食堂で(その2)

2021年01月22日 | 日記・エッセイ・コラム

 今週の昼食時間でのこと。

 ○○さんが食べ終えて席を立ち、食べ終えた食器の載ったトレイを両手で持ち上げて、下膳(さげぜん)しようとしていました。食堂での席は利用者同士の相性などを考えて、出来るだけトラブルを避けるように配席しているのですが、新年からはたまたま私の右隣が○○さんの席です。

 下膳をする○○さんを横目で感じながら食べていると、○○さんは食べ終わった後の「ごちそうさまでした」の合掌をしないまま、下膳の台に向かいました。

 次の日。

 前日と同じように、食べ終わった○○さんは「ごちそうさまでした」の合掌をしないまま椅子から立ち上がりました。そこで私は○○さんと目を合わせながら、合掌して声を出さずに口パクで「ごちそうさまでした」と言いながら頭を下げました。

 すると、「そうか」と言うような顔をした○○さん。椅子に座りなおして、合掌して小さな声で「ごちそうさまでした」と言ったのです。そうしてちょっと恥ずかしそうに下膳していきました。

 そのまた次の日。

 食べ終わった○○さん。今日も「ごちそうさまでした」の合掌をしないまま椅子から立ち上がりました。そこで私は○○さんの顔を見て、合掌してみせました。すると、「あっ」と言う顔をした○○さんは座りなおして、合掌して小さな声で「ごちそうさまでした」と言ったのです。そしてまたちょっと恥ずかしそうに下膳していきました。

 そのまた次の日。

 食べ終わった○○さん。その日はきちんと合掌してごちそうさまをして、椅子から立ち上がって静かに下膳していきました。

 利用者が生活習慣を身に付けていくことは大事なことですし、それはたいへんな時間と根気を要します。

 あいさつ言葉の使い方。箸の持ち方。靴の履き方。顔の洗い方。歯の磨き方。タオルの絞り方。傘の差し方。衣類の身に付け方……などなど、生活する上で身に付けたい、たくさんの習慣があります。

 利用者は親を見、教師を見、職員を見、友達を見、テレビを見、隣近所の人を見……などして、生活の中で出会うあらゆる人から、ちゃんと何かを受け取っているのです。

「どうせ分からないだろうから」とか「どうせできないだろうから」などと適当にやり過ごしてはいけません。彼らを侮ってはいけません。彼らはしっかり見ていて、良いも悪いもちゃんとそれを身に付けていくのです。

 しかし、もちろんそれは彼らが悪いわけではありません。さつき園の利用者を見ていると、彼や彼女たちがどんな人たちに囲まれて、これまでにどんな生活してきたのかが見える気がする時があります。

 私たちが、私たちの社会が、障害者を障害者にしてしまう生活環境を作り上げてしまっているのです。

 ○○さんはあすもあさっても、そしてこれからも忘れずに「ごちそうさま」の合掌をしてくれるだろうかと、ちょっと心配している園長さんです。

 

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食堂で

2021年01月19日 | 日記・エッセイ・コラム

 さつき園の昼食は食堂に横一列に長くテーブルの列を5列並べて、利用者と職員が一緒に食べます。

 昨日のこと。

 もう食事が済んで大半の利用者がいなくなって4人ほどしかいなくなった食堂に、「ヤカンください」「ヤカンください」と言っているように聞こえる○○さんの節のついた声がゆったりと食堂に響きます。1つ席を置いて左隣に座っていた□□さんがどうしたものかと、食事が遅くなってまだ食べていた私のほうを振り返ります。

 私がゼスチャーでテーブルの途中に置いてあるヤカンを指さすと、少し笑って□□さんは立ち上がって、そのヤカンを○○さんの所に置いてあげました。

 しかし、ホッとするのも束の間。○○さんはそれでも、「ヤカンください」「ヤカンください」と言っているようにゆっくりと節をつけて言うのです。□□さんは困った顔で、また私のほうを振り返ります。

 私も不思議に思っていましたが「あっ、そうか」と思って、二人のテーブルまで行って、おもむろに○○さんの耳元で小さく、「お茶ですか」と聞きます。すると、すかさず○○さんは小さくうなずいたのです。

 ヤカンを持って○○さんの湯飲みにゆっくりお茶を注ぎ、「どうぞ」と言うと、○○さんは「ありがとうございま―す」と小さく囁きました。そしてまた、ゆっくりとご飯を食べ始めます。

 私は思わず□□さんと顔を見合わせて、ホッと笑顔を交わしました。

 1年が経っても、新型コロナウィルスの感染はまだまだ全国的に収まる様子を見せず、それどころか拡大する一方です。テレビのニュースもまずはその日の全国の感染者数のニュースから始まる毎日です。

 しかし、そうしたことが日常となってしまっていても、私たちの日常には心ゆったりとしてよく見れば、思わずホッとさせられて、小さな笑顔を交わす瞬間もあるのです。

 たとえ緊張とストレスのかかるコロナ禍の日々と言えども、そういう瞬間を持ちたいものです。

 食事を終えた○○さんと□□さん。二人とも満足した面持ちで、きちんと下膳をして食堂を出て行きました。

 

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障害者福祉と日々への思い

2021年01月09日 | 日記・エッセイ・コラム

 あけまして おめでとうございます

 思いもよらないことが起こり、私たち一人ひとりが自覚と緊張の対応を強いられた年が過ぎて、今、新しい年を迎えています。しかし私たちの生活環境は依然として穏やかとは言えず、先年よりも増して不安と緊張の中にあります。

 そうしたコロナ禍にあって、本人そしてご家庭のご努力により、新年も利用者は元気にさつき園に通所し、作業に取り組み、ともどもに明るい笑顔を見せています。何よりうれしい限りです。

 今、障害者福祉の現場では全国的に利用者の高齢化により、高齢福祉利用に移行するケースや、ご家庭の支援力の低下などにより、入浴支援などを求めて利用変更するケースなど、保護者の高齢化に伴う日常生活支援の需要も出てきています。また、興奮時に限らず、常時一対一の支援が必要な利用者も増えてきており、職員の高い専門性と適切な職員配置が求められています。

 けれどそうした現状にあっても、自分自身では心に残る思い出を作ることがなかなか難しい利用者に、一つでも多くの「あー、あのときは楽しかったねー」という思い出をその人生に残してあげたい。

 さつき園に通所する日々の中で、彼らが体験する何かが、彼らの人生のよい思い出になるといいなあと、思います。

 利用者仲間や職員とともに過ごすさつき園でのある日ある時が、彼ら一人ひとりの人生のよい思い出となれば……。その時、見えない力によって制約されてきた彼らの人生は、一瞬、解放されるのです。

 

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