇場 17時45分開演
ヴォルフガング:山崎育三郎
コンスタンチェ:平野綾
ヴァルトシュテッテン男爵夫人:涼風真世
アマデ:大河原爽介
帝国劇場の初日を観劇という幸運。昼間、宝塚を観劇したあとで寝不足気味だったし、集中力が続くのかなと心配でしたが全くの取り越し苦労。初日から完成度が高くて、惹き込まれずにはいられない圧倒的な舞台でした。終演後なんだかとてつもなくすごいものを観た感。なんか宝塚も、帝国劇場の重厚なミュージカルもどちらもいいなあと思った一日でした。
劇場に入ると舞台上には、譜面に囲まれた大きなピアノのセット。セットが変わっている、オケピットはどこに? 入るなり4年前とは変わっているワクワク感でした。演出も変わっていました。壮大な、歌いこなすのが難しいであろう楽曲の連続なのにうまくまとまっていて、よくできている作品なんだとあらためて実感。まず曲がいいし、出演者が豪華。一幕最後、「影を逃れて」を出演者全員が歌う中、自分の腕に羽ぺんを刺した血で狂ったように譜面を書き続けるヴォルフガングと幼い頃の自分の影アマデとが対決して幕が下りるシーンに鳥肌がたちました。二幕最後、「おれが死ねばお前も死ぬんだ」というヴォルフガングの命が尽きるとアマデはヴォルフガングの膝の上に崩れ落ちて命尽きる様が壮絶。「神がつかわした奇跡の人~♪」、ヴォルフガングとアマデが息絶えていく中、二人の頭上で出演者全員のコーラス。沁みました。心が揺さぶられました。
育三郎さんヴォルフガング、涼風さんヴァルトシュテッテン男爵夫人は私には初日にして千穐楽。育三郎さんの安定の歌唱力はさすがでした。二度のルキーニを経てからのヴォルフガングは4年前より屋台骨がしっかりしている感でした。幼い頃の自分の影にもがき続けた天才モーツァルト。芝居力がすごくってとりはだものでした。
和音美桜さんのナンネール、すごく可愛くって、女性があるがゆえに音楽家の道を歩めなかった悔しさが切なかったです。結婚して子どもが生まれても貧しくって旦那さん冷たくって、弟のために自分を犠牲にした感が切なかったです。最後に幼い頃ヴォルフガングが皇帝からいただいたオルゴールのような箱を開くときの表情がすごかった。胸の内をどんな思いがよぎっているのか。
市村正親さんの父レオポルト。2014年のプログラムに書かれている人物像を読むと体現度がすごく高いんだなと。ウィーンで成功して名声を得たヴォルフガングにおごり高ぶる危さを感じて認めることができず、ウィーンを去っていってしまうところがなんとも切なくなりませんでした。人生ってむずかしんだなとしみじみ思いました。死の足音が近づきつつあるヴォルフガングにレクイエムを依頼する仮面の人物も市村さん、オペラ座の怪人みたいで市村さんの本領発揮といったところ、この役市村さんにしかできないなって思いました。
山口祐一郎さんのコロレド大司教、いやらしさとヴォルフガングの才能の前に神が敗北したことを知ったときの驚きとのバランスがうまいなあと思いました。馬車で長距離移動するとき、おトイレする場面がなくなってしまったのはちょっと残念。馬車を降りてしもべと会話しながらおトイレをすますの、4年前絶妙な間の取り方だなと思ったので・・・。
涼風さんのヴァルトシュテッテン男爵夫人、昔妖精今なんとかって自虐ネタを披露されていますが今も十分すぎるほどの妖精さん。豪華なドレスをまとった姿はきらきらオーラにあふれて美しかったです。歌唱力も安定、プラスなんだか透き通るような透明感を歌声に感じました。ところどころ男役モードを入っている感じもよかったです。
アマデは大河原爽介くん。二年前『1789~』でルイ・ジョセフを演じました。そのあと『エリザベート』の地方公演では子ルド。すっかり小池先生ファミリーの一員かな。可愛い、プラス芝居力がすごかった。オペラグラスで育三郎さんヴォルフガングと同じぐらい追ってしまいました。育三郎さんヴォルフガングの天才モーツァルトぶりもすごかったけど、ヴォルフガングに「逃げるのか」と言わんばかりに怒りの表情をあらわし、戒める爽介くんの神童アマデぶりもすごかった。自分、つまり幼い頃神童と呼ばれた天才モーツァルトから逃げようとするヴォルフガングのコートの裾をひっぱっていさめようとする。時には怒りをあらわにする。歌も台詞も全くない役所。いつも楽譜と羽ペンをもってヴォルフガングの傍らで曲を書き続けているのでほぼ出ずっぱり。目力としぐさだけで集中力を切らすことなく演技を続けていてすごいなと思いました。
ヴォルフガングとアマデは一心同体だからカーテンコールも最後に二人一緒に登場。最後は育三郎さんヴォルフガングが爽介くんアマデを抱っこしてはけていきました。爽介くん、緊張感から解き放たれた普通の子どもの表情に戻って、ほっとしているのがすご伝わってきました。4年前の舞台ではアマデは三人とも女の子が演じていました。わたしは二人と会いましたが、それぞれあっぱれな芝居力で感心しました。舞台全体を左右する重要な役どころ。女の子と男の子では子役とはいえなんとなく違いはある感じで、どちらもよきかな。すごいですね、子役って。あと二回観劇予定、憲ちゃんアマデにも会えるかな。会えるといいな。
こんなに観劇しているのに初めてカーテンコールで小池先生とリーヴァイさんが登場する場面に遭遇。2002年にスタートした初演から507回の公演だったそうで、506回出演してきた市村正親さんミュージカル界の人間国宝、山口祐一郎さんキング、阿知波悟美さんにはお世話になっていますと小池先生からの紹介。いずれも他の人が演じることは考えられないほどに役を生きられています。「山崎育三郎がこれからの日本ミュージカル界をけん引していくということが証明されたでしょう」という話とか、育三郎さんの「小池先生は舞台稽古の初日に赤いジャケットを着てきた。赤には生まれ変わるという意味があるとか」っていう話とか。
6年前のルドルフから歳月を経てきた古川雄大さんヴォルフガングも楽しみ。帝国劇場に宝塚みたいな銀橋がつくられていて、オーケストラピットは視界に入らなくなった今回の舞台。小池先生はやっぱりすごい。宝塚で『ポーの一族』、東宝で『1789~』『モーツァルト』、次回作は『るろうの剣心』になるのかな。お忙しいこと。受け継ぐ人が育っているのかとちょっと心配、まだまだがんばっていただかねば。すっかり小池ファミリーの一員になった雄大さんがどんなヴォルフガングをみせてくれるのか、来週の土曜日が楽しみ。仕事でへたり過ぎにならなければいいですがどうでしょうか・・・。