大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・坂の上のアリスー30ー『おいしくなーれ♡ おいしくなーれ♡』

2016-07-31 12:43:56 | 小説3
坂の上のー30ー
『おいしくなーれ♡ おいしくなーれ♡』



 お帰りなさいませ~♡ ご主人様~♡ お嬢様~♡

 ちょっと前までの俺だったら、こんな挨拶をされたら、それだけで回れ右して帰ってしまっただろう。
 聖天使ガブリエルってか純花に関わるようになって、いつのまにか慣れてしまった。
 いや、慣れてしまったという自覚も無かった。
「え、あ、ど、ども……」
 顔を赤くしている真治を見て自覚した。俺は慣れて来てるんだ。

 でも、慣れた自分を自覚すると、ちょっぴり心が痛い。

 メイド喫茶に来ても、純花と綾香のゴスロリは目立つ。かなりのレイヤーでも真夏に完全装備のゴスロリをしている者は居ないのだ。
「ウ……これは水素水……基本は外していないわね」
 ウェルカムウォーターを口に含んで、純花は鑑定した。
「口に含んだだけで分かるの? 水素水って無味無臭でしょ?」
 無駄に雑学姫の綾香がツッコミを入れる。
「そこが聖天使よ。暗黒天使は首から上の知識に縛られ過ぎよ」
 ちょっと前の綾香ならキレているところだが、大人しく聞いている。単に純花の守りということではなくて、親友になりかけているんだろうなと、兄としては嬉しく納得する。

「お待たせしました、ご主人様~♡、お嬢様~♡」

 メイドさんが二人掛かりで注文したあれこれを持ってきた。
 メイド喫茶は基本的には喫茶店なので、食事はランチとカレーとオムライスしかない。覚めた目で見ると、どこの喫茶店のメニューにもあるものなんだけど、こういう萌えの環境で出されると特別なものに感じてしまう。って、俺かなり感化されてんのかなあ?

「「それでは、美味しくなるおまじないをかけさせていただきま~す♡」」

 二人のメイドさんがハモってくれる。二人ともアイドルグループに居てもおかしくないくらい垢ぬけている。
「「おいしくなーれ♡ おいしくなーれ♡ 萌え萌えきゅ~ん!♡」
 真治一人真っ赤で、残り四人は楽しく萌えキュンのお呪いを受ける。萌え萌えキューン!♡のところで両手でハートを作るのだけど、形を完全なハート型にするのは意外にむつかしい。見たところ、この二人はカンペキなハートを作った。それにお呪いのフィニッシュにはただの笑顔ではなく、口元をωの形にした。ωは世界平和を願うオタクのシンボルなのだ! 大阪のメイド侮りがたし! wwww……って、俺どうしてしまったんだ!?

「わたしがトドメをさすわ……」

 純花がポッと頬を染めて立ち上がった。
「気を悪くしないでね、わたしは聖天使ガブリエル。この五年アキバのピナフォーで修行して『おいしくな~れ♡』の免許皆伝! 1000円のランチを、その三倍の美味しさにしてあげる! ちょっと場所を開けてくれるかしら。違いが分かるように一つだけ避けておくわね」
 ランチ一つと二人のメイドさんを退けると、純花は『おいしくなーれ♡ おいしくなーれ♡』の呪文に合わせ、外回りに大きく腕を回した。
 そして『萌え萌えキューン!♡』のところでは、親指を下にしてハートマークを作った。

「……さ、これはただの萌えランチではない、我聖天使ガブリエルの肉、アイスティーは我の血、心して食せ!」

 で、あらかじめ避けていたランチと食べ比べると、純花の言葉通り三倍は美味しかった! 女執事のナリをした支配人が出てきて「わたくしも失礼して……」と試食。
「いかがかしら?」
「……ウ! ウ! これは美味しい! とても原価100円の冷凍とは思えない!」
 思わず秘密を口走ってしまう支配人。

 それからジャンケンタイムになると、純花は五回のジャンケンを全勝、プライズグッズを独り占めしてしまった!

「さすが聖天使! すごいじゃないか!」
 福引会場への道で、正直に褒めちぎった。

あんなことが出来たって……」
「うん?」
「あ……ううん、なんでもない、どうもありがとう」

 おれたちは三度(みたび)福引にチャレンジするのだった……。
 


 ♡主な登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 二宮純花      坂の上高校一年生 綾香の友だち 自称聖天使ガブリエル

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れに口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 三宮静香      亮介の親友 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・224〔存美女学院高校物語・2〕

2016-07-31 07:17:54 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・224
存美女学院高校物語・2〕
        

 誰だってゾンビと読む。存美女学院高校……本当は「ありみ」と読む。

 加藤不死美新校長が最初にやったのは、AKBの『フォーチュンクッキー』を全校生徒でやることだった。
 撮影などのスタッフは、校長が以前勤めていた専門学校の映像科の学生さんらが実習を兼ねてやってきた。
「すごい、まるで放送局の中継車とロケバスだよ!」
 ふだんゾンビの親玉みたいに表情の暗い生徒会長のお岩さんが叫んだ。お岩さんこと岩田奈々子はなりたくって生徒会長をやってるんじゃない。立候補者がいないために、生徒会の役員は全生徒のくじ引きで選ばれる。だから不承不承やっているから、ただでも暗いのが学校でも有数のゾンビになっていた。

 そのゾンビ生徒会長が、笑顔でびっくりしたのだ。これが変化の現れ第一号だった。

 全校生がグラウンドに集められ、専門学校の演劇科の学生さんの指導で、一時間かけて『フォーチュンクッキー』の練習をした。
「うん、リズムにのりさえすればいいからね」
「いいよ、足の運びきれいだね。そうだ、足から抜いていってカメラ上げてくから、感じたままの表情して!」
 演劇科の学生さんが数十人、全生徒の中に入って、励ましたりアイデアを出したり。足から上にカメラが上がっていくと、相変わらずのゾンビ顔の子、体と顔のイメージの違う子、思わず吹き出してしまう子、さまざまだった。
 半日かけて、全体、グループ別、個人別、ご近所のお百姓さんまで入って、延べ6時間分の収録をした。
「選抜メンバー選びまーす!」
 ラッシュの映像を見ながら、スタッフのプロディユーサー格の学生さんが言った。
 14人が選ばれ、その中にはお岩さんも、あたし山田花子、そして不死美校長まで入っていた。
「この選抜がトップに来ます。あとは、ランダムに僕らの偏見でやらせてもらいます。放課後には編集し終えてユーチュ-ブに投稿します。終業のチャイムと同時に投稿するんで、スマホで見てもらってもいいし、体育館のモニター見に来てもらっても結構です!」

 存美女学院初めてのハイテンションになった。そして、運命の放課後になった。

 あたしは、スマホ片手に体育館に向かった。今朝まで面識もなかったお岩さんたち選抜の子たちとも、すっかり仲良くなった。そんなグループがあちこちで出来て、楽しげに、モニターやらスマホの画面にくぎ付けになった。

 びっくりした!

 最初の選抜のメンバーが、みんなゾンビになっていた!
「ちょっと遊んでみました。CG処理してゾンビ風。まあ、最後まで見てください」

 フォーチュンクッキー 存美女学院版

 おどろおどろしい文字がエフェクト共に出てきた。それから、3秒~5秒おきにカットバックして、参加者全員が収まって、最後は選抜の台詞で決まった。
「ゾンビじゃないよ、アリミっていいまーす!」
 むろんゾンビ姿じゃなくて、ちゃんとしたセーラーの制服で。

 ユーチューブのアクセスは、その日のうちに3000件を超え、夜には『セーラーゾンビ』のタイトルで、再編集したものも流され、一躍存美女学院は全国区になってしまった。

 あくる日は、これが存美高校の生徒かと思えるほど、みんなニコニコしていた。昼にはアクセスが5万件を超えたということで、マスコミが取材にきた。
 もともとお行儀の良さだけが取り柄だったとこに、このニコニコ顔。学校の好感度は一発で上がった。

 不死美校長は、生徒会やクラブの部長会と話して、演劇部、ダンス部、軽音部をまとめて『舞台芸術部』にまとめてしまった。一気に100人を超える部活になってしまった。
「普段はバラバラでいいから、ときどき集まって、面白いことして動画サイトに投稿しよう!」
 そして、年末には動画サイトの常連になり、なんと部員が2人しかいなかった演劇部は、舞台芸術部として結束。
 作:大橋むつお『すみれの花さくころ』を一大ミュージカルにして県大会、関東大会にも優勝!
 何を隠そう、このあたし、山田花子が部長になって、来年は全国大会を目指す。『舞台芸術部』のダンス部門、軽音部門も活躍中。

 あくる年は、競争倍率2・8倍の入学試験になった。

 もうゾンビ女学院とは呼ばせないわよ!

