宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

春曇吉日

2017年03月07日 | 10番稿
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
    春曇吉日

        朱塗の蓋へ、
        廻状至急と書きつけた、
        状箱をもって
        坂をのぼり
        ひばのかきねをはいり
        いちいちふれてあるくところ
        明か清かの気風だな
        あの調子では
        まだ二時間は集るまい
   どうだい君はねむったら
   よほどつかれてゐるやうだ
   ぼくには今日が
   じつにかんかんとして楽しい
   大陸風の一日だけれども
   君にとっては折角の日曜日が たゞもう一日
   どんよりとして過ぎるわけ
   ねむりたまヘ
   オーヴァをぬいで
   枯草に寝てからかぶるといゝ
   寒いやうなら下のゐろりヘ行くか
   この辺は木も充分なので
   春でもむろん燃えてゐる
      ぼんやりとしたひかりの味は
      まるで古風な水墨だ
      松の生えた丘も……
      割木のかきねをめぐらした家も……
      下のはざまのうら青い麦も……
      かういふ気分になれてもしまはず
      くらしのいきさつにもとらはれないで
      毎日たゞこの感触を感触として生きてゐたら
      ずゐぶん楽しいことなんだが
   ぜんたい今日の天気はなんだ
   明るくなるでも曇るでもなし
   ぬるいやうにまたうす寒いやうに
   たゞどんよりとかすんでゐるのは

      誰か家からぽろっと出る
      茶盆をもってやってくる
      あの赤いのは絨氈らしい

   あれはあすこの主人だよ
   古くから伝はってゐる
   こゝらの古い歌舞き芝居の親分だ
   禿げた頭をたゞありのまゝ
   ぼんやりとした氛気にさらし
   茶盆ももってやってくる
   どうしてそれが
   いろいろ余裕もあるけれども
   この下の田で稼いだり
   山で雪の日たきぎもとって
   それでこゝらの荒れ畑などを
   絵に見立てたり公園として考へる
   ずゐぶんえらい見識だ
   一昨日管区へやってきて
   おれに来るやう頼んだときも
   たしかに さうだ
   勝川春章ゑがいた風の
   古い芝居をきどってゐた

     <『校本宮澤賢治全集第四巻』(筑摩書房)>
 
《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。

『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』   ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』   ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』            ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。


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