スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

WikileaksがNATO軍の極秘文書を暴露(2)

2010-08-17 06:59:17 | コラム
アフガニスタンのNATO軍の機密情報を公開し、世界中の人々の知る権利に応える「正義」を強調したWikileaksの設立者Julian Assangeだったが、アメリカ国防総省とは別のところからも批判が舞い込んできた。

それは、Amnesty Internationalや、国境なき記者団、さらに現地で人道的救援活動を行うNGOだった。彼らがWikileaksに向けた批判は次のようなものだった。「公開された文書の中には、アフガニスタンでNATO軍に協力している地元の人々の名前もある。それがタリバーン勢力の手に渡れば、タリバーン勢力が彼らが殺害する恐れがある」 NGOらはこう言って、文書をネット上から削除するように要請したのだった。実際のところ、タリバーン勢力は公開された文書に目を通していくと発表していた。

しかし、Wikileaksの創設者Julian Assangeは要求をすべて跳ねつけた。自分たちの役目は情報を公開すること。その内容に問題があると言うのなら、その部分の特定と削除にあなた方NGOが責任を持って協力すべきだ、というコメントをしたのだった。また、「公開された情報によって兵士の命が危険にさらされる」と批判する国防総省に対しても、公開した情報の内容のチェックと整理に力を貸すよう、要求したのだった。

以下のインタビューは彼が先週ストックホルムを訪れたときに、スウェーデン・テレビ(SVT)が行った独占インタビューだ(英語です)。



つまり、自分たちは情報を公表したことによる帰結に対して責任を負わない、と言っている。自分たちは小さな組織であって、内容を細かくチェックしている時間などない。そのようなことに時間を割くよりも、情報の公開のほうが優先だ。新たに人命が失われるリスクよりも、これまでにたくさんの人命が失われたことを公開することのほうが重要だ。彼が言いたいのはこういうことらしい。

これでは情けないと思う。彼の掲げる「情報の共有による民主主義の発展」という大義名分が台無しだ。同時にジャーナリズムとは何かを考えさせられる。ジャーナリズムとは、ただ単に情報を垂れ流せばいい、ということではなく、流した情報に対する出版者・発信者としての責任を負うことも意味している。極秘とされた情報をただ暴いたからといって、それがジャーナリズムだというわけではないだろう。

Wikileaksの設立目的の一つは、情報の透明性を高めることで民主主義の発展に貢献することだという。しかし、今回のように未整理の情報を、内容の吟味公表がもたらす帰結の判断をすることもなく、一方的に垂れ流すだけでは、それが本当に民主主義に貢献するのだろうか。場合によっては、それが人々に犠牲をもたらすことだってある。

「情報はすべての人にオープンにされるべきだ」というのは正論だけど、出版者もしくは情報の発信者としての責任を負うつもりがないのなら、ジャーナリズムの意味を履き違えているとしか思えない。そこに、幼さが感じられると思う。

むしろ、彼はもっと賢い方法で今回の情報を公表すべきだっただろう。実は、Wikileaksのネット上での公表にあわせて、The Guardian, New York Times, Der Spiegelなどの主要紙もこのNATO軍の資料を公開した。彼らは公開に先駆けてWikileaksと手を組んでいたのだ。しかし、彼らは未整理の大量の情報をそのまま公開することはしなかった。その中から価値のある部分を選んで記事にしたのだった。もちろん、資料の中にある個人名など倫理的に問題のある部分を公表することはしなかった

だから、Wikileaksが「自分たちには吟味する時間も予算もない」と言うのであれば、自分たちでそのまま公開するようなことをせず、資料をそのような確立したメディアに預けて吟味してもらい、彼らを通して資料の公開をするという手もあったはずだ。

Wikileaksの活動を振り返ってみると、彼らが暴いた情報の中にはアメリカ軍によるイラク民間人の殺害など、大きな意義を持つものもあるが、一方で、ハッキングされた政治家の個人メールの公表など、プライバシーを侵しているものもいくつかある。イギリスの極右政党BNPの党員名簿のケースだって、たしかに問題がある政党かもしれないけれど、支持する政党を選ぶ自由は誰にでもあるわけで、それを入手してこれ見よがしに暴くという手法にも問題があるかもしれない。「正義」と言う言葉を高らかに謳う一方で、パパラッチのような覗き見根性が見え隠れしないでもない。

彼の発言を聞きながら、そんなことを感じた。

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