今回も医療法人 湘南鎌倉総合病院そその公開医学講座に出席してそ、「認知症の早期発見について~核医学(RI)検査でわかること」について」受講しましたので、その内容を投稿いたします。
講師の方は、放射線科副主任 長谷川義久氏でありました。内容は、最近の核医学(RI)検査による放射線画像の比較により、認知症であるか否かをホボ正確に判定出来る時代が到来したという講座でありました。
1 認知症とは
認知症とは、目や耳で受けた情報を如何に判断して行動するか、その行動に最も影響を
与えるかを「認知」する。すなわち、「私たちが環境に合わせて、幸せに暮らすための脳
の働き」と云うものであります。
しかし、認知機能の低下は、記憶力だけではなく、判断力や今、何を話しているか、相
手は誰であるかなど、言葉や歩き方を司る「高次中枢機能」の影響によるもので、これら
は殆ど大脳の機能の働きに関係するものであります。
(1)具体的には、脳の知的な働きが、後天的な色々な病気などによって持続的に低下した状
態を云い、久しぶりに会った人の名前が思い出せない…誰にもあり、このような物忘れ
は、自然な老化現象で誰にも起こりうる単なる歳のせいであるが、「認知症」は、病気で
あり、単なる物忘れとは異なる。
① 物忘れとは、
ア 病気ではない
イ 半年や1年では変化しない
ウ 物を置いた場所を忘れる・名前を忘れるなど体験の一部を忘れる
エ 他の精神状態を伴わない
オ 自覚はある
② 認知症とは
ア 病気である
イ 症状が進行することが多い
ウ 物忘れ以外に時間や判断が不確かになる
エ 物盗られ、妄想の精神状態を伴うことがある
オ 自覚はない
(2)「意味記憶」「手続き記憶」「エピソード記憶」
① 意味記憶は、1年365日あることなど教育を通して学んだことを「意味記憶」と云い、
認知症では失われることはないが、
③ 手続き記憶は、歌を唄う、泳ぐことなどは体で覚えていても、それは、障害に遭いま
せん。しかし、
④ エピソード記憶は、午前中に買い物をしたことを忘れて、午後に同じものを買ってき
てしまうなど、少し前に経験したことをすっかり忘れてしまうことを「エピソード記
憶」と云い、「認知症」はこの「エピソード記憶」が失われる
2 認知症の症状等
(1)精神症状
障害を受けた知的能力を頼りに、日々の生活を余儀なくされて、理解力が低下するにつ
れて戸惑いや不安は増し、日常生活での失敗もありふれた経験となるはずです。認知症患
者には、不安、焦燥、易怒、興奮し易く被害的、妄想的な解釈が生まれ易い
(2)症状
① 中核症状としては、認知症の本質的症状で、記憶力、判断力、認識力が低下し、人格
が変わるなど治療が難しく、「陽性症状」と「陰性症状」がある。これらは、薬物療法を考え
る際に重要になる言葉なので、区別して考えたいものとなります。
ア 陽性症状は、暴力、徘徊、過食、不眠といった正常な人よりエネルギーが多いので
は、と思われる状態を云う。介護の立場では苦労されるのではないでしょうか。
イ 陰性症状は、無気力、無関心など
(3)治療法等つい最近までは、認知症の治療方法はなかった。このため、早期に発見しても
意味がなかった。また、検査方法の研究も進まなかったので、検査も行われなかったの
が、これまでの現状であった。
① 現在の状況
現在は、進行を遅らせる薬が出来ていて、治療薬の開発も進んでいる。従って、進行
を遅らせて患者の徘徊や幻想をなどの症状を軽く抑えるためには、積極的に早期発見の
検査を行うことは何より大切であり、検査費用も介護保険の適用があるので、負担は軽
くなっている。
ア 薬の種類と効果
薬は、アリセプトによる投薬、抑肝散や貼り薬もあり、その薬の効果は、今のとこ
ろ1年位で進行を遅くすることができる。
イ 症状のコントロール
認知症の患者と向き合って行く上で、この周辺症状のコントロールをどの様にすべ
きかは重要なテーマとなってくる。そのテーマに取り組む為にも早期診断で、画像診
断は補助的診断に過ぎず、面接によるキチンとした診断や治療の経過観察が必要であ
る。
ウ 診察科
