宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〔そのとき嫁いだ妹に云ふ〕

2017年03月06日 | 10番稿
賢治が封印した詩稿群(「春と修羅 第二集」所収分)

五〇六
     〔そのとき嫁いだ妹に云ふ〕
                  一九二五、四、二、

   そのとき嫁いだ妹に云ふ
   十三もある昴の星を
   汗に眼を蝕まれ
   あるひは五つや七つと数へ
   或ひは一つの雲と見る
   老いた野原の師父たちのため
   老いと病ひになげいては
   その子と孫にあざけられ
   死にの床では誰ひとり
   たゞ安らかにその道を
   行けと云はれぬ嫗のために
     ……水音とホップのかほり
       青ぐらい峡の月光……
   おまへのいまだに頑是なく
   赤い毛糸のはっぴを着せた
   まなこつぶらな童子をば
   舞台の雪と青いあかりにしばらく借せと
     ……ほのかにしろい並列は
       達曾部川の鉄橋の脚……
   そこではしづかにこの国の
   古い和讃の海が鳴り
   地蔵菩薩はそのかみの、
   母の死による発心を、
   眉やはらかに物がたり
   孝子は誨へられたるやうに
   無心に両手を合すであらう
        (菩薩威霊を仮したまへ)
   ぎざぎざの黒い崖から
   雪融の水が崩れ落ち
   種山あたり雲の蛍光
   雪か風かの変質が
   その高原のしづかな頂部で行はれる
     ……まなこつぶらな童子をば
       しばらくわれに借せといふ……
   いまシグナルの暗い青燈

             <『校本宮澤賢治全集第三巻』(筑摩書房)>  

《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。

『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』   ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』   ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』            ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。


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