思わぬ親切

2023年07月07日 | 日記・エッセイ・コラム

 新幹線と在来線を乗り継いで新岩国駅からおよそ5時間ほどかかるような、ある地方都市に出かける用が出来た。経路の一部は指定席を利用したいと思い、ネットでみどりの窓口が設置してある駅を探した。今の時代、ネットで乗車券・座席指定券などが購入できることは知っている。が、昭和昭和の人間にとっては、何よりみどりの窓口で対面で購入するのがいいのだ。例え日帰りの旅でも、その窓口での会話が旅行気分を味わわせてくれるのだ。

 ところが、ネットには設置してあると表示されていたその駅のみどりの窓口に出向くと、「ただいま閉鎖中」の貼り紙。「えっー!?」と思わず声を出した。しかも、そばの緑色の自販機を使うようにと書いてある。

 仕方なく腹を決めて、自販機に向かった。若い男性が使用中だった。

 男性は難なく用を済ませて、自販機を離れた。私の番だ。

 事前に、前日にネットで行程のシミュレーションはした。が、まさかの展開で大いに途惑ってしまっていた。

 案の定、画面の表示の意味が分からない。次の操作が分からない。だって、座席指定を希望したのに、その結果の画面表示には「指定席」の表示がないのだ。あるのは「普通車」「グリーン車」「自由席」の3つだけ。だから、最初からやり直してみた。それも3回も。しかし、いずれも「指定席」の表示は出てこないのだ。内心、あわてていた。焦っていた。

 そこへ救世主が現れた。

 女性の年齢を想像するのは失礼かと思うが、ちょっと小柄な40歳代から50歳代そこそこかと思われる女性が背後から声をかけてみえた。

 「お手伝いしましょうか?」

 「えっ? あっ、すみません。時間取ってしまって。時間かかりそうですから、お先にどうぞ。私は時間は大丈夫ですから」

 「いえ、私も構いません」

 その女性はそう言いながら、私がタッチしていた画面を読み始めた。すると、彼女からていねいな質問がいくつもあった。私は準備していた行程表を見ながら、列車名や発車時刻や乗換駅などを答えた。

 すると、その都度、彼女は画面のタッチするべき個所を指差して私を促してくれたり、私の対応が遅いと自らがそこをタッチしてくれたりした。そのとき「普通車」の表示には「普通車での座席指定の有無」が込められていたのだ、と分かった。

 そんなおかげで、私の心境としては「あっという間」と思えるほど速く、チケットを購入することができてしまった。

 ていねいにお礼を言って、お釣りや財布や行程表やチケットを取りまとめるために近くにあった台に移動して、彼女に場所を明け渡した。すると、彼女は自販機の前に立ったかと思うと、画面の操作を軽やかに済ませ、背筋をピンと伸ばして足早に歩き去って行った。

 思いもかけぬところで、見知らぬ人から、思いもかけぬ親切を施された。一時はチケットの購入をあきらめかけていたのに……。世の中にはほんとうに親切な人がいるものだなあと、その偶然に感謝し、日頃味わうことの少ない、うれしい温もりを感じていた。

 しかし、それは「本当に昭和は遠くになりにけりだなぁー」と思わされた瞬間でもあったのだけれども……。

 

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