[↑ 大川原化工機の訴訟 検察・警察の捜査「違法」/東京地裁 都と国に賠償命令 (朝日新聞、2023年12月28日(木))]
(2024年06月14日[金])
《恣意的な捜査がえん罪を引き起こした》大川原化工機でっち上げ事件…《取調官は「知ったこっちゃないですよ。組織の方針に従うだけですよ」》。
なぜ、警視庁公安部は事件をでっち上げたのか? 《逮捕の時期は、安倍政権が「経済安保」を推進していた時期だった》(長周新聞)。公安部という《組織》を暴走させた元凶を辿っていくと、またしても、アベ様。
長周新聞の記事【大川原化工機事件について――経済安保法制が導く恐怖の未来予想図 和田倉門法律事務所・弁護士 高田剛】(https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/30810)。《公益社団法人・自由人権協会は1日、2024年総会記念講演「大川原化工機事件~経済安保法制が導く恐怖の未来予想図~」を開催した。大川原化工機事件とは、2020年3月、大川原化工機(横浜市)の大川原正明社長ら3名が、「生物兵器の製造に転用可能な機器を中国に不正輸出した」との外為法違反容疑で、警視庁公安部に逮捕・起訴された。起訴後も身柄拘束は長期に及び、その間に1名が死亡したが、その後冤罪であることが明らかになり、東京地検は初公判直前に異例の起訴取り消しをおこなった、という事件である。逮捕の時期は、安倍政権が「経済安保」を推進していた時期だった。現在、大川原化工機の社長らが、東京都と国に約5億6500万円の損害賠償を請求する国家賠償請求訴訟をおこなっている。同事件の弁護人であり国賠訴訟代理人でもある高田剛弁護士の報告を紹介する》。
『●《警察と検察が事件を捏造して、無辜の人たちを犯罪者に仕立て上げる。
…大川原化工機の例は、この国がすでに“新しい戦前化”している…》』
『●大川原化工機捏造事件国賠…《女性検事は淡々と、「起訴当時の判断を
間違っているとは思っていない。謝罪する気持ちなどない」と答えた》』
『●大川原化工機でっち上げ事件の国賠…《13年前の「正義の検事」が“冤罪”
事件で謝罪拒む》、実は郵便不正事件当時も《問題検事》だった模様』
『●大川原化工機でっち上げ事件国賠訴訟…当然の勝訴判決ではあるが、《勾留
後に亡くなった1人》の命は戻らないし、あまりに《大きな不利益》…』
『●大川原化工機捏造事件国賠、謝罪や責任を問うこともなく《国と東京都
が控訴》…大川原正明社長「あきれた」「やっぱりか」「まだやるのか」』
『●大川原化工機でっち上げ事件:青木理さん《見込み捜査と強い政治性を特徴
とする警備公安警察のゆがみが如実にあらわれた例として、大きな批判…》』
『●大川原化工機捏造事件国賠、国と都が控訴…《今回の事件は、日本の警
察、検察、裁判所がいかなるものかを浮き彫りにしている》(長周新聞)』
『●冤罪で死刑執行、飯塚事件…『正義の行方』木寺一孝監督《が描いたのは、
死刑執行後だからこそ、より鮮明に浮かび上がる「人が人を裁く重み」》』
《◆デスクメモ …恣意的な捜査がえん罪を引き起こした最近の
大川原化工機事件を頭に浮かべつつ、そう強く思う》。
『●東京地裁・男沢聡子裁判長殿、一体どういうことですか? 大川原化工機冤
罪事件「起訴取り消しによる名誉回復すら見届けられず亡くなった」のに…』
『●ニッポンの《刑事司法はおそろしいほどに後進的…代用監獄…人質司法》
…《法曹三者が「冤罪を学び、冤罪から学ぶ」こと》が重要だが…』
《◆無罪主張するほど保釈されない「人質司法」問題》
『●人質司法…《保釈請求…東京地裁も却下。否認を貫く相嶋さんに妻が「うそを
ついて自白して、拘置所から出よう」と頼んだが、首を縦に振らなかった》』
『●大川原化工機でっち上げ事件《勾留後に亡くなった1人》…《無罪主張
するほど保釈されない「人質司法」》の問題点が最悪の形で顕在化』
『●《恣意的な捜査がえん罪を引き起こした》大川原化工機でっち上げ事件…
《取調官は「知ったこっちゃないですよ。組織の方針に従うだけですよ」》』
『●大川原化工機でっち上げ事件の国家賠償訴訟・東京高裁控訴審…《原告側
は事件そのものを「捏造」》《社長らは「真相を明らかにする」》と』
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【https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/30810】
大川原化工機事件について――経済安保法制が導く恐怖の未来予想図 和田倉門法律事務所・弁護士 高田剛
2024年6月12日
公益社団法人・自由人権協会は1日、2024年総会記念講演「大川原化工機事件~経済安保法制が導く恐怖の未来予想図~」を開催した。大川原化工機事件とは、2020年3月、大川原化工機(横浜市)の大川原正明社長ら3名が、「生物兵器の製造に転用可能な機器を中国に不正輸出した」との外為法違反容疑で、警視庁公安部に逮捕・起訴された。起訴後も身柄拘束は長期に及び、その間に1名が死亡したが、その後冤罪であることが明らかになり、東京地検は初公判直前に異例の起訴取り消しをおこなった、という事件である。逮捕の時期は、安倍政権が「経済安保」を推進していた時期だった。現在、大川原化工機の社長らが、東京都と国に約5億6500万円の損害賠償を請求する国家賠償請求訴訟をおこなっている。同事件の弁護人であり国賠訴訟代理人でもある高田剛弁護士の報告を紹介する(表や図は講師が示した資料から作成した)。
○ ○
(高田剛弁護士)
大川原化工機事件とは、一言でいえば、外為法の法令解釈に関する見解の違いで、手続き違反を疑われた中小企業の大川原化工機が、公安警察の標的にされて、役職員の自宅を含む一斉家宅捜索を受け、さらにその後1年半近くで291回の事情聴取を受けた挙げ句、社長を含む幹部3名が逮捕され、起訴後も保釈がされずに身柄拘束は330日に及び、その間に1名は病死した。その後、冤罪であったことが判明して起訴が取り消された事案である。
事件のポイントを挙げると、まず経産省による法令の解釈運用の不備があげられる。経済安保をめぐっても、法律の曖昧さがベースにあってそれが国家に悪用される懸念を持つ方がおられると思うが、共通する問題だ。
次に、事件に飢えた公安警察が不備をついて暴走した。解釈が曖昧なことをいいことに、公安部が独自に解釈を打ち立てて経産省を説得にかかり、経産省は最終的に押し切られて立件を容認した。経産省は「解釈の明確化→業界への指導監督」を先行させるべきなのに、自分たちの頭を乗りこえて、しかも自分たちが指導していないところからまったく関係ない解釈を持ち出す公安警察の立件を許した問題は大きい。ただ、それを利用したのは公安警察だ。
公安部は、事件の捜査を進めるなかで、消極的な証拠を黙殺し、有利な証拠を捏造してまで立件に進む。なぜ公安部はこえてはいけない一線をこえたのか。また、取り調べはなぜ1年3カ月・291回にも及んだのか。そこには自白調書を重視する刑事裁判のしくみがあったのではないか。
さらに起訴するのは検事だが、なぜ検事は公安部の暴走を止められなかったか。公安事件における公安部と検事には密接な関係がある。検事の元には警察から立件に有利な資料しか送られてこないので、検事には消極証拠を見抜く力が求められる。今回は公安にいわれるまま起訴に進んだ。検事の役割を見直さなければならない事件だった。
最後に、無実を訴えれば訴えるほど保釈を認めず、身柄拘束が続く裁判所のあり方(人質司法)は是正されなければならない。自白した人とたたかう人では、身柄拘束の期間が有為に違う。身柄拘束をされている人は自白に誘導されてしまい、冤罪が生まれてしまう。今回は身柄拘束中に1名が進行癌(がん)であることが発覚したが、保釈が認められず、そのまま亡くなってしまった。
外為法による輸出規制 リスト規制の仕組み
外為法は安全保障貿易管理をおこなっており、今回問題になったのは輸出管理の部分だ。輸出管理とは、「先進国が保有する高度な貨物や技術が、大量破壊兵器開発や製造等に関与している懸念国やテロリスト等の懸念組織に渡ることを未然に防止するため、国際的な枠組みのもと、各国が協調して実施」している。わが国だけでなく、国際的にルールをつくっているものだ。先進国が中心になった「国際輸出管理レジーム」という集まりがあり、こういう規制をかけていこうという取り決めをし、各国が持ち帰って法律化している。
「国際輸出管理レジーム」には主に四つの枠組みがあるが、今回問題になったのはAG(オーストラリア・グループ)といって、生物・化学兵器を対象とした輸出規制の枠組みだ。これには日本も加入している。
規制の手法としては、大きくはリスト規制と、それを補完するキャッチオール規制の二つがある。リスト規制は法令や省令で貨物の品目や性能を定め、そのリストに該当する製品を輸出するさいには経産大臣の許可が必要というものだ。リスト規制のジャンルは15あり、今回問題になったのは3の2の「生物兵器」だ【表参照】。
生物兵器のなかにはどういう規制対象貨物があるのかというと、1はウイルスや細菌そのもの、2は細菌を使った兵器の製造・保存・持ち運びに使える機械で、10種類がリストにあがっている。今回問題になったのは5-2の噴霧乾燥器だ。噴霧乾燥器は2013年に凍結乾燥器の項目に追加されており、これだけが新しい規制だ。
そして、噴霧乾燥器ならなんでもかんでも輸出許可が必要かというと、そうではない。生物化学兵器の製造に用いられそうな、いわば性能のいい機械だけが規制の対象になっている。具体的にはイ~ハの三つの要件があり、それを全部満たすものは輸出するさいに許可が必要となっている。今回問題になったのは、ハの「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができるもの」という要件だ。
