礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

福馬謙三『警察作文の作り方』(1949)より

2013-05-30 06:58:01 | 日記

◎福馬謙三『警察作文の作り方』(1949)より

 部屋の片付けをしていたら、福馬謙三『警察作文の作り方』という本が出てきた。警察文化社の発行だが、奥付が欠けており、発行年等はわからない。「序文」の末尾に、一九四九年九月とあるので、おそらく同年のうちに発行されたものであろう。
 著者の福馬謙三〈フクマ・ケンゾウ〉という人のことも、よくわからない。なかなか教養があった人らしく、明治以来の文体の変遷、漢字制限・かな遣い改良の歴史などについても、くどくならない程度に触れている。
 本日は、同書から、第五「文語文と口語文」の一部を紹介してみよう。【  】内は、原文にあったルビである。

 話す言葉と書く言葉にはおのづから相違があるが、一人対一人の対話語まで文章が近づかなくても、大衆を相手とするラジオのアナウンサーの話す言葉にまで近づけば、言文一致に可成り〈カナリ〉近づいたといえるであろう。ラジオでも講演となると原稿を見ているせいか、文語体があまり交つて、しかもそれは聞きづらい余韻を残すのである。あれがもし「子供の新聞」の時間に放送される言葉ぐらいに、かみくだかれ、平易になれば、どんなに楽な気持で聞かれることであろう。
かつて、簡易保険の領収証に左の如き文章が書かれたことがあつた。
 領収証【かよい】について 此【この】領収証【かよい】を亡失【なくし】、毀損【やぶり】、若くは汚斑【よご】したときは其の再交付【にどめ】を郵便局に御請求下さい。又此【この】領収証【かよい】が無余白【かきをわり】になると郵便局から新規領収帳【かわり】を交付【おあげ】します。
 この簡易保険の領収証の書き方は、当時の官僚主義の残存をはっきりと語っている。官庁の威厳として、亡失、毀損、汚斑〈オハン〉、無余白という難解な言葉を使用せざるを得ない気持があつたのである。大衆を相手にする簡易保険であるなれば、ふりがな通りかなで書けば、いいではないか。
 官庁の公用文、法律の条文が口語体になつたのは、日本が敗戦という大きな歴史的事実に打つつかつた〈ブッツカッタ〉為めに、文章の民主化として初めて二十一年に断行されたのであつて、もし日本に今日のような民主々義が流入されなかつたならば、依然として、「嘆願に及び候也」式の届出書類であつたろうし、「何時までに出頭すべし」式の官庁用語はそのまま残つたであろう。特に法律の条文までが口語文化されれことは、これは画時代的な出来事であつて、これによつて、法律の条文は、民衆には、わからないものと、諦めていた大衆も容易に条文を理解出来るし、法律の大衆化の上にどんなに大きな効果があつたかわからない。敗戦を機会にわれわれは、文章の上の二重生活から解放されたともいうべきで、民主々義の徹底滲透〈シントウ〉に従つて、まだ残つている文語体は、漸次駆逐されて行くであろう。

今日のクイズ 2013・5・30

◎『警察作文の作り方』の著者・福馬謙三について、最も適切なのは、どれでしょうか。

1 警察関係者  2 新聞関係者 3 作家  4 大学教授

【昨日のクイズの正解】 3 小金井市の文化財センターとして、残っている。■「浴恩館」についての出題でした。

今日のクイズ 2013・5・30

◎キューピー人形が天使だという認識がなかった

 食品メーカー「キユーピー」広報部の坂口裕之チームリーダーの言葉。「キユーピー」は、イスラム圏で製品を販売する場合、羽をなくしたデザインを採用することにしたという。イスラム教徒にとっては、天使は神の言葉を預言者ムハンマドに伝える存在であり、描くこと自体が許されないという。本日の東京新聞「こちら特報部」より。

コメント (1)
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