アブリコのCinema散策

のんびり映画でも観ませんか

エディット・ピアフ 愛の讃歌 2007年 フランス・チェコ・イギリス

2012-09-27 | 伝記
〈シャンソンの女王〉エディット・ピアフと、〈モードの女王〉ココ・シャネル。
この二人は似ている、そうかねがね思っていた。
そういえばシャネルの伝記映画も、少し前に続けて上映されたっけ。

同じフランスで生まれ、恵まれぬ少女時代を過ごす。
だが若い頃から自身の才能を自覚し、将来への夢を熱望する。
そしてそれらは実現することとなる。
数多くの男たちが彼女たちを通り過ぎていく中で、名声と富を手に入れる。
得た金は、湯水のごとく派手につかった。

恐ろしく共通した点が二人にはあった。
つくづく運命とは恐ろしいと思わざるを得ない。
ピアフもシャネルも男性遍歴はすさまじかったが、二人とも生涯で、「本当に」愛した男(ひと)がいたのである。
ピアフはボクサーのマルセル・セルダン。
シャネルは、イギリス人のボイ・カペルであった。
愛しすぎたのがいけなかったのか、マルセルは飛行機事故で、ボイは心臓発作で亡くなってしまう。

ピアフは受話器を握りしめて言う。
「すぐに来て。 船なんかでは時間がかかりすぎるわ。 飛行機で来て」
心身ともに疲労していたピアフにとってマルセルは必要だった。
疲れ果て、彼女は不安定だった。
マルセルはやさしく応える。
「今夜の便をとるよ。 明日の晩は一緒に過ごせる」
そして悲劇は起こってしまった・・・

映画では、彼女の波乱万丈の生涯をつづっているが、これほどの名声を得る中、苦しみと孤独感が必ずといっていいほどついてまわってしまうのは、偉人たちにはつきものなのだろう。
ピアフにとって大切だったのは歌と男、そして手放せなくなった薬である。
劇中、「歌」がやはりメインであったが、個人的には彼女のロマンスをもっと見たかった。
イブ・モンタンとの恋愛劇は、特に見てみたかったな。

ブラック・スワン 2010年 アメリカ

2012-09-03 | ミステリー&サスペンス
「コワイですねー、コワイですねー」と、故淀川長治氏をマネた小松政夫のような口調で語りたくなるようなサイコ・サスペンス。

念願叶って「白鳥の湖」で主役の白鳥を射止めたニナ。
そのイメージはまさに、二ナにぴったりであった。
しかし白鳥を演じるには、そのま逆といっていい黒鳥もまた、踊らなくてはならなかった。

純真で清楚な彼女が、正反対の役に挑むうちに精神に異状をきたすようになる・・・。
二ナはもともと精神性疾患の気があった。
それは母の知るところであり、あまりにもプレッシャーのかかる役柄ゆえ、娘の抜擢に喜ぶ反面不安もあった。
しかし二ナがそうした精神のゆがみを覚えたのは、少なからず母親の重圧によるものだったのだろう。
それについて作中では語られてはいないが、娘の出産のために母はバレエを捨て、以降、娘ベッタリの超過保護ママへと変異してしまったようだ。
おそらく二ナは、母の期待に応えるため、常に母に気を遣い、いい子ちゃんでいなくてはならなかった。
それがあるとき、彼女の内の中で反撥心が無意識に出るようになったのであろう。

黒鳥を演じるうちに、彼女のもうひとつの顔がはっきりと出てきてしまった。
この映画を観ていて、いろんな作品が頭をよぎった。
『ファイト・クラブ』に『ストレンジャー』、そのものズバリの『サイコ』。
衝撃的な『バウンド』や、過激な争奪ものとして『ショー・ガール』とか。
とまあ、さまざまな要素を練りこんだようなストーリーであるが、なんといっても皆さまお解りのように、この映画のスゴイところはナタリー・ポートマンの演技そのものでしょう。
バレエの基礎力は備わっているからといって、あれほどの力技を見せてくれたのは、バレエの猛特訓もさることながら、彼女の演技力に他ならない。
しかしねえ、彼女って自虐的な、あるいは自滅しそうな役柄がどうもなぜか合ってしまうところが哀しい。

キラ星のごとく現れた天才子役。
’94の『レオン』で見せたマチルダ役。
子役からダメにならなかった数少ない女優のひとりであるポートマン。
あの少女を演じたときの、少女らしかぬ冷たさをたたえた強烈な眼差しは、いまも変わっていない。