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・海岸通り、バイト先まで

2016-07-31 07:04:35 | ライトノベルベスト
海岸通り、バイト先まで 

 しまった!
 
 バスの発車音で目が覚めた。
「おばさーん、次のバス何時かな!?」
 ぼくは、階下のおばさんに大声で聞いた。
「なんだ、まだ居たの。今のバスで出たと思ってたわよ」

 今朝は、なぜか早く目が覚めて、一時間も早く朝飯を食った。それでバスの時間まで、わずかなまどろみを楽しんでいた。それが本格的な二度寝になってしまったのだ。
「次のバスって……一時間先だわよ」
 階段を駆け下りてきたぼくに、民宿のおばさんは気の毒そうに言った。
 二三秒、呆然として玄関のピンク電話に向かった。受話器を手にしたところで、肝心の電話番号が頭からとんでしまった。
 慌てて二階に戻り、バッグから手帳を取りだし、そのまま電話のところに戻った。
「あ……」
 同宿のA子さんに先をこされていた。
「だからさ、もう二三日は帰んないから……お母さんに代わってくれる……あ、お母さん……」
 ぼくは、こういう時にはっきりとものが言えない。
 狭いロビーで新聞を読むふりをした。夕べも、今日からのバイトに備え、早く寝ようとした。でも、いまホットパンツのお尻を向けて電話している、A子さんたちにつかまり、ウダウダと、二時近くまで付き合ってしまった。
 地方新聞の三面記事、海岸通りの北の方で、大型タンクローリーが事故。そこを眺め、四コママンガを見ている時に声がかかった。
「はい、電話かけるんでしょ」
 A子さんが、お気楽に受話器を振って促している。
「あ、ども……もういいんですか」
「急ぎの電話だって、顔に書いてあるわよ」
「すんません」
「優しいのと、気の弱いのは違うって、夕べ言われてたでしょ。神田川クン」
 ちなみに、ぼくは神田川ではない。柳沢二郎。二郎と言っても次男ではない。なぜ神田川かというと、夕べ盛り上がった時に、A子さんの連れの、B子さんや、C枝さんに「キミは、神田川のオトコみたいだね」と言われて、そうなった。
「よ、神田川。オネエサンたちといっしょに海岸散歩しない。気が向いたら、そのまま海へザブーン!」
 B子さんは、ピンクのTシャツを、ビキニの上の方が分かるところまで、たくし上げて、ぼくを挑発した。
「よしなさいよ。あの子バイトのために来てんだから」
「まあ、海まで来て川を相手にすることもないか」
「B子」
 A子さんが、軽くたしなめた。いつの間にかC枝さんもロビーに現れ、三人連れだって玄関を出ていった。
 ボクは、テレホンカードを入れて、バイト先の「海の家」まで電話した。
「……すみません。バスに乗り遅れて、少し着くのが……」
「ああ、いいよいいよ。夕べの海岸通りの事故で、道が塞がってっから。お客さん来るの遅れそうだから」
 オジサンが優しく言ってくれた。そう言えば、今、新聞で知ったところだ。ボクは、改めて新聞を読み直した。事故の復旧は、昼前までかかる見込みと書かれていた。
 でも、やっぱり、できるだけ早く行こう。バイトとは言え仕事は仕事だ。それも初日。誠意は見せておかなければならない。
 誠実さと気の弱さが、同じ結論を出した。


 しかし、二郎、歩くことはないだろう――ぼくの中の横着さがグチを言った。
 ぼくは、一時間先のバスを待つよりも、五十分かけて、海岸通りをバイト先まで、歩くことに決めた。
 Tシャツに短パン。帽子は、民宿のおばさんの勧めで、ジャイアンツのキャップを止め、麦わら帽に替えた。大きめの水筒ごと氷らせた裏山の湧き水を肩から斜めにかけて、首にはタオルを巻いた。
 歩くと決めて、民宿のおばちゃんが、あっと言う間に、このナリにしてくれた。
 民宿の寒暖計は、二十九度を指していたので、少し大げさかと思ったが、十分も歩くと、おばちゃんの正しさが分かった。
 民宿から続く切り通しを抜けると、見はるかす限り、右側は海。まともに日にさらされる。ぼくは海沿いの「海の家」のバイトなので、高をくくっていた。アスファルトの道は、もう四十度はあるだろう。
 通る車でもあれば乗せてもらおうかと、思ったが、事故のせいだろう、駅とは反対方向の、この道を走る車は無かった。砂浜でもあれば、波打ち際に足を晒して涼みながら歩くこともできるんだろうけど、切り通しを過ぎてからは、道は緩やかな登りになっていて、ガードレールの向こうは崖になっていた。
 水筒の氷が半分溶けてしまった。溶けた分は、ぼくの口に入り、すぐに汗になってしまう。
 しばらく行くと、ようやく道が下りになり、右手に砂浜が見えだした。

「足を漬けるぐらいならぐらいならいいだろう」
 そう独り言を言って、ボクは「遊泳禁止」の立て札を無視して、砂浜に降りた。
 岸辺の波打ち際、海水に脚を絡ませた瞬間、頭がクラっとした。ぼくは快感の一種だと思った。実際、海の水は、心地よくぼくの熱を冷ましてくれた。
 数メートル波打ち際を歩いて気づいた。波打ち際から四五メートル行くと、海の色はクロっぽくストンと落ち込んでいることが分かった。
 なるほど、こんなところを遊泳場にしたら、日に何人も溺れてしまうだろう。

 しばらく行くと、遠目にイチゴのようなものが見えてきた。
 近づくと、赤と白のギンガムチェックのビーチパラソルだということが分かった。
 ちょっと傾げたビーチパラソルの下にはだれもいない。砂浜には自分が歩いてきた足跡しかついていなかった。
「ちょっとシュールだな」
 そう独り言を言って、パラソルの下……というより、パラソルが作り出している「木陰」の中に収まってみた。
 さやさやと、体から暑気がが抜けていく。ほんのしばらくのつもりで、ぼくは、そこで憩う。
 
 気づくと、その子の形の良い脚が目に入った。
「気持ちよさそうね」
 目を上げると、白のショートパンツに、赤いギンガムチェックの半袖のボタンを留めずに、裾をしばり、栗色のセミロングが潮風にフワリとなびいている。
「これ、きみのビーチパラソル?」
「うん、そうよ」
「ごめん、勝手に使って」
「いいわよ、ちょっと詰めてくれる」
「あ……ああ」
 その子は、思い切りよく、ぼくの横に座り込んだ。その距離の近さに軽くたじろいだ。
「この辺じゃ見かけないけど、あなた、夏休みの学生さん?」
「うん、東京。でも、遊びじゃないんだ。バイト、お盆まで……」
 そこまで言って、気が付いた。砂浜には、やはり、ぼくの足跡しか残っていなかった……。
「ふうん……東京だったら、もっと時給とか、条件のいいバイトあるんじゃない?」
 足跡の謎を聞く前に、たたみかけるように、鋭い質問がきた。
「バイトは口実。本当は、家から逃げ出してきたんじゃない……?」
 
 図星だった。ぼくは半年先に迫った進路のことで、親とも先生とも対立して、一人になりたくて、この海辺の町にやってきた。もう夏休みに入ってからのバイトだったので、民宿なんかの口は、あらかた詰まってしまい、滞在費でバイト代が半分近くとんでしまうことも構わずに、このバイトに決めた。
「大学……いくの?」
「あ、まだ未定」
「だめだなあ、進学するんだったら、夏が勝負でしょ。夏休みを制する者は受験を制す!」
「行く気になれば、二期校ぐらいは狙える」
「へえ、国公立じゃん。頭もいいんだ」
「ぼくぐらいのやつは、いっぱいいるよ」
「……じゃ、他にしたいことが、なにかあるんだ」
「まあ……それは」
 ぼくは、間が持たず、半ば無意識に水筒の水を飲んだ……すると。
「わたしにも、ちょうだい」
 そう言って、返事もろくに聞かないで、水筒をふんだくると、女の子とは思えない豪快さで飲み始めた。
「あ……」
「この水、神野郷の龍神さまの湧き水ね」
「分かるの、そんなことが」
「だって、地元だもん。あ、間接キスしちゃったね」
「はは、そうだね」
「はは、わたし、ちょっと泳ぐね。お水、ごちそうさま」
 そういうと、彼女は、目の前でギンガムチェックのシャツと、ショ-トパンツを脱いだ。
「あ、あの」
「つまんない水着でしょ。白のワンピースなんて」
 その子は、腰に手を当て、惜しげもなく、金太郎のようなポーズで全身をさらした。
「ここって、遊泳禁止なんじゃ……」
「ははは、わたしは、いいの!」
 そう言葉を残すと、その子は、勢いよく砂浜を駆け、海に飛び込んだ。

