スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

給与カットで合意

2009-03-04 19:32:24 | スウェーデン・その他の経済
製造業のブルーカラー従業員を組織する労働組合Metall(メタル)が、思い切った行動に出た。一時的な自宅待機と給与(月給)の切り下げに関して、製造業の業界団体と合意に至ったのだ。

合意の内容はこうだ。減産のために勤務時間が短縮され、従業員が自宅待機となった場合、勤務時間の減少幅に応じて、最大20%の給与カットを認める、というものだ。

だから、例えば
- ある企業が週5日間のうち、半日だけ生産活動をストップし、従業員を自宅に帰す場合は、給与を10%カットできる。
- ある企業が生産活動を週2日にまで下げ、残りの3日のうち1日を社内教育に使い、最後の2日間を自宅待機とする場合、給与は20%までカットできる。
ということになる。

二つ目の例では、企業としては40%カットしたいところだが、労組側はそこまでは認めない。あくまでも、最大20%までということだ。

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これまで労働組合は、給与のカットは絶対に認められない、と拒んできた。いくら減産となり、勤務時間が短くなっても、それに応じた給与カットを認めてしまっては、従業員の生活に大きな支障が出るからだ。労働組合の主張としては、企業側は好景気の時に多くの利潤を蓄えてきたのだから、逆に不景気の間は従業員の生活を責任を持って保護して欲しい、ということだった。企業側にとっては、勤務時間を短縮しても、これまでと同じ給与を払わなければならず、時間給は実質的に上昇する結果となってしまう。

この結果、どうなるかというと、企業の側は(1) 不況のときも従業員を解雇せず、それまでと同額の給与を払い続けるか、(2) 解雇するかという二者択一を迫られることになる。

以前伝えたように、同じVolvoの工場でも、ベルギーの工場では解雇がこれまでほとんどなかったのに対し、スウェーデンでは昨秋から相次いできた。その主な原因は、ベルギーでは企業が従業員を一時待機とした期間の給与を国(もしくは何らかの基金)が肩代わりしてくれるためだった。従業員にとっては、フルタイムの給与が支払われる上、雇用が維持されることになるし、企業としても貴重な労働者を手放す必要がなく、景気がいざ上向きになったときに、すぐに増産体制に移ることが可能になる。

以前の記事:2009-01-15:解雇を防ぐ制度

実はスウェーデンにも、同様の制度が1994年頃まで存在したが、なくなってしまった。だから、現在の世界不況に際して、労働組合側は一時的な自宅待機を支援する制度を復活するように国に求めていたのだった。

しかし、今の政権はそれをずっと拒んできた。その間にも景気は悪化をたどっていく…。


過去数ヶ月の解雇の通告件数(ただし通告から実際の解雇までには勤務年数に応じた猶予期間が設けられている)

スウェーデンの企業としても、(2)の解雇という選択肢は、できれば避けたい。せっかく社内で培ってきた技能を一度手放してしまえば、それを新たに手に入れるためには膨大な費用がかかる。でも、減産による自宅待機の期間中の給料まで払わなければならない(1)の選択肢を選ぶのも避けたい。下手をすれば企業自身が倒れてしまう。だから、給与カットという提案は企業のほうから出されていた。

そして今回、製造業のブルーカラーを組織する労働組合がそれを飲むことにしたのだった。労働組合としても苦渋の決断だが、解雇よりはまだマシ、という判断に至ったのだ。一方、企業側にはカット幅が最大でも20%までしか認められていないが、それでも全額の給与を払うよりはマシ。そして、双方が妥協したのだった。

ただし、一時的な措置に過ぎず、この合意の発効期間は2010年3月31日まで。それから、今回の合意は労使間の中央交渉で大枠が決められただけ。勤務時間のカットと給与のカットを実際、どれだけ行うかについては、それぞれの職場で労使間の交渉が行われる。

(ちなみに、スウェーデンでは製造業でも日本のような派遣社員はない。派遣企業を通じて、それぞれの企業に送られた契約社員はいるが、同じ仕事なら正規社員と同じ給料が支払われるし、社会保険料も企業がちゃんと支払う。賃金に関しても、正社員と同様、時間給ではなく月給でもらっている。)

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今回の合意は、他のブルーカラー労働組合やホワイトカラーの労働組合にも圧力を与えそうだ。今のところ、他の労組は「うちはそんなことはしない」と突っぱねているが…。

(昨日はホワイトカラーの労組で法務を担当する友人と昼食を約束していたけれど、メディア対応で時間が取れないらしかった。)

合意についての記者発表(英語)

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