今週の昼食時間でのこと。
○○さんが食べ終えて席を立ち、食べ終えた食器の載ったトレイを両手で持ち上げて、下膳(さげぜん)しようとしていました。食堂での席は利用者同士の相性などを考えて、出来るだけトラブルを避けるように配席しているのですが、新年からはたまたま私の右隣が○○さんの席です。
下膳をする○○さんを横目で感じながら食べていると、○○さんは食べ終わった後の「ごちそうさまでした」の合掌をしないまま、下膳の台に向かいました。
次の日。
前日と同じように、食べ終わった○○さんは「ごちそうさまでした」の合掌をしないまま椅子から立ち上がりました。そこで私は○○さんと目を合わせながら、合掌して声を出さずに口パクで「ごちそうさまでした」と言いながら頭を下げました。
すると、「そうか」と言うような顔をした○○さん。椅子に座りなおして、合掌して小さな声で「ごちそうさまでした」と言ったのです。そうしてちょっと恥ずかしそうに下膳していきました。
そのまた次の日。
食べ終わった○○さん。今日も「ごちそうさまでした」の合掌をしないまま椅子から立ち上がりました。そこで私は○○さんの顔を見て、合掌してみせました。すると、「あっ」と言う顔をした○○さんは座りなおして、合掌して小さな声で「ごちそうさまでした」と言ったのです。そしてまたちょっと恥ずかしそうに下膳していきました。
そのまた次の日。
食べ終わった○○さん。その日はきちんと合掌してごちそうさまをして、椅子から立ち上がって静かに下膳していきました。
利用者が生活習慣を身に付けていくことは大事なことですし、それはたいへんな時間と根気を要します。
あいさつ言葉の使い方。箸の持ち方。靴の履き方。顔の洗い方。歯の磨き方。タオルの絞り方。傘の差し方。衣類の身に付け方……などなど、生活する上で身に付けたい、たくさんの習慣があります。
利用者は親を見、教師を見、職員を見、友達を見、テレビを見、隣近所の人を見……などして、生活の中で出会うあらゆる人から、ちゃんと何かを受け取っているのです。
「どうせ分からないだろうから」とか「どうせできないだろうから」などと適当にやり過ごしてはいけません。彼らを侮ってはいけません。彼らはしっかり見ていて、良いも悪いもちゃんとそれを身に付けていくのです。
しかし、もちろんそれは彼らが悪いわけではありません。さつき園の利用者を見ていると、彼や彼女たちがどんな人たちに囲まれて、これまでにどんな生活してきたのかが見える気がする時があります。
私たちが、私たちの社会が、障害者を障害者にしてしまう生活環境を作り上げてしまっているのです。
○○さんはあすもあさっても、そしてこれからも忘れずに「ごちそうさま」の合掌をしてくれるだろうかと、ちょっと心配している園長さんです。
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