大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:033『八坂神社の七不思議』

2020-05-01 15:13:05 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:033

『八坂神社の七不思議』  

 

 

 京都のどこに行きたい?

 

 ペットボトルのキャップの上に立って、おづねが聞く。

「えと……」

『八坂神社か』

「え?」

『目をつぶって左手を隠せ』

「え、ええ?」

『早くしろ』

「え、あ……うん」

 言われるままに目をつぶって、左手はカットソーの裾に潜り込ませる。

『良いと言うまで目を開けるな。左手も出すんじゃないぞ』

「う、うん」

 

 風が吹いてきた。そよ風程度なんだけど、頭の先から足の先まで風に吹かれて、ゆっくりと空の上を飛んでるみたいだ。

 

「まだ?」

『まだだ、このぶんなら二三分はかかる』

「えと……どうして八坂神社?」

『心に思い浮かべただろうが』

「あ、うん……」

 思い浮かべたのは『修学旅行のしおり』だ。

 ホームルームで配られてワクワクした。パラパラめくったページ、最初に目に飛び込んできたのが八坂神社なんだ。『いなり、こんこん、恋いろは』『けいおん!!』『有頂天家族』『名探偵コナン』とか、アニメの聖地になっていて、階段の上の朱色の楼門も可愛くて、ここなら人に混じって写真を撮ってもいいと思ったくらい。

 でも、思い浮かべただけでおづねに知れてしまうというのは、ちょっと要注意。

「目をつぶるのは、なんとなく納得なんだけど、なんで左手を隠すの?」

『一種の魔よけだ』

「魔よけ……」

 ちょっとヤバいんじゃないだろうか……。

『さあ、着くぞ。そのままの姿勢で楼門の階段に出る』

 

 ヒヤ!

 

 お尻が冷たくなった。座布団の感覚が消えて、硬くて冷たいのに変わった。風も止んでいる。

『目を開けてもいいぞ』

「…………うわあ、八坂神社だ!」

 冷たいと思ったら、石段に腰を下ろして、目の前には四条通が伸びている。

『これを履け』

 足元に庭履きのサンダルが揃えてある。

「持ってきてくれたの?」

『まあな、裸足というわけにもいかないからな』

「靴の方がよかった」

『贅沢を言うな。いくぞ』

「へいへい」

 たぶん、おづねの忍術で幻かなんかを見せられてるんだ。でも、リアルだから、とりあえずはいい。

「やっぱ正面玄関だけあって、おっきくてきれいだねえ」

『これは西の楼門だ、立派だが正面ではない。正面は南の大鳥居だ』

「へー、そうなんだ。それにしてもきれいだね……白壁に朱色の柱が映えてるよお! スマホ持ってきたらよかった」

『この楼門には蜘蛛が巣を張らんし、石段にも雨だれの跡がつかんのだ』

「え……あ、ほんとだ。観光名所だからメンテナンスとかに気を付けてるのねえ」

『気を付けておるだけでは、こうはならん。八坂神社七不思議のひとつだ』

「え、七不思議があるの!?」

『驚くのはいいが、足もとに気を付けてくれ、さっきから三度は踏みつぶされそうになったぞ』

「あ、ごめん」

『あそこに湧水があるだろう』

「え……あれ?」 

 本殿の右側に竹筒から出てくる湧水があって、立て札に『力水』とある。

『これを飲むと美人になる』

「ほんと!?」

『ああ、祇園の舞妓たちばかりでなく、全国から、この水を求めてくる女が絶えない』

「そう、試してみよ!」

 中腰になって両手で水を受けて、グビリと飲んでみた。

『どうだ、効能はあったか』

「分からないよ、自分の顔は見えないもん。スマホがあったら見えるのにい」

『スマホはどうにもならんが……これでどうだ』

 目の前に鏡が現れた、おづねの忍術だ。

「お、おお……」

 どこがどうとは言えないけど、目の輝きとか肌の色つやとか、目尻とか口の端っことか、とても可愛いというかグレードが上がったような気がするよ! これで、四条通とか歩いたら振り返る人がいるかも! いや、天下の八坂神社、参拝客とか、地元の舞妓さんとか、神社の巫女さんとか、神主さんとか……一人もいない。

 コロナで自粛なんだろうけど、境内にも社務所にも人影が見えない。

 ちょ……。

 西楼門の石段まで戻ってみる。

 目の前の四条通にも東大路通にも人影……どころか、一台の車も走っていない。

「ここ、八坂神社なんだよね……」

『そうだ。ただ、初めてだから、全てのものが見えるわけではない。人や車が見えるには、もう少しスペックがあがらなくてはな』

「なんか、能力不足のゲーム機みたいだね」

『そんなところだ』

「……あ、なんだか暑くなってきたかも」

『ム……今日は、これくらいにしておこう。目をつぶって左手を隠せ、戻るぞ』

「う、うん……」

 

 再び風が吹いて来て、ゆっくりと戻っていった……もうちょっと、居たかったなあ……。

 

 

 

 

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