O's Note

いつまで続くか、この駄文

ポイントカード(1)

2008-06-30 23:32:23 | 仕事(第1業務編)
 会計とは直接関係ないことで、10年以上前からずーっと興味を持ってきたことがありました。
 それは、ポイントカードは自分にとって得か、それともお店にとって得なのか。
 たとえば、1,000円のものを買って10%のポイントを付与された場合、買った側にとっては100円の値引きを受けたことと同じ意味を持ちます。一見、消費者が得をしたと思われますが、その値引きは商品を受け取った時点とは別の時点、つまり、次回買い物をする時点で受けられるわけで、次回1,000円のものを買ったとき、前回のポイントを使って900円で商品を購入できるわけです。ということは、2,000円使って、100円の値引きを受けたことと等しくなり、実質5%の値引きを受けていることになります。
 もっとも、次回、100円の商品を100円のポイントを使って買った場合、タダでもらえるわけですので、この場合にはポイント分だけ得をしたと考えられそうですが、初回の1,000円の商品が、他のお店では900円で販売されていたとなると、100円の値引きと10%のポイントのどちらがオトクか、よく考えなければなりません。その場で100円引きであれば、使わなかった100円で、次回100円のものを買えばいいのですが、10%のポイントは次の機会に100円のものを買った場合にのみ有効であって、101円以上のものを買う場合には、1円は追加的な出費になり、ポイントを使うために追加的な出費をしてしまうということなってしまいます。
 ということは、ポイントを使うためには、繰り返し同じお店に通うことになり、そして買い物とポイントの間で端数が生じることが一般的ですので、その分だけ、消費者にとっては不利だ、と気づいたのはいつ頃だったでしょうか。
 見方を変えれば、お店側にとっては、ポイント付与によってリピーターを獲得できることが期待され、ポイント制は販売促進手段としては効果的であると考えられます。また別の効果として、お客さんが1回しか来なかったとすれば、他のお店で900円で売っているものを1,000円で売ることに成功し、しかも将来の100円の値引きも不要になりますので、この点でも売上アップに貢献できるツールということになります。
 もっとも消費者側にとっては、買うときの金額が安く、しかもポイントももらえるということを各社で比較して買うという知恵を働かせれば、必ずしも不利というばかりではありません。また、ある商品を独占的に販売している場合、ポイントが多い時期に買った方がいいということもありますよね。

 ところで、お店側に一つ問題が発生。
 お客さんを獲得するためにポイントカードを発行し、しかもポイント付与率を高めれば高めるほど、お客さん全員に対するポイント付与数が増え続けることになります。たとえ売上高の5%のポイント付与率であったとしても、100万円で5万円、1,000万円で50万円、1億円で500万円の将来の値引きを見込んでおかなければなりません。これは、販売時点ではお店にとってオトクでも、次の販売を行う時点では、もしかすると商品代金を全額ポイントで引き渡すことにもなり、入金がないとうことになります。つまり、ポイントは販売促進ツールとして効果的であっても、それは将来、無条件で商品を引き渡す義務を負うことになる側面もあるわけで、取引高が大きくなったお店では、その義務を履行するために、販売時点からそれに備える必要が出てくることになります。
 そこで日本のポイントカード発行会社が自衛策として計上したのがポイント引当金の設定でした。
 このあたりから個人的興味から会計的興味に転換します。

 数日前の日経に、2007年度のポイントカード発行会社50社のポイント引当金計上額が、前年比14%増の3,200億円になったという記事がありました[日経、6月26日朝刊]。ポイント引当金がもっとも多いのはNTTドコモで458億円。同社の売上高(営業収益)は4兆7千億円程度。売上高の5%分のポイント(2,350億円分)を付与すると仮定すれば、付与したポイントの19.5%の引当金を計上している計算になります。
 ちなみに、家電量販店ヤマダ電機では、2007年3月期で126億円のポイント引当金を計上しています。同期の売上高は1兆4千4百億万円。売上高の10%分のポイント(1,440億円分)を付与すると仮定すれば、ポイント付与額の9%の引当金を計上している計算になります(平均10%もポイントを付与しているかどうかはわかりません。もしかすると7%程度かな)。
 こういった引当率は、そのお店の過去のポイント使用率によって算定されますので(貸倒引当金と同じ考え方ですね)、各社でマチマチですが、それにしてもいかにポイント付与が大きな金額かがわかります。

 日経の記事にもありましたが、最近は、ポイント交換システムも普及しています。これは、A社のポイントをB社のポイントにも交換できるというシステムで、これまでは失効してしまう可能性が高かったハズの自社のポイントが、そのままB社に移されて、B社で使われてしまうということになります。こうなると、ポイント使用率が増加することになり、さらに引当金を積み増しする必要に迫られるわけです。

 ところで、会計的に考えると、引当金の設定は、

 費用の発生/負債の増加

 という仕訳です。引当金の分だけ(社外に流出しない)費用が増加しますので、結果的に利益額が減少します。将来の費用または損失に備えた健全な処理ですが、徴税当局がそれをすんなり認めるわけはありません。会計上の利益が少なくなることは、税額も少なくなることを意味します。まして、支出を伴わない取引による費用の発生をそのまま認めたくないわけです。
 そこで、ポイント引当金の存在は認めます、しかし、将来、費用または損失になった時点で損金として認めるけど、ポイント引当金計上時の課税所得の計算では引当金に見合う費用は損金に算入しないよ(認否)という手を使います。会社としては、今、税金を多めに納付しても、将来、その前払分が減額されるということであれば、ま、それも仕方ないということになるでしょう。
 「今はこれだけ税金を払っているけど、そのうち、○○円は将来減額される分だよ」と決算書に書いておくと(こうした会計処理が税効果会計)、会計上の利益と税務上の課税所得の差(一時差異)を対応させるのに役立ちます。
 
 当然、ポイント引当金を計上している会社は、当期の引当金計上に見合う費用を認否されるのですから、税金の前払分を資産計上しておきます(前払費用と同じ考え方ですね)。
 そのときに使う勘定科目が、税効果会計特有の勘定科目、繰延税金資産です。

 とここまで書いて来て、今日のエントリ、あまりに長くなりすぎたことに気づきました。この続きは、また次回(ここまでで力尽きました・・・笑)。