スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ノルウェー議会選挙の開票中継

2009-09-15 08:33:56 | スウェーデン・その他の政治
”Jens eller Jensen?”

今日、月曜日が投票日であるノルウェー議会選挙での注目はこの「イェンスかイェンセンか?」だ。イェンスとは現職のノルウェー首相であり労働党の党首でもあるJens Stoltenbergのこと。

それに対抗するイェンセンとは進歩党の党首Siv Jensenのことだ。さて、この進歩党とは現在、野党の第一党なのだが、ノルウェー政治の中で長い間、右派の中心的存在だった保守党ではない。実は、ここ10~20年ほどの間に急速に勢力を伸ばし、保守党を上回る数の議席を持つようになった新興の右翼政党なのだ。

現在、この進歩党が左派の労働党に次いで、議会の中で二番目に大きな政党となっている。ノルウェーもスウェーデン同様に、左派と右派のそれぞれで複数の政党が集まって「左派ブロック(赤緑連合)」「右派ブロック」を形成して連立形成による政権獲得を狙っているのだが、選挙前の世論調査では「左派ブロック」と「右派ブロック」がほぼ拮抗している状況なのだ。


(左から)進歩党、保守党、労働党の党首の風刺画


ノルウェー議会(Stortinget)の総議席数は169議席。だから、85議席が政権獲得のラインとなる。世論調査によるとまさに84~85議席のところで左派と右派が争っているのだ。

選挙の争点は、社会保障・福祉、環境・温暖化問題、移民・難民政策、税制・・・。進歩党はこの中でも移民・難民政策に主な焦点をおいて、移民・難民の大幅な制限や排斥、そして海外援助の大幅な削減などを訴えている。世界的な不況にもかかわらず失業率が4%ほどに過ぎないノルウェーだが、社会や経済が抱える様々な問題の根源として移民や難民を槍玉に挙げる「分かりやすい」政策主張がかなり多くの有権者に受けているらしく、得票率は23%近くまで達しそうな勢いだ。

「分かりやすい」ポピュリズムな政策主張といえば、進歩党は移民・難民政策のほかにも、経済政策で「興味深い」主張を行っている。石油輸出による収益をもっと歳出に回して、その分を減税すべきだと主張しているのだ。

石油の採掘が80年代に始まって以来、ノルウェー政府は石油輸出によって多額の収入を得ているが、石油で稼いだお金をそのまま歳出に使って経済に流し込むのではなく、公的石油基金に外貨のまま積み立てて大切に管理してきた(確か2006年以降は公的年金基金に編入されたはず)。そして、国の歳出に用いる際にも主に運用益のみを使い、その額が最大でも基金の4%を超えてはならない、という厳しいルールを定めてきた。だから、たとえ石油輸出がある年に膨大な利益を上げたとしても、国がそのまま歳出に回したり、それに相当する分を減税したりすることはできない。

もし、そうしてしまうとどうなるか・・・? 国内の生産性上昇以上に経済にお金が流れてしまうとインフレにつながる上、外貨をノルウェークローネに替える過程で為替レートがクローネ高に動くために、石油産業以外の輸出産業が不利を被ることになる。過去の例を見ても、特に発展途上国が一次産品(原油・ダイヤモンド・コーヒーetc)の一時的な価格高騰をいいことに歳出を増やしたがために、経済が傾いてしまったという例がよくある。オランダも70年代に石油や天然ガスの採掘で一時的な経済ブームを経験したが、資源が底をついた頃には他の輸出産業が大きな被害を被っていたという失敗例がある。このことから、このような大失敗は俗に「オランダ病」と呼ばれている。

しかし、そんな懸念にお構いなく、ノルウェーの進歩党は石油輸出の利益をもっと国庫につぎ込んで歳出を増やしたり、減税を行うべきだと主張しているのだ(笑)!


進歩党の党首

労働党の党首(スローガンはAlle skal med。スウェーデンの社民党となぜか同じ(Alla ska med))

――――――――――

夜8時半頃に疲れて帰宅してから、ノルウェーの開票中継を見ていた。かなりスリリングで、開票作業が始まった当初の予想は、左派グループが85議席、右派グループが84議席と際どいところで争っていた。その後、左派が88議席まで伸ばしたり、再び85議席まで押し戻されたりしていたが、この記事を書いている深夜1時の時点では開票作業はほぼ終わり、労働党(AP)・社会左党(SV)・中央党(SP)からなる左派ブロックが86議席、進歩党(FrP)、保守党(H)、自由党(V)、キリスト教民主党(KrF)からなる右派ブロックが83議席で確定しそうだ。


左派が過半数を獲得したことで、現職のJens Stoltenbergが続投することになる。もし右派が過半数を取っていれば面白いことになっていた。というのも、自由党(V)キリスト教民主党(KrF)は右翼政党である進歩党(FrP)と手を組むことを拒んでいたからだ。一方、保守党(H)進歩党との連携の可能性を否定してはいなかった。

だから可能性の一つとしては、進歩党と保守党が手を組みながら、他の2党をうまく味方につけた上で、右派の第一党である進歩党の党首Siv Jensenが首相になったことが考えられる。もう一つの可能性は、進歩党を除く右派3党が連立を形成し、保守党の党首Erna Solbergを首相とする非過半数政権を作ることだ。この場合、政権運営のうえで進歩党の閣外協力が必要となるため、この党がキャスティング・ボードを握ることになっただろう。

いずれにしろ、進歩党が大きな影響力を持つ事態になっていた。左派が過半数を取ったことで、それがかろうじて回避されたわけだ。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あやうい (里の猫)
2009-09-15 15:56:05
あやういところで保守を抑えましたね。
でもヨーロッパの最近の動向、何か不気味な感じがします。
どうして右翼がこんなに強くなってしまったのだろう。
対岸の火事となんびりしていられない気持ちです。
欧州全体で移民のインテグレイトに失敗しているということなんでしょうか。
Unknown (Mika)
2009-09-15 19:11:07
記事をいつも参考にさせてもらっています。デンマークの新聞で、進歩党は、デンマークのデンマーク国民党と類似点が沢山あるといったようなことが書かれていました。デンマークは、現政権で国民党が閣外協力していますが、ノルウェーでは、強固に拒まれているのですね。
おっしゃっているように、進歩党が大きな影響力を持つことになっていたら、どうなっていたのだろうと、興味深く思いました。
Unknown (Yoshi)
2009-09-16 07:13:05
>進歩党は、デンマークのデンマーク国民党と類似点が沢山あるといったようなことが書かれていました。デンマークは、現政権で国民党が閣外協力していますが、ノルウェーでは、強固に拒まれているのですね。

政策主張や比較的大きな支持率を得ている点などで、似ているのではないでしょうか。ノルウェーと行ったり来たりしながら政治や経済の研究をしているスウェーデン人の友達が何人かいるので、今後はしばらくこの話題で盛り上がりそうです。

スウェーデンの右翼政党「スウェーデン民主党(SD)」はデンマークやノルウェーに比べたら、3%~4%ほどの支持率しかないという点で、まだまだ「かわいい」ものです。里の猫さんが以前指摘していたように、海賊党が「不満票(missnojesroster)」を集めてくれているおかげで、SDの支持率が抑えられているという点は、来年の総選挙に向けて重要な点かもしれません。

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