 ぼくは、あっけにとられた。その子が駆けたあとには、やっぱり足跡がない。それに、海の町の子にしては、肌が抜けるように白い……そして惚れ惚れするような泳ぎっぷりに見とれていると、急に深みに潜り込んだ。
 三十秒……五十秒……二分を過ぎても、その子は海面に現れなかった。
「おーい、おーい、大丈夫か!?」
 ぼくは、波打ち際に膝まで漬かって、その子を呼んだ。これはただ事じゃない。そう思って潜ろうと思ったその時、後ろで笑い声がした。
「あはは、こっち、こっち!」
 その子は、ビーチパラソルの下で手を振っていた。

「いったい、どうやったの?」
「簡単よ……」
 その子は、タオルで髪を拭きながら、続けた。
「東の方に潜ったと見せかけて、水の中で反対の西側に行くの。で、あなたが心配顔して岸辺に来たころを見計らって、死角になった方から、岸に上がって、ここに戻っただけ」
「すごいんだね、きみって」
「だって、地元の子なんだもん」
「でもさ……」
「あなたって、進学以外にやりたいことがあるんじゃないの?」
「あ、ああ……」
 
 気が付いたら、喋っていた。
 ぼくは、役者になりたかった。高校に入ってから、ずっと演劇部。季節の休みごとにバイトに精を出し、軍資金を稼ぎ、労演を始め、赤テント、黒テントなどを見まくっていた。進学の準備も並行してやってた。
 そして、三年生の、この春になって悩み出した。役者になりたくなったのだ。
「芝居も、たいがいにしとけよ」
 言わずもがな、親は見通していた。でも親を口説くことはできると思っていた。いざとなったら、家を出てもいい。

「でも、まだ他にも問題があるのよね」
 その子は、いつの間にか、元の服装に戻っていた。髪も乾いて、風がそよいでいた。
「あ、バイトに遅れる」
「大丈夫、まだ、ほんの五分ほどしかたっていないわ」
「え……」
 このあと……その子が、ぼくの心を読んだように話を先回りした。不思議だけど先回りされていることを不思議には思わず、悩みの種を全て喋ってしまった。

「そうなんだ……ありがとう。二郎君のおかげで力がついたわ。わたしも踏ん切りがついた」
「ぼくも、すっきり……」
 そう言ったとき、その子の姿も、ビーチパラソルも無くなっていた。


「あなた、風邪ひくわよ」

 四十何年前の悩みの種が声をかけて、ぼくは目が覚めた。
 エアコンの冷風が、まともに薄くなりはじめた頭頂部の髪をなぶっていた。
 パソコンがスリープになっていたので、マウスをクリックした。画面には、四十何年前、一夏バイトに行っていた町の、小さな神社が再建されたニュースが動画サイトで出ていた。
 神社は、タンクローリーの事故の巻き添えで、焼けてしまった。木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)が御祭神で、浅間神社の末社であった。
「そうだ、これを読んでいるうちに眠ってしまったんだ」

「はい、コーヒー。目を覚まして台本読まなくっちゃね」
「台詞は、もう入ってるよ。端役だからね」
「その言葉、痛いわ」
「え……どうして?」
「だって、わたしのことが無ければ、あなた、高卒で、もっと早くデビューできたでしょ」
「よせよ、そんなカビの生えた話。いつデビューしていても、ぼくは、こういう役者だったよ。今の仕事も、ぼくは満足しているよ」

 その時、パソコンにメール着信のシグナル。

――おひさしぶり。窓の外を見て。 From その子

 ぼくは、急いで窓の外を見た。大手スーパーの駐車場の一角が見える。
「……あ」
 思わず声が出た。あのビーチパラソルが駐車場にあった。パラソルから、その子が顔を出して手を振っている。
 ベランダに出てみた。そこの方は、駐車場の全貌が見える。
 予想はしていたが、その子の姿もビーチパラソルも見つけることはできなかった。
 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・『連続笑死事件・笑う大捜査線・3』

2016-07-31 06:47:28 | 小説5
ライトノベルセレクト番外
『連続笑死事件・笑う大捜査線・3』
      

 次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。


 犯人は重大なミスを犯した。メッセンジャーに使った子供たちに顔を晒してしまったのだ。 

 むろん子供たちはマインドコントロールされ、暗示もかけられているので、当たり前に聞いては四人それぞれの「犯人の特徴」を言う。それも、聞く度に、その特徴が変わる。
 逆に言えば、そのマインドコントロールと暗示を解いてやれば、子供たちは正確な犯人像を言ってくれるはずだ。
 倉持警視と鑑識の山本部長は、石川奈々子という身内の犠牲者を出したこともあり、非常な決心をもってこれに臨んだ。

「早くホシを上げなきゃ、日本の警察の威信に関わります!」

 管理監は、そう吠えたが、要は、自分の出世に関わるからである。
 そうこうしている間に、しだいに子供たちの暗示が解け始めてきた。

「ちょっと手荒だけど、動き出さなきゃならないわね」

 警視庁の脇を法定速度で走りながら、女は、そう呟いた。
 車の中には、子供たちの脳波を検知するためのパソコンが置いてある。測定機は、子供たちの髪の毛に結びつけてある。髪の毛にそっくりなので、結びつけた髪の毛が抜けない限り有効である。
 それが、もう限界に近いことを示している。むろん簡易な変装はしているが、鑑識の山本にかかれば、半日で正体を見破られてしまうだろう。
「もう、これまでね」
 そう呟くと、女は眼鏡をしただけで、警視庁に乗り込んだ。

「もしもし、どこの部署にごようでしょうか?」
 案の定、エレベーターの入り口で、警戒の警察官に声をかけられた。女は一枚のカードを警官に見せた。
「ああ、どうぞ、五階です」
「誤解ですね」
 誤解がキーワードの一つであった。「五階」と「誤解」は微妙にアクセントが違う。言われた本人も気づかないほどに。そして、もう一つ「交代」という言葉を聞くと、この警官は笑い死ぬ。

 五階につくと、特捜本部まで行くのに二度誰何され、二度、さっきと同じカードを見せ、通過した。
 二人目までは、交代の時に死ぬはずである。三人目は若い女性警官であった。たまたま、妹に似ていた。
「ありがとう、婦警さん」
 女性警官は、少し吹き出した。
「いまどき、婦警なんて言う人いませんよ」
「そうね、でも、わたし『婦人警官』て、言い方好きなもんで。母はそう呼ばれてましたから」
「お母さん、婦人警官でらっしゃったんですか!?」
「ええ」
「じゃあ、もっともですね」
 これで、この子は昏睡のあと、少し記憶障害が残るだけですむ。

 特捜本部に入ると、女はすぐに小さなヘッドセットを着けた。これでこの部屋中に声が届く。

 女は、最初のカードを読み上げた。部屋の全員がクスクス笑い出した。倉持警視は、密かにイヤホンを両耳につけた。
「ハハハ、そいつが被疑者だ、確保しろ。ハハハ」
 まだ、症状の軽い倉持警視が言った。
 ニコニコした若い刑事が三人やってきた。女はすかさず、次のカードを読み上げた、マイクを外して。
 三人の若い刑事は大爆笑し、床に倒れ痙攣し始めた。
「この三人は、四十秒で死ぬ。次は、あなたたち」
 女は再びカ-ドを読み上げた。特捜本部のほぼ全員が大爆笑になり、床をのたうち回った。

「なぜ、あなたたちには効かないの……」

「だって、面白くないもの……」
 そう答えたのは管理監だった。女は思った。こいつは日本語の機微が理解できないインテリバカだと。すかさず、カードを英訳して言ってやると、管理監は即死した。

「そこまでだ!」
 倉持警視が、叫んだ。外で大勢の人の気配がした。同時に倉持警視がピストルを撃った。女は、かろうじてかわしながら、マイクをスワットの無線と同期させ、カードを読み上げた。とたんに外で大爆笑が起こり、人がどたどた倒れる音がした。

「ど、どうしたんですか!?」

 さっきの女性警官の声がした。女はドアに向かい「交代」と叫んだ。痙攣したような笑い声がして、気配が消えた。
「無益な殺生しやがって!」
 倉持警視の怒声続いて、銃声がした。
「スワットは死んだけど、あの婦警さんは昏睡しているだけよ。それにしても、あなたには、なぜ効かないの!?」
「オレは、洒落の分からん男でな!」
 倉持警視は、一気に間合いを詰めてきた。女はパソコンのケーブルを思い切りひっぱり、倉持警視はそれに引っかかって、ドウと倒れ、イヤホンの片方が外れた。
 女は素早く、それを奪うと、倉持のピストルを持った手を踏みつけた。
「なるほど……翻訳機か。日本語が英語で聞こえるのよね。そっちのエライサンとは反対か」
「一つ、教えてくれないか。お前さん自身は、なぜ死なないんだ……」
「作家はね、自分の言葉に愛情を持ってるのよ。その愛情を注いだ言葉で死ぬわけ無いでしょ」
「でも、生かしておくわけにもいかないな」
「どうぞ……」
 女は、倉持の手を踏みつけた足を緩めた。すかさず倉持警視は、しびれる手でピストルを撃った。
 弾は女の胸を貫いたが、死ぬまでには至らなかった。
「最後の一枚、お父さんのギャグ……」
 女は、苦しい息の中で、その短いギャグを読んだ。そしてニッコリ笑ってこときれた。
 倉持警視は、大爆笑の末、二分後に息を引き取った。

 この内容は、女のヘッドセットを通して、彼女のパソコンに送られ、自動的に文章化され出版社に送られた。ただし、殺人ギャグは全て文字化けしていた。
 作品は『連続笑死事件・笑う大捜査線』として出版され、その年のベストセラーになった。

 ちなみに文字化けした殺人ギャグは以下の通りである。解析すれば、まだ効き目があるかも知れない……。

 !""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪!""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪###!! 
 
    『連続笑死事件・笑う大捜査線』完

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・クレルモンの風・15『風雲 レイア姫と人間オセロ』

2016-07-31 06:34:03 | ノベル
クレルモンの風・15
『風雲 レイア姫と人間オセロ』
      


 運命の日が、レイア姫と共にやってきた!

 これだけじゃ、なんのことか分からない。

 同じ寮の留学生、アラブの富豪の息子ハッサンに求婚され(中略) あたしは、ハッサンとの結婚をかけ、人間をオセロのコマに見立てて勝負することになった。

 え、あたしが、誰かとハッサンの取り合い? ちがう、ちがう! ちがうう!!

 あたしが、ハッサンのプロポーズを断るための、ハッサンとの決闘なの、決闘!

 ハッサンは、親の命令で国に帰ることになった。で、捨て身で、あたしにプロポーズしたわけ。
 でも、あたしはゴメン!
 考えてもみてよ。ハッサンには、すでに国に国王が認めた許嫁がいて、あたしは第二夫人。でもって、ハッサンの嫁さんは、これからも増える。だいたいハッサンクラスの王族で十人くらいはお嫁さんがいるわけ。ハッサンはいい人だけど(他がひどいということもあるんだけど)そ-いう対象じゃないの。
 ハッサンは、苦しみながら、あたしのキャンセルを受け入れてくれた。
 こないだ、モンジュゼ公園での誘拐事件に巻き込まれたときも、まっさきに、ハッサンは病院に駆けつけてくれた。

 だから、ハッサンの歓送会はアゲアゲでやってやりたい。で、お気軽に『人間オセロ』なんて考え出したんだけど、これが大誤算。
 ハッサンの国では、大々的な賭け事(オセロが賭け事?)は決闘と同じで、大事なものを賭けなければならない。
 ハッサンは、自分の別荘を。あたしは負けたら、ハッサンのお嫁さん(何度も言うけど、第二夫人)にならなきゃならない。

 で、アグネスが秘密兵器をくれた。

 それが、レイア姫のパンツ。ここ一番の勝負の時は、これが一番なんだって。むろん新品よ。
 アグネスのお姉さんのアリスの伝授らしい。
 普段の運気向上の時は、アミダラ女王。ここ一番のときはレイア姫なんだ!

 その新品のおパンツの感触を肌に感じながら、あたしは勝負に臨んだ。

 会場は大学の玄関ホ-ル。床が白黒のチェックになっていて、チェスをやるのにもってこい。
 で、チェスの派生系であるオセロもできる。ルールがチェスより簡単で、学生みんなが楽しめる。
 我ながら、ナイスアイデア……掛け物が無ければね。
 コマは、ミシュランから借りたイベント用の白黒の大きな帽子を被った64人の学生たち。

 オセロは、勝負が早いので、五本勝負。

 最初の二回は、あたしの勝ち。なんたって、日本のゲームだし、子どもの頃からやり慣れている。
 しかし、さすがにアラブの秀才。その二回で、あたしのウチ癖を覚えられてしまい、三回、四回は、ハッサンに取られてしまった。
 そして、最後の五回目は、一手一手打つ間が長くなった。
 予想はしていたが、ハッサンの学習能力は、すごく高い。感じとしては十手ぐらい先まで読まれている気がする。

「悪いユウコ、ゆうべオセロのゲームソフト、ダウンロ-ドして練習させちまった」
 シュルツが、こっそりポーカーフェイスで言っていく。

 ハッサンの一生懸命さが、あたしへの想いだと思うと、打つのも切ない。

 そして、それは起こった。
 あたしが角をとって、形勢逆転。コマが同数になった。
 あたしは、この一手を打つのに十分もかかった。コマの学生達は、くたびれないように椅子を用意し、中には軽食を用意している者もいる。
 イタリアのアルベルトがハンバーガーを広げたとき、一匹のドーベルマンが飛び込んできて、アルベルトのハンバーガーをふんだくろうとした。アルベルトは逃げる、ドーベルマンは追いかける。会場はハチの巣をつついたような有り様になった。

「ごめん、ごめん、これドゴール、こんなとこで暴れちゃだめでしょ!」

 事務のベレニスのオバチャンが、あとから付いてきて、やっと騒ぎが収まった。
 ドゴールはドーベルマンにしては大人しい。飼い主のベレニスに引かれ、戦利品のハンバーガーをくわえて行ってしまった。

「勝負は、ここまでだな!」

 副学長のカミーユ先生が宣言した。
「二人とも、うちの大学の名に恥じない名勝負をやってくれた。ドゴールの闖入で、コマもバラバラ、集中力も切れただろう。潮時だな」
「でも、先生……」
 アルベルトが、なにか言いかけた。
「すまん、もうすぐ清掃業者も入ってくるんでな。これにて散会」
 カミーユ先生が、拍手をすると、みんながそれに習い、ギャラリーを含め二百人ほどのクラップハンドオベーションになった。

 これは、カミーユ先生を始めとする、大人の仕業だと、みんなが思った。でも、だれも、それを口にはしなかった。

 で、結論。

 ハッサンは、求婚を取り下げた。
 でも、あたしも、なにもしないわけにはいかない。シュルツとエロイが仲介案を出した。
「ユウコが、三か月ハッサンの別荘でバカンスを楽しむ。その間、良き友だちとして、ハッサンとの友情を深めてくれたまえ」

 この外交折衝で話が決まった。三か月も休めば大学が心配だったが、ハッサンが言った。
「インシャラー(神の御心のままに)」
 で、アグネスがつづいた。
「うち、ユウコの付属品やから、いっしょについていくわ!」
 二人とも、あたしってか、日本人の弱さをよく知っている……。

 かくして、あたしは、しばしクレルモンの風からは離れることになった……。

 『クレルモンの風・第一部』 完 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・Regenerate(再生)・28≪詩織の帰還≫

2016-07-31 06:20:41 | 小説7
Regenerate(再生)・28
≪詩織の帰還≫



「おかえり、大変だったな」

 教授のねぎらいの言葉は、これだけだった。
 詩織は、ラボのデータとリンクしただけで、教授やドロシーが、どんなに心配し苦労して自分を捜してくれたかも分かったし、自分の過去を隠していた理由も分かった。この十日あまりの暴走が、それを物語っている。

「ご迷惑おかけしました」

 詩織の返事もそれだけだった。自分がサイボーグだという自覚ができて、ドロシーやラボの機器に親しみを感じ、詩織の頭脳は活発に働きだした。
「もう一万を超えていますね」
「んだす。詩織を探すことから、社会への浸透に力を入れだしたす」
 ベラスコたちは、一人暮らしの人間を抹殺し、アンドロイドと入れ替えていた。そんなに能力の高いアンドロイドではなくスリ-パーとして潜らせているだけだが、これが一斉ほう起したら、ただでは済まない。
「分かっているとは思うが、もう一体ずつ始末できるレベルではない」
「彼らの狙いは?」
「わたしは解散総選挙だと思っている」
「選挙? アンドロイドが選挙に行くんだすか?」
「総理は、9月には内閣改造をやる。一時的に支持率は下がるだろう。秋には北朝鮮の拉致問題になんらかの進展がある。その社会的な反応の加減によっては抜き打ちの総選挙も視野に入れている。その時に、こいつらは動く。たった一万人だが、彼らが扇動すればかなりの浮動票が動く」
「その先は……?」
「政府を急進的にして、東アジアで事を起こす。極東大動乱にもっていくだろう」
「戦争ですか?」
「ああ、それによる犠牲の方が、自然な緊張感による動乱や変化によるそれよりも少ないと踏んでいる。広島や長崎に原爆を落としたことで、たくさんの人命が救われたと思う理屈といっしょだ」
「どう対応するんですか?」
「アンドロイドたちを制御しているサーバーがどこかにある。これを破壊すれば、彼らは統一的な行動がとれなくなる」
「それは、どこに?」
「分かったら苦労しねず」
 ドロシーが頬を上気させながら言った。そして、モニターのドットを真剣に見つめ、何かを導き出そうとしている。
「このランダムに見える入れ替わりに、短期的な戦術的な目的が隠れているにちげえね……」