一方、キャッチオール規制というのは、リスト規制の対象外であっても、「用途要件」といって、その貨物や技術が「大量破壊兵器」などの開発のために使われる場合は許可が必要というものだ。また「需要者要件」といって、経産省が15カ国・地域、706組織を指定するユーザーリストをつくっており、このリストに該当する要注意の相手に輸出する場合は許可が必要というものだ。
次に、事業者が経産省に許可申請した場合はどうなるか。経産省は、事業者の許可申請提出書類を見て、「輸出許可基準」をもとにその用途や需要者を審査する。輸出許可基準の内容は、①貨物が実際に需要者に到達するのが確からしいか、②申請内容にある需要者が貨物を使用するのが確からしいか、③貨物が国際的な平和及び安全の維持を妨げる恐れのある用途に使用されないことが確からしいか、④貨物が需要者によって適正に管理されるのが確からしいか、の四つだ。
今回の場合、噴霧乾燥器が問題になって2件が立件されているが、1件目の噴霧乾燥器RL-5は、リチウム電池材料をつくるのが目的で、需要者はドイツのBASF(世界最大手の化学メーカー)の中国子会社。2件目の噴霧乾燥器L-8iはアクリル樹脂をつくるのが目的で、需要者は韓国の液晶メーカーLGの子会社LG MMAだった。いずれも、「もし許可申請があれば許可していた」と経産省が明言している。
では、経産省の許可がないまま輸出した場合はどうなるか。その場合、経産省は事業者に資料を提出させて事後審査をやり、違反の事実が判明した場合は指導・処分をおこない、そうでない場合にも再発防止策を策定させる。もっとも重い処分としては行政罰(3年以内の輸出等禁止など)があり、それより軽い警告や、原則非公表の報告書の提出のみというのもある。さらに悪質な場合は、経産省が告発し刑事事件になる。
ところが大川原化工機事件の場合、経産省による事後審査もなければ行政罰も警告もなく、そして告発もなかった。つまり経産省は何も動いていない。にもかかわらず警視庁公安部が勝手に事件化し、勝手に立件した。
噴霧乾燥器とは何か? 新たに規制に加わる
さて、今回問題になった噴霧乾燥器(スプレードライヤ)とはどういうものか。
液体を熱風中にシューッと霧状に噴霧して、液体の部分を蒸発させ、液体に混じっていた固体の部分が粉末として落ちてくるというものだ。言葉でいうと簡単だが、技術的にはかなり難しい。たとえば、コーヒーの液体からインスタントコーヒーの粉末をつくる。インスタント食品についている粉末スープもそうだ。その他、健康食品などの食品分野やセラミックなどの化学の分野、製薬産業における乾燥粉体の調製などに幅広く用いられている。
乾燥器には、噴霧乾燥器の他に凍結乾燥器がある。凍結乾燥器は古くから規制の対象になっていた。噴霧乾燥器はここ数十年で性能が向上し、凍結乾燥器より効率的に粉体を得ることができるようになったので、規制の対象に加えられた。
構造を見てみたい【図参照】。真ん中にズドーンとあるのが乾燥室。その中に上のアトマイザから、原液が霧状に噴射される。同時に左側の電気ヒーターから熱風を送る。すると乾燥室の上で噴霧されたものと熱風がぶつかる。そこで液体部分が蒸発し、粉末が乾燥室の下に落ちてくる。そして右のサイクロンに集められ、粉体は製品ポットに落ちてくる。他方で風は、右上の排風機から外に出ていく。粉体は製品ポットから回収される。
大川原化工機は、日本における噴霧乾燥技術のリーディングカンパニーで、シェアは約7割。国内の企業のみならず、中国をはじめとする東アジア、東南アジア、ヨーロッパ、アメリカに多くの噴霧乾燥器を古くから輸出している。
噴霧乾燥器は先ほどものべたように、もともとは規制の対象ではなかった。しかし性能が向上し、2011年に噴霧乾燥器のパイオニアであるデンマークからAG参加各国に提案があり、2012年のAG会議で規制対象品目への合意が成立した。これを受けて経産省が政省令を改正し、日本におけるリスト規制の対象品目に噴霧乾燥器を追加したのが2013年10月だ。
そして規制の要件だが、2012年のAG会議で三つの要件をすべて満たす噴霧乾燥器が規制の対象になると合意された。この三つの要件について、合意された翌年に経産省が明文化したのがイ、ロ、ハの三つの要件だ【上表参照】。
今回問題になったのはハの要件で、「定置した状態で内部の滅菌又は殺菌をすることができるもの」と訳している。このなかで「滅菌」というのは微生物学で定義されている。だが「殺菌」というのは、微生物学上も法律上もなにが殺菌かという明確な定義がない。なぜ、概念がないものを法律で明文化したのか。もともとの英文を見ると「disinfected」となっており、これは学術的には「消毒」を意味する言葉だ。ところが10年前に訳したとき、経産省は「殺菌」という言葉をあてた。
これについて経産省を支援する民間団体CISTEC発行の「ガイダンス」では、「装置を分解せず組み立てた状態で、乾燥粉体が漏れない状態にして、又は製造作業者が粉体を吸入したり、粉体に接触したりすることなく内部を滅菌・殺菌ができる構造」と定義している。つまり、作業者が安全に作業できるように、粉がモヤモヤと出てこない状態で菌を殺すことが必要ということだ。
大川原化工機はこれを読んでいたので、規制対象になるのは曝露が防止できるような性能を有する噴霧乾燥器だと考えていた。
具体的にはCIP機能といって、ボタン一つで薬液が出てきて内部が自動洗浄される機能の付いた高性能噴霧乾燥器が規制の対象だと考えていた。同社の噴霧乾燥器はそうではない(ハの要件を満たさない)ので、だから許可をとらずに輸出していた。
いきなりのガサ入れ 逮捕に至る経緯
ところが、2018年10月3日、噴霧乾燥器を規制する法律ができてから5年後に、警視庁公安部によるガサ入れ(捜索差押)がいきなりおこなわれた。公安部外事第1課長を総括指揮官とし、129人体制で、大川原化工機の本社や開発棟、静岡の研究所、大阪営業所など7カ所と役職員7人の自宅、合計14カ所を一斉捜索し、2287件の押収をおこなった。役職員の自宅には朝7時頃にやってきて、2時間余り捜索し、携帯やタブレットなどを持っていった。
このときまで公安警察は、大川原化工機には知らせずに捜査していたので、自分たちが標的になっていることすらわからない。ある日の朝、いきなり警察が自宅に来たという事態だ。
そして2カ月後の同年12月11日から2020年2月まで、同社の50人に対して任意の取り調べが延々と続いた。3年ごしで、のべ291回にもなった。大川原化工機は「なにも悪いことはしていないのだから、全面協力」という方針を立てたが、しかしいつまでたっても終わらない。
取り調べで聞かれたのは主に次の2点だった。一つは「噴霧乾燥器になにも入れない状態で、付属のヒーターだけ回して空焚きしたら、内部の殺菌ができることを知っていた?」。普通はこんなことはしない。そして「殺菌」は明確な定義がない。たとえば「殺菌作用のある石鹸」といっても、それで手を洗ったとして、それで手にいる細菌がすべて死ぬわけではないが、でも「殺菌できる」という。「殺菌」の定義が示されないまま「空焚きすれば殺菌できる」といわれ、よくわからないまま誘導されて供述調書をとられている。
もう一つ、「許可を得ずに輸出することを決めたのは誰?」とみんなが聞かれた。同じようなことを毎回聞かれるという状態だった。
その過程では不当な取り調べもあり、うつ病になる社員もいたので、警視庁公安部にクレームを入れた。
また、1年間取り調べが続くなかで、「許可をとっていなかったけど、われわれの解釈は間違っていたのか」ということで、警察の捜査への協力と並行して、経産省に判定の基準について問い合わせをおこなった。警察の取り調べは過去のことだが、事業者はこれからも輸出し続けなければいけないので、許可申請の基準をつくらないといけないからだ。2019年の年明けから1年間対話を続けたが、経産省は回答を先延ばしし、判断基準を示してくれなかった。後で話すが、この段階ではすでに経産省は公安部と打ち合わせをして基準を持っていた。が、それを教えてくれなかった。
そして2020年3月11日、大川原化工機社長・大川原正明氏、同社取締役・島田順司氏、同社顧問・相嶋静夫氏の3人が逮捕された。このとき第二次捜索差押もされた。
このときのことを大川原社長は次のようにいっている。
警察が朝7時頃に自宅に来て任意同行を求められ、警視庁に行くのかと思っていたら、自宅から会社に行って社長室に案内され、社長室で2時間ぐらい待たされる。それで警察に促されて社長室を出て、警察の車に乗り込んで警視庁に向かうのだが、会社の扉を開けたら、そこにはマスコミがズラッと並んでいた。わざわざ社長を自宅から会社に連れてきて、マスコミが集まるのを待って、マスコミの前に出すということを公安部はやった。
逮捕から起訴されるまで 従業員の証言が局面変える
(警視庁本部庁舎(東京都千代田区霞が関))
逮捕された日、3人から警察を通じて私のところに弁護人選任・接見希望の連絡が入った。私は順次接見した後、弁護団を結成した。
翌3月12日、3人の身柄が検察庁に送られた。3人に接見し、話しあって完全黙秘の方針を決めた。
3月13日から、検事が従業員10人に対して参考人聴取の出頭要請をおこなった。当初、自白調書がほぼできていたので、検事は簡単に調書がとれると思っていたが、3人が完全黙秘に転じたため、従業員を呼んで「殺菌できる」という調書をとろうとしたわけだ。結果的にはこれが、彼らにとって墓穴を掘ることになった。
