スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

富めるノルウェーの贅沢な悩み(続編)

2005-09-15 23:14:11 | コラム
天然資源の豊富さによって、その国の富が決まるとすれば、それらの豊富なナイジェリアやリビア、イラクは今頃は世界で一番豊かな国であっただろう。一方で、スイスやシンガポール、日本などは、後進国の中でも一番下のほうであったろう。

ノルウェー沖の北海で石油が発見されたのは1960年代末。スウェーデンの自動車産業や医薬品産業のような基幹産業を欠くノルウェーにとっては降って湧いた話だった。ノルウェーのように天然資源によって富を得た国というのは、数え上げたらきりがない。石油の豊富な中東やダイヤモンドや金の採れるアフリカの国々・・・。

しかし、国を豊かにしてくれるはずのこれらの富をうまく活用できた国は少ないという。民主主義の未熟なこれらの国では、天然資源で得た利益が一部の富裕層のふところを潤すだけであったり、利益の分配をめぐって内戦になった例も珍しくない。石油王であるサウジアラビアの国王Faisalはこう言ったという。「たった一世代の間に我々の国民はラクダからキャデラックに乗りかえることに成功した。我々が今こうして富をもてあそんでいる間に、次の世代が再びラクダ乗りの時代への道を歩み始めているのではないかと心配だ。」

むしろ天然資源に欠く国のほうが経済発展は順調にやってこれたのかもしれない。日本やシンガポールなどは、天然資源がないゆえに、原材料やエネルギーの確保に躍起にならざるを得なかった。資源の輸入のためには、別のものを輸出することによって外貨を得る必要があった。もちろん天然資源を輸出するわけにはいかない。そのために、しっかりと産業政策を作って、国際競争力のある産業を育て、それを輸出せざるを得なかった。そのために改革に躍起になり、そして競争力のある産業立国になった。

これに対し、天然資源の豊富な国というのは、お金が次から次へと降り注いでくるために、国内の潜在的な経済問題や社会問題が陰に隠れてしまう。改革すべき国内問題に手が付けられないために、ひとたび窮地に陥ったとたんに、それまで溜まった問題が噴出することになる。

天然資源による収入の活用が容易にいかないことは前回書いた。これは「オランダ病」という名前で知られているのだという。1960年代にオランダは天然ガスを北海の沖合いで発見し、盛んに輸出を行った。しかし、オランダは流れ込んでくる外貨の管理に失敗し、オランダ通貨ギルダーの高騰によって国内産業の国際競争力が急降下した。好調な天然ガス産業とは対照的に、他の多くの産業が淘汰され、天然ガスが底をついた時に最後に残ったのは、自分の足では立てない、肥大化した公共部門だったというのも皮肉な話だ。

このような反面教師があったからこそ、ノルウェーは慎重にならざるを得なかった。前回書いたように様々な問題を抱えながらも、天然資源を抱える国としては例外的に持続的な発展を遂げてきたという。もちろん、ノルウェーが発達した民主主義国であったという事実の重要性はいうまでもない。

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前回の補足を少しだけ。石油収入をそのまま国内に垂れ流すことは危険なので、ノルウェーでは財政政策に自ら縛りを利かせるべく一定の財政ルールを設けている。石油収入は「石油基金」としてそのまま蓄積させ、それを外貨のまま海外で運用する。そしてその運用益しか、国家財政の歳入部門に流し込めないことになっている。

それから、ノルウェーが現在抱える危急の問題は簡単にまとめるとこうだ。近年の急激な賃金の上昇によって、国内産業の国際競争力が低下している。賃金の上昇を抑えるべく、中央銀行は金融の引き締めを行っているが、その結果、ノルウェーの公定歩合はヨーロッパ最大だ。高い利子率は、投資活動を停滞させ、経済の低迷に追い討ちをかける。高い利子率は為替レートをさらに上昇させる。

国際競争力の停滞と投資意欲の低迷は、失業率の上昇につながる。失業手当など社会保障費の上昇が避けられないし、人件費の上昇は公共福祉部門の歳出を拡大させる。一方で、産業の縮小によって課税ベースも縮小し、税収が逆に減っている。このアンバランスをどう解決するか。石油基金を切り崩すなりして、穴埋めをすると同時に、それによって為替レートがさらに上昇することがないようにうまくやる。そして、国内インフレを意図的に上昇させることで、実質賃金(=名目賃金/物価水準)を下落させるとともに、インフレによって為替レートを押し下げる。私が考え付くのはこれくらいだけれど、このような綱渡りのような舵取りに成功しなければ、悪循環(ス語:onda cirkel(=魔のスパイラル))に陥ってしまう。そうなると、天然資源によって一世を風靡した他の国の二の舞にもなりかねない。

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