 そのころ日東テレビでは、ものまね日本グランプリの収録が行われていた。

 収録は半ばだったが、ものまねタレントのモモタローの優勝が確定的になってきた。そんな予選の最終組に、AKR47の大石クララの物まねに激似の太知希和が現れた。ヒット曲『おもいろクローバー』を歌う希和は、ほとんど本人と区別がつかなかった。
 コンピューターによる得点も95点のソックリ度を出していた。
「いやあ、そっくり。もう気持ち悪いぐらい」
 本物のクララが審査員席で、ため息をついた。
「クララ、一回並んでみてよ」
 審査員のクンツがクララに勧めた。

「ウワー……!」オーディエンスからため息が漏れた。それほど似ているのである。

「うん、ほぼ完ぺき。眉と顎が微妙に違うかな。あと高音域のビブラートがちょっと、まあ、コンピューターとオレの耳しか区別はできないけどね」
 さすがはクンツ。観察力はすごかった。

――狙い通り――

 希和は、そう思ったが、おくびにも出さなかった……。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・フケモノGO・06・男のくせにネイサン

2016-07-30 13:45:19 | 小説3
高校ライトノベル・フケモノGO 06 
 男のくせにネイサン



 パイロットはブロンドのイケメンだ。

 画面のケージを指ではじけば捕獲できるんだけど、あたしはためらった。
 パイロットはしゃがみ込んで、なにやら自分のお腹を叩いている。それって変だよね?

 だから、あたしは捕獲しないで声を掛けた。
「なにしてるんですか?」
 あとで思えば、日本語が通じるのは不思議なんだけど、ま、あっさり通じた。
「え、あ、ああ、パラシュートのバックルが外れなくて……」
 こちらを見ることも無く、パイロットは返事だけして、相変わらずお腹のあたりのバックルを叩いている。彼の後ろには巨大な風船が萎んだようにパラシュートがウネウネしている。
「そのパラシュートで降りて来たんですか?」
「あ、うん……こいつが外れないんで身動きがとれなくてね」
「えと……よかったら手伝いましょうか?」
 いつものあたしだったら、こんな気楽に声を掛けられなかった。でも、そのパイロットが必死でバックルを外そうとしている姿がね……なんていうか、とても無心というか、遊びに熱中している無垢な子どもみたいで、ひょいと声かけちゃったんだよね。

「え……じゃ、頼もうかな」

 ちょっとビックリしたみたいだけど、パイロットは、あっさり向き直ってお腹のバックルを示した。
「えーーーと、ここを叩けばいいのね?」
 あたしは何をやらせても不器用なので自信なんかないんだけど、陽気すぎる真夏の日差しのせいか、自転車の鍵を開けて上げるくらいの気楽さでバックルを叩いた。

 ガチャ

 クリアな音がして、バックルは一発で外れた。
「うそ……」
 あまりの鮮やかさに、そう呟いてしまった。
「すごいよ! 71年やってても絶対外れなかったんだぜ! きみは女神さまだ!」
「キャ!」
 パイロットは、かがんだ姿勢のままあたしにハグしてきた。
「ありがとう、これでカンザスに帰れるよ」
「あの、いま71年て言った?」
「え……あ、そうだ……71年もたってしまったんだ……」

 パイロットは立ち上がると、額に右の掌をあて、呆然とあたりを見渡した。

「一面の焼け野原だったのに……これは……俺は……たぶん死んでしまったんだろうなあ……」
 すると、パイロットの後ろで萎びていたパラシュートが、ゆっくりと消えて行った。
「あ、俺ネイサン・オウェン中尉。君の名前は?」
「あ、白瀬亜美。高校二年です」
「オウ、ハイスクールの二年生!? てことはseventeen!?」
「え、あ、そう」
「elevenくらいかと思った!」
「11歳!?」
「あ、それほどキュートだってことさ。17ってことはカンザスの妹と同い年だ」

 男のくせにネイサンというアメリカ人の幽霊と親しくなる予感がした……。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・坂の上のアリスー29ー『あ、あの、お客さま……』

2016-07-30 11:06:22 | 小説3
坂の上のー29ー
『あ、あの、お客さま……』



 けっきょく日本橋に居続けすることになった。
 
 理由は簡単、聖天使ガブリエルこと純花がリリシャスフェアリーのお宝フィギュアに憑りつかれてしまったからだ。
 俺たち門外漢から見れば、どうってことないフィギュアなんだけど、オタクの中では開封品でも10万円ぐらいで取引されるレアものらしい。
 もともとはユリゲーのリリフ(リリシャスフラワーズ)のキャラでフルプライスでも5000円くらいのものだ。それが10万円になるにはいろいろ理由があるらしいが、何度純花の熱い説明を聞いても俺には分からない。
 ただ、純花が子どものように目を輝かせるので、これは付き合ってやらなきゃならないと、俺と真治と静香は思ったんだ。綾香はむろん純花の味方だ。
 でも、最初は福引頑張ってみよう! という程度だった。それが居続けしてしまったのは純花の涙だ。

「あれは、ただのリリシャスフェアリーではないの、この現世(うつしよ)に隠されていた聖天使のホーリーパワーの源泉。あれを手に入れれば現世での我が力は無限大になろうほどのもの!」
「そうなのか!」
 と調子を合わせていたが、引きこもりをやっと脱した自分への道場であることは分かるのだろう。
「台座の後ろを見て!」
 賞品の陳列棚の横に回る。
「あ、あの、お客さま……」
 福引係の店員さんに迷惑がられる。そこは福引ブースと柱の隙間でブースの出入り口だからだ。
「こいつ熱心なファンで、ちょっと確かめるだけだから(^_^;)」
 店員さんをなだめて、50センチほどの隙間に5人がひしめき合って確認した。
「シリアル1111……でしょ……ムギュ~」
「そ、それが~? グギュッ」
「11月11日はわたしが聖天使ガブリエルとして、この地上に降臨した日なのよ……グググ」
「「「「誕生日?」」」」
「聖なるゾロ目なの!」

 で、俺たちは日本橋でせいぜい買い物をして福引に励むことになった。

 ただ、聖天使の福引なので、闇雲に福引の列に並べばいいというものではない。運気が満ちる時間と言うのがあって、それを待って福引のガラガラを回すのだ。
「やったぜ、四等のデジカメだ!」
 くじ運の悪い真治が生まれて初めてカス以上のものを引き当てたが、純花はジト目のため息だ。
「午前の運気は使い果たしたわ……次は午後のタームにかけてみましょう」

 で、俺たちは昼食をとるためにメード喫茶に向かったのだった……。


 ♡主な登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 二宮純花      坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れに口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 三宮静香      亮介の親友 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・223〔存美女学院高校物語・1〕

2016-07-30 06:47:39 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・223
存美女学院高校物語・1〕
       


 誰だってゾンビと読む。

 存美女学院高校……本当は「ありみ」と読む。
 昔は、もっと街の中心に近い存美(ありみ)町にあったから、その町の名前がついただけで、だれも「ゾンビ」なんて呼ばなかった。
 ところが、前世期の終わりごろ映画やゲームソフトが売れだしてから「ゾンビ」という言葉が市民権を得て、学校もゾンビ女学院と呼ばれるようになった。
 最初の頃は、生徒や先生も面白がって「ゾンビ」と呼んでいた。なんといっても町と同じ名前で、成績も評判も良かったので、シャレということがすぐに分かる。
 ところが90年代に入って、学校が手狭になり、バスで五つほどいったところに移転した。そして、まずいことに、地域の統廃合で存美町という名前が消えてしまった。地元の人たちが話し合い「本町有美」と変えてしまい、これは、どう見ても「ありみ」だ。
 かわいそうなのは、うちの学校で、まんま「存美女学院」

 少子化の影響で、うちの学校への進学希望者は減る一方。成績も落ちてきた。評定平均で3近く落ちてしまい、正直落ちこぼれ学校。
 でも、生活指導ってか、しつけは厳しい。制服、髪形、登下校の指導もカチカチで、もともとそういう指導に馴染まないまま中学生活を送り、うちに来た生徒は不登校の末に辞めていくか、それこそゾンビみたく元気のない姿で登校するので、ますますゾンビ度は上がっていった。
 で、このゾンビ学校が潰れないで存在しているのは、経営者の存美一族が、業務本体のアリミ商事の利益をつぎ込んでいるからだ。生徒に元気はないけど礼儀作法は、県下でも有数だったので、就職先には困らなかった。東京に本社があるような企業は無理だけど、地元のそこそこの企業に需要はあった。でも、そろそろ限界だった。お茶くみや受付に座らせておくのには問題はないけど、このIT化された世の中、スマホがいじれる程度の情報処理能力では務まらない。最低エクセルやパワーポイントぐらいできなければ通用しない。

 アリミ商事も代替わりして、このお荷物の存美女学院の整理にかかりだした。来年募集定員割れするようなら、再来年から募集停止にし、3年間で廃校にするというのだ。これに抗議したのか嫌気がさしたのか、8月で校長が辞めてしまった。

 で、8月末の始業式に着任してきたのは、加藤不死美という年齢不詳の……制服着せたら生徒でも通りそう……ババ服着せて髪の毛いじったら、定年間近にも見えそうな、女性であること以外分からないのが着任した。

 あ、あたしは山田花子。17歳で人生お先真っ暗。まあ事情はゆっくり話すけど、真っ暗の原因の半分は、この、いまどき役所の書式にも載らないようなチョー平凡な名前。吉本に同姓同名のタレントさんがいて、中学のときなんか、この名前だけで、どこのLINEにも入れてもらえなかった。姿かたちは上の絵みたい。
 無気力という点では、他の生徒とどっこいどっこい。

 で、本題には、明日から入ります。ああ、くたびれた……。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・『連続笑死事件・笑う大捜査線・2』

2016-07-30 06:33:17 | 小説5
ライトノベルセレクト番外
『連続笑死事件・笑う大捜査線・2』
        

 次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。


 編集長は、パソコンの画面を見ながら、父の顔も見ず、事のついでのように言った。

「先生の感覚には、今の子はついて来れないんですよ。もっとダイレクトでビビットなもんじゃないと」
「しかし、それでは、子供たちに本を読む力が付かん」
「教育図書出してるわけじゃないんですからね、そういうのはよそでやってくださいよ。とにかく、この販売部数では、次の仕事はお願いできません」
「読者は育つものだ。もう一年続けさせてくれ。必ず部数は増える」
「ま、そういう読者が現れたら、またお願いしますよ」
 
 この言葉が合図だったように、バイトのKがドアを開けた。

「これが、今の出版業界だ。よく分かったら、もう作家になろうなどとは思うな」
 悪い右足を引きづりながら、父が言った。
「肩に掴まりなよ、お父さん」
「作家は、両足で大地を踏みしめながらいくもんだ。地に足の着いた本を書かなきゃいかん!」
 そう言って父は転んだが、娘が差し出した手を払いのけ、駅へと向かった。

 ほどなく父は不遇のうちに逝ってしまった。

 娘は、その後5年間消息不明だったが、昨年『素乃宮はるかの躁鬱』で、ラノベの世界に登場した。自分を高く買ってくれるところなら、どこの版元の本でも書いた。

 ただ、父をソデにしたK出版を除いて。

 おかげで、業界トップに君臨していたK出版は三期連続の赤字を出し、親会社のK総合出版はK出版を整理に係り始めた。
 そこに、その超有名作家になった娘から連絡があり、ほいほい乗った編集長と元アルバイターは、証拠も残さず、死因も分からないまま殺された。

 娘は、父の作品をコンピューターで徹底的に解析し、笑いの要素を抽出した。それを組み合わせ、対象に合わせた話を作り、この世に生きる値打ちがないと判断した相手に次々と送りつけた。メールにしろ手紙にしろ、相手が目を通した後は消滅するか、まったく別の文章になるようにした。このし掛けは、アメリカのCIAの元職員から、身の安全を保証する工作をすることを代償に教えてもらった。
 ただ、彼は、最後の部分を教えるときにリストを渡した。
「こいつらを始末してくれること」
 それが元で、世界中で『笑死事件』がおこることになった。

 科捜研の石川奈々子は、H氏を笑死させた手紙の紙の出所をほぼ突き止め、明日は倉持警視に報告できるだろうと思い、科捜研のCPUに解析を任せ、久々に定時に退庁した。

「ねえ、石川さんでしょ?」
 小学五年生ぐらいの女の子が近づいてきた。
「そうよ、なにかご用?」
「実はね……」
「ハハ、なにそれ?」
「とにかく、伝えたからね」
 女の子は行ってしまった。

 そんなことが三回続いた。さすがに笑死事件との関連を疑ったが、いっこうに自分は死なない。
 そのかわり、科捜研のCPUのキーワードを四回目に喋ってしまったことには気づいていなかった。キーワードは、四人目の女の子の肩に留めておいたてんとう虫形のマイクで拾われ、役割を終えたマイクは、ポロリと地面に落ち、折からの竜巻警報の風で、どこへともなく飛ばされていった。

 奈々子は、地下鉄のホームに降りて、電車を待った。

 先に下りの電車がやってきた、その発メロを聞いたあと、上りの着メロがして、奈々子は電車に乗って、発メロを聞いてしまった。

――しまった!――

 そう思ったとき、奈々子は爆笑してしまった。慌てて耳を押さえたが手遅れであった。偶然居合わせた医者が、手を尽くしたが、次の駅に着いたときには、奈々子は体をエビのように丸め、涙と涎を垂らした爆笑顔のままこときれていた。

「すまん、石川君。しかし、君の死は無駄にしない。手がかりは残してくれたからな」

 手がかりとは、科捜研のCPUではない。キーワードを知られた時点でバックアップごと消されている。

 四人の小学生を目の前に、ため息をつく倉持警視であった……。
 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・クレルモンの風・14『優子とアミダラ女王の危機一髪!』

2016-07-30 06:24:19 | ノベル
クレルモンの風・14
『優子とアミダラ女王の危機一髪!』
    


 メグさんちからの帰り道、モンジュゼ公園のあたりはお巡りさんで一杯だった。

 すぐに女の子の行方不明の捜索隊だと分かった。
『きみ、こんな女の子を知らないかい?』
 ビックリした!
 すぐ側で、若いお巡りさんが視野の外から声をかけてきた。
『あたしも、さっき事件を知ったばかりで、この子はわかりません』
『どうもありがとう。セレナ・アバックって言うんだ。気の付いたことがあったら警察まで』
 そう言って、写真入りのビラをくれた。さっきメグさんに見せられたのといっしょだ。

 帰り道は、さすがに走らなかった。普段の運動不足のところへ、メグさんちまで走ってきたので、気がついたら、足がパンパン。
「こりゃ、ゆっくり歩いてほぐしておかないと、明日あたり痛むなあ……そう思って歩くことに決めた。

 百メートルも歩くと、ブツッと音がしてスニーカーのヒモが切れた。

 あたしは道ばたの消火栓にもたれるようにして、しゃがんだ。
 スニーカーのヒモはハンパなところで切れていて、残ったヒモを穴に通して結ぶのが大変だった。いや、結ぶ前に切れてささくれ立ったヒモの先を穴に通すことそのものが大変だった。

 気づくと頭上で声がした。

 正確には、横に停まっていたセダンの窓が少し開いていたので、そこから漏れてくる声が聞こえたのである。
『みんなモンジュゼ公園のあたりだと思ってる』
『これだけ、ビラを撒けばね』
『セレナの始末は』
『古い方の納屋の冷蔵庫……』
 ギョッとして立ち上がってしまった。で、運転席のオッサンと目が合ってしまった。
 背を向けて逃げ出そうとすると、運転席からバスケット選手みたいにでかいオッサンが出てきて、簡単に掴まってしまった。慌てる風もなく簡単にボンネットに押さえ込まれ、降りてきたオバハンといっしょになって、猿ぐつわを噛まされ、後ろ手に縛り上げられトランクに放り込まれた。
 オバハンは、あたしを放り込みながらジーパンを足首まで脱がせ、ベルトを二重巻きにして足かせにした。この間、わずか五秒ほど。
 ほんの百メートル先にはお巡りさんがいるんだけど、前のトラックが障害になって死角になっている。
『こいつの始末も考えなきゃな』
 オッサンの一声がして、車が憎ったらしいほどゆっくりと動き出した。

 とっさに思ったのは、暴れたらすぐに殺されるだろうってこと。そして、行くところまで行けば、これも殺されるという予感。
 カーブを曲がって、車は少し加速した。警察の目が届かないだろうと判断したようだ。
 トランクの中は、真っ暗。なんだか酔いそう……でも、酔わなかった。やっぱ必死の緊張感なんだ。

