スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「スウェーデンの電力会社の本社は原発の敷地内にある」は本当か?

2014-10-18 20:24:02 | スウェーデン・その他の経済
この記事のタイトルにある噂話を震災以降、何度か耳にしてきた。私は一部の人たちの間で広まっているに過ぎないと思い、これまでは放ってきた。しかし先日、ある新聞記者の方が「今でも日本で耳にする」とおっしゃっておられたので、その事実関係についてはっきり書いておこうと思う。


Twitterで検索してみても出てくる


「スウェーデンの電力会社の本社は原発の敷地内にある」と聞くと、なるほど、東京電力の本社福島第一、第二原発柏崎刈羽原発と同じ場所に位置していたり、中国電力の本社島根原発の敷地内に位置しているような状況を想像する人も多いだろう。しかし、そういうわけではない。

結論から言えば、この話は間違いである。ただ、そのような誤解が生まれた理由が理解できなくもない。この噂話の張本人は、スウェーデンでは電力会社原発管理会社が異なることを無視し、日本のように一つの電力会社がそれぞれの原発を直接的に管理・運転していると思い込んでいるのであろう。

「スウェーデンの原発管理会社の本社は原発の敷地内にある」と言えば正しい。しかし、それがそのまま「電力会社の本社も原発内にある」ということを意味しないことに注意しなければならない。


【 複数の電力会社で一つの原発を所有 】

スウェーデンの場合(そして、おそらく他のヨーロッパの一部でも)、複数の電力会社が出資して、原子力発電所を建設してきた。大規模で長期的な投資を必要とする原発がはらむ経済的リスクを分散させるためである。そして、その後の運転や維持管理も複数の電力会社が共同で設立した「原発管理会社」が請け負っている。

原発管理会社は、その原発の運転と維持管理に特化した会社であるから、その本社がその原発内にあることは何の不思議でもない。遠く離れた首都ストックホルムにあっても、全く意味が無い。

一方、原発に共同出資しているそれぞれの電力会社の本社は、ストックホルムなどの大きな街に立地している。電力会社は、原発だけでなく水力発電所やコジェネ、地域熱供給、一部の送電線の管理などの多様な業務も持っているからである。

スウェーデンには国内4ヶ所に合わせて12基の原子炉があるが、その運転と所有関係について図解してみた。(一番下に示したバーシェベック原発の2基は政治決定により既に運転が停止し、現在は解体に向けた準備が進められている)



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この図から分かるように、それぞれの原発には原発管理会社が存在し、運転や管理・維持を行っている。そして、その会社は複数の電力会社によって所有されている。図中に示したは、株式の所有割合である。ABというのはスウェーデン語では「アーべー」とよみ、Aktiebolag(株式会社)の短縮形である。間違っても、どこかの国も総理大臣のことではないw。


【 原発の所有に関わっている電力会社は4社 】

この図の右端に示したとおり、スウェーデンの原発の所有・運転に関わる電力会社は4つだが、このうち、Vattenfall(ヴァッテンファル)Fortum(フォートゥム)E.On(エーオン)の3つがスウェーデンの電力(発電)市場における主要大手である。

Vattenfallはスウェーデンの産業化にともなう電力需要の増大に応えるために、水力電源の開発を目的として1909年に設立された国策事業体であり、第二次世界大戦後の高度成長期に電力需要がさらに増大してくると、新たな電源として原子力に着目し、多数の原発を建設してきた。1992年に株式会社化されたものの、今でも株式の100%をスウェーデン政府が所有している。

Fortumフィンランドの電力会社であり、株式の過半数はフィンランド政府が所有している。スウェーデンの電力・エネルギー市場が1990年代前半に自由化されたあと、主にストックホルム地域の自治体が所有していた電力・エネルギー公社や企業の自家発電施設などを次々と買収する形でスウェーデンに進出した。

E.Onドイツの大手電力・エネルギー会社。スウェーデンにはもともとSydkraft(シードクラフト)という電力・熱供給会社があった。この会社は1906年にスウェーデン南部のスコーネ地方の自治体が共同出資して設立したものであり、高度成長期には、先述の国策事業体であるVattenfall(ヴァッテンファル)が原発の建設を議論しているのと同じ時期に、Vattenfallとは別に建設計画を立てて原発を発注。この時に発注された原発(オスカシュハムン原発1号機)はVattenfallが建設を進めていた原発よりも完成が早かったため(1972年)、スウェーデン初の商業用原子炉となった。その後、1990年代はじめに電力・エネルギー市場が自由化された後、SydkraftE.onに買収された。

4つ目のSkellefteå Kraft ABは、スウェーデン北部にあるSkellefteå(フェレフテオ/シェレフテオ)市が全株を所有する電力・エネルギー公社。小さな地方の町の公社であるものの、水力発電所をいくつか所有しているため資金力があり、1970年代の原発建設においても出資を行っている。

この電力会社4社の本社は、原発とは全く関係ない場所にある。スウェーデン企業であるVattenfallはストックホルムのソルナという地区にある。外国資本であるFortumE.Onはそれぞれの国に本社があるが、スウェーデンでの事業については子会社を設立して管理し、その本社はストックホルムやマルメに置かれている。


【 複雑な所有関係 】

スウェーデンの原発の所有関係は、この図で示したとおり非常に複雑だ。フォッシュマルク原発は3つの企業によって所有されているが、2つ目のMellansvensk Kraftgrupp ABはさらに3つの企業に所有されており、結局、図に示した電力会社4社は直接的もしくは間接的にこの原発の部分所有者になっていることがわかる。E.Onに至っては、直接的にも間接的にも出資している。

オスカシュハムン原発リングハルス原発は、電力会社2社によってそれぞれ所有されている。

既に運転が終了したバーシェベック原発は、リングハルス原発を運転しているRinghals ABによって100%所有されているが、既に書いたとおり、この会社は電力会社2社によって共同所有されている。


【 まとめ 】

ここまで読めば分かるように、原発の敷地内にあるのは原発管理会社の本社であり、電力会社の本社ではない。日本の原発だって、東京電力や東北電力、中国電力などそれぞれの電力会社には、原発の管理を担当する部署(子会社?)があり、その本部はそれぞれの原発敷地内にあるだろうから、結局同じことではないだろうか?(← 間違っていれば指摘していただきたい)

だから、私はこの噂話を聞くたびに、「最初に言い出した奴、出てこい!」と言いたくなる衝動に駆られる(笑)。

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