ア) 脳神経外科
脳腫瘍や水頭症、脳梗塞など脳に関する疾患に関わってくる
イ) 脳神経内科
認知症を診断し、症状を管理してくれる専門の診療科である。
エ 認知症の注目点
ア) 物忘れが多くなった
イ) 人に指摘されるようになった
ウ) 今まで出来たことが出来なくなる
エ) 診察を受ける(病歴と問診)
オ) 検査を受ける症状に見合う所見がある
カ) 臭いが分からなくなる
キ) 同じ言葉を繰り返す
ク) 相手の目を見て話せなくなる。この症状があれば、検査を受ける必要がある。
3 認知症に至る病気
認知症とアルツハイマー病は=ではない。
(1) アルツハイマー型認知症
脳内の特殊なたんぱく質の異常により起きる病気で、神経原線維が沈着する。糖尿病
の患者はなり易い。ドイツの精神科医、A.アルツハイマー博士の名がつけられた病名
です
ア 症状は、不都合な事が生じるようになっているのに、これを繕う行為が見られる。
このため、問診の際に「◎◎は出来ますか」の質問に対し、実際には出来ないのに
「はい、出来ますと」答えてしまうことがある。アルツハイマーでよく見られる反応な
のです
イ 初老期に発症するのが、アルツハイマー病
ウ 老年期に発症するのはアルツハイマー型の老年認知症
エ 原因は、大脳の頭頂葉や側頭葉にびまん性の「委縮」があって神経細胞が脱落し、
記憶、学習、思考、判断といった認知機能に障害が出てくる病気
(2) 脳血管型認知症
脳血管障害により認知症となる状態で、大部分は脳梗塞が原因である。梗塞の数や部
位大きさは様々であり、原則としてCTやMRIで確認する。好発年齢は、アルツハイ
マーより若く、男性に多い。
機能低下は、局所に限定されるので、アルツハイマーのような全般的な機能低下では
なく、記憶障害は酷くても、人格や理解力は比較的保たれる。また、症状は、日によっ
て差が激しいことがあります。
(3) レビー小体型認知症
主に老年期に発症する認知症の一つで変性性(神経細胞が原因不明で減少する)の認
知症では、アルツハイマー型認知症に次いで多い。男性の患者は、女性より2倍多いと
云われています。初期より幻覚、特に、幻視(実際に存在しないものが見える)が現れ
ることがあります。
もう一つの大きな特徴は、パーキンソン病に似た症状である歩行の障害や体の固さ
(転倒の危険が高い)を伴う点です。3番目の特徴は自律神経の障害を伴う点ですこの
ため、(便秘や尿失禁が目立つ)眠り浅い時に、手足が無意識に動き隣の人を蹴ったり
する。
以上の病気から発症する「認知症」であります。
(4) パーキンソン病
パーキンソン病は、刺激伝達物質のドーパミンの量(中枢神経の神経伝達物質)が少
なくなり、体の動きが悪くなる病気であります。また、パーキンソン病に似た症状を
来たすものを「パーキンソン症候群」と云います。
① 症状
ア 静止時振戦(ふるえ)安静にしている時でもふるえが出る。
イ 書字が困難になることもあります。
ウ 筋固縮(筋肉のこわばり)
エ 動作が緩慢開始が困難になる
オ 動作が全体にゆっくりとして、小さくなる
カ 姿勢保持反射障害
4 認知症の診断の限界
何れのタイプの認知症かを鑑別することには限界がありますが、このことは最重要では ない。また、症状が重なることやどのタイプとはっきり言えない場合もあります。更に、 認知症と紛らわしい症状として、「うつ病」の症状ですが、気分が落ち込んで元気がなく なる病気ですが、認知症のように見えることがあります。難聴や視力障害、薬の飲み過ぎ などがある。
5 早期診断のすすめ
① 認知症と似ていても、治すことが出来きる、また、ほかの病気の場合もあります。
② 早期であれば進行を遅らせる薬が有効なことがある。
③ 早期から認知症としてのリハビリが行える。
④ 診断がつくことで、家族は「病気」としての対応が出来る。
⑤ 介護制度への対応ができる
6 治すことの出来る認知症(その1)
(1)頭蓋内疾患
① 水頭症
② 慢性硬膜下血腫
③ 脳腫瘍
④ 脳血管障害(脳梗塞、脳出血)
(2)代謝異常、内分泌疾患
