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〔鉛いろした月光のなかに〕

賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
  〔鉛いろした月光のなかに〕
   
   鉛いろした月光のなかに
   みどりの巨きな犀ともまがふ
   こんな巨きな松の枝が
   そこにもここにも落ちてゐるのは
   このごろのみぞれのために
   上の大きな梢から
   どしゃどしゃ欠いて落されたのだ
   その松なみの巨きな影と
   草地を覆ふ月しろの網
   あすこの凍った河原の上へ
   はだかのまゝの赤児が捨ててあったので
   この崖上の部落から
   嫌疑で連れて行かれたり
   みんなで陳情したりした
   それもはるか昔のやう
   それからちゃうど一月たって
   凍った二月の末の晩
   誰か女が烈しく泣いて
   何か名前を呼びながら
   あの崖下を川へ走って行ったのだった
   赤児にひかれたその母が
   川へ走って行くのだらうと
   はね起きて戸をあけたとき
   誰か男が追ひついて
   なだめて帰るけはひがした
   女はしゃくりあげながら
   凍った桑の畑のなかを
   こっちへ帰って来るやうすから
   あとはけはいも聞えなかった
   それさへもっと昔のやうだ
   いまもう雪はいちめん消えて
   川水はそらと同じ鼠いろに
   音なく南へ滑って行けば
   その東では五輪峠のちゞれた風や
   泣きだしさうな甘ったるい雲が
   ヘりはぼんやりちゞれてかゝる
   そのこっちでは暗い川面を
   千鳥が啼いて溯ってゐる
   何べん生れて
   何べん凍えて死んだよと
   鳥が歌ってゐるやうだ
   川かみは蝋のやうなまっ白なもやで
   山山のかたちも見えず
   ぼんやり赤い町の火照りの下から
   あわたゞしく鳴く犬の声と
   ふたゝびつめたい跛調にかはり
   松をざあざあ云はせる風と

     <『校本宮澤賢治全集第四巻』(筑摩書房)>

《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。

『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』   ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』   ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』            ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。
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