スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

新しい保守党(穏健党)? (1)

2006-10-14 18:55:40 | 2006年9月総選挙

スウェーデンの総選挙では、これまでの赤い政権青い政権に変わった、つまり、左派ブロックである社会民主党・環境党・左党の(閣外協力)政権が破れ、右派ブロックである保守党・自由党・中央党・キリスト教民主党による中道保守(右派)政権が誕生したのだ。

スウェーデンといえば、歴史的に労働運動や労働組合をバックにした社会民主党が強く、これまでの福祉国家の発展も主に彼らのイニシアティブによって成り立ってきた。では、今回の政権交代は、スウェーデン国民自身が、スウェーデン型の福祉国家モデルを否定してしまった、ということなのか? これで高福祉・高負担の社会には終止符が打たれ、アメリカ並みにはならないとしても、他の平均的な先進国と違いがなくなってしまうのだろうか?

と、判断するのはちょっと時期尚早だ。というのも、

① 今回の選挙では、もともと社会民主党などの左派の支持者が、右派の保守党の支持に回ったが、それは彼らがスウェーデン型の福祉国家社会に「NO!」と言ったからではなく、長年政権に就いてきて新鮮味がなくなった社会民主党、とくに近年、傲慢な態度ばかりが目立つようになった首相Persson(パーション)に嫌気がさしたから、と見たほうがいい。

② それだけでなく、保守党のほうもガラッと衣替えし、左派(中道左派)の人々にもウケる党へとイメージ転換をすることに成功したこともかなり大きい。もともと保守党は以下に書くように、保守主義と新自由主義(市場自由主義)を掲げる政党だったのだが、Reinfeldt(ラインフェルト)首相のリーダーシップのもとで、大きく路線転換をし、税を財源とする福祉政策、社会政策、雇用政策の重要性や、労働者の各種権利や福利の重要性をおおっぴらに認め、大幅な減税や福祉国家の削減という、これまでの伝統的な保守党の主張の多くを撤回してしまったのだ。
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保守党、もしくは穏健党と呼ばれるModeraternaは、 本来は新自由主義市場自由主義を信奉する人々や、保守主義を掲げる者によって構成されてきた。

保守主義(ごく簡単に)・・・現状に満足している、もしくは、我々が生きている社会は複雑で小さな変化でもそれがもたらす帰結は予測不能という理由から、現状維持に努め、変化を好まない社会観。現代社会という文脈の中でいえば、家族内の秩序を維持しようとする家族主義や、社会の中に現存する階級を維持しようとする考え方、宗教をはじめとする各種伝統や価値観を維持しようとする考え方など。保守主義の根底にある考え方は、人間というものはそもそも能力的に不完全なものであり、その不完全さにもかかわらず日々の生活をそれなりにやっていくために、長い時間をかけて伝統や社会制度が(自然発生的に)形成されてきた、ということを重視する。そんな伝統や社会制度は完全ではないにしろ、そのおかげで社会に秩序ができ、我々人間はそのもとで曲がりにも日々を営んで来れたのなら、何故わざわざそれを壊す必要があるのか、その帰結は(フランス革命や近代ドイツ史が示したように)予測不可能で社会は大混乱に陥る、と考える。

新自由主義(ごく簡単に)・・・自由主義というイデオロギーがそもそも、王権・国家・伝統・宗教的な束縛からの個人の解放や、個人の所有権の確立を訴えるところから始まったのに対し、新自由主義はその流れを汲みつつも、私的所有権の保護と、過度の規制から解放された市場経済の重要性をことさらに強調する。つまり、国家が税金を徴収して所得の再分配をおこなったり、国営企業や各種の規制などによって市場経済に介入するのではなく、国家はその役割を警察や国防、裁判所などの必要最小限にとどめるべきで、それ以外のことは人間同士の自由な合意によって成り立つ市場経済がうまく調整してくれる、というもの。小さな国家(夜警国家)、市場自由主義 (market liberal)、市場万能主義などの言葉で擁護されたり批判されたりする。自由主義の考えの中でも、社会的自由主義 (social liberal) と呼ばれる考え方と対立する。

言ってみれば、日本の自由民主党と似たイデオロギー的背景を持つ党なのだ。
(続く・・・)


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