goo

男はつらいよ 寅次郎忘れな草


監督 山田洋次
出演 渥美清、浅丘ルリ子、倍賞千恵子、松村達雄、三崎千恵子、前田吟

 シリーズ48作中、4作、最も多く寅さんの相手役を務めた、リリーさん初登場の作品である。マドンナ役としていろんな女優さんがいろんなキャラを演じてきたが、リリーさんはシリーズ屈指の名キャラではないか。名キャラというより、シリーズで最も重要なキャラだろう。その理由は後述する。
 このシリーズのマドンナ、美しく、上品、寅にとっては、あこがれの人、絶対に手の届かぬ高嶺の花、マドンナとはそういう存在のキャラである。典型は吉永小百合の歌子だろう。ところが浅丘のリリーは、吉永歌子的マドンナとは違う。そもそもリリーはマドンナではない。寅にとっては高嶺の花ではない。リリーは決して寅の上空にはいない。リリーは寅と同じ地面に立って、肩を並べて旅をしているのだ。だからリリーはマドンナではなく、渥美演じる主人公車寅次郎を補填する副主人公といった方が正鵠を得ているだろう。
「自由なる旅人」ただし、「自由」「旅」を得るために、あまりに多くのモノを失った。ゆえに深い哀しみを抱えて旅を続ける。
 寅も確かに「自由なる旅人」である。しかし、寅は普通の人が持っているもの、家庭、地道な職業といったものは持ちあわせていないが、自分の根っこはしっかり持っている。葛飾柴又という故郷を持っている。そこには、愛する妹、おいちゃん、おばちゃん、たこ社長、御前様たちがいる。いつでもそこに帰れる。ところがリリーにはそれがない。東京の下町が故郷らしいが、そこはほこりっぽい街で、ろくでもない母親がいるだけ。だれも聞いてくれない歌を場末のキャバレーで歌いながら、漂泊の旅を続ける。だから、寅よりもリリーの方が、このシリーズのテーマをより強く具現化したキャラではないか。
 そこで山田監督にお願いしたい。渥美清は亡くなった。しかし浅丘ルリ子は健在だ。その後のリリーさんを主人公にして、シリーズ49作目を創ってもらいたい。48作「紅の花」加計呂麻島のリリーの家に寅がいる所でこのシリーズは終っているが、寅はテレビ版「男はつらいよ」と同じく不慮の死をとげ、リリーの回想ではじまる映画を創ってもらいたい。リリーはいかなる旅をしていたか。渥美=寅=男はつらいよ、それと表裏をなすもう1本の映画、浅丘=リリー=女はつらいよ、この作品を創ってこそ、この「男はつらいよ」シリーズは真の意味で完結するのではないだろうか。リリーというキャラはこのシリーズにとってそれほど重要なキャラということだ。どうだろう山田さん。

男はつらいよ完結編「女はつらいよ リリー南へ向かう」
監督 山田洋次
出演 浅丘ルリ子、倍賞千恵子、前田吟、吉岡秀隆、後藤久美子、佐藤蛾次郎、夏木マリ 
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )