現地住民説明会 25年前と今と

2023年12月20日 | 日記・エッセイ・コラム

 かれこれ25年ほど前になりますが、私はその頃、ある社会福祉法人の運営する障害福祉事業所の職員でした。ある時、その法人が新規に予定する障害者入居施設建設計画に伴う、建設予定地区の住民の方々に対する現地住民説明会に出席することがありました。

 その時の現地住民説明会では、のっけから「どうしてここにそんな建物を建てるのか。どうしてここなのか。他所にもっと適当な場所がいくらでもあるだろう。他所を探してもらいたい」といった厳しい意見が地域住民の方々から上がりました。しかも、その建設反対の雰囲気はその場に出席してはいるけれど発言をしない方々からも、重い無言の圧力として感じられました。結局、その雰囲気のまま説明会は終了し、その後、いろいろな経過を経た結果、私たちはその地での新規施設の建設を断念したのです。忘れもしない出来事です。

 それから25年ほど経った最近のことです。25年前とは別のある社会福祉法人が児童福祉事業として計画する入居施設の建設予定地区での、現地住民説明会が行われました。私は現在、その法人の関係者の一人ですので、2回目の説明会から出席をいたしました。

 私が所用で出席できなかった第1回目には、その法人の組織、歴史、事業内容、運営方針、職員のこと、そして新しく建設を予定している施設に関すること、そこを利用することになるだろう子どもたちのこと、等々について説明をし、その後、出席した地域の方々からのいろいろな質問を受けたとのこと。

 私が出席したその日の現地説明会(説明会としては4回目)では、これまで法人内の会議室での3回の説明会で出された質問について、建設予定の現地で具体的に確認することでした。その主なものは、例えば①幅や高さ(例えば土地の境界線からの建物の壁面までの距離・フェンスの高さなど) ②設置する物の形状や色(フェンスの形/網状かスリットがあるか・環境に馴染む色か・どの程度プライバシーが保護されるかなど) ③熱と音(主にエアコンの室外機・また施設利用者の声など) ④そこからの臭い(主にごみの集積場の場所) ⑤屋根に設置予定の太陽光パネルの反射光の角度など、についてでした。

 およそ2時間余り、現地で立ち会っていた私は、住民の方々からの質問や心配事について、一つひとつていねいに説明していく設計士や法人の責任者の話しを聞きながら、ある心配をしていました。

 果たして、住民の方々はこの法人が建築を計画しているその入居施設に、どれだけの関心と理解を持とうとしているのだろうか……と。もっとこの法人の組織や歴史、事業内容や新築予定の施設のこと、そしてそれを利用する子どもたちのことなどに関する質問をたくさんしてほしい、と思っていたのです。

 それらは1回目で十分聞いたので分かったし、納得もした、ということなのでしょうか……。

 それは、25年前の、のっけからその地区での建設に反対する声が語気強く、激しく上がった現地住民への説明会とは大違いでしたが……。

 どうか、そこに住まうことになる子どもたちのことに、そしてその子どもたちの生い立ちやこれからの人生に、もっともっと関心を持っていただきたいと思うのです。

 今、果たして私たちの社会は社会福祉をどこまで我が事として関心を持ち、理解し、支えようとしているのでしょうか。それは25年前とはどう違うのでしょうか。あるいは今もそれは変わらないのでしょうか。社会福祉は「可哀想な人たち、可哀想な子どもたち」のためだけのことではなく、過去から未来に連綿として続くこの社会の、そして私たちの、個としてではなく類としての、社会全体の課題なのです。 

 

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