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ああ遠州灘

「千秋楽結びの一番です。とうとう、この二人が全勝で、優勝をかけた大一番をむかえます」
 東の正横綱、大八州。威風堂々とした実に風格のある横綱らしい横綱。名横綱双葉山が理想とした「木鶏の境地」この境地に達したといっていい、まさに日下開山というにふさわしい現代の名横綱。その取り口もまさに横綱。どっしりと相手を受けて、深い懐に包み込んで、じっくりと料理する。典型的な横綱相撲。成績も全勝が当たり前。今のところ69連勝。双葉山の連勝記録に並んでます。この一番に勝てば双葉山をぬく。
 西の横綱、遠州灘。彼が横綱を張っているのは現代の謎といわれている。身長195センチ体重200キロ。堂々たる体格である。しかし相撲は堂々としてない。その巨体で小兵力士のようなワザをくり出す。猫だまし、引き技各種、ちょんがけ、などなど。一度、巨体ながら八艘飛びを見せたこともある。
 彼は日下開山ならぬ「非難した開山」「ひなんしたかいざん」と呼ばれる。引き技を多用し、たびたび立会いで変化して、姑息な技を連発。親方衆、ファン、マスコミからは、常に非難を浴びせられてきた。それでも十両から幕内、小結、関脇、大関ととんとん拍子に出世。成績は常に9勝6敗。たまに10勝以上することも。関脇の時にその「たま」が3場所続けてあって、10勝5敗を続けて大関になった。もちろん絵に描いたような「くんろく」大関。大関陥落しそうでなかなか陥落しない。そして、また「たま」が、こんどはなんと4場所続けてあった。直近の2場所は大八州と優勝争いを演じて、準優勝が2場所続けて、とうとう横綱に昇進した。
 さて、今場所の遠州灘がくり出した技。初日猫だまし。二日目不戦勝。三日目引き落とし。四日目はたきこみ。五日目反則勝ち。六日目不戦勝。七日目ちょんがけ。八日目不戦勝。九日目足取り。十日目小またすくい。十一日目足取り。十二日目相手勇み足。十三日目不戦勝。十四日目猫だまし。
 いかにも遠州灘らしい内容である。二日目の不戦勝は、前夜遠州灘が相手の胡椒山を飲みに誘い、大酒飲ませて二日酔いにしたといわれている。五日目の反則勝ちはわざと頭を相手の手に押し付け、マゲをつかませたといわれる。
「さあ、時間いっぱいです。国技館中のお客さん、いや、日本中の相撲ファンが大八州を応援してます」
「さあ、遠州灘、きょうはどんな手を使うか。どう変化するか。どんな卑怯な手を使うか。おや、両者まともに立ち会いました。がっぷり四つです。これはびっくりしました。遠州灘、まともな相撲を取っております」
「あ、行司が待ったをします。どうやら大八州のまわしがゆるんだようです」
「相撲再開です。おや遠州灘、大八州のまわしをつかんで、左右にゆさぶりました。ああ、大八州のまわしが外れました」まわしが外れると不浄負けといって負けとなる
 遠州灘、相手不浄負けで勝ち。横綱になって初めての優勝。しかも全勝優勝。横綱審議委員会の面々全員最大最強の苦虫をかみしめた。
「さあ、優勝した遠州灘関にインタビューです。遠州灘関、今のご気分は」
「最高!運も実力のうちさ。勝てば官軍。ようは勝ていんだよ。これから、オレは負けんぞ。ここに宣言する。オレは負ければその場で引退する」
 その後、遠州灘は勝ち続けて、とうとう70連勝。双葉山の記録を抜いた。もちろん。あらゆる姑息な技を駆使して、ずるいこと、あこぎなこと、卑怯なこと満載の相撲である。
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