① 甲状腺機能低下症
② ビタミンB1欠乏、ビタミンB12欠乏
③ 電解質異常(高ナトリウム、低ナトリウムなど)
④ 肝不全、腎不全
7 治すことの出来る認知症(その2)
(1)中毒性疾患
① 薬物(催眠鎮静剤、抗コリン薬などの飲み合わせ)
② 金属(鉛、有機水銀など)
(2)神経科疾患
うつ病
8 画像診断
(1)形態画像
形の変化を観るためには、CT、MRI、超音波がある。
① CTでわかること
ア 脳の萎縮など、脳の形態を調べる
イ 脳血管障害や脳腫瘍もわかる
ウ 画像は脳血管性認知症の原因となった脳梗塞障害で、黒ずんだ部分が脳梗塞を起
こした部位などがわかる。
② MRIでわかること
ア 脳の細かい形態を調べることが出来る
イ 脳梗塞の影響はないかラクナ梗塞(小さな血管の詰り)なども見つかる
ウ ラクナ梗塞の場合、脳には、直接造影剤を使えないので、血管を三次現的に写し
小さな血管が詰っているかを判別し、その影響で認知症発症の検証に役立つ
エ アルツハイマー病の初期の状態は、脳全体が萎縮していきます。海馬周辺の萎縮状態
③ 核医学検査
注射や内服薬によって体内に取り込まれた薬品であるRI(ラジオアイソトープ)が
発するガンマ線を検出して、体の様々な働きを画像やグラフに表現する検査であります
ア ガンマ線は放射線の一種である
イ ガンマ線とエックス線の区別は、中心核のエネルギー発生の違い
ア) ガンマ線は、原子核内の余剰ネルギーを放出したもの
イ) エックス線は、軌道電子の余剰エネルギーを放出したもの
ウ 放射線を使うのなら、被爆は?
ア) 放射線を出す薬を使用していますが、ごく微量なので心配はありません
イ) 検査で受ける放射線の量は、胃のX線検査と同じ位です。
ウ) 薬は短時間で力を失い、排泄されてなくなります
エ 核医学検査の特徴
ア) 臓器の機能を評価する
イ) 腫瘍異所性臓器の存在を見つける
ウ) 治療の効果を判定する
エ) 苦痛が少ない
オ) 副作用の心配は殆どない
カ) 患者側からも解り易い結果がでる
オ どのような検査があるか
ア) 脳の血流状態リスクの予測
イ) 甲状腺の機能検査
ウ) 心臓が血液を送り出す能力、不調の度合い、リスクの予測
エ) 腎臓の機能検査
オ) 骨転移の確認、癌細胞の有無
カ 腎臓における核医学検査
ア) 腎臓の機能が造影剤を使わずに左右別々での評価ができます(グラフ上に表す)
イ) 腎臓への薬の集まり方で評価(集まらない方が悪い)
ウ) 腎臓の炎症の程度が分かります
キ 骨シンチとガリウムシンチ
ア) 骨シンチは、乳がんや前立腺癌の転移を見つけるのに役立ちます
イ) ガリウムシンチは、骨以外の臓器への転移を見つける場合や体の発熱の原因と
なる炎症部位を見つけるのに役立ちます
ク 核医学検査でわかること
認知症における核医学検査は、次にあげるものが代表的な検査です。
ア) 脳血流シンチ
脳は、血液によって運ばれたブドウ糖や酸素を使って活動します。そのため、正
常に活動する為には、十分な血流が必要です。多くの脳の病気は、血流の異常を伴
っています。
脳血流シンチは、脳血流の変化を見つける為の検査であります。症状を裏付ける
データとなります。
体にペースメーカーを埋め込んでいる方は、MRIの検査を受けることはできま
せんが、核医学検査では、問題なく検査を受けることができます。
「どのように写るか」は,水平な断面や横から見た断層面
(血流が豊かな部分に薬が集まります)
イ) 交感神経心筋シンチでわかること
心臓の交換神経に取り込まれることで知られている123 I-MIBGパーキンソンやレ
ビー小体型認知症の患者には集積しないことが知られており、アルツハイマーとの
鑑別に利用されています。
ウ) 甲状腺摂取率シンチでわかること
甲状腺の働きが低下すると認知症症状が出ることがあります。
ケ 画像診断の進歩
ア) 視覚的診断(従来の診断)
医師が自分の目で観て診断をつける
診断の精度が医師の技術に依存される欠点がある
イ) 統計的診断(現在の画像判別)
正常値と比較する
誰が検査を担当しても同じ結果を提出できる
