いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

箸に始まり箸に終わる

2006年01月14日 08時25分18秒 | ハマ風は踊る
 「日本人の衣類は非常に美しく清潔で、我等にものとは、些かも類似してい
ない。いわんやその食事の方法や料理、汁に到っては理解する事は不可能であ
る。ことごとく清潔を保ち、その方法は重々しく、我等の食事とは全く共通点
がない。即ち、各人は、それぞれ一人づつの食卓で食事し、テーブル掛け、ナ
プキン、ナイフ、フォーク、スプーンなどは何もなく、ただ彼等が箸と称する
2本の小さい棒があるのみで、食物には全く手を触れる事なく、極めて清潔巧
妙に箸を扱い、パン屑(ご飯粒)一斤といえども皿(お碗)から食卓に落とさ
ない。極めてつつましやかに礼儀正しく食事し、その作法についても他の諸事
に劣らない規則がある」
 と、日本の「箸」について、16世紀に来日したイタリア人宣教師バリーニ
ャーンはこのように述べている。
 ところで、8月4日は「箸の日」と定め千代田区所在の日枝神社をはじめ各地
の神社で毎年「箸感謝祭」等が行われている。これは、日本人が年間に消費する
「塗り箸」1億2千万膳、江戸中期に登場した「割り箸」250億膳と日頃世話
になっている、箸に感謝し併せて箸のPRもしようと昭和50年に設けられた。
そのほか菜箸、火箸、取り箸、茶の湯の箸など多くの箸が毎年作られている。
「ハシは、食物と人間の口知の間を渡すもの、つまり語源は間(ハシ)にある」
と国学院大学教授阿部正路氏はいう。一般的には、次の五つのことが言われて
いる。
 ① ハシは「橋」である。「食と口知との橋の意」であり、植物と人間の口を
   結ぶかけ橋である。橋はかけ渡すもの、仲介・媒介するものである。

 ② ハシは「間(はし)」である。「間(はし)に挟むの意」といわれ、二
   本の箸の間に、食物をはさみ、食物と人間の間を結ぶもの。また神と人、
   人と人との間を結ぶもの。

 ③ ハシは「端」である。「はしとは端なり」といわれ、竹または木の中程
   を折り曲げて、その端と端を向かい合わせて食を取ったことによる。

 ④ ハシは「嘴(はし)」である。「箸は嘴なり」といわれ、箸を持った形
   姿は、鳥の嘴で物をついばむのと同じ姿である。

 ⑤ ハシは「柱」である。箸は、これを使う神や人の霊魂の宿る依代(より
   しろ)から「箸は柱なり」と。まさに神霊や祖霊が宿る小さな柱であり、
   小さな神木である。

 このように、箸には神や人の魂が宿るとの信仰から。「野外で使った箸は折
って捨てないと、キツネや魔物につかれる」「箸を折ったり踏んだりすると財
産をなくす」という話や風習が残っている。また、日本の箸は、神に食べ物を
ささげる神事に登場したことから古来、神と人を結ぶものとの謂れから、神社
や寺院はさまざまな祝い箸・祈り箸・厄除け箸などを授与している。例えば、
出雲大社の縁結び箸、春日大社の長寿箸、鶴岡八幡宮の福寿箸、松蔭神社の
開運箸……といった具合に。
 ところで、世界の民族が食物や料理を口に運ぶ食事方法は、
   ① 世界人口の44%が手食
   ② 箸食28%
   ③ ナイフ・フォーク・スプーン食28%
の三っに大別されるそうだが、箸を主な食事用具としているのは、中国文化圏
に属する日本、韓国、北朝鮮、中国、台湾、ベトナム、シンガポールの7か国
だそうだ。箸が普及した中国文化圏では、二本の箸にもっとも適した粘性の米
と麺類を主食にしてきたことによるそうだ。
 この「ほぐし・はがし・まぜ・分け・はさみ・つまむ」という箸の機能は、
切って突くだけのナイフやフォークからはけして生まれない独特の箸文化が日
本に誕生した。
 ヨーロッパでのナイフ・フォーク・スプーン食の歴史は、わずか300~
400年間にすぎず、それ以前はすべて肉類は手づかみで食べていた。今日、
パンを手でちぎって食べるのも、手食文化の名残と言われている。日本の箸は
中国から伝わったが、古事記(712年)に「スサノヲミコトが出雲国に降り
立った時、川上から箸(はし)が流れてきた。上流には人が住んでいるに違い
ない。と訪ねてみると、老夫婦が娘を囲んで泣いていた。…」ヤマタノオロチ
退治の導入部で、「箸」は日本最古の文献に登場している。これだけの長い歴
史を持つ日本の箸文化も時代の変遷と食生活の変化に伴い「箸のマナー」が疎
かになってきているのではないだろうか。
 日本人の食事作法は「箸に始まり箸に終わる」といわれ箸の取り方に始まり
箸の置き方、しまい方に終わる、箸は正に「礼儀の標(シルシ)」と言われてき
た。それに従い、和食の席でタブーとされる箸の作法が生じ、それが「嫌い箸」
である。
 先箸、中箸、天箸、握り箸、クロス箸、つかみ箸、そろえ箸、迷い箸、移り
箸、探り箸、こじ箸、せせり箸、寄せ箸、そら箸、立箸、刺し箸、、持ち箸、
もぎ箸、直箸、二人箸、箸渡し、かき箸、込み箸、横箸、涙箸、渡し箸、ねぶ
り箸、指さし箸、落とし箸、かみ箸、叩き箸、受け箸、振り箸、洗い箸など
約70の箸使いのタブーがあるそうだ。つい無意識にやってしまうことがある。
 箸のマナーは幼児期から…そして箸に感謝すると共に食べ物に感謝する気持
ちを養うのも一考かと思う。
 私達夫婦が今使用している箸には、それぞれの名前が金文字で書き込まれて
いる。デパートで開催されていた職人の巧展においてお願いしたものである。
私達にとっては、「考える箸」とも言える大切な箸である。

 
 
コメント
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