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ル・コルビュジエの家 2009年 アルゼンチン

2015-09-26 | コメディ
朝っぱらから‟壁ドン”である。
いや、女子の憧れといわれる「壁ドン」ではない。
壁ドンドンである。
正しくは、朝っぱらから壁をハンマーで叩く鈍い音が、家中に響きわたっていたということ。

住人は、何事かと起き上がる。
窓を見てみる。
隣の家の一角から、みしみしと外壁が打ち抜かれていく。
一体何をやってる!
怒る住人。
隣人が言うには、ただこの部屋に光を採り入れたいのだという。
住人からしてみれば、そこに窓をつければ、我が家が丸見えになってしまう。
「すぐその穴を閉じろ!」

近代建築の巨匠コルビュジエが設計した「クルチェット邸」に住むレオナルドと、その隣人であるビクトルとの争い。
どちらが非常識かといえば、断りもなくいきなり、勝手に窓を作ろうとしたビクトルだろうと誰しも初めは思うが、話が進むうちに、レオナルドもレオナルドなのであった。

怪しげなビクトルと、椅子のデザイナーとして名声を得たレオナルド。
不細工なオブジェを作り、厚かましくもレオナルドにプレゼントするビクトルであるが、意外にも人を想う心根はしっかり持っているやつである。
有名デザイナーのレオナルドだが、家庭内は波乱の真っ最中。
妻のご機嫌をとる一方、娘は口をきいてくれない。
隣の工事の音で仕事に集中できず、ノイローゼ気味。
妻の留守中に自分の教え子を口説き始めるほど理性が徐々に崩れていく。
あくまでもマイペースなビクトルに対し、レオナルドはどんどん自分で自分を追いつめ、どんずまり状態に。

お隣同士のことだから、穏便に済ませたい。
アメリカなら、お隣だろうがお向かいだろうが、即刻訴訟を起こすところだろうが、レオナルドは話し合いで収めたかった。
しかし思い通りにいかず、彼はある意味、ビクトルを裏切る形へと出てしまうのである。

人の本性というのは、平常時ではわからないものだ。
見かけや肩書で騙されてしまうことも多々ある。
非常事態など何事かあったときにこそその人の本質が表れるものだから、そのあたり、要注意であります。