医師の技術に左右されない
微妙な変化を検出しやすい
ウ) 統計的診断の利点
個々の患者のデータを平均的な健常者のデータと比較します。eZIS(イージ
ス)と云う全脳を対象とした脳機能統計解析ソフトウエアを使用しています。
画像診断とは、脳のレントゲン検査で映し出された脳の空洞箇所や形等により、
従来の判定とは格段に進んでおり、画像を重ね合わせて、類似の患部との比較や過
去の脳疾患等によるものか等、様々な方向から、画像に対する判定ができる様にな
ってきている。
コ eZISによる解析結果
ア) 正常な脳血流と比較して、血流が低下している箇所を表示しています。
イ) ポイントになる脳の場所
・アルツハイマー病=前頭葉、帯状回後部、揳前部
70歳以前と70歳以降の場合とでは、70歳を境に血流低下のパターンに変化がで
る。血流の流れが悪いところが違って来る。(70歳以下では、帯状回後部から揳前
部、頭頂葉皮質の血流低下)SPECT画像の変化(画像統計解析eZIS)は進
行にしたがって悪くなる。
70歳以下の血流低下パターンが不明瞭になり、前頭葉や側頭葉内部にも血流低下
になる。
・レビー小体型認知症=帯状回後部、揳前部、後頭葉
高齢健常者の脳血流で男女差が見られる
サ ピック病
ア) 初老期認知症(45~65歳)の代表的疾患がアルツハイマー病とピック病であり、
何れも原因不明の大脳萎縮性疾患。
イ) アルツハイマー病に比べ数は少なく、40~50代がピークで男女差はない。
ウ) 人格障害、情緒障害などが初期症状。
エ) 脳の前頭葉の萎縮により、感情の抑制を失って犯罪を犯し、社会的地位を失うケ
ースが相次いでいる。(万引きなどが多い)
オ) アルツハイマー病が、その原因が解明されつつあるのに対し、ピック病は、原因
解明の糸口がなく、研究が立ち遅れている。
カ) ピック病(初期~中期)のチェックリスト
・ 状況に合わない行動 ・ 逸脱行動 ・ 食べ物へのこだわり
・ 意欲減退 ・ 言葉の繰り返し ・ 無関心
・ 好みの変化 ・ 逸脱行為 ・ 発語、意味の障害
・ 時刻表的行動・繰り返し行動 ・ 短期記憶の維持は保たれる
シ 認知症による人格の損失
ア) 認知症と言う病気が原因で行ってしまった行為なのに、社会的な地位や名誉を失
い、その後の人生が大きく変わってしまうのは、非常に残念なことです。
イ) 積み上げてきた人としての評価は、その方の大切な財産であり、人生そのものです
ウ) このような、疾患を早めに周囲が気付いてあげることも重要です。
9 まとめ
認知症の原因や状態によっては、適切な診断・治療によって、症状は改善するものがあ りますので、認知症の初期には、症状が目立たないことがありますが、いつもと様子が異 なるときには早めの受診をお進めします。また、できるだけ早期に発見し、適切な対応を することが患者の状態の安定とご家族の負担の軽減につながります。
早期診断において画像診断は補助的な存在ですが、より正確な診断を提供できる可能性 があります。また、核医学では、統計解析ソフトが出来たことで、診断が向上しました。 認知症の診断に、画像診断の役割は、大きくなって行くものと思われます。
(1)認知症予防の10箇条
① 塩分と動物性脂肪を控えたバランスの良い食事
② 適度に運動を行い、足腰を鍛えること
③ 深酒とタバコはやめて規則正しい生活を心がける
④ 高血圧や肥満などの生活習慣病の予防と早期発見
⑤ 転倒に気をつける・・・頭の打撲はボケを招く
⑥ 興味と好奇心をもつこと
⑦ 考えをまとめて発表すること
⑧ 細やかな気配りをしたよい人付き合いを
⑨ いつも若々しく、おしゃれ心を忘れずに
⑩ くよくよないで明るく生活をする
日記を書いたり、物事をまとめたり、新しいことに興味をもちましょう。酒は、赤ワ
インが良い。何故なら、ポリフェノールが多いから。チョコレイトにも多く含まれていま
す。
(2) 時計を描いてもらい初期判断
例えば、10時25分を描いてもらい針の位置などを見る。
① 時計の短い針の位置は正しいか
