スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

政治家に対する信頼が大きく上昇

2010-09-24 07:02:37 | 2010年9月総選挙
投票日当日やその前の期日前投票においてスウェーデン・テレビ(SVT)出口調査を行った。全部で200人ほどの集計員の一人として私も参加したが、全国で11889人から回答を得ることができた。

この目的は、どの政党に票を投じたかを聞き出して、その日の晩の開票番組における得票率予測のベースにするためだけではない。性別年齢、社会的バックグランド、前回の選挙での支持政党なども合わせて尋ねることで、世論の動きを把握することも大きな目的であった。

質問事項の一つにこんな質問があった。
「一般的に言って、あなたがスウェーデンの政治家に寄せる信頼はどれだけ大きいか?」
選択肢は4つ。(1) 非常に大きい、(2) やや大きい、(3) やや小さい、(4)非常に小さい

結果はどうだったかというと、全体で70%の人が(1)非常に大きい、もしくは(2)やや大きい、と答えていたことが分かった。これは4年前、そして8年前の国政選挙の時の54%と比べると、大きく上昇している。


「スウェーデンの政治家」という問い方は、非常に曖昧であるため、政権を握っている政党の政治家も指すし、野党の支持者であれば自分が支持している政党の政治家を指すこともあるだろう。ここでは、両方の可能性があることを考慮に入れつつも、主に前者のケースを念頭に置きながら考えてみたい。

リーマンショック以降の金融危機や経済・財政危機の中で、先進国の多くでは政治家に対する信頼が低下し、デモが相次いだり、政権への支持率が急落していることを考えれば、スウェーデンでのこの傾向は驚くべきものであろう。そもそも、政権与党が危機を経た後で再び選挙に勝ったということ自体も、注目すべきことかもしれない。

しかし、このブログでも何度か紹介したように、スウェーデン経済は危機をうまく乗り越えることができ、今は上昇気流に乗りつつあるし、危機を経た後も財政赤字や累積赤字は低い水準に抑えられてきたため、マクロ経済に対する懸念は小さい。失業保険や疾病保険の削減で一部では問題も生じているが、社会全体としてみれば、将来に対する期待や希望は大きいといえる。そのような事実に加え、中道保守の連立政権は「自分たちが実行してきた政策のおかげで危機の影響が軽微で済んだ」と盛んに繰り返してきたが、そんなPRがちゃんと有権者のもとに届いたことの現れとも言える。それに、危機の最中にも低中所得者への減税を行うことで、彼らの支持もちゃんと維持できたことも背景にあるだろう。

当然ながら、連立政権の支持者ほど、政治家に対して大きな信頼を寄せていると答えている。全体の平均は既に触れたように70%だったが、保守党・中央党に投票した人の83%自由党に投票した人の79%キリスト教民主党に投票した人の81%大きな信頼を寄せている((1)もしくは(2))、と答えていた。

これに対し、野党の支持者が政治家に寄せる信頼はそこまで高いものではないが、それでも社会民主党に票を投じた人の65%環境党67%左党58%が、大きな信頼を寄せいていると答えていた。野党の支持者でも「政治家は頼りにならない」という諦めを感じている人は、そこまで多くはないのだ。

一方、既成の政党に不満を感じている人の多くが投票したと考えられるスウェーデン民主党海賊党(パイレーツ党)の支持者を見ると、「政治家を信頼している」と答えた割合はわずか27%25%に過ぎない。私は、今回初めて議席を獲得したスウェーデン民主党に票を投じた人の多くは、ネオナチなどの極右イデオロギーを信奉するという理由からではなく、日々の生活や社会に不満を感じ、既成政党に対して抗議する目的や、スウェーデン民主党が掲げる分かりやすい政策主張に惹かれたために票を投じた一般のおじさん・おばさんだと考えているが、このアンケート結果も一つの裏づけとなるのではないかと思う(他にもそれを示す指標があるが、また別の機会に)。

ちなみに、日本でも政治に対する漠然とした抗議のために、空白の票を投じる人がたまにいるが、今回の調査でも、空白票を投じた人のうち、政治家を信頼していると答えた割合は19%にとどまった。私はこの数字はむしろ大きすぎると思ってしまう。この19%の人は、では何のために空白票を投じたのだろう?

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9 コメント

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いつも読んでいます (子豚姫)
2010-09-24 13:22:40
いつも、この国の政治経済を解りやすく解説していただきありがとうございます。解りやすく、またオリジナルな視点や分析結果があり、さすが博士課程の方だと感心しております。

