大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 129『天照の焼きプリン』

2023-06-30 11:16:25 | ノベル2

ら 信長転生記

129『天照の