スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

19歳の国会議員

2005-09-22 21:35:14 | コラム
画期的な社会保障政策や環境政策、男女平等政策で世界の国々を魅了してきたスウェーデンであるが、この斬新さやダイナミックさの背後にある要因の一つは若者の力の強さだと思う。いくら若くて経験が比較的少なくても、発言する場を社会の中で与えられ、それに対して周りの大人も耳を傾けざるを得ない。若者は自分の声が聞いてもらえると分かれば、より積極的に自分を取り巻く社会の事柄に関心を持つであろう。一方で、若い間はずっと下積みに甘んじなければならず、年を取ってから地位についてやっと影響力の行使ができる、というような社会では、若者は社会に対して無関心になってしまうし、斬新なアイデアも生まれてこない。

スウェーデンで生活してきて思うのは、政治の世界でも、大学の世界でも、それ以外の領域でも、個人としてのアイデンティティーが、集団の中でのアイデンティティーよりも重視されるということだ。若者でも年寄りの目を気にせずに、比較的自由に自分の意見をしゃべっているのはとても興味深い。私はどう思う、と自己主張がきちんとできなければやっていけない。それに対し、日本では一人一人を個人として捉える代わりに、やたらと、あの人の師匠は誰で、あの人は誰々の弟子で、とか、あの人は何々派に属する人で・・・、自分はどこどこの企業の人間で、などなど、とその人の縦の関係とどのグループ・団体に属するのかということが重視される。こんなことは、スウェーデンではあまり聞かれない。私自身も、そのような“付随的”な情報には興味がない。その人自身がどんな人間でどんな考えを持っているか、ということこそが重要だと思う。それを説明する手助けになる限りにおいて、そのような“付随的”な情報が意味を持ってくるのだと思う。

スウェーデンでは、若者でも社会に影響力を行使することができる一つの例として、若い国会議員がたくさんいるということが挙げられる。スウェーデンの選挙制度は比例代表のみなので、ある政党の中で実力を見せ、認められ、党の比例代表名簿に名を連ねることができれば、20歳で国会議員というのも夢ではない。これが、日本のような小選挙区制度で、例えば60歳になるベテラン議員の対立候補を打ち負かさないと当選できないのであれば、相当に難しいだろうが。

2002年の議会総選挙で、記録が更新された。19歳の国会議員が誕生したのだ。Gustav Fridolinという男の子で環境党(緑の党)に属する。スウェーデンでは国会の政党(全部で7つ)それぞれに青年グループが存在するが、この男の子は環境党の青年グループに積極的に関わってきた。なんと12歳の若さで母体である環境党の党大会に出席し、演説をしたという。その後、1999年から2003年にかけては青年グループの代表を務めるに至る。

2002年の議会総選挙に先駆けて、党の比例代表名簿が作成された際には、彼の属するストックホルム地区で第2番目に選ばれた。党としては、若者の間で人気のあった彼を選挙活動の前線に立たせることで、若者の票を確保したいという狙いもあったのかもしれない。環境党は5%前後の支持率しか得られなかったが、結果として彼は議席を獲得するに至った。

選挙後のインタビューでこう述べている。
「これまで政治に関わってきた中でも、まだ若いということで、周囲の大人から軽んじられることが多々あったが、若者の有権者の代表として、積極的に発言していくことは大切なことだと思う。伝統や慣習に挑戦していくのは、ワクワクすることだ。エリート政治家がたくさんいるのは問題だ。有権者によって選出される議会のメンバーは、有権者をもっと反映したものであるべきだ。だから、もっと若者がいてもいいし、女性議員や移民の背景を持つ議員がもっといてもいいと思う。」

スウェーデンの歴史上で一番若い国会議員として、これまで注目を受けてきた。自ら法案を提出したり、議会内外で(過激な)パフォーマンスを披露して、荒波を立てることもあった。そして、数週間前、こんな決意を記者会見で述べた。
「次の任期を終えたら、国会から退くつもりだ」
おいおいおい、早々と引退宣言か、と思いきや、真相はこうだ。
「政治家の中には何年も何十年もそればっかりやっている人間がいるが、それはよくない。他の職業にも就いて、違った経験もしなければ、一般の市民との意識の格差はますます広がっていくだけだ。草の根の運動と、現実感覚、そして、政治家としての仕事がしっかりと繋がっていれば、このまま議会にとどまることも考えられるけれども、現実はそうなっていない。」

これはもっともな発言だと思った。彼が当選当時に語った、職業議員化に反対、という主張と一貫しているなと思う。若い政治家の中には、将来のキャリアを目論んで、権力目当てで政治家の道を選ぶものもいる。それに比べて、この環境党のGustavは社会を変えたいから政治に加わるんだ、という意気込みが伝わってくる。

日本の国会議員の平均年齢って何歳くらいなのだろう。一番若いのはどれくらいの年齢なのだろう。

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