ひとつお願いなのですが、「自己紹介」他で
イェーテボリ大学をUniversity of Gothenburgと併記していただけないでしょうか? 学長が、国際的にはこちらの名称を使うよう徹底せよとう指示を昨年出しております。常々、海外でイェーテボリ大学の知名度が低いのを嘆いていますが(実体と比べて)、これは一つには英語名と両方あるのも原因かもしれません。イェーテボリはゴッセンボルグの近くか、と聞かれたこともあります。他の大学はこんな紛らわしさがないので
検索をするにも便利ですね。なお、日本の新聞などではイェーテボリの表記が多く、これでヒットします。本当に紛らわしいですが。
表記について (里の猫)
2010-09-24 14:07:18
私も子豚姫様の意見に賛成です。
以前、表記はどうでも、というようなことを書いていらっしゃったように思いますが、良し悪しはどうでも(Göteborg というのは実に日本語にしにくい発音ですね)今は多数を占めるイェーテボリにするしかないですね。
日本大使館はいまだにヨテボリと書いているのでしょうか。あの辺でオフィシャルな書き方を決めてくれるのもいいと思うのですが。
英語を併記すれば大分はっきりすると思います。
Unknown (羅愁)
2010-09-24 15:16:49
スウェーデン民主党の支持者の中には若者も多くいると聞きました.学校で生徒にやらせる模擬投票の結果では,60%の票を得た学校もあるそうです.
陰では,高等教育を受けていない人々の間でアミューズメント的な雰囲気があったのではないか,と思っています.彼らのイデオロギーは,アミューズメントとかいう軽いレベルではないんですが.人々が「入るか」と予想すれば,入ってしまうものなのかもしれませんね.
Unknown (Yoshi)
2010-09-25 00:33:59
>イェーテボリ大学をUniversity of
>Gothenburgと併記していただけないで
>しょうか?
>常々、海外でイェーテボリ大学の
>知名度が低いのを嘆いていますが

外国での知名度が低い理由は、英語名をコロコロ変えてきたことではないかと私は思っています。過去の履歴を見ると、

1986: Gothenburg University. (Beslut av rektorsambetet.)
1990: University of Goteborg. (Beslut av rektorsambetet. oにはウームラウト)
1993: Goteborg University. (Forekommer i Forordning 1993:952 och anvands sedan. oにはウームラウト)
2008: University of Gothenburg. (Beslut av rektor 21 januari 2008.)

こんな状態なので、過去の論文などみると、ほとんどバラバラで、外部の人から見ると同一の大学では思えないでしょう。

最近の変更は2008年ですが、これが定着するにはあと10年はかかるでしょうね。しかも、決定にあたって、各学部との協議があったとは思えず、トップダウンの決定によるUniversity of Gothenburgに対しては私の周りにも不満派がたくさんいます。決まってしまったものは仕方ないのですが・・・

私としては、ヨーテボリでいま流行の
「Go:teborg University」にすれば、とも思ってしまいます。(ごめんなさい、冗談です)
Unknown (Yoshi)
2010-09-25 00:43:02
> イェーテボリにするしかないですね。

これは誰が始めたのか分かりませんが、Linkopingなどのkopingの部分を「シェーピン」と訳すのと同様に悪訳だと思っています。正確な発音を日本語の母音であらわすのは無理なことですが、できればなるべく近い表記を使いたいと考えています。日本人の方が「イェーテボリ」、や「リンシェーピン」と何度も言っているのに、スウェーデン人に伝わらない、という状況を何度か目にしています。

オフィシャルなもの一つを決めて、それに統一することには、私自身はあまり関心がありません。
Unknown (Yoshi)
2010-09-25 00:56:38
>スウェーデン民主党の支持者の中には
>若者も多くいると聞きました.学校で
>生徒にやらせる模擬投票の結果では,
>60%の票を得た学校もあるそうです.

投票権のない学童が行う模擬投票は、実際の政治を学ぶ上で非常に良い制度だと思うのですが、今回はSDの躍進が本選挙で予想され、アミューズ面的にSDに投じた学童がかなりいたようですね。もともと、若い世代は左翼や右翼、もしくは、動物愛護・環境などの、どちらかというと極端な傾向に流れることは、以前からあったのですが、今回はそれ以上に極端な結果になってしまいました。

高校の教師をしている私の友人も、模擬投票の結果を見て、今こそ、人権や平等といった基本的な価値観に関する議論をクラスで行っていく必要がある、と意気込んでいたのが、印象的でした。
こんにちわ^^ (山川恵子@いろいろですね^^)
2010-09-26 17:44:05
ちょっと気になる記事があって、読んでいました^^

また、時間がある時に読みに来ますね^^

頑張って下さい^^
大変残念です (子豚姫)
2010-09-26 21:14:35

表記のことですが、私はYoshiさんのように国際的に活躍している方だからこそ、お願いしたかったのですが。表記も名前も大切と考えます。私自身は以前のヨテボリから日本のスタンダードに合わせてイェーテボリに変えました。「ヨテボリとイェーテボリは同じか?」と聞かれたこともあります。Göteborgの表記のわずらわしさ、おまけに英語名、これでうちの大学はものすごく損をしていると思います。
Unknown (Yoshi)
2010-09-26 22:37:18
表記のことですが、上の議論の中で、ヨーテボリ大学の英語表記に関する議論と、ヨーテボリの日本語表記に関する議論とがごちゃごちゃになっていると思います。

まず、英語表記に関してですが、私が返答の中で示したかったのは、Univ. of Gothenburgという「公式な」英語表記がなかなか定着しないのは、そもそも大学自体が「公式」だとする英語表記をコロコロと変えてきたことが問題だということです。

ただ、確かにそのような経緯はあれ、大学がそう決めた以上は、これからはこの大学で働くすべての研究者がその表記を使うべきだとは思いますが。

次に、日本語の表記ですが、イェーテボリと併記はすることはあっても、私自身はヨーテボリという表記を今後とも使うつもりです。確かに、日本のメディアなどの一部では、前者を使っているところも多いようですが、かといって、ヨーテボリという表記も市民権は相当得ているように感じます。いずれにしろ、この議論に関しては私はあまり関心がありません。

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