アブリコのCinema散策

のんびり映画でも観ませんか

桜桃の味 ’97 イラン

2009-10-01 | ヒューマン・ドラマ
人生に悲観した男は、今夜、自ら命を絶とうと決めていた。
これ以上生きる理由がない ―― 男はハンドルをとりながら、「誰か」を探し求めていた。

まだ兵役中の若者、友人を訪ねてきたというアフガン人の神学生。
彼らは男の頼みを断った。
「わたしは今夜、この穴に横たわり、睡眠薬を飲む。 明朝ここへ来て、“バディさん”と声をかけてくれ。 もし返事がなければ、スコップで20杯、土をかけてほしい。 報酬は、十分にある」

まともな若者なら断るのは当然だろう。
誰が自殺の手伝いなど喜んで引き受けるだろうか。
だが、男は真剣であった。
なんとしても今夜だと決めていたから。
自分の墓穴まで準備したのだから。

やがて初老の男と出会う。
初老の男は用件をのんだが、何故そこまで思いつめるのかと、悩みがあるなら話してみなさいと問うのだが、男は口を閉ざす。

悩みのない人間などいない。
しかし、何かをきっかけに、考えが変わることだってある。
初老の男は、自分の経験を交え、男に話し続けた。
美しい夕陽を、また見たいと思わないか?

『オリーブの林をぬけて』から3年、“ジグザグ道三部作”は終わったが、本作品での“曲がりくねった道”は、キアロスタミ監督ならではの“人生”を掲げた表現法だろう。
実に深みがある。
彼の作品は、人間の深い感情を際限なく映し出していて、彼らの心情が、スーッと入ってくる不思議な感覚にいつも出会う。

初老の男の言葉に、今まで見えてなかった風景が、男の瞳に映る。
こんなにも空は美しかったのだろうか・・・


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。