 足許に触れるものがあった。スマホだ……あたしは、ゆっくりと、縛められた手許までたぐり寄せた。
 でも、画面が見えないんじゃ、まともに操作ができない。

――そうだ、海ちゃんだ!――

 アドレスを交換したばかりだから、アドレス一覧のトップにある。なんとか後ろ手のまま、スマホを通話にして、勘で画面にタッチした。
「もしもし、もしもし……」
 かすかに海ちゃんの声がする。
 スマホの灯りで、トランクの中が少し明るくなった。
「どうしたのユウコ?」
 あたしのスマホにはナビ機能がついている。海ちゃんのにもナビが付いていてシンクロできたら、場所が分かる。あたしは冷静になって、ビデチャモードにした。
「え……ええ!」
 という声が聞こえた。事態は飲み込めてもらえたようだ。

 どこを走っているんだろう。感じとしては南の方なんだけど。

 時間の感覚がマヒしている。三十分にも一時間にも感じた。でもスマホの灯りが点いているのだから二時間にはならない。バッテリーの残量が、そんなものだから……。

 と、急に車が急ハンドルを切った。すごい加速……と思ったら、また急ハンドル!
 もう、なにがなんだか分からないようになって、衝撃! 車が停まった。何やらフランス語の罵声が続いたあと、気を失った。直前トランクが開く気配がした。
――いま、ハズイ格好……――

 気がついたら、病院のベッドだった。目の前に海とメグさん。
『先生、意識が……』
 メグさんの声が遠のいていく。海の顔がアップになった。
「最初、アミダラ女王のアップなんで、ワケ分かんなくて。で、ユウコのお尻が、縛られた手といっしょに写って、ただ事じゃないと思って警察に連絡したの。ナビが付いていたんで、先の方で検問かけてもらって。大変よ、大立ち回りのあげくに犯人逮捕」
「どのあたりだったの?」
「リベラシオン通りの南の方」
「で、あたし……どんな格好で」
「あ、事情は分かってたから、トランク開けたのは女性警官の人。直ぐに毛布でぐるぐる巻きにしたから見られてないわよ」
「よかった……」
「しかし、いまじぶんにアミダラ女王のおパンツなんて珍しいいわね」
「あれはね……で、女の子、セレナ・アバックは!?」
 海は、悲しそうに首を振った。

 で、悲しみに浸る間もなく、アグネスを先頭に、寮の仲間達が入ってきた。
「ムチャクチャ心配してんで!」
 というアグネスから、始まり、最後がハッサンだった。
「無事でなによりだったね……」

 そうだ、こいつとの結婚を賭けて、人間オセロが待っているんだ……!

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・Regenerate(再生)・27≪詩織と沙織と……≫

2016-07-30 06:14:35 | 小説7
Regenerate(再生)・27
≪詩織と沙織と……≫



 ひぐらしが涼やかに集く中、比叡山の老杉たちに濾過された木漏れ日は、ほとんど真西から塔頭を照らしていた。

 日没偈(にちもつげ)の読経が遠くから聞こえてきた。詩織の意識は、まだ乱れを残してはいたが、ゆっくりと目覚めた。
「目ぇ覚めたんやね」
 優しげな声が斜めに降ってきた。
「あ……あたし……」
「まだ寝てたらええよ。意識は戻ってきたみたいやけど、まだ落ち着いてないさかい」
 詩織は体に違和感を感じていた。まるで、蛹(さなぎ)が変態することにとまどっているように。
 そっと顔に手をやると、顔の肉がムクムクと変わるのが手のひらに伝わった。
「すみません、鏡を……」
 沙織が、手鏡を顔の上に持ってきてくれた。
「顔が……」

 詩織の顔は、一秒に五回ほどの割で変わっていった。あまり驚きはしなかった。心は、しっかりと詩織に戻っていたから。
「まあ、バグの影響が少し残っていると思えばよろしい」
「バグね……」
「収まるまで、ちょっと話聞いてくれはる?」
「ええ……」
「100ひく100はなんぼかしら?」
「……ゼロ」
「そやね。ほんならX=1 Y=1の点を、このグラフに示してくれはる?」
 沙織は、パッドとタッチペンを詩織に渡した。受け取った詩織の手が逡巡した。
「書けない……」
「どないして?」
「書いた点は面積を持ってしまう。点には面積がないわ」
「そう、点には面積あれへんし、ゼロは目に見える形では表現でけへん。そやけど、頭では理解できる……そやね?」
「うん……」
「仏さんの衆生済度のお気持ちもいっしょ。目ぇには見えへんけど、たしかにあります」
「衆生済度とは……」
「極楽往生……平たく言うたら、人がゼロになること、それを救いととらえること。往生するまで人間はアホなことばっかり。そのアホをアホのまま認めて、来るべき往生を待って、感謝します」
「それって……」
「そう、M機関の基本理念といっしょ。他力本願やろね」
「他力本願……」
「そう、過ちのまま人間を認める。せやけど、できるだけ過ちを犯したり、失敗せんようには見守る……言葉で言えるのは、そこらへんまで」

 詩織の顔は、ようやく詩織の顔に落ち着いた。

「沙織さんは、あたしの前にドロシーといっしょの寮にいたんだよね?」
 身づくろいをしながら、詩織は尋ねた。
「そう、M機関の精神的な支柱を確かなもんにするために、うちは比叡山に出張。まあ、サイボーグとしての機動力やら戦闘能力では、うちは型落ちやさかい。教授も適材適所、よう心得てはります」
「身づくろいなんか、デジタルでやったら一瞬なんだけど、こうやっていちいち人らしく、アナログでやると、なんだか新鮮」
 詩織は、カットソーにコットンパンツ、姿かたちは幸子の姿で塔頭をあとにした。ベラスコは詩織姿の詩織を探していた。幸子の姿はアンインストールしてある。詩織が最高の条件でいられるのは詩織の姿だと理論的には思っているから。デジタルな理論では合理的な考え方である。

 詩織は不合理だった。幸子の姿で、人間らしく新幹線でラボに戻る。そして、できるだけ幸子として戦ってやることが、幸子への思いやりであり、M機関の精神性をまもることだと思ったからだ。

 のぞみの車窓から見える西の空は茜色に染まっていた。詩織は、久しぶりに明日の朝日が楽しみに思えた。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・フケモノGO・05・ジャイアンツのキャップを被って

2016-07-29 12:50:31 | 小説3
高校ライトノベル・フケモノGO 05 
 ジャイアンツのキャップを被って



 スマホの中のケージが三つになった。

 女生徒の那比気芳子、ライブのチケット、宇佐軌組の誠女親分。
 ケージをクリックするとアイコンに変わる。ダブルクリックすると3Dの画像になって、指を使って回転させたり拡大することができる。
 チケットは回転させても拡大しても面白くないが、人間は少し面白い。
 芳子はクラシックなセーラー服。セーラー服と言うのは体の線が分からない造りになっているけど、彼女は姿勢がいいので胸のところがツンとしている。見えている膝下の細さと相まって、かなりスタイルが良いことが分かる。で、顔は癪に障るほど可愛いかったりする。
 誠女親分も美人でスタイルもいいんだけど、たくましい。よく見ると、なんだかオリンピック選手みたいだ。
 そういうことが分かるのも、クルクル回転させたり拡大したりできるからだろう。

 どういう仕掛けか、芳子だけが勝手に現れて、要らないことを言う。

「いつまで寝てんの!」「メールだよ」「食パンキレてるから買いにいこう」「お母さん遅くなるって」「あ、午後から雨だよ」「今日はプラゴミの日だよ」「鼻毛伸びてるわよ」「洗濯物とりいれよう」など色々。
 二日ほどは面白かったけど、三日目には煩わしくなってきた。だってお母さんよりも口うるさいんだから!

