みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

賢治が封印した詩稿群(「第三集」以外)

2017-03-10 08:00:00 | 賢治作品について
 前回は、いわゆる「10番稿」

             <『新校本宮澤賢治全集第十六巻(上)補遺・資料 草稿通観篇』(筑摩書房)662p~>
のうちで、「春と修羅 第三集」所収の詩篇を少し調べてみたのだが、賢治が公表をなぜ封印したのかについては残念ながら私にはその訳がよく分からなかった。
 そこで今回は残りの詩稿群、「第三集」所収以外の賢治が封印した「10番稿」について少し見てみたい。具体的には前回同様、封印しようと思った理由と関連しそうな記述(=〔もう二三べん〕と似たような傾向の冷笑や慢を含む記述)があった場合には当該個所を抜き出してみることにした。

 ・第二集          506 〔そのとき嫁いだ妹に云ふ〕
     なし
 ・第二集          383 鬼言(幻聴)
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  おぢいさんの顔は
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  〔みんなは酸っぱい胡瓜を噛んで〕
   みんなは酸っぱい胡瓜を噛んで
   賦役に出ない家々から
   集めた酒をのんでゐる
   中で権左エ門の眼は
   眼がねをかけたやうに両方あかく
   立って宰領する熊氏の顔はひげ一杯だ


 ・第三集 詩稿補遺  〔降る雨はふるし〕
   たくさんのこわばった顔や
   非難するはげしい眼に
   保険をとっても辨償すると答へてあるけ


 ・第三集 詩稿補遺  心象スケッチ 林中乱思
   じぶんはいちばん条件が悪いのに
   いちばん立派なことをすると
   さう考へてゐたいためだ
   要約すれば
   これも結局 distinction の慾望の
   その一態にほかならない

 
 ・第三集 詩稿補遺  〔鉛いろした月光のなかに〕
     なし
 ・文語詩未定稿    〔月光の鉛のなかに〕
     なし  
 ・第三集 詩稿補遺  〔そもそも拙者ほんものの清教徒ならば〕
     なし 
 ・第三集 詩稿補遺  毘沙門天の宝庫
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  三月
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  会見
     ?
 ・第三集 詩稿補遺  〔あしたはどうなるかわからないなんて〕
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  保線工夫
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  会食
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  〔まあこのそらの雲の量と〕
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  〔湯本の方の人たちも〕
     なし
 ・文語詩未定稿    〔馬行き人行き自転車行きて〕
     なし  
 ・第三集 詩稿補遺  春曇吉日
   それでこゝらの荒れ畑などを
   絵に見立てたり公園として考へる
   ずゐぶんえらい見識だ
   一昨日管区へやってきて
   おれに来るやう頼んだときも
   たしかに さうだ
   勝川春章ゑがいた風の
   古い芝居をきどってゐた


 ・第三集 詩稿補遺  冗語
     なし
 ・第三集 詩稿補遺  〔もう二三べん〕
 この詩篇に関連しそうな記述については、〝〔甲助 今朝まだくらぁに〕(〔もう二三べん〕)〟をご覧いただきたい。

 ・第三集 詩稿補遺  〔馬が一疋〕
     なし
 ・文語詩未定稿    スタンレー探険隊に対する二人のコンゴー土人の演説
     なし
 ・補遺詩篇Ⅱ      〔十いくつかの夜とひる〕
     なし

 以上が、「第三集」所収以外の「10番稿」の詩稿群の全てのはずだ。確かにこれらの中には〝〔もう二三べん〕と似たような傾向の冷笑や慢を含む記述〟が多少はあったものの、さりとてそれ程のものでもない。しかも、そうと言えないものも相当数あった。となれば、賢治が封印しようとした理由はやはり他にもあったと言えそうだ。つまり、賢治が
    『この篇みな/疲労時及病中の心ここになき手記なり/発表すべからず
と記した訳は、「冷笑や慢」のみならず他の理由もあったということであり、「心ここになき」 の意味についてはまだまだ考察不足だ。  

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