もうすぐ誕生日

2019年09月21日 | 日記・エッセイ・コラム

 土曜通所日の今日。

 朝の利用者送迎便がそれぞれ利用者を乗せて、さつき園に戻って来ます。すると、徐々にさつき園内が賑やかになってきます。土曜通所日なのでいつもの半数ほどの利用者ですが、玄関ロビーや中庭では利用者同士の賑やかな会話が響きます。

 そんな中、開けている園長室のドアぐち辺りから、○○さんの声が聞こえてきました。

 振り向くと、

「おめでとうございます!」「もうすぐ誕生日。園長さん、おめでとう!」「お花をどうぞ!」

と言いながら、笑顔の○○さんが花束を差し出します。花束はお手製で、新聞のチラシで束ねたブーケのようでした。

「えっ? あっ、そうよ。もうすぐ園長の誕生日じゃのぉー。誕生日のお祝いかね。そりぁーありがとう!」

 握手して、○○さんから花束を受け取ります。

 深い赤と明るい黄色とつましい白の花びらがたくさんの緑の葉に囲まれています。その色合いはなかなかの組み合わせです。今朝、自宅の花壇に咲いている花を摘んで持って来たのだそうです。しかし、残念ながら、そういった花や草などに疎い私にはその花々の名前は言えません。

 束ねるのに苦労したのでしょうか。チラシはしわくちゃです。束ねた先は輪ゴムで縛ってあります。

「まぁー、ありがとう! よー知っとったねー」

「ウン!」

「ウンじゃない。返事はハイじゃ」

「あっ、ハイ。いつも知ってますよ」

「そうかね、いつも知っちょるかね。えらいのぉー」

「ハイ。園長さん。園長さん、体に気をつけてこれからも頑張ってください!」

「ハイ、頑張ります!」「きれいな花をありがとうね。園長室に飾っちょくけぇーね」

「ハイ。じゃぁー頑張ってねー」

 少し背中が丸くなってしまった○○さんが手を振りながら、園長室を出ていきます。

 さっそく、ごった返している園長室の書類や荷物の中から長めのガラスのコップを探し出して、水を入れて、応接のテーブルに飾りました。

 すると、お昼の休憩時間には、園長室に顔を覗かせた□□さんが、

「あっ、きれいな花じゃねー」と笑顔で声をかけてくれました。

「もうすぐ園長の誕生日じゃけー、今朝、○○さんがプレゼントしてくれたんよぉー」

「あー、そうですかぁー。それはよかったですねぇー。きれいな花じゃねぇー」

 いつもおっとりした受け答えの□□さん。それが今日はいつも以上にうれしく感じられます。

 もういい歳(何歳!?)なので誕生日はスルーしてしまいたい心持ちですが、こんなふうにお祝いされたり、言葉をかけてもらったりすると、何だかじわりと心の奥のほうがうれしくなってきます。

 利用者の人生と私の人生が交差する瞬間です。

 もうすぐ誕生日。今日は思いがけない一日となりました。

 

 

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口頭伝聞の拡散は誤解を生む

2019年09月02日 | 日記・エッセイ・コラム

 東日本大震災の時の福島原発事故による食物汚染のうわさ。

 今や世界中で蔓延するSNSによる誹謗、中傷。

 連綿と続く障害者に対する差別、偏見。

 ことの実体も現場も現物も確認することもなく、ましてや当の本人にすら会ってもいないのに、あたかも見て来たような、あるいはもっともらしい口ぶりで、無意識、無自覚の内に他人を事実から遠ざける私たち。

 今、福島はどうか。

 今、子どもたちはどうか。若者たちはどうか。

 今、障害者はどうか。

 悪意とまではいわないが、ある偏った観念の下に吐かれた言葉が、長く修正、訂正されることはないままに、時にはその標的となった人の人生が終わってもなお、またその事実がなくなってしまったあともなお、まるでそれが現実であったように私たちの中で誤解されたままであることもあろう。

 子どもたちはそのことに耐え切れず、命を絶つ。

 そして、障害者の人生はいつまで経っても、差別と偏見の中だ。

 

 だから、自分が誤解されないために、自分の意見や思いは出来るだけ文章にしておくことだという。

 ある時のある人との電話で、その人はしみじみそう言った。

「口頭伝聞の拡散は、誤解を生むことが多いからね。だから、できるだけ書きものにして伝え、残しておくのが賢明だよ」「その場で消えていく言葉で事の説明や、自分の意見を述べても、まともに理解してくれる人は何人いるだろうか」「聞く人にバイアスがかかっていれば、なおさらだよ」「人は自分に合ったようにしか理解しないのだから」

 

 国家の情報から個人の情報まで、瞬く間に世界に広がる時代。私たちに常に情報拡散の危険がつきまとう時代。流れ出たら最後、だれにも止められない、という時代。そしてその情報の真偽はだれにも分からない、という時代。それが私たちの今。

 

 

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