礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

新旧両憲法は全く別個の根本規範に根ざしている

2018-11-15 02:00:22 | コラムと名言

◎新旧両憲法は全く別個の根本規範に根ざしている

 昨日は、鵜飼信成のエッセイ「宮沢憲法学管見」(一九八四年二月)を紹介した。本日は、鵜飼信成の著書『司法審査と人権の法理』(有斐閣、一九八四年七月)を紹介してみたい。といっても、紹介するのは、本文ではなく、「あとがき」である。
 同書の「あとがき」は、たいへん長く、二十三ページもある。「Ⅰ」から「Ⅳ」までの四部で構成されているというのも珍しい。ここで、著者は、同書に収録した論文について、その思い出などを語りながら、みずからの学問生活を回顧している。非常に貴重な話が多い。本日は、この「あとがき」のうち、「Ⅲ」を紹介してみたい(四〇四~四〇五ページ)。

        Ⅲ
「憲法秩序の変遷」。宮沢俊義教授の八月革命説はいつまでも問題のようで、例えば、樋口陽一教授(「タブーと規範」世界一九八六年六月号)と菅野八郎教授(「八月革命説覚書」法学四七巻二号――内容目次の英文では、“Memorandum on Miyazawa's Theory of 'August Revolution'”となっている)との間の論争等、何れも重要な問題点を指摘している大変興味ある論争である。根本的には革命といわれるものは何かということにあるが、八月革命説は、もともと丸山真男教授が研究会で提示したものを宮沢教授が、丸山教授の承諾を得て憲法学者の説として発表したことに私は関心をもっている。革命という観念は憲法とくに実定憲法の中には存在の余地がなく、主として政治学者の関心事である。しかし日本国憲法の場合には、事情が少し違う。それは憲法の文面の上では、日本国憲法が、従来の大日本帝国憲法の継続であることをしきりに表明している(例えば、日本国憲法の上諭には「朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至ったことを、深くよろこび、枢密顯問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」とあって、これは新憲法が全く新たなものであって、それと旧憲法との間には革命的断絶があるという考えを明示的に否定し、日本国憲法は明治憲法に定める憲法改正の手続を踏んで作られた明治憲法の改正憲法であるということを宣言したものである)。
 しかし「日本国民の総意に基」くという日本国憲法の本質と、「朕カ祖宗ニ承クルノ大権ニ依リ現在及将来ノ臣民ニ対シ此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス」という明治憲法の本質とが、基本原理の同一性を保持しているとは到底考えられない。そこで、明治憲法はそれ以前の憲法と同一性をもっていたが、新憲法と明治憲法との間では断絶があるという見方が出てくる。いわば法的な本質においては全く別個の根本規範に根ざした二つの憲法であるが、ただ政治的な便宜から、マッカーサーが、両憲法の間には「完全な法的持続性」が保障されなければならないという声明(昭和二一年六月二一日「議会における討議の三原則」の第二)を発したこととを調和させるためには、政治学者も憲法学者も、この過程を一応政治革命とした後、憲法学者はこの変革を法秩序全体の変遷としてどう説明し、政治学者は政治力、政治意識等政治過程の変革の過程としてどのように説明すベきかという課題に当面して、これを如何に処理するかに苦心したものと理解するのが正しい。
 だから政治学者は、昭和二〇年(一九四五年)八月の段階で、古い憲法秩序の崩壊を確認すると共に、新しい憲法秩序の基本原理を予測したのに対し、憲法学者は、新しい憲法秩序がほぼ定まってから(マッカーサーの新憲法草案が示されたのは昭和二一年二月一三日、これに基づく日本政府の憲法改正草案要綱が公表されたのは同年三月六日)、これらの法(経過法的規定や国際的法規を含む)の理論的脈絡を説明したのである。宮沢教授の八月革命説が公表されたのが、昭和二一年五月号の「世界文化」誌上であるのは、そのためであると私は考える(鵜飼信成「宮沢憲法学管見」ジュリスト八〇七号)。
 本編は、わが国が過去に経過した四つの憲法秩序(①明治憲法前の憲法秩序、②明治憲法下の憲法秩序、③管理法秩序、④日本国憲法秩序)が、全体としてどのような実体法秩序の変遷を示していたかについて分析したものである。

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