スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

NHK追跡!真相ファイル 『低線量被ばく 揺らぐ国際基準』 コメント2

2011-12-31 01:24:24 | コラム
前回の続き。前回はここ→ http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/6c768f8d028351291a58069838c7d812

今回は、番組へのコメントというより、科学における個別の研究・成果をどう捉えるかということ。

スウェーデン・ヨーテボリ大学サールグレンスカ大学病院トンデル教授について 】

彼は、2004年の論文が大きく非難されているが、私自身は彼が言おうとしている因果関係の有意性は境界ギリギリのところだと思う。年齢や人口密度など様々な要因を加味していくと、因果関係を示す値が減少して行き、最後は有意性があるかないかのところに達する(彼の結論では、それでも0.11という値は0から有意で乖離している、ということのようだが)。Confidence Intervalを95%ではなく、90%で取ってみると、より多くの結果が有意になるだろう。

トンデル教授のあの論文が示そうとしているのは「チェルノブイリによる低線量内部被ばくとガンの発症率との間に何らかの因果関係があることが統計的に言えるかもしれない(?)よ」ということであって、彼(ら)は何もあの論文1本を持って「チェルノブイリによる低線量内部被ばくとガンの発症率との間に明確な因果関係がある!」と言おうとしているのではない。「今後、より詳しい調査・研究が必要だ」という、取っ掛かりとしての論文であろう。

だから、彼の論文一本をとって、やれ「イカサマ」とか「インチキ」と非難をするのは、やりすぎではないかと思う。彼の他にも低線量被ばくの影響を研究をしている人たちがいれば、他の研究結果も集めて、その中で総合的にトンデル氏の結論を評価すべきだろう。

(経済学の分野でも、ある特定の因果関係を調べた実証研究が例えば20本あったとすれば、そのすべてが同じ結論になることなんてほとんどなく、20のうち10が「強い相関がある」と結論づけ、5つは「有意な相関は見られない」と言い、残りの5つは「条件を変えたり、モデルを変えると場合によっては有意な相関が得られることもある」というような曖昧な結論だったり、ということがザラだ。そのような状況の中で、ではどうして研究によって結果が異なるのか、使うデータは? サンプル数は? 条件は?・・・などと検証が始まっていく。手法が納得のいくものである限り、一つの論文を槍玉に挙げて、叩くようなことはしない。)

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