「暑いからヤダーーー!」

 朝から三回も「外に出よう!」と言うので、四回目にはキレてしまった。
 夏休みは冷房の効いた家の中に居て、ウダウダやっているところに値打ちがある。夏期講習だって一日も休まずに通ったんだから、あたし的には大手を振ってウダウダしていていいと思っている。
『でももう丸々四日外に出てないんだよ、腐れ女子高生になっちゃうよ』
「腐ってもいい、昼まで寝るんだからあ」
 頭から夏布団をひっかぶる。
「ん……なんか臭う?」
『スマホ見てごらん』
「ん……?」
 枕もとののスマホを手繰り寄せる。
「……なにこれ?」
 眠い目をこすると、画面は一面のお餅の表面みたいだ。真ん中に小さなくぼみがある。
『寝返りうってごらん』
「ん、こう?」
 素直にうつ伏せになる……すると画面は同じお餅の表面なんだけど、小さなくぼみは無くなっていて、下の方に行くに従って少し隆起しているような気がする。
「なんだこりゃあ……」
 無意識にスクロールすると隆起の下が谷間になって来た。

「これって……ウッ……やだ、お尻じゃないの!」

『亜美のお尻だよ』
「ゲ、なによ!?」
 身体をよじると、画面の体も同じようによじれた。
『三回クリックしてみ』
「ン……」
 こういうところは従順なので、言われた通り三回クリックする。
「こ、これは……(-_-;)」
『四日目の……便秘』

 芳子は便秘体操を教えてくれて、なんとかスッキリすると、ジャイアンツのキャップを被って外に出た。

 いつもの習慣で公園を斜めに通り駅前に。それだけで汗みずくになるので、用事もないのに、やってきた準急に乗る。
 十分も乗ると汗が引いていき、ニ十分を過ぎると寒くなってきて降りた。
「この駅は初めてだなあ……」
 人間の体と言うのは勝手なもので、冷房で冷えた体に暑さが心地い。

 駅前のロータリーまで出るとスマホが振動した。

「あ、なんか居る!」
 画面のナビに!マークが震えている。
 ナビに従って三つ角を曲がると居た。

 パラシュートを引きずった外人のパイロットが……。
 
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

女子高生で売れないライトノベル作家をして いるけれど、年下のクラスメイトでアイドルの……

2016-07-29 06:44:57 | ライトノベルベスト
高校ライトノベルベスト
 女子高生で売れないライトノベル作家をして いるけれど、年下のクラスメイトでアイドルの女の子に首を絞められている 
        


 女子高生で売れないライトノベル作家をして いるけれど、年下のクラスメイトでアイドルの女の子に首を絞められている。この現実離れした状況はなんだ?

 あたしは、本格的な小説家になるために、半年間アメリカに居た。

 これも現実離れしている。女子高生で、小説家になるためにアメリカへ……そんなのめったにいないよね。
 
 ちょっと冷静に整理してみる。

 うちの隣の渡辺さんちに交換留学に来ていたアリスと仲良くなった。
 アリスは、変わった子で、アメリカ人なのに日本語ペラペラ……そんなに珍しくもない。
 このアリスが六十二年前の大阪弁を喋ると言ったら、少し珍しい。
 これが、動機の最初。なんでアリスが六十年以上前の大阪弁を喋るかと言えば、アリスに日本語を教えてくれたのがTANAKAさんという、アリスの隣のオバアチャンだから。

 TANAKAさんのオバアチャンは、当時進駐軍と言われたアメリカ軍専用のPXという売店で、片言の英語を喋りながら売り子をしていた。
 売店といってもスゴイ物で、百貨店をまるまる接収してアメリカ軍専用のデパートにした。でも、アメリカ軍の軍事施設の分類では、PX(post exchangeの略)になる。
 そこによくやってくるアメリカの大尉さんと仲良くなり、結婚して六十二年前にアメリカに移った。当時としては非常に珍しいことで、新聞に載ったらしい。

 でも、若きTANAKAさんの幸せは長続きしなかった。

 大尉の旦那さんが、朝鮮戦争で亡くなったのだ。旦那さんの両親はTANAKAさんに冷たくあたり、家を放り出された。で、アメリカの苗字を失ってTANAKAの旧姓に戻り、シカゴでハウスキーパーをしながら暮らすことになった。
 でも、TANAKAさんのお腹の中には赤ちゃんがいた。TANAKAさんは日系のアメリカ人に助けられて、なんとか女の子を産んだ。そして、皮肉なことに、朝鮮戦争の休戦後の捕虜交換で、旦那の大尉が生きて帰ってきた。大尉の親は、TANAKAさんが死んだことにして、お墓まで作っていた。すっかり信じ込んだ大尉は、傷心の果て、アメリカ女性と再婚。サウスダコタとシカゴに別れ、そうとは知らずに、同じアメリカで五十年暮らし、十二年前に再会した。
 互いに再婚相手には死なれていた。周囲の人たちや、二人の間に生まれた娘は、もう一度の再婚を勧めたが、二人は、良き友として、残りの人生を生きることにした……。

 これは、TANAKAさんのオバアチャンの話の、ほんのデテールに過ぎない。アリスからは、何度にも分けてTANAKAさんのオバアチャンの話を聞いた。
 感動した文学少女であるあたしは、これを小説にしようと、アメリカへの交換留学生制度を利用して、アメリカに渡り、TANAKAさんのオバアチャンからも話を聞いて、勉強のかたわら、プロットとしてまとめた。

 で、あまりに熱中しすぎて、勉強が疎かになり、単位をいくつも落としてしまった。

 アメリカはシビアな国で、たとえ交換留学生であっても、単位不足は情け容赦なく落とされる。
「うそやん、そんなやつ、千人に一人ぐらいしか居てへんわ!!」
 アリスは、これ以上驚きようがないほど目を剥き、鼻をを膨らませ、ノドチンコが見えるほど口を開けて驚いた。でもって、呆れられた。

 勘のいい人は、このあたりで分かると思うんだけど、あたしは留年生として、日本に帰ってきた。当然学年は一個下がってしまう。
 で、そのクラスににアイドルがいた。AKR47の駆けだしだけれど、人類の分類で言うとアイドルの女子高生ということになる。

 でもって、こいつが、あたしの妹だというところに決定的な問題がある。

 あたしにとってではない。妹にとって問題なのである。留年生の姉が同級生になるなんて、ヘタをすればゴシップである。
 で、首を絞められながらも「これは、小説……ラノベのネタになる」と思った。

 悲しい作家の性である……。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』

2016-07-29 06:31:12 | 小説5
ライトノベルセレクト番外
『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』
      

 次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。

 そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。


 それは、ニューヨークから送られてきた。その名も『トーノスデ』

 ノートの表紙はキティーちゃんのパチもので、おそらく中国製だろうと思われた。中身はアメリカのどこにでもある、穴あきでミシン目の入ったものを、旧東ドイツのノートのリングで留めたというもので、まったく正体不明であった。おまけに書かれている文字はアラビア語で、使われているインクは、アイルランドを筆頭に、ロシアまで、100ヵ国のインクが使われており、『トーノスデ』から犯人にせまることは不可能だった。ちなみにノートのタイトルもアラビア語で、右から左に読む。

 インサイダー取引で、大もうけして、上手く法の目をくぐり抜けたIT産業の寵児と言われたS氏は、株の動きをパソコンでみているうちに大笑いして死んだ。
 C国との裏の繋がりからC国の傀儡と言われたO氏は、秘書3人からもらった手紙を読んだ直後「うん?」と一言もらしたあと、大爆笑して逝ってしまった。
 いずれも、パソコンにも手紙にも証拠は残っていなかった。何故かというと、それをあとで見た誰も、死ぬどころか、クスリとも笑えなかったからである。
 どうも、ターゲットが笑い死にしたあと、笑わせた中身そのものは消えてなくなるか、他の文字や図形に変わっているらしい。

 次のターゲットは、M党の元総理大臣H氏であった。O氏と同じく秘書から手紙が届くようにしたが、これが効き目がなかった。

「なんだ、意味不明だね」

 氏が、そう言って、手紙を置いたとたん、手紙は日本国憲法の前文に変わった。念のため警察に届けたが、警察でも、むろん分からなかった。

 ただ、科捜研の石川奈々子だけが、あれ? と、思い、紙の分析を始めた。

「ビンゴ!」

 奈々子は、思わず叫んだ。
「倉持さん、絞り込めた!」
「ほんとか!?」
 倉持が喜んだほど、有力な資料ではなかったが、それでも絞り込みにはなった。

 紙は再生紙が使われていて、その紙が特殊であった。原料の20%が破砕した紙幣が使われていて、その中に、ごくわずか2000円紙幣が混じっていた。2000円紙幣は流通量が少なく、当然回収され再生紙の原料にされたものも少なく、日銀の見学者に渡されたもの、古紙として業者に渡されたものをひっくるめて8万件。その再生紙を製造した会社は大小150社しかなく、紙質を調べれば、もっと絞り込めるはずだった。

 女は気づいた。H氏に効き目が現れなかったことが。

「くそ、並の神経じゃない……」
 H氏の、完全な記憶力は48時間である。ジグソーパズルのように欠けた言葉を探した。コンピューターで20時間ほど解析し、一つの言葉を探り当てた。時間は限られている。いつものように手の込んだことはできない。
 そこで、簡易な変声機で、オバサン声にしただけで、H氏の事務所にS新聞を名乗って電話した。秘書はなんの疑いも持たずH氏に取り次いだ。

 女は、ただ一言、こう言った。

「トラスト ミー」

 H氏は、直ぐに手紙の内容と結びつき、30秒間大爆笑したあと、こときれた……。 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加