スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ノルウェーの地方選挙

2011-09-13 00:49:25 | スウェーデン・その他の政治
今日、月曜日はノルウェー全土で地方選挙が一斉に行われた。

極右青年による7月22日の虐殺事件の後であるため、昨日まで続けられてきた選挙キャンペーンでは各党は派手なパフォーマンスなどは控え、ずいぶん静かなキャンペーンとなったというが、一方で例年は60%台にしか達しない地方選挙の投票率が大きく伸びることが世論調査などから予想されてきた。

悲惨なあの事件の後、ノルウェー労働党の党首であり首相でもあるイェンス・ストルテンベリは、ノルウェー社会を成す様々な人々の願いを代弁する形で「このような事件が将来再び起きないようにするための鍵は民主主義の徹底だ」と訴えた(9.11後のブッシュ大統領の、武力でもって首謀者に思い知らせてやる、という演説とは対照的である)。彼のこの言葉は高く評価された。そして、自分の持つ一票を有効に活用し、自分の意思を社会に示すべきことの重要性に改めて気づいた有権者が増えたのではないかと考えられる。

確かに、今回の事件に憤りを感じ、そのような行為は絶対に許せないという意思を社会に対して示したいならば、Facebookのグループに参加するよりも、自分が良いと思う政党にきちんと票を投じたほうがより確実な意思表明となる。それに、投票をしない、という選択も、自分の意図しない政党を勝たせるという影響力を持ちうる。だから、例えば、前回の国政選挙で大躍進したポピュリスト(人気取り)政党である進歩党を抑えたいならば、きちんと票を投じてほしい(進歩党は移民排斥なども掲げ、犯人も以前この党に所属していた)。

そう考えたのは私だけではない。ノルウェーの世論調査によると進歩党の支持率が大きく落ち込んでいる。一方、国政与党の第一党である労働党は支持率が大きく伸びている。これは、危機に際して迅速に対応し、ノルウェーの人々の声をうまく代弁することができたストルテンベリ首相のリーダーシップに一因があるだろう。また、事件後の興味深い動きとしては、主要政党の青年部会に加入する若者が増えたことである。事件の犠牲者の大部分は労働党の青年部会のメンバーであり、島の合宿に参加していたところを狙われたわけだが、若いうちから政治にかかわろうとしてきた彼らに対する共感が高まったことが原因ではないだろうか。


この記事を書いている月曜日深夜の時点では開票作業がかなり進んでいるが、労働党の得票率が33%と、前回よりも4%ポイントほど伸びたとのこと。一方で、保守党も大きく躍進し27%(+8%)となる見込みだという。案の定、今回の地方選挙における一番の敗者は、進歩党となるようだ。

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2 コメント

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Unknown (Yuya Ogura)
2011-09-15 01:05:46
ご無沙汰しています。帰国後も、いつも記事を拝見させていただいています。

既にご覧になっているかもしれませんが、一か月ほど前にNHKの番組のなかで「右傾化する欧州」と題した、先日のノルウェーの事件と関連させながら、欧州の一部の国での右派の躍進を取り扱った特集がありました。確か、その特集の中で「支持獲得の為に移民排斥は分りやすい、というのは右派躍進の理由の一つ」という様な旨をある政治学者が発言していたと思います。しかし、この選挙の事実からやはり行き過ぎた行為は逆効果だということが分ります。このノルウェーでの事件からの一連の流れが、特集の中で「右傾化」と紹介されていた他の欧州の国、例えばスウェーデンなどの世論に影響を及ぼすなら、どのようなものになるか興味深いです。
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Unknown (Yoshi)
2011-09-16 10:57:40
昨晩のデンマーク国政選挙でも極右が後退し、左派連合政権が誕生しましたが、極右政党は言うことがいつも同じで、基本的に「切り札」が一つしかないので、ニュース性に乏しく、人々の関心が長続きしないのでしょう。

もちろん、これからPRに力を入れ、前回のスウェーデンの国政選挙前のようなパフォーマンス(差別的な宣伝動画など)をして、人目を引くことに成功すれば風向きはまた大きく変わるでしょうが。

それから、極右の躍進やかれらの分かりやすい政治主張が世論に受け入れられるかどうかは、経済の動向や失業率、そしてそれらがもたらす人々の不満の度合いに大きく依存しています。日々の生活が満ち足りていれば、人々は少しは寛大になれるものですが、毎日様々な不安を抱えざるを得ない世の中であれば、人々はそのやるせなさの吐き所を求めており、賢い連中はそういうときに分かりやすい「餌」を与えて、人気を一気に獲得するという構図は、リーマンショック以降もハンガリーなどで象徴的に現れていましたし、スウェーデンでもそういう傾向があったと思います。
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