② 長い針の位置は正しいか
③ 数字の数や配置は正しいか
④ 文字の間隔などのバランスはとれているか
講師の方は、放射線科副主任 長谷川義久氏でありました。内容は、最近の核医学(RI)検査による放射線画像の比較により、認知症であるか否かをホボ正確に判定出来る時代が到来したという講座でありました。
1 認知症とは
認知症とは、目や耳で受けた情報を如何に判断して行動するか、その行動に最も影響を
与えるかを「認知」する。すなわち、「私たちが環境に合わせて、幸せに暮らすための脳
の働き」と云うものであります。
しかし、認知機能の低下は、記憶力だけではなく、判断力や今、何を話しているか、相
手は誰であるかなど、言葉や歩き方を司る「高次中枢機能」の影響によるもので、これら
は殆ど大脳の機能の働きに関係するものであります。
(1)具体的には、脳の知的な働きが、後天的な色々な病気などによって持続的に低下した状
態を云い、久しぶりに会った人の名前が思い出せない…誰にもあり、このような物忘れ
は、自然な老化現象で誰にも起こりうる単なる歳のせいであるが、「認知症」は、病気で
あり、単なる物忘れとは異なる。
① 物忘れとは、
ア 病気ではない
イ 半年や1年では変化しない
ウ 物を置いた場所を忘れる・名前を忘れるなど体験の一部を忘れる
エ 他の精神状態を伴わない
オ 自覚はある
② 認知症とは
ア 病気である
イ 症状が進行することが多い
ウ 物忘れ以外に時間や判断が不確かになる
エ 物盗られ、妄想の精神状態を伴うことがある
オ 自覚はない
(2)「意味記憶」「手続き記憶」「エピソード記憶」
① 意味記憶は、1年365日あることなど教育を通して学んだことを「意味記憶」と云い、
認知症では失われることはないが、
③ 手続き記憶は、歌を唄う、泳ぐことなどは体で覚えていても、それは、障害に遭いま
せん。しかし、
④ エピソード記憶は、午前中に買い物をしたことを忘れて、午後に同じものを買ってき
てしまうなど、少し前に経験したことをすっかり忘れてしまうことを「エピソード記
憶」と云い、「認知症」はこの「エピソード記憶」が失われる
2 認知症の症状等
(1)精神症状
障害を受けた知的能力を頼りに、日々の生活を余儀なくされて、理解力が低下するにつ
れて戸惑いや不安は増し、日常生活での失敗もありふれた経験となるはずです。認知症患
者には、不安、焦燥、易怒、興奮し易く被害的、妄想的な解釈が生まれ易い
(2)症状
① 中核症状としては、認知症の本質的症状で、記憶力、判断力、認識力が低下し、人格
が変わるなど治療が難しく、「陽性症状」と「陰性症状」がある。これらは、薬物療法を考え
る際に重要になる言葉なので、区別して考えたいものとなります。
ア 陽性症状は、暴力、徘徊、過食、不眠といった正常な人よりエネルギーが多いので
は、と思われる状態を云う。介護の立場では苦労されるのではないでしょうか。
イ 陰性症状は、無気力、無関心など
(3)治療法等つい最近までは、認知症の治療方法はなかった。このため、早期に発見しても
意味がなかった。また、検査方法の研究も進まなかったので、検査も行われなかったの
が、これまでの現状であった。
① 現在の状況
現在は、進行を遅らせる薬が出来ていて、治療薬の開発も進んでいる。従って、進行
を遅らせて患者の徘徊や幻想をなどの症状を軽く抑えるためには、積極的に早期発見の
検査を行うことは何より大切であり、検査費用も介護保険の適用があるので、負担は軽
くなっている。
ア 薬の種類と効果
薬は、アリセプトによる投薬、抑肝散や貼り薬もあり、その薬の効果は、今のとこ
ろ1年位で進行を遅くすることができる。
イ 症状のコントロール
認知症の患者と向き合って行く上で、この周辺症状のコントロールをどの様にすべ
きかは重要なテーマとなってくる。そのテーマに取り組む為にも早期診断で、画像診
断は補助的診断に過ぎず、面接によるキチンとした診断や治療の経過観察が必要であ
る。
ウ 診察科
ア) 脳神経外科
脳腫瘍や水頭症、脳梗塞など脳に関する疾患に関わってくる
イ) 脳神経内科