逮捕当日、マスコミは3人の顔写真入りで大きく報道した。取引先や金融機関から問い合わせが続き、取引停止にもなったので、一方的な報道をなんとかしようと、われわれは3月16日にマスコミ向けに自分たちの考えを送信した。いくつかのマスコミから取材も受けたが、結果、なにも報道されなかった。
取り調べで公安部は、黙秘権を行使する3人を切り崩そうと、「あの弁護士はだめだ。刑事弁護を知らない」と弁護士と切り離そうとしたり、「他の2人は雑談には応じている。雑談にも応じないのは人としてどうか」と他の被疑者から切り離そうとした。
一方、われわれは3月13日に大川原化工機の従業員と面談をおこなった。なにせなにが疑われているのかがよくわからず、どこが論点かを探っていった。「殺菌できる、できない」が問われる、よくわからない取り調べが一年間続いたので、ここがポイントではないかということになった。
そのなかで従業員から、「噴霧乾燥器の内部は温度が均一に上がらない部分もあるため、菌は一部生き残る可能性があるし、器械が密封されていないため、菌が風とともに尻から出て、曝露もする。だから完全に死滅させるという意味での滅菌・殺菌はできない」という意見が出された。われわれは、「では実験しよう」となった。
一方、大川原社長ら3人は完全黙秘を続けた。そこから検事は、故意および共謀を立証するため、従業員の参考人聴取を幅広くおこなった。
それまでに公安の取り調べによる「殺菌できる(殺菌の定義をいわないまま)」という調書がたくさん積み上がっていた。しかし、検事は「殺菌」というのを「菌が全部死ぬ」こととわかっているので、従業員に「全部死にますか?」と聞く。すると従業員は「全部は死なない」「測定口という管に入った菌は、そこは熱風が通らないから温度が上がらず、死なない」「(公安の取り調べのときには)全部殺すと聞かれなかった」と答えた。3人の従業員がこの取り調べを録音しており、それがその後の国賠訴訟一審で決定的な証拠となった。
検事はそこでどうしたか。本来なら温度が上がらないことを調べるべきだ。しかし、塚部検事はそれを黙殺する形で3月31日、起訴した。
起訴後の弁護活動 胃癌発覚後も勾留
起訴後の弁護活動としては、まず身柄の早期解放に向けて保釈請求を、2020年4月から翌年1月まで8度にわたっておこなった。しかし、まったく保釈されず、勾留は約11カ月続いた。その間に相嶋氏は進行胃癌が発覚し、発覚しても保釈が認められず、勾留執行停止が認められて大急ぎで大学病院で診察を受けるところまでいったが、それでも自由ではないので後手後手になってしまって、保釈請求が通らないまま2021年2月に亡くなった。身柄拘束がされていなければ、もっと生きられたはずだ。
第二に、無罪を勝ちとるための弁護活動をおこなった。一つの切り口は法令解釈で、そもそも公安部の理論、ヒーターの熱で菌を殺せるという乾熱殺菌理論が学術的にはありえず、国際基準にもない。国際基準は薬液を流してやるのが殺菌だという考え方だ。日本だけが「消毒」を「殺菌」と誤訳し、「熱風を送れば殺菌できる」という殺菌理論ができたわけだが、その理論自体が間違っているのではないか。
もう一つの切り口が器械性能で、測定口は温度が上がらないのだから、公安部の殺菌理論を前提としても殺菌性能はないという主張だ。そこでヒーターによって滅菌・殺菌できるほどの温度に上がるかどうかを実験してみた。すると測定口の温度がまったく上がらないことが判明した。「微生物を微粒化した場合、測定口に粉体が入り込むこともあるか?」と同社の従業員に聞くと、「粉体は入り込む。風の流れない所なので温度が高くなり難い箇所になる」との返事をもらった。この段階でわれわれは無罪判決を意識した。公安部がやった実験の結果も出てきたが、測定口は測っていなかった。
2019年11月には、警察の内部告発文書が届いた。われわれの方向が間違っていないことを確信した。
さらに法令解釈の部分で怪しい動きを見つけた。捜査の初期の段階で、経産省と警視庁が非常に長い期間、何回も密談していることがわかった。その内容が捜査資料として出ていない。裁判所を通じて開示請求すると、検事は「経産省メモはあったが、経産省が拒絶していて開示できない」という。裁判官が何度も促すことで、検事は「(2021年)7月30日までに黒塗りの場所を決めて開示する」と約束した。そして約束の日、検事は起訴を取り消した。経産省メモはそれほど出したくないものだった。今、公安部が作成した検事相談メモ(2021年7月21日)が明らかになっている。そこで検事は起訴を取り消す理由として、一つは「実験したけど殺菌できなかった」、もう一つは「経産省メモを読むと、うがった見方をすると意図的に立件方向にねじ曲げたという解釈を裁判官にされるリスクがある」とのべている。経産省メモには、公安部が立件方向にねじ曲げ、経産省を寄り切ったという内容が書かれていることが想像される。経産省メモは後日、入手した。
国家賠償請求訴訟 事件捏造の認定求め
(国家賠償請求訴訟の第一審では大川原化工機側が勝訴
(昨年12月27日、東京地裁前))
検察官の起訴取り消しを受け、東京地裁は2021年8月3日に公訴棄却を決定。その翌月の9月8日、大川原化工機は国家賠償請求訴訟を提起した。
一審ではわれわれが勝訴した(2023年12月)。しかし双方が控訴した。われわれがなぜ勝ったかというと、「(公安部や検事が)従業員から指摘を受けていたのに、測定口の温度に関する捜査をおこなわずに逮捕・起訴したことは違法」、つまり測定口を測っていないという「捜査ミス」「捜査不足」で勝っている。
しかしこの事件は、証人尋問でH警部補が「捏造」と認めたように非常に悪質な事件だ。ところが一審では、公安部が殺菌解釈について経産省見解を立件方向にねじ曲げたこと、事件そのものが捏造だったことについて認定を受けることはできなかった。
だからわれわれが控訴したのは、真相を裁判所に事実認定してもらわないと、警視庁公安部や検察庁は事件を真摯(し)に振り返らないと思ったからだ。
公安部はなぜ暴走した 経産省は検証もせず
最後に、公安部はなぜ暴走したのか? この事件が報道されることでいろんな協力者が出てきて、だいたいの事実がわかってきた。それをわれわれの見立てで話す。
端緒は2017年3月だ。ガサ入れの1年半前から、捜査は始まっていた。
捜査をおこなったのは警視庁公安部外事第1課第5係で、不正輸出の捜査を担当するチームだ。不正輸出の案件をいつも捜している。しかし不正輸出の案件は少なく、検挙された数も少ない。ここ7~8年で数件しかない。大川原化工機事件の前に第5係は安井インターテックを書類送検したが、検事が起訴猶予にした。2017年3月24日だ。
今回、なぜ捜査が始まったかというと、3月8日の税関の貿易講習会に若い巡査長が参加して、そこで「殺菌の概念が曖昧で、国際的にも規制できていない」という話を聞く。戻って報告すると、係長が「いいね」「噴霧乾燥器と凍結乾燥器について聞きに行こう」といって講師のところに行く。聞くと、「噴霧乾燥器は規制が始まって5年で、規制要件が曖昧だ」「業界ナンバーワンの大川原化工機という事業者があり、高性能の噴霧乾燥器をつくれる」「トップ企業で外資系でもないし、中小企業だ」とわかった。「いいね」ということで捜査が始まった。
第5係は東京税関の協力を得て、規制が始まってからの大川原化工機の輸出実績49件を調べた。すると、噴霧乾燥器の三つの規制要件のうち、ハの滅菌・殺菌の要件をいつも「非該当」にして輸出していることを把握した。それなら滅菌・殺菌できることを証明できれば非該当をひっくり返せると気づく。そして要件ハだけ非該当にしている9件の中から中国向けの汎用機にしぼったら、噴霧乾燥器RL-5が出てきた。つまりこの器械が危ない使い方をされたから狙われたのではまったくなく、あげるために、あげやすいものにしぼることで浮上したわけだ。
第5係は次に、同業他社やユーザーにヒアリングしたが、ヒーターで乾熱して殺菌できるとして輸出許可をとっているメーカーは一社だけ。他社は大川原化工機と同様、薬液で流すのが殺菌だから、そうでないものは輸出許可申請をしていなかった。また、実際に乾熱殺菌しているユーザーはゼロだった。公安部の考え方は通らなかったが、宮園第5係長は「実務は関係ない。理論的に殺菌できるなら立件できる」と捜査を進めた。
2017年9月から、第5係は「規制に該当する」という経産省の見解を得るための折衝を始める。経産省は当初、公安部の解釈を否定した。しかし2018年2月、急転直下、ガサ入れまでなら協力するというきわめて政治的な対応をとった。それまでに公安部が経産省とのミーティングで、ガサ入れで黒い証拠が必ず出るからと働きかけていたことがわかっている。
他方で第5係は実証実験をおこなった。細菌が死滅する温度条件を乾熱乾燥器で特定した(110度で2時間温めればよい)が、機器の下部の温度が上がらないことがわかり、その場所も温度条件をクリアするような実験をおこなってなんとか資料をそろえた。
こうして警視総監の承認や検事の了解もとって、大々的にガサ入れを実行した。しかし、なにも出てこなかった。そうなると任意の取り調べを延々とやって、「殺菌できる」と自白をとるしかない。
ところが2018年12月、取り調べを始めた3日目に、従業員から「測定口は温度が上がらない」という話が出てくる。翌1月には、噴霧乾燥技術にもっともくわしい故・相嶋顧問からも同じ指摘がされた。
これを聞いた捜査員の一人が測定口の温度を確かめるよう進言するが、しかし宮園係長は「従業員の言い訳だ。信じる必要はない」「結果が出なかったらどうするんだ。事件潰れて責任とれんのか」といい、測定口の温度を測らせなかった。それを握り潰したまま、塚部検事の了解を得て立件に進んだ。
