アブリコのCinema散策

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居酒屋 ’56 フランス

2012-12-14 | 文芸
19世紀のフランスの古典文学、エミール・ゾラ原作『居酒屋』を映画化した本作は、当時大絶賛され、賞も数多く受賞している。
監督は、『禁じられた遊び』などで知られるルネ・クレマン。

この陰惨を極めるストーリーは、観ていても読んでいてもどうしようもなく、救いようのないジェルヴェーズが痛ましくてならない。
彼女の幸せだった瞬間(とき)など、遠い記憶の中に埋もれてしまったかのようである。

どれだけ辛い思いをすればよいのだろう。
懸命に、ひたすらがんばって、これほど仕事もこなしているのに、すべてが、本当にすべてが駄目になってしまう。
神は一向に、彼女に見方することはなかった。
まるで鞭打たれているような、これでもかとばかりに、彼女から「幸福」という言葉は打ち砕かれていく。

とにかく、ジェルヴェーズの男運のなさには驚く。
彼女の不幸がここから始まっているのは確かだろう。
それにのしかかる貧困。
一時は、店も仕事も軌道にのったが、やはりここでも、夫クーポーの浪費と暴力で駄目になってしまう。
そうなると後は、堕ちるところまで堕ちるしかない。
映画では原作でいうところのラストまでは描かれていない。
あまりにも惨いとばかりに当時、小説でも賛否両論問われたそうだから、そこまで映像化することにはクレマン監督も躊躇したのかもしれない。

19世紀当時のフランスの下層階級の暮らしぶりがよく表されている作品であるが、この頃の小説はみな等しく、惨めな内容であるものが多い。
ゾラ自身、近代リアリズム小説の創始者だけに、当時の市民たちの生活習慣を、徹底した観察力で描いていることが実によくわかる。

小説と同じく、この映像の方でもものすごい迫力だったのが、ジェルヴェーズとヴィルジニーの女の闘いの場面。
髪をひっぱり馬乗りになり、しりを引っ叩く。
水桶に顔を突っ込むわ服はやぶるわ、それはすごいシーンである(それも結構長い)。
女のケンカとはいえ、なかなか他の作品では見られないほどのすさまじさであった。