認知症を診断し、症状を管理してくれる専門の診療科である。
エ 認知症の注目点
ア) 物忘れが多くなった
イ) 人に指摘されるようになった
ウ) 今まで出来たことが出来なくなる
エ) 診察を受ける(病歴と問診)
オ) 検査を受ける症状に見合う所見がある
カ) 臭いが分からなくなる
キ) 同じ言葉を繰り返す
ク) 相手の目を見て話せなくなる。この症状があれば、検査を受ける必要がある。
3 認知症に至る病気
認知症とアルツハイマー病は=ではない。
(1) アルツハイマー型認知症
脳内の特殊なたんぱく質の異常により起きる病気で、神経原線維が沈着する。糖尿病
の患者はなり易い。ドイツの精神科医、A.アルツハイマー博士の名がつけられた病名
です
ア 症状は、不都合な事が生じるようになっているのに、これを繕う行為が見られる。
このため、問診の際に「◎◎は出来ますか」の質問に対し、実際には出来ないのに
「はい、出来ますと」答えてしまうことがある。アルツハイマーでよく見られる反応な
のです
イ 初老期に発症するのが、アルツハイマー病
ウ 老年期に発症するのはアルツハイマー型の老年認知症
エ 原因は、大脳の頭頂葉や側頭葉にびまん性の「委縮」があって神経細胞が脱落し、
記憶、学習、思考、判断といった認知機能に障害が出てくる病気
(2) 脳血管型認知症
脳血管障害により認知症となる状態で、大部分は脳梗塞が原因である。梗塞の数や部
位大きさは様々であり、原則としてCTやMRIで確認する。好発年齢は、アルツハイ
マーより若く、男性に多い。
機能低下は、局所に限定されるので、アルツハイマーのような全般的な機能低下では
なく、記憶障害は酷くても、人格や理解力は比較的保たれる。また、症状は、日によっ
て差が激しいことがあります。
(3) レビー小体型認知症
主に老年期に発症する認知症の一つで変性性(神経細胞が原因不明で減少する)の認
知症では、アルツハイマー型認知症に次いで多い。男性の患者は、女性より2倍多いと
云われています。初期より幻覚、特に、幻視(実際に存在しないものが見える)が現れ
ることがあります。
もう一つの大きな特徴は、パーキンソン病に似た症状である歩行の障害や体の固さ
(転倒の危険が高い)を伴う点です。3番目の特徴は自律神経の障害を伴う点ですこの
ため、(便秘や尿失禁が目立つ)眠り浅い時に、手足が無意識に動き隣の人を蹴ったり
する。
以上の病気から発症する「認知症」であります。
(4) パーキンソン病
パーキンソン病は、刺激伝達物質のドーパミンの量(中枢神経の神経伝達物質)が少
なくなり、体の動きが悪くなる病気であります。また、パーキンソン病に似た症状を
来たすものを「パーキンソン症候群」と云います。
① 症状
ア 静止時振戦(ふるえ)安静にしている時でもふるえが出る。
イ 書字が困難になることもあります。
ウ 筋固縮(筋肉のこわばり)
エ 動作が緩慢開始が困難になる
オ 動作が全体にゆっくりとして、小さくなる
カ 姿勢保持反射障害
4 認知症の診断の限界
何れのタイプの認知症かを鑑別することには限界がありますが、このことは最重要では ない。また、症状が重なることやどのタイプとはっきり言えない場合もあります。更に、 認知症と紛らわしい症状として、「うつ病」の症状ですが、気分が落ち込んで元気がなく なる病気ですが、認知症のように見えることがあります。難聴や視力障害、薬の飲み過ぎ などがある。
5 早期診断のすすめ
① 認知症と似ていても、治すことが出来きる、また、ほかの病気の場合もあります。
② 早期であれば進行を遅らせる薬が有効なことがある。
③ 早期から認知症としてのリハビリが行える。
④ 診断がつくことで、家族は「病気」としての対応が出来る。
⑤ 介護制度への対応ができる
6 治すことの出来る認知症(その1)
(1)頭蓋内疾患
① 水頭症
② 慢性硬膜下血腫
③ 脳腫瘍
④ 脳血管障害(脳梗塞、脳出血)
(2)代謝異常、内分泌疾患
① 甲状腺機能低下症
② ビタミンB1欠乏、ビタミンB12欠乏
③ 電解質異常(高ナトリウム、低ナトリウムなど)
