今日、長年通うクリニックでの久しぶりの診察を終えて、いつもそうしているようにすぐ近くの調剤薬局に行き、受付で処方箋とお薬手帳を出した。そして、さほど広くはない待合をおもむろに見渡して、壁際のソファの空いている席に腰を下ろした。
3組の先客があり、一人目の方が支払いを済ませて、待合を出て行った。私が座ったソファーと小さな書棚を挟んで直角に置かれた壁際のソファーの端にその母子は座っていた。まだつかまり立ちがやっとかと思える赤ちゃん(男の子か?)がお母さんの胸に抱かれて、後ろ向きになって壁に貼られているいくつかの張り紙やポスターを気にしている。しきりに手を伸ばして触っている。手に触れる感触やその音を楽しんでいるようだ。
すると、見るともなく見ていた私に気がついて、彼(?)は私を認めて私から目をそらさずにじっと見つめてきた。そんな彼を見ながら、お母さんは小さく笑っていた。
まん丸い二つの黒い瞳に見られて、私は思わず、「こんにちは! こんにちは!」と声をかけてしまった。自分でも驚いた。
それでも彼は私から目を離さない。離さないどころかそのまま「抱っこ!」とでも言うように、私に向かって両手を伸ばしてきた。
「いやぁー、それは無理、無理」と言いながら、私は彼に向かって手を振った。お母さんは苦笑いをしながら、彼を抱き直した。それでも彼は私の方を向こうとしている。
いつの間にか二人目の方は支払いを済ませて帰っていた。
ほどなく名前を呼ばれて、お母さんは彼を抱いて立ち上がり、背中にバッグを背負ったまま、たぶんいつもしているように後ろ手に手探りでポケットを探して、黄色い小さなぬいぐるみをしまった。
彼のための薬だろうか。渡された薬袋を受取り、支払いを済ませ待合を出て行くとき、お母さんは私に向かって頭を下げた。二人に視線を送っていた私は「またお会いしましょう」と声をかけて、頭を下げた。彼はまだ私の方を見ていた。
不思議な体験をしたと思った。もう会うことはないだろうが、人からあんなに見つめられた経験はないなぁーと、思った。いつか二人にまた会いたいと思った。
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