礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

むかし陸軍、いま財務省

2020-04-21 03:03:51 | コラムと名言

◎むかし陸軍、いま財務省

 今月の三日から一九日まで、十七回にわたって、迫水久常の「降伏時の真相」という文章を紹介した。この文章を書き写しながら、「終戦」(ポツダム宣言受諾)にいたるまでの国家中枢部の迷走と、今日の「新コロナ危機」の下における国家中枢部の迷走とが、重なって見えることが何度かあった。本日は、それについて、まとめてみよう。

1 なかなか国家の方針が決まらない 戦争が長引くにつれ、「終戦」が不可避となるが、そうなったあとも、なかなか国家の方針が決まらない。「閣議」しかり、「最高戦争指導会議」しかり、「御前会議」しかり。最後の最期で、天皇が全閣僚および最高戦争指導会議のメンバーを召して、前例のない「御前会議」を開催し、これによって、ようやく「ポツダム宣言受諾」が決定した。
 今回の「新コロナ危機」の下でも、なかなか国家の方針が決まらなかった。最後まで「東京オリンピック」にこだわり、思い切った感染防止対策を打ち出すことができなかった。緊急事態宣言の発出のあとも、それにともなう現金給付などの対策が迷走し、かつ徹底性を欠いている。
2 迷走の背景としての「こだわり」 「終戦」にいたる迷走の背景のひとつとして、國體というものに対する「こだわり」が指摘できる。国家中枢部内で、國體が護持しうるか否かという議論が繰り返されている間に、広島と長崎への原爆投下とソ連の参戦を招く結果となった。國體護持以上に重要なのは、国民の生命と生活であるという視点は、最後まで示されなかった(終戦の詔書「朕ハ茲ニ國體ヲ護持シ得テ……」)。
 今回の「新コロナ危機」の下でも、当初、「東京オリンピック」年内開催にこだわった。緊急事態宣言の発出にともなう現金給付等の対策においても、アベノミクスの維持にこだわった。重要なのは、国民の生命と生活ではなく、アベノミクスの維持である。そのことを、何よりもよく象徴しているのは、今回、「新コロナ危機」対策の中心になっているのが、西村康稔(やすとし)経済再生担当大臣であるという事実である。
3 さまざまな圧力が存在している 「終戦」にいたる迷走の背景として、もうひとつ指摘できるのは、さまざまな圧力団体が存在し、それらが「国家中枢部」に対して圧力をかけ続けたということがある。というより、「国家中枢部」そのものが、さまざまな圧力団体を代表するメンバーの集合体であり、「国家の中枢」をなしていなかったという実態があった。この場合の圧力団体とは、陸軍・海軍・官僚・枢密院・財界・皇族・右翼等々である。八月一四日の午前会議(第二回の御前会議)は、天皇が全閣僚および最高戦争指導会議のメンバーを召すというものであった。この前例のない御前会議によって、初めて、各種の圧力団体を超えた「国家の意思」(ポツダム宣言受諾)が定まったのである。
 今回の「新コロナ危機」の下でも、さまざまな圧力団体が存在し、それらの圧力によって、国家中枢が迷走している。この場合の圧力団体とは、財務省、政権与党、閣僚、財界、野党、マスコミ、いわゆる「識者」、ネット世論等々である。
 数日前に、インターネット上で、「むかし陸軍、いま財務省」というフレーズを見た。本質を衝いた指摘だと思った。

*このブログの人気記事 2020・4・21(なぜか1位に喫茶アネモネ)

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