④ 肝不全、腎不全
7 治すことの出来る認知症(その2)
(1)中毒性疾患
① 薬物(催眠鎮静剤、抗コリン薬などの飲み合わせ)
② 金属(鉛、有機水銀など)
(2)神経科疾患
うつ病
8 画像診断
(1)形態画像
形の変化を観るためには、CT、MRI、超音波がある。
① CTでわかること
ア 脳の萎縮など、脳の形態を調べる
イ 脳血管障害や脳腫瘍もわかる
ウ 画像は脳血管性認知症の原因となった脳梗塞障害で、黒ずんだ部分が脳梗塞を起
こした部位などがわかる。
② MRIでわかること
ア 脳の細かい形態を調べることが出来る
イ 脳梗塞の影響はないかラクナ梗塞(小さな血管の詰り)なども見つかる
ウ ラクナ梗塞の場合、脳には、直接造影剤を使えないので、血管を三次現的に写し
小さな血管が詰っているかを判別し、その影響で認知症発症の検証に役立つ
エ アルツハイマー病の初期の状態は、脳全体が萎縮していきます。海馬周辺の萎縮状態
③ 核医学検査
注射や内服薬によって体内に取り込まれた薬品であるRI(ラジオアイソトープ)が
発するガンマ線を検出して、体の様々な働きを画像やグラフに表現する検査であります
ア ガンマ線は放射線の一種である
イ ガンマ線とエックス線の区別は、中心核のエネルギー発生の違い
ア) ガンマ線は、原子核内の余剰ネルギーを放出したもの
イ) エックス線は、軌道電子の余剰エネルギーを放出したもの
ウ 放射線を使うのなら、被爆は?
ア) 放射線を出す薬を使用していますが、ごく微量なので心配はありません
イ) 検査で受ける放射線の量は、胃のX線検査と同じ位です。
ウ) 薬は短時間で力を失い、排泄されてなくなります
エ 核医学検査の特徴
ア) 臓器の機能を評価する
イ) 腫瘍異所性臓器の存在を見つける
ウ) 治療の効果を判定する
エ) 苦痛が少ない
オ) 副作用の心配は殆どない
カ) 患者側からも解り易い結果がでる
オ どのような検査があるか
ア) 脳の血流状態リスクの予測
イ) 甲状腺の機能検査
ウ) 心臓が血液を送り出す能力、不調の度合い、リスクの予測
エ) 腎臓の機能検査
オ) 骨転移の確認、癌細胞の有無
カ 腎臓における核医学検査
ア) 腎臓の機能が造影剤を使わずに左右別々での評価ができます(グラフ上に表す)
イ) 腎臓への薬の集まり方で評価(集まらない方が悪い)
ウ) 腎臓の炎症の程度が分かります
キ 骨シンチとガリウムシンチ
ア) 骨シンチは、乳がんや前立腺癌の転移を見つけるのに役立ちます
イ) ガリウムシンチは、骨以外の臓器への転移を見つける場合や体の発熱の原因と
なる炎症部位を見つけるのに役立ちます
ク 核医学検査でわかること
認知症における核医学検査は、次にあげるものが代表的な検査です。
ア) 脳血流シンチ
脳は、血液によって運ばれたブドウ糖や酸素を使って活動します。そのため、正
常に活動する為には、十分な血流が必要です。多くの脳の病気は、血流の異常を伴
っています。
脳血流シンチは、脳血流の変化を見つける為の検査であります。症状を裏付ける
データとなります。
体にペースメーカーを埋め込んでいる方は、MRIの検査を受けることはできま
せんが、核医学検査では、問題なく検査を受けることができます。
「どのように写るか」は,水平な断面や横から見た断層面
(血流が豊かな部分に薬が集まります)
イ) 交感神経心筋シンチでわかること
心臓の交換神経に取り込まれることで知られている123 I-MIBGパーキンソンやレ
ビー小体型認知症の患者には集積しないことが知られており、アルツハイマーとの
鑑別に利用されています。
ウ) 甲状腺摂取率シンチでわかること
甲状腺の働きが低下すると認知症症状が出ることがあります。
ケ 画像診断の進歩
ア) 視覚的診断(従来の診断)
医師が自分の目で観て診断をつける
診断の精度が医師の技術に依存される欠点がある
イ) 統計的診断(現在の画像判別)
正常値と比較する
誰が検査を担当しても同じ結果を提出できる
医師の技術に左右されない
微妙な変化を検出しやすい
ウ) 統計的診断の利点
