【卓上四季】:旅するウナギ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:旅するウナギ
「しんしんと肺碧(あお)きまで海の旅」(篠原鳳作)。30歳で夭折(ようせつ)した新興俳句の俊英が、沖縄県宮古島で中学教師を務めていた頃に詠んだ代表作だ▼コバルトブルーに輝く南の大海原を行く。無季の句だが、やはり夏がふさわしい。船上で胸いっぱいに息を吸い込めば、肺にまで海の青さが染みわたるようだ。鮮やかな描写である▼こちらの方は、全身を青く染め、海に溶け込むような長旅と言えよう。日本の河川から、南へ約2千キロの太平洋。ニホンウナギは、はるかな産卵場所を目指す。大海の点にすぎない目的地に、どうやってたどり着くのか。なぜ、オスとメスは巡り合うことができるのか。その回遊には依然、謎が多い▼卵がかえると旅は再開され、幼生が潮に乗り、やがて稚魚のシラスウナギとなって日本沿岸に帰ってくる。気の遠くなるような一連の行程を振り返れば、奇跡の連続と言っていい「海の旅」ではないか▼帰還するシラスウナギが激減して久しい。養殖と言っても、シラスウナギを捕まえて池で大きくするだけだ。既に絶滅危惧種である。今年の漁獲量は3・6トンで6年ぶりに過去最低を更新した▼乱獲に加え、河川開発、地球温暖化による海洋環境の変化など、要因は複合的だろう。禁漁も検討する時かもしれない。もはや土用の丑(うし)の日に、かば焼きが品薄になるという程度の問題ではあるまい。絶滅すれば食文化も消える。2019・6・9
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2019年06月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます