アブリコのCinema散策

のんびり映画でも観ませんか

ル・アーヴルの靴みがき 2011年 フィンランド・フランス・ドイツ

2015-04-17 | ヒューマン・ドラマ
無限の希望と深い絶望。
この両極端な要素が必ずといって含まれているのが、アキ・カウリスマキ監督の作品であると、マルセルを演じたアンドレ・ウィルムがインタビューで語っていた。
過去の作品を振り返ってみても、確かにうなづけます。

哀愁を帯びた音楽、無駄のない撮影(ショット)。
質素な生活様式に、どこか懐かしい小物類。
おもむろに顔を上げる。
ゆっくりとうつむく。
一点を見つめる。
動きが止まる。
すべてが静かである。

アフリカ難民の少年をかくまうマルセル。
彼をマークする警察。
マルセルはどんなことをしてでも、少年をここ、フランスのル アーヴルから、海を渡ったロンドンにいる母親の元へ送り届けようと決めていた。
彼の友人たちも協力してくれる。
一方で、マルセルの妻は病におかされていた。
治る見込みはないという。
しかし彼女は医師に懇願した。
「このことを絶対に主人には言わないで」

心底人に優しくなれるのは、人の痛みのわかる人。
道端に咲いている名もない花に、ふと安らぎを覚える人。
うわべだけの親切なら誰にでもできる。
マルセルのように危険を冒してでも、少年の未来を思って手を差し伸べることはなかなかできることではない。
決して望みを失わないそのまっすぐな志が、人々とのつながりをより強固にしていく。

医師は戸惑う。
家族には正直に話すことが義務付けられているためだ。
「お願いします。 このことは内緒に。 いずれはよくなると」
「わかりました。 政治家の演技をマネしますよ」
ここでの皮肉は世界共通であろう。
マルセルの妻もクスリと笑う。

2週間(プラス1日) 後、お気に入りのワンピースに袖を通した妻は退院する。
マルセルと腕をくみ、ゆっくりと自宅に入る。
入る前に、庭先の桜に目をやる。
「満開できれい」

心は目に見えないものだが、この夫婦の互いの思いやりは、確かに見えてくるものがある。