個々の患者のデータを平均的な健常者のデータと比較します。eZIS(イージ
ス)と云う全脳を対象とした脳機能統計解析ソフトウエアを使用しています。
画像診断とは、脳のレントゲン検査で映し出された脳の空洞箇所や形等により、
従来の判定とは格段に進んでおり、画像を重ね合わせて、類似の患部との比較や過
去の脳疾患等によるものか等、様々な方向から、画像に対する判定ができる様にな
ってきている。
コ eZISによる解析結果
ア) 正常な脳血流と比較して、血流が低下している箇所を表示しています。
イ) ポイントになる脳の場所
・アルツハイマー病=前頭葉、帯状回後部、揳前部
70歳以前と70歳以降の場合とでは、70歳を境に血流低下のパターンに変化がで
る。血流の流れが悪いところが違って来る。(70歳以下では、帯状回後部から揳前
部、頭頂葉皮質の血流低下)SPECT画像の変化(画像統計解析eZIS)は進
行にしたがって悪くなる。
70歳以下の血流低下パターンが不明瞭になり、前頭葉や側頭葉内部にも血流低下
になる。
・レビー小体型認知症=帯状回後部、揳前部、後頭葉
高齢健常者の脳血流で男女差が見られる
サ ピック病
ア) 初老期認知症(45~65歳)の代表的疾患がアルツハイマー病とピック病であり、
何れも原因不明の大脳萎縮性疾患。
イ) アルツハイマー病に比べ数は少なく、40~50代がピークで男女差はない。
ウ) 人格障害、情緒障害などが初期症状。
エ) 脳の前頭葉の萎縮により、感情の抑制を失って犯罪を犯し、社会的地位を失うケ
ースが相次いでいる。(万引きなどが多い)
オ) アルツハイマー病が、その原因が解明されつつあるのに対し、ピック病は、原因
解明の糸口がなく、研究が立ち遅れている。
カ) ピック病(初期~中期)のチェックリスト
・ 状況に合わない行動 ・ 逸脱行動 ・ 食べ物へのこだわり
・ 意欲減退 ・ 言葉の繰り返し ・ 無関心
・ 好みの変化 ・ 逸脱行為 ・ 発語、意味の障害
・ 時刻表的行動・繰り返し行動 ・ 短期記憶の維持は保たれる
シ 認知症による人格の損失
ア) 認知症と言う病気が原因で行ってしまった行為なのに、社会的な地位や名誉を失
い、その後の人生が大きく変わってしまうのは、非常に残念なことです。
イ) 積み上げてきた人としての評価は、その方の大切な財産であり、人生そのものです
ウ) このような、疾患を早めに周囲が気付いてあげることも重要です。
9 まとめ
認知症の原因や状態によっては、適切な診断・治療によって、症状は改善するものがあ りますので、認知症の初期には、症状が目立たないことがありますが、いつもと様子が異 なるときには早めの受診をお進めします。また、できるだけ早期に発見し、適切な対応を することが患者の状態の安定とご家族の負担の軽減につながります。
早期診断において画像診断は補助的な存在ですが、より正確な診断を提供できる可能性 があります。また、核医学では、統計解析ソフトが出来たことで、診断が向上しました。 認知症の診断に、画像診断の役割は、大きくなって行くものと思われます。
(1)認知症予防の10箇条
① 塩分と動物性脂肪を控えたバランスの良い食事
② 適度に運動を行い、足腰を鍛えること
③ 深酒とタバコはやめて規則正しい生活を心がける
④ 高血圧や肥満などの生活習慣病の予防と早期発見
⑤ 転倒に気をつける・・・頭の打撲はボケを招く
⑥ 興味と好奇心をもつこと
⑦ 考えをまとめて発表すること
⑧ 細やかな気配りをしたよい人付き合いを
⑨ いつも若々しく、おしゃれ心を忘れずに
⑩ くよくよないで明るく生活をする
日記を書いたり、物事をまとめたり、新しいことに興味をもちましょう。酒は、赤ワ
インが良い。何故なら、ポリフェノールが多いから。チョコレイトにも多く含まれていま
す。
(2) 時計を描いてもらい初期判断
例えば、10時25分を描いてもらい針の位置などを見る。
① 時計の短い針の位置は正しいか
② 長い針の位置は正しいか
③ 数字の数や配置は正しいか
④ 文字の間隔などのバランスはとれているか