なぜ宮園係長は実験を握り潰したのか。証人尋問の中で明らかになったのは、係長は大川原化工機の前に別の事業者を書類送検したが、検事にハシゴを外された。彼の任期から考えて、この事件が最後のチャンスだった。そのうえ実験を10回以上もやり、警視総監の了解もとって、120人体制でガサをやったのだから、もう立ち止まれない。
証人尋問では「捜査員の出世欲からそうなった」という発言が出た。彼にとっては万が一にも測定口を測って温度が上がらないことがわかったら、それを隠すことはできない。だから測定口の温度は、彼としては測れなかった。
最後に、経産省は大丈夫か? そもそもできの悪い省令をつくったのは経産省で、その検証もせず、そのうえ公安部のガサを受け入れ、大川原化工機からの相談に対しては事後審査すらおこなわず、解釈も示さないままだった。
日本の産業を育てるべき経産省が、結果的に法令の不備を公安部に利用され、企業を売った形となった。こうしたことはけっしてあってはならない。
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[↑ 大川原化工機の訴訟 検察・警察の捜査「違法」/東京地裁 都と国に賠償命令 (朝日新聞、2023年12月28日(木))]
(2024年01月31日[水])
大川原化工機でっち上げ事件。あまりに酷い冤罪事件というか、公安警察・検察によるでっち上げ事件・捏造事件。何度請求しても、保釈を認めなかった裁判所も、あまりに杜撰で冷酷。
神保哲生さんのビデオニュースドットコムの記事【警察にはこの事件が意図的な捏造だったことを正直に認めてほしい 大川原化工機社長らが国賠訴訟判決を前に会見】(https://www.videonews.com/press-club/20231221-ookawara)によると、《しかし、大川原氏らは最後まで自白をしなかったため、有罪に持ち込むことが困難と判断した検察は逮捕から331日目となる2021年2月5日、大川原氏と島田氏を釈放し、7月には起訴を取り消した。相嶋元相談役は勾留中に胃がんが悪化し、8度にわたる保釈申請もことごとく却下されたため、嫌疑が晴れないまま死亡している》。大川原化工機捏造事件国賠訴訟では、謝罪や責任を問うこともなく、敗訴した《国と東京都が控訴》している…。大川原正明社長は「あきれた」「やっぱりか」「まだやるのか」と…。
そして、もう一つの大事なポイントはアベ様政権と《“野党やマスコミの監視、謀略情報の仕掛け人”として暗躍してきた》《「官邸のアイヒマン」の異名もあった》北村滋氏…《3人が逮捕された当時、アメリカにこびへつらう安倍政権が中国を念頭に置いた「経済安保」の旗を振り、警察官僚・北村滋がトップの国家安全保障局にその司令塔である「経済班」が新設された。そのもとで警察や検察、裁判所が安倍政権を忖度して捏造をおこない、みずからの出世のために一般市民の生活を踏みにじってはばからなかった。他方で東京地検特捜部は、政治資金規正法違反が明白な安倍派幹部の立件を見送っている》(長周新聞)。
長周新聞の記事【大川原化工機事件とは何か 警察・検察がでっち上げた度外れた冤罪事件 政治に忖度し出世欲で事実を捏造】(https://www.chosyu-journal.jp/shakai/28948)によると、《生物兵器の製造に転用できる機器を無許可で中国に輸出したとして逮捕、起訴され、その後一転して起訴がとり消された大川原化工機(横浜市)の社長らが、東京都と国に損害賠償を求めていた訴訟の一審判決が、昨年12月27日、東京地裁で出された。判決は、警視庁公安部の逮捕と、東京地検の勾留請求・起訴をいずれも違法と認め、都と国に計1億6000万円の賠償を命じた。一方、これを認めたくない都と国は1月10日、控訴した。今回の事件は、日本の警察、検察、裁判所がいかなるものかを浮き彫りにしている》。
『●人質司法による《身柄拘束は実に約十一カ月間》、大川原化工機の
大川原社長ら…《こんなにひどいことはないと感じたという》青木理さん』
『●大川原化工機事件…でっち上げ事件、《勾留後に亡くなった1人を
含め、会社側は起訴取り消しになっても大きな不利益を被りました》』
『●日刊ゲンダイ【辛口の経済評論家 佐高信氏が「いい会社」と就活生に
薦めたい企業3社】《城南信用金庫…久遠チョコレート…大川原化工機》』
『●男性警部補「捏造ですね」…とんでもない冤罪事件・捏造事件・でっち
上げ事件、国賠が認められても《勾留後に亡くなった1人》の命は戻らない』
『●大川原化工機事件は公安によるでっち上げ…《警視庁公安部が捜査し、
公判直前に起訴が取り消された事件…現職警部補が「事件は捏造」と証言》』
『●《警察と検察が事件を捏造して、無辜の人たちを犯罪者に仕立て上げる。
…大川原化工機の例は、この国がすでに“新しい戦前化”している…》』
『●大川原化工機捏造事件国賠…《女性検事は淡々と、「起訴当時の判断を
間違っているとは思っていない。謝罪する気持ちなどない」と答えた》』
『●大川原化工機でっち上げ事件の国賠…《13年前の「正義の検事」が“冤罪”
事件で謝罪拒む》、実は郵便不正事件当時も《問題検事》だった模様』
『●大川原化工機でっち上げ事件国賠訴訟…当然の勝訴判決ではあるが、《勾留
後に亡くなった1人》の命は戻らないし、あまりに《大きな不利益》…』
『●大川原化工機捏造事件国賠、謝罪や責任を問うこともなく《国と東京都
が控訴》…大川原正明社長「あきれた」「やっぱりか」「まだやるのか」』
『●大川原化工機でっち上げ事件:青木理さん《見込み捜査と強い政治性を特徴
とする警備公安警察のゆがみが如実にあらわれた例として、大きな批判…》』
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【https://www.chosyu-journal.jp/shakai/28948】
大川原化工機事件とは何か 警察・検察がでっち上げた度外れた冤罪事件 政治に忖度し出世欲で事実を捏造
2024年1月30日
(国家賠償請求訴訟の判決後に「勝訴」と書かれた紙を
掲げる大川原化工機の大川原正明社長
(昨年12月27日、東京地裁前))
生物兵器の製造に転用できる機器を無許可で中国に輸出したとして逮捕、起訴され、その後一転して起訴がとり消された大川原化工機(横浜市)の社長らが、東京都と国に損害賠償を求めていた訴訟の一審判決が、昨年12月27日、東京地裁で出された。判決は、警視庁公安部の逮捕と、東京地検の勾留請求・起訴をいずれも違法と認め、都と国に計1億6000万円の賠償を命じた。一方、これを認めたくない都と国は1月10日、控訴した。今回の事件は、日本の警察、検察、裁判所がいかなるものかを浮き彫りにしている。
今回の事件は、大川原化工機が自社製の噴霧乾燥機をドイツ大手化学メーカーの中国子会社に輸出したことが、外為法上の輸出管理規制に違反するとして、同社社長の大川原正明、取締役の島田順司、顧問の相嶋静夫の3氏が2020年3月に逮捕、起訴されたものだ。
(大川原化工機の密閉型スプレードライヤ)
噴霧乾燥機とは、液体などを熱風中に噴霧して溶媒を蒸発させて粉末を得る装置で、インスタントコーヒーやインスタント食品の粉末スープ、製薬産業の乾燥粉体の調整などに幅広く使われている。大川原化工機はこの技術の日本におけるリーディングカンパニーで、国内だけでなく中国や東南アジア、欧米などに輸出してきた。
この噴霧乾燥機が、生物化学兵器の製造に転用される恐れのあるものとして規制対象になったのは、2012年のことだ。規制対象になる噴霧乾燥機の条件は、病原性微生物を生きたまま粉体化することが可能であることに加え、三つの条件をすべて満たすものと規定された。
そのうちの一つの条件が、「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができるもの」だった。つまり、装置を分解せずにそのままの状態で、内部の病原性微生物を殺し尽くすことができなければ、菌が外部に拡散してしまい、生物化学兵器の製造に使えないからだ。大川原化工機の噴霧乾燥機は、滅菌ができるほど高い温度になる構造ではなく、滅菌は不可能だった。
ところが、公安による見込み捜査は2017年頃から開始され、同社の役職員48人に対してのべ26四回に及ぶ任意の取り調べがおこなわれた。公安は、同社が中国の軍需企業とのつながりがあると想定して家宅捜索もおこなったが、もちろん証拠は出なかった。
2020年3月に逮捕された3人は、一貫して無罪を主張し続けたが、勾留は11カ月にも及んだ。勾留中に体調を崩し胃がんであることがわかった相嶋氏は、保釈請求を7回もおこなったが拒否され、2021年2月に死亡した。保釈を拒否したのは裁判所だ。
しかし同年8月、東京地検が「同社の噴霧乾燥機が法規制の対象になるとの立証ができない」という理由で、一転して起訴を取り消し、「全面敗北」を宣言した。
偽調書作成し、嘘で恫喝した公安
今回の東京地裁の判決は、第一に、公安の任意聴取で同社の複数の従業員が「うちの噴霧乾燥機は滅菌に必要な温度に達しない構造だ」と具体的に説明したのに、実験して確認することなく逮捕したこと、検察も公安の捜査をチェックせずに起訴したことは違法だとした。
第二に、公安の取り調べも違法とした。担当する警部補は、被疑者をだますようにして供述調書を作成したり、弁解録取書(逮捕直後の取り調べ調書)では被疑者が発言していない内容を書いて署名・押印させた。
ただし判決は、逮捕・起訴の根拠となった経産省の輸出規制省令を公安がねじ曲げて解釈し、捜査機関が事件を捏造したとする同社側の主張は退けた。
一方、大川原化工機の代理人弁護士は、この裁判の経過を詳しく発信している。そこから次のことが明らかになっている。
捜査の中心にいた警部補は、島田順司氏の任意取り調べを35回おこない、供述調書を書いている。その調書は、警部補が取り調べの前に作成していたもので、捜査機関に有利な虚偽の事実が散りばめられていた。そして、島田氏が誤りを1カ所指摘するたびに調書を取り上げるなど、内容を十分に吟味することを妨害した。
取り調べでは、「菌が少しでも死ねば殺菌に該当する」という独自の見解を断定的にのべたり、「大川原化工機の噴霧乾燥機が中国のあってはならない場所に納入されていたのが発覚した」などのウソで島田氏を恫喝した。
逮捕後の弁解録取書では、「大川原氏らと共謀し、輸出規制に該当する不安を抱えながら無許可で輸出した」という事実と異なる文章を事前につくっておき、島田氏が削除するよう求めると、修正しないまま、修正したように装って署名・押印を求めた。気づいた島田氏は、「警察がまさかこんなことをするとは信じられない」と強く抗議した。
これについては、昨年6月におこなわれた証人尋問でも明確になっている。原告側弁護士から「経産省が解釈を決めていなかったことに乗じて、公安部が事件をでっちあげた。違いますか?」と聞かれると、別の警部補は「まあ、捏造ですね」「逮捕・勾留の必要性はなかったと思います」「幹部が捏造しても、さらに上の立場の人が防げた可能性がある。すでに捜査員からの内部告発が出ていたのだから」と答えた。
続けて弁護士が「立件する方向になった経緯は?」と聞くと、「捜査員の個人的な欲だと思う」「立件しなければならない客観的な事実はないのに、大量に捜査をしたということは、捜査幹部にそういう欲があったとしか考えられません。定年を視野に、どこまで上に上がれるのか考えたということです」とのべた。
3人が逮捕された当時、アメリカにこびへつらう安倍政権が中国を念頭に置いた「経済安保」の旗を振り、警察官僚・北村滋がトップの国家安全保障局にその司令塔である「経済班」が新設された。そのもとで警察や検察、裁判所が安倍政権を忖度して捏造をおこない、みずからの出世のために一般市民の生活を踏みにじってはばからなかった。他方で東京地検特捜部は、政治資金規正法違反が明白な安倍派幹部の立件を見送っている。今回の事件についても、徹底的な検証がされなければ国民は誰も納得しない。
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[↑ ※袴田事件《捜査機関による証拠捏造》…《第三者は捜査機関の者である可能性が極めて高いと思われる》(『報道特集』、2023年03月18日[土])]
(2023年07月20日[木])
大川原化工機事件…公安の男性警部補「捏造ですね」…。とんでもない冤罪事件・捏造事件・でっち上げ事件、国賠が認められても《勾留後に亡くなった1人》の命は戻らない。(東京新聞)《共に逮捕、起訴された元幹部は体調を崩し、起訴取り消し前に亡くなった》。
『●人質司法による《身柄拘束は実に約十一カ月間》、大川原化工機の
大川原社長ら…《こんなにひどいことはないと感じたという》青木理さん』
『●大川原化工機事件…でっち上げ事件、《勾留後に亡くなった1人を
含め、会社側は起訴取り消しになっても大きな不利益を被りました》』
『●日刊ゲンダイ【辛口の経済評論家 佐高信氏が「いい会社」と就活生に
薦めたい企業3社】《城南信用金庫…久遠チョコレート…大川原化工機》』
『●男性警部補「捏造ですね」…とんでもない冤罪事件・捏造事件・でっち
上げ事件、国賠が認められても《勾留後に亡くなった1人》の命は戻らない』
とんでもなく理不尽な事件。(東京新聞)《東京地検は21年7月になり、犯罪に当たるかどうか疑義が生じたとして起訴を取り消した。2人の勾留は21年2月に保釈されるまで1年近く続いた。共に逮捕、起訴された元幹部は体調を崩し、起訴取り消し前に亡くなった》、《顧問の男性は勾留中に輸血されるほど体調を崩したが、入院のための勾留一時停止まで時間がかかり、起訴取り消し前に死亡した》。
しかも、冤罪事件・捏造事件・でっち上げ事件。(毎日新聞)《捜査に携わった警視庁外事1課の男性警部補が証人として出廷し、「(事件は)捏造(ねつぞう)だと思う」と証言した。…「大きな事件を挙げて『上に行きたい』という欲が捜査幹部にあったのだと思う。逮捕する必要はなかった」と述べた。別の警部補も「捜査幹部が不利になる証拠に目を向けなかった」と同調した》。(アサヒコム)《今も同庁公安部に所属する男性警部補は事件を「捏造(ねつぞう)」と証言し、別の1人も見立てに合わない証拠を捜査幹部が軽視したと述べた。捜査の違法性が問われた裁判で、現役の警察官が自ら捜査を「捏造」と呼ぶのは極めて異例だ》、《立件は「捜査員の欲」 いかされなかった内部通報》。
かつ、《事実上の自白強要である長期勾留を認めた裁判所の責任も問われて当然だ》、《深刻なのは、警察上層部や検察が捜査の暴走を見過ごしていたことだ》(東京新聞)。
東京新聞の【<社説>公安事件「捏造」 不当捜査、全容解明せよ】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/264270?rct=editorial)によると、《警視庁公安部が捜査し、公判直前に起訴が取り消された事件について現職警部補が「事件は捏造(ねつぞう)」と証言した。事実だとすれば、許されざる事態だ。不当捜査がなぜ行われたのか。全容解明に向けてまずは徹底調査が必要である。同公安部は二〇二〇年三月、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥装置を経済産業省の許可なく中国に不正輸出したとして、外為法違反などの容疑で化学機械メーカーの大川原化工機(本社・横浜市)の社長ら三人を逮捕した。同社は起訴後、乾燥装置が規制対象外であることを性能実験で実証したため、東京地検は初公判の四日前に起訴を取り消した。ただ、容疑を認めなかった社長らは十一カ月間の勾留を強いられた。顧問の男性は勾留中に輸血されるほど体調を崩したが、入院のための勾留一時停止まで時間がかかり、起訴取り消し前に死亡した》。
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【https://www.tokyo-np.co.jp/article/264270?rct=editorial】
<社説>公安事件「捏造」 不当捜査、全容解明せよ
2023年7月20日 08時03分
警視庁公安部が捜査し、公判直前に起訴が取り消された事件について現職警部補が「事件は捏造(ねつぞう)」と証言した。事実だとすれば、許されざる事態だ。不当捜査がなぜ行われたのか。全容解明に向けてまずは徹底調査が必要である。
同公安部は二〇二〇年三月、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥装置を経済産業省の許可なく中国に不正輸出したとして、外為法違反などの容疑で化学機械メーカーの大川原化工機(本社・横浜市)の社長ら三人を逮捕した。
同社は起訴後、乾燥装置が規制対象外であることを性能実験で実証したため、東京地検は初公判の四日前に起訴を取り消した。ただ、容疑を認めなかった社長らは十一カ月間の勾留を強いられた。
顧問の男性は勾留中に輸血されるほど体調を崩したが、入院のための勾留一時停止まで時間がかかり、起訴取り消し前に死亡した。
社長らは国と東京都に損害賠償を求めて提訴。証人尋問で捜査を担当した警部補が事件「捏造」を証言し、その理由には上司の警部(現警視)の「個人的な欲(出世欲)」を挙げた。
捜査への疑問を挟んだ別の警部補も、上司らから「事件がつぶれて責任を取れるのか」と迫られ、疑問は無視されたと話した。
逮捕前、社員らの聴取は三百回以上で家宅捜索も済んでいた。逮捕は必要だったのか。事実上の自白強要である長期勾留を認めた裁判所の責任も問われて当然だ。
経産省の担当職員は再三、装置が規制対象外である可能性を警察側に伝えていたが、逮捕に踏み切ったのは、見込み捜査であり人権侵害の可能性が否定できまい。
深刻なのは、警察上層部や検察が捜査の暴走を見過ごしていたことだ。警察庁は起訴取り消し後も事件を「摘発例」としてウェブ上で紹介し、起訴した検事も「謝罪の気持ちはない」と言い放つ。
起訴取り消し後の昨年五月には民間技術者らの情報漏えいにも罰則を設ける経済安全保障推進法が成立した。法整備を目指す自民党政権の姿勢が、捜査の暴走を招いた背景にあるのではないか。
「捏造」と指摘されるような不当な捜査がなぜ行われたのか。全容解明と再発防止策を促す責任は国家公安委員会と東京都公安委員会にある。国会も捜査の暴走に組織上の欠陥がないかを調査し、必要な立法措置を講じるべきだ。
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[※ ↑【夕食会5年間900万円分の領収書破棄か 安倍前首相の政治団体宛てに発行<桜を見る会問題>】(東京新聞 2020年11月26日)]
(2020年12月04日(金))
日刊スポーツのコラム【政界地獄耳/安倍前首相は極めて悪質なうそつき】(https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202011280000172.html)。
マガジン9のコラム【雨宮処凛がゆく! 第540回:渋谷・女性ホームレス殺害〜「痛い思いをさせればいなくなる」を地でいくこの社会。の巻】(https://maga9.jp/201125-1/)。
《★いずれも安倍の発言につじつまが合うように閣僚や官僚が答弁に虚偽を加えながら、事実と異なる説明を国会と国民にし続け、税金の使い道や政策遂行でうそをつき続けたということになる》。
《が、残念ながら今の日本では大多数の人が最低限の「死なない方法」すら知らない状態だ。そんな中、ボランティアで「ゴミ拾い」をしていたという男は、とにかく自分の視界から「異物」を排除したかったのだろう。そうして、無防備な女性を、まるで野良犬でも追い払うかのようなやり方で痛めつけた。しかし、「痛い思いをさせればあの場所からいなくなると思った」と述べた彼を、この社会は非難できるのだろうか。彼女がいたベンチこそ、同じようなものだった。野宿者排除のため、横になれないよう仕切りがつけられた小さなベンチ。言うなれば、「寝づらくすればホームレスが来ないと思った」というベンチだ》。
《いずれも安倍の発言につじつまが合うように閣僚や官僚が答弁に虚偽を加えながら、事実と異なる説明を国会と国民にし続け、税金の使い道や政策遂行でうそをつき続けたということになる》…だから、多くの人がそう言い続けてきたのに…いまや、アベ様が《極めて悪質なうそつき》であることが漸く《エビデンス》付きで白日の下に。自身は《エビデンス》を隠蔽・破棄するくせに、他人には《エビデンス》を求める自公お維な方々、あるいは、自公お維支持者の皆さん、アベ様が《極めて悪質なうそつき》であることを、そろそろ、認めてください。国会では、主権者に息吐く様にウソをつき続けたのです。
『●「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか」…
国民に「説明できないこと」をやる「国民のために働く」違法オジサン』
『●卑(ミーン)な政府…《デタラメな仕組みを恥じずに打ち出せた政府が
卑しすぎる…財源は税金なのである。不公平も不公正も極まれり》』
『●《自民党右派の議員秘書にトランプの評価を問うと「戦争をしなかった
大統領」と胸を張った。米国は分断という内戦を戦っていたのだ》』
『●政策スカスカオジサン《第1…日本学術会議の任命拒否問題》《第2…
温室効果ガス排出量…実質ゼロ》《第3…新型コロナウイルス対策》』
一方で、息吐く様にウソをつくアベ様の政の下、この7年8カ月で社会はどんどんと壊れていった。スカスカオジサンにも《この国の未来を見据えたビジョンはない》。《しかし、「痛い思いをさせればあの場所からいなくなると思った」と述べた彼を、この社会は非難できるのだろうか。彼女がいたベンチこそ、同じようなものだった。野宿者排除のため、横になれないよう仕切りがつけられた小さなベンチ》…。嫌になるよ、全く。
『●アベ様参院選公約「子育て…」:
「3歳児、おなかすいて盗んだ」…アベ様のニッポン、病んでいないか?』
自公お維を支持する皆さんは、一体どんな社会を望んでいるのだろうか?
『●アベ様やウルトラ差別主義者らは政治資金パーティーによる
《荒稼ぎ》…一方、《やはりなかった「前夜祭」の記述》』
『●名門ホテルの誰か…見積書・明細書・領収書をリークして!
アベ様に地獄に引きずり込まれ、トドメのサクラを刺される前に』
『●「桜を見る会」税金による支持者接待および「前夜祭」
政治資金パーティー…公職選挙法違反および政治資金規正法違反』
『●アベ様らの答弁「安倍事務所では、領収書等を受け取っていない」、
これは「ご飯論法」か何かなのか? それとも、単なるウソ吐き?』
『●政治資金パーティーによる《荒稼ぎ》…晋和会や素淮会などの
〝ポケット〟に入り、税金とごちゃ混ぜにして、「会合費」などとして支出』
「最後に、三宅勝久さんが「晋和会」宛のいくつかの領収証を
ツィート上に公開しておられます。以下は、ブログ主のつぶやき。
会議(朝食会?)で186万円・161万円って、朝食付きの
政治資金パーティーのようなものか? 分からない…。」
『●小田嶋隆さん《行政の担当者としてのあたりまえの習慣を、
安倍晋三氏とその追随者たちは…この8年の間に完膚なきまでに破壊》』
『●ニューオータニ東京支配人《宴会の場合、見積書、明細書、
領収証は必ず主催者にお渡しし、ホテルでも7年間保管している》』
『●《ひいては集票が期待できる》の3乗で《公金による買収》…』
《幕引きは許されない。疑惑解明の始まりにすぎない》』
『●アベ様《国会でも「事務所側が補填したという事実はまったくない」
「後援会としての収入、支出は一切ない」…やはりあれは真っ赤な嘘》』
『●《秘書のミスとして収支報告書の修正、最悪でも秘書が起訴されるだけ。
告発に対しての検察のポーズで捜査の体裁を取っただけ》!?』
『●息吐く様にウソをつく《稀代の“嘘つき総理”》による7年8カ月に
及ぶ《憲政史上最悪と名高い安倍政権》…漸く「前夜祭」の真相が』
『●《ホテル側が「営業の秘密」を理由に資料提供を拒否するなどという
ことはあり得ない…ホテル側に「口封じ」をしていたことは明らか》』
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【https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202011280000172.html】
コラム
政界地獄耳
2020年11月28日9時49分
安倍前首相は極めて悪質なうそつき
★「桜を見る会」の前夜祭をめぐる費用の問題で前首相・安倍晋三のうそ、虚偽答弁は少なくとも33回あると衆院調査局が24日明らかにした。17年2月17日、安倍は衆院予算委員会で森友学園の国有地払い下げに関する文書の改ざん問題で「私や妻がですね、えーこの、認可、あるいはこの国有地払い下げにですね、もちろん事務所も含めて一切、関わっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もし関わっていたんであればですね、これはもう、私は総理大臣をやめるということでありますから、それははっきり申し上げたいと、このように思います」。
★これに対し、既に改ざんが発覚した森友学園とのやりとりを示した文書からは、(当該学園長)籠池の発言として「安倍昭恵首相夫人から『いい土地ですから、前に進めて下さい』とのお言葉をいただいた」との記述が削除されていた。24日、衆院財務金融委員会で立憲民主党・川内博史の質問に衆院調査局は森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、安倍政権が17~18年に行った国会答弁のうち、事実と異なる答弁が計139回あると認めた。
★いずれも安倍の発言につじつまが合うように閣僚や官僚が答弁に虚偽を加えながら、事実と異なる説明を国会と国民にし続け、税金の使い道や政策遂行でうそをつき続けたということになる。これだけでも安倍は政治家としても首相経験者としても極めて悪質なうそつきであるし、それを承知で自民党と政府は一丸となってそのうそを支え、守って国民を欺いてきたことになる。つまり、政府全体がうそをつき続ける理由は、安倍のうそを事実かのようにすり替えた詐欺のようなものだ。それも当時の官邸に強要されたというより、出世欲や保身のためのうそという極めて情けない動機でしかない。(K)※敬称略
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【https://maga9.jp/201125-1/】
雨宮処凛がゆく!
第540回:渋谷・女性ホームレス殺害〜「痛い思いをさせればいなくなる」を地でいくこの社会。の巻(雨宮処凛)
By 雨宮処凛 2020年11月25日
「殺してくれてせいせいした」「彼らは人間の姿はしているが人間ではないですから」
この言葉は、横浜の中学生グループがホームレス襲撃を繰り返していた1980年代、地元の地下街の商店主らが発した言葉だ。82〜83年、襲撃事件は相次ぎ、死者も出ていた。なぜこのような事件が起きたのか話し合う場で、商店主らはそう口にしたのだという(「福祉労働167」ひとりの取材者/当事者として 金平茂紀)。
11月16日、路上生活者と見られる女性が寝泊まりしていた渋谷のバス停ベンチにいたところを殴られ、命を落とした。
事件から5日後、母親に付き添われて逮捕されたのは、46歳の男だった。
男は母親と二人暮らしで、自宅マンション1階で母親とともに酒屋を営んでいたという。3年前に亡くなった父親は、「息子がひきこもりがち」と心配していた。近所の人の中には男を「クレーマーのようだった」と話す人もいたようで、近くに引っ越してきた人は、アンテナの設置位置を変えるよう強く求められたという。その際、男は「自宅のバルコニーから見える世界が自分のすべて。景色を変えたくない」と語ったそうだ。
そんな男は事件前日の15日、バス停にいた女性に「お金をあげるからどいてほしい」と言ったという。が、翌日もまだ女性はいた。無防備な女性に対して、男は袋に石を入れ、殴りつけたという。
逮捕された男は、「自分は地域でゴミ拾いなどのボランティアをしていた。バス停に居座る路上生活者にどいてほしかった」などと事件の動機を説明しているという。
この時だ、私の頭に冒頭の言葉が浮かんだのは。
そうして同時に、「ゴミを掃除しただけ」という言葉を思い出した。それは過去、全国各地で発生していた野宿者襲撃に関わった少年少女たちの一人が悪気なく口にした言葉だった。もしかしたら子どもたちは「ホームレスを襲撃する」=「ゴミを掃除する」ことで、「大人たちに褒められる」と思っていたのではないだろうか?
「まさかそんなことはない」と言っても、周りの大人たちが悪気なく、「彼らは人間の姿はしているが人間ではない」などと日常的に口にしていたら? 「臭い、汚い、一刻も早くどこかに行ってほしい」「怠けてるとあんなふうになるんだぞ」などと言っていたら?
逮捕された男は、動機について、「痛い思いをさせればあの場所からいなくなると思った」とも供述している。
あまりにも幼稚な言い分だが、私は彼女を本当の意味で「いなくさせる」方法を知っている。声をかけ、自分でダメなら周りの支援者にも協力を仰ぎ、事情を聞ける限り聞き、彼女が使える公的な制度に繋げる。「こういう制度がありますよ」だけではなく、役所などには同行する。その間、困窮者支援のために寄せられた寄付金からホテル代や食費などを給付し、まずは身体を休めてもらうだろう。とにかく安定した生活へのとっかかりを手にするまで、できることはする。
このような知識を、私は学校でも教えたほうがいいと思う。自分や自分の大切な人や見知らぬ人が「家がないなど命に関わる事態」になっていた時に、何をどうすれば生活が再建できるのかというノウハウだ。そんなことも知らされないでこの不安定な社会を生きていくなんてことは、この時代、無理ゲーに他ならないと思うのだ。
が、残念ながら今の日本では大多数の人が最低限の「死なない方法」すら知らない状態だ。そんな中、ボランティアで「ゴミ拾い」をしていたという男は、とにかく自分の視界から「異物」を排除したかったのだろう。そうして、無防備な女性を、まるで野良犬でも追い払うかのようなやり方で痛めつけた。
しかし、「痛い思いをさせればあの場所からいなくなると思った」と述べた彼を、この社会は非難できるのだろうか。
彼女がいたベンチこそ、同じようなものだった。野宿者排除のため、横になれないよう仕切りがつけられた小さなベンチ。言うなれば、「寝づらくすればホームレスが来ないと思った」というベンチだ。
それだけではない。コロナ禍で生活保護申請に何度か同行しているが、役所の中には「嫌な思いをさせればもう来なくなる」というような対応をするところもある。わざわざ難癖をつけてアパート転宅をさせない。すでに所持金がないのに一時金を出さないなど。そんな時、「この人たちは、とにかく困窮者に嫌な思いをさせて自分の目の前からいなくなってほしいんだな」と思う。いなくなったら忘れるか、忘れなくても「もう来ないということは、きっとなんとかなったんだ、よかったよかった」ということにしたいんだろう。だけどそれでは、問題は何一つ解決していないどころか、より深刻になっている。
炊き出しにだってそんな嫌がらせの魔の手が及んでいる。コロナ禍の中、都内で炊き出しに並ぶ人たちは1.5倍から2倍に増え、減る気配はないが、そんな場所にも「排除」が忍び寄っているのだ。例えば新宿の都庁前。ここでは6年前から「新宿ごはんプラス」が困窮者に食品配布や生活相談会をしているが、都はコロナ禍で人が増えた頃から難癖をつけるようになり、ついには嫌がらせのようにカラーコーンを配置するようになったのだ。週に一度、わずか数時間の食品配布である。土曜日だからボランティアと並ぶ人以外いないような場所だ。それなのに、嫌がらせのように置かれるカラーコーン。これだって、「嫌な思いをさせればこの場所からいなくなる」ということではないだろうか。
さて、ここで亡くなった女性について、触れよう。報道によると、所持金は8円で、広島県出身。約3年前まで杉並区のアパートに住んでおり、今年の2月頃までスーパーで働いていたという。事件が起きたバス停のベンチで寝泊まりするようになったのは今年の春頃から。
2月までスーパーで働いていたということは、コロナによる失業かもしれない。バス利用者のいない夜中に来て、朝早くいなくなったという。いつも大きなキャリーケースを引きずっていたそうだ。住まいを失い、屋根をある場所を探し続け、やっと見つけたのが吹きっさらしの、だけどわずかに屋根のあるバス停だったのだろう。しかし、ベンチには横になれないよう、しっかり仕切りがついていた。
彼女と同じような状況にいた人を支援したことがある。一ヶ月、横になって寝ていない上、いつ身の危険があるかわからないからと熟睡できていなかったその人は、ホテルを予約すると、次の日の夕方まで爆睡したと嬉しそうに話してくれた。久々のベッドと久々のお風呂は、どんな特効薬よりも人を元気にさせるということを、私は困窮者支援で初めて知った。
殺された女性も、支援団体にSOSを出してくれていたら、その日のうちからベッドで眠れて公的支援につなげることができたのに。彼女のいた渋谷には、炊き出しや相談会もあったのに。いくらそう思っても、すべては後の祭りだ。
一方で、逮捕された男の年齢も気になる。46歳、ロスジェネ。親と同居し親と一緒に酒屋を経営し、引きこもり気味だったという男。「貧乏くじ世代」だけど、同時に強烈な自己責任論を刷り込まれてきた世代でもある。逮捕された男の年齢を耳にした瞬間、どこかで「やっぱり」という思いもあった。
最後に、長年ホームレス支援をしている奥田知志氏がこの事件を受けて書いた原稿「電源の入らない携帯電話がつながる日はあるか〜渋谷・ホームレス女性殺害」の一部を引用して終わりたい。
「もし、小学生の女の子がバス停で夜を過ごしていたならばどうだろう。『大騒ぎ』になっていただろう。心配されながら1ヶ月も放置されることは、まずない。しかし、相手が大人であり、かつ『ホームレス』の場合、強烈なブレーキがかかる。これを差別と言う」
そうなのだ。見て見ぬふりできるのは、「差別」によってブレーキがかかっているからなのだ。
そろそろ年の瀬、野宿の人々はこれから厳しい寒さに晒される。コロナ禍でこの年末で廃業、倒産が決まっている、これからどうしようという声もこのところよく聞く。このままでは、路上に出てくる人も増えるだろう。
今年の年末は、いつもよりずっと忙しくなりそうだ。
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[※サンデーモーニング(2017年10月1日)(三「ト」物語)↑]
リテラの記事【民進党リベラル派が「立憲民主党」旗揚げ! 改憲をストップするためにリベラル勢力は結集せよ】(http://lite-ra.com/2017/10/post-3486.html)。
《当然の動きだ。小池百合子・希望の党代表は「政権交代」を目指すと打ち出していたが、若狭勝氏は昨日、政権奪取する時期について「次の次(の衆院選)ぐらい」という見解を示した。他方、小池代表は合流議員に対して、供託金などの600万円以上を持ってくることだけでなく、ツーショット写真の撮影に3万円の支払いを求めるなど、わかりやすいほどに「金づる」扱いをしている》。
『●トファは自民党亜種…「第2自民党」なのか
第2お維なのか不明だが、自公お維と同種で、かつ、壊憲体質』
『●「選ぶ側の目こそ問われる」「有権者も…
「二物」を許すほど甘くはなかろう」…サギ師を見抜く甘くない目』
『●自民党亜種トファ・キトの「反作用として期待される
リベラルの結集」…それが最後の望み・希・希望』
『●アベ様や自公お維も厭、小池氏やトファ・キトも嫌…
民主主義・平和主義を愛する「こんな人」達が結集を!』
『●「おっさん政治をつぶして新おっさん政治を始めたにすぎない」
自民党亜種トファが本領発揮』
『●金子修介監督ショートムービー『希望の党☆』(2005年)…
「…を日本の政界が後追いしているみたい」』
『●「欲しいのはカネと連合の組織だった」…
極右政党キト出来上がりっ、で本当にいいの? 目を覚ませ!』
『●自民党亜種トファや小池・若狭両氏らの
壊憲体質はもともと露わ…第2自民党や第2お維に何を期待するの?』
キトの「金づる」程度…? 「金づるファースト」「壊憲ファースト」「戦争ファースト」…そんな「踏み絵」を踏まされてまでキトに行かなければいけない旧民進党議員の皆さんの政治家としての矜持みたいなものって、一体どんなモノなんだろう。
リテラの記事【安倍自民党の政権公約の詐欺っぷりがひどい! 解散理由の消費税の使途変更は端っこに、北朝鮮と改憲も嘘だらけ】(http://lite-ra.com/2017/10/post-3488.html)によると、《じつは枝野代表が真摯な会見を開いていたちょうど同じ時間、裏では自民党が恥知らずな会見をおこなっていた。岸田文雄政調会長による、衆院選の政権公約発表会だ》…そうです。
癒党キトと与党自民党のコアな公約の違いが分からない…。アベノサギagain…何度騙されれば自公支持者は改心するのだろう。また、キトに投票することは、アベノサギに騙されることと等価。ユリノサギ(小田嶋隆さん曰く、英語圏の人には「Yuri…」の音は「urine (尿)」[jˈʊ(ə)rɪn]の接頭辞「urino-」に聞こえはしまいか…、とのこと)。
日刊ゲンダイの斎藤貴男さんのコラム『二極化・格差社会の真相/みんな目を覚ませ! 「消費税の使途変更」という大ウソ』(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/214768)にも、《消費税増税の使途変更を問うなどという見え透いたウソを、よくもまあ、いけしゃあしゃあと。どこまでも森友・加計隠しと、北朝鮮の“脅威”にワルノリして差別を煽り、一気に憲法改正&戦争+利権漁りに持っていくための解散・総選挙以外の何物でもないではないか》、とあります。
消費税凍結・原発ゼロする気も無いのに公約に掲げるキトが悪乗り便乗することで、民進党の血を吸い尽くし、一方、「森友捜査ツブシ」を与党自公の側面から支援し、与党や癒党お維と共に「壊憲」「戦争できる国へ」という悪夢へと導いています。斎藤貴男さんの言う通り、自公お維キト支持者の皆さん、「眠り猫」の皆さん、いい加減に「みんな目を覚ませ!」
日刊ゲンダイの記事【小池希望も安倍自民も嘘ばかり 壮大な茶番劇のウラを読む】(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/214762)では、《まともな有権者ほど、閉口している。今度の解散・総選挙ほど、出世欲と支配欲をムキ出しにした権力闘争のおぞましさを見せつけられたことはない。安倍首相VS小池都知事という独裁気質に満ちた者同士の醜悪な争いを、メディアも朝から晩まで無批判にハシャギ立てるだけ》。
また、同紙の記事【構図が見えた総選挙 極右の独裁者2人が“悪魔対決”の醜悪】(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/214913)でも、《衆院選は「自民、公明」「希望、日本維新の会」「立憲民主、共産、社民」の3極で争う構図が固まった――。メディアは当たり前のように書くが、有権者はこれを真に受けると間違える。小池百合子都知事が代表を務める「希望」は仮面をかぶった“エセ野党”だ。安倍VS小池の対決なんて、極右同士の…》。
マスコミの言う「争い」「対決」など無いと思うのですが…自公お維キトは一体であり、壊憲志向・戦争願望に満ちていて、選挙が終われば、一体化するに決まっています。待っているのは、専制政治・独裁社会。絶対に、見せかけの「争い」「対決」に騙されてはいけないし、投票すべき党や候補者を見誤ってはダメ。
〔与党自公+癒党お維キト〕 対 〔真の野党〕 …構図を見誤ってはいけない。
さらに、同紙の記事【小池知事「希望の党」 刺客擁立大失敗で“絶望”の24選挙区】(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/214917)には、《「排除の論理」を掲げる小池代表は、枝野幸男が結成した「立憲民主党」の候補者が立つ選挙区に刺客を送り、リベラル派を徹底的に叩き潰すつもりだ。しかし、狙い通り刺客作戦が成功するのかどうか。肝心の刺客が“返り討ち”に遭う可能性が高まっている…公明党への“配慮”…その一方で、「立憲民主党」の候補者が立つ選挙区には、ことごとく刺客を立てている…よくぞここまでヒドイ刺客を集めたものだ。もう少しマシな人材はいなかったのか》…だそうだ。
おいおい、どこに向かって刺客を送っているの? 自公政権を倒すなんて気が全くないことが分かります。選挙後、自公お維キトで独裁・専制支配をやる気満々!、じゃないですか。
『●アベ様の《積極的平和主義》を愛し、「子育ての党」を
詐称する公明はとっくの昔に一線を越えている』
最後に、《子育ての党》を詐称し、カケンという名で壊憲にまっしぐら、アベ様提唱の《積極的平和主義》を愛するコウモリ党・公明について、同紙の記事【公明山口代表がトンデモ発言 野党の批判に「頭が乏しい」】(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/214761)によると、《「庶民の党」の看板はとっくに消え去ったようだ。先週末、千葉・市川市で街頭演説に立った公明党の山口那津男代表。解散に大義がない、と批判する野党を念頭にこう言い放ったのだ。「野党の中には衆院を解散する意義が乏しいと言う人がいるが、それは自分たちの頭が乏しいためだ」…そんな庶民の声に対し「頭が乏しい」=「頭が悪い」とは、よくぞ言ったもの。秋葉原の都議選応援演説で、聴衆を指さして「こんな人たち」呼ばわりした安倍首相と同じだ…「頭が乏しい」大多数の国民は10月22日にどんな審判を下すのか》。
自民やお維キトだけではありません、もちろん、与党公明も腐敗臭を放っています。「心がさもしい」公明。
「こんな人たち」「頭の乏しい」と呼ばれた側の皆さん、団結しましょう。「眠り猫」の皆さん、2017年10月衆院選に行き、真の野党に投票を!
『●自公お維キト支持者、「どうして、危険を回避してくれるような
リーダーがほしいとならないのだろうか?」』
『●アベ様の腐敗を葬るかもしれない、自公お維キトの
独裁政治を招くかもしれない…山尾志桜里さんの蹉跌』
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【http://lite-ra.com/2017/10/post-3486.html】
民進党リベラル派が「立憲民主党」旗揚げ! 改憲をストップするためにリベラル勢力は結集せよ
2017.10.02
(枝野幸男オフィシャルサイトより)
本日、間もなく開かれる予定の記者会見で、民進党の枝野幸男代表代行が新党立ち上げを宣言、新党名を「立憲民主党」と発表する。現在、辻元清美、長妻昭らが立憲民主党からの出馬を決めたという。
当然の動きだ。小池百合子・希望の党代表は「政権交代」を目指すと打ち出していたが、若狭勝氏は昨日、政権奪取する時期について「次の次(の衆院選)ぐらい」という見解を示した。他方、小池代表は合流議員に対して、供託金などの600万円以上を持ってくることだけでなく、ツーショット写真の撮影に3万円の支払いを求めるなど、わかりやすいほどに「金づる」扱いをしている。
結局、「安倍政権の打倒」での一体化など、小池代表の騙し文句にすぎない。前原誠司代表が嘘をついたのか小池代表が前原代表を騙したのかは定かではないが、どちらにせよ小池代表の目的が「民進党の解党」「リベラル派勢力潰し」「野党共闘潰し」にあったことは明確だ。現に、小池代表が衆院過半数を超える候補を擁立せず、自民党と連立を組む可能性も十分ある。この状況は安倍首相をアシストするものでしかないのだ。
そんななか、民進党のリベラル派が「立憲」を掲げて新党を立ち上げたことは、真の意味での「反安倍」の宣言だ。言うまでもなく、安倍政権のこの5年間は、ことごとく立憲主義を否定する独裁的な政治が勝手におこなわれてきた。笑顔で「排除」などと口にするような安倍首相と似通った独裁、全体主義志向の小池はこうした安倍政権の強権政治をけっして追及しないが、立憲民主党の立ち上げによって、小池の独裁体質をも鮮明にしなければならない。
そして、今回の衆院選でもっとも重要なのは、憲法改正の問題だ。小池の「リベラルは排除」発言をはじめ、若狭氏や細野豪志氏らは「安保法制」と「憲法改正」を踏み絵にすることを強調してきた。立憲主義に反する安保法制を問い直すことはもちろんだが、いま、いちばん危機にさらされているのは、憲法だ。
事実、小池代表の憲法に関する過去の発言をみると、完全に安倍首相と一致する。
たとえば、2000年の衆院憲法調査会では、当時の東京都知事である石原慎太郎が現行憲法の否定を言い出すと、小池はこのように賛同した。
「結論から申し上げれば、いったん、現行の憲法を停止する、廃止する、
その上で新しいものをつくっていく、私はその方が、今のものを
どのようにどの部分を変えるというような議論では、
本来もう間に合わないのではないかというふうに思っておりますので、
基本的に賛同するところでございます」
石原と共鳴して「現行憲法を廃止せよ」と主張する──これは安倍首相の本音と合致する点だろうし、小池が極右と呼ばれる所以だろう。
さらに、安倍政権が緊急事態条項などから着手する「お試し改憲」についても、小池はいち早く提案していた。2011年、右派論客である渡部昇一・上智大学名誉教授との対談では、“本丸は9条だが、まずは他の条項を変えてアレルギーを抜くべきだ”として、このように示唆した。
「九条を前面に出すとこの国はすぐ思考停止に陥り、右だ左だ
と言い合うばかりで何も進まないという事態が何十年も続いて
きました。塩野七生さんもおっしゃっているのですが、まずは誰が
聞いても『いい』と言えるような憲法から改正して、
『憲法は改正できるものだ』という意識を共有するところから
はじめたほうが、結果的には早く憲法を改正できるのではないか
と思うんです」(『渡部昇一、「女子会」に挑む!』ワック)
これはいま現在の小池の態度と重なる。9条をもち出すと反対も多い、だからまずはそれは俎上に載せずに改憲してしまおう。最終目的は安倍首相と同じなのだ。
事実、ふたりはそうした国民を騙し討ちする手段をとることを“共有”している。2015年2月、衆院予算委員会で“16年参院選後の改憲”をアピールした小池は、安倍首相への質問のかたちで、財政の権限を定めた憲法83条から「お試し改憲」すべきだと水を向けた。
「いきなり全部のメニューを最初からというよりも、ひとつそのような
かたちで進める、96条(改憲の発議要件)よりも私は83条から
始めるべきではないだろうか、このように思っております」
このとき、小池から質問を受けた安倍首相は、慎重に言葉を選びながらも時折小さく笑みを浮かべるなど、まんざらでもない様子だった。
つまり、今回の衆院選は、こうした小池の欲望を実現させる契機になる可能性だけでなく、安倍首相にとっても力強い味方を得ることになる。メディアは小池新党の「民進党リベラル派の排除」や「小池の国政出馬」などの話題に終始しているが、その本質は「一大改憲政党の誕生」なのだ。そして、ここに公明党、維新の会などもくわえると、衆院は憲法改正派に埋め尽くされる。言わば、この選挙は「憲法」こそが最大の争点なのである。
だからこそ、枝野率いる「立憲民主党」は、立憲主義を否定する安倍首相と小池百合子の共通点や、小池新党が「第二自民党」であることを暴き、憲法をリセットさせてはいけないと訴える必要がある。小池劇場に振り回されるメディアを巻き込んで、「反安倍」「独裁者に憲法を蹂躙させない」という旗印をはっきりと掲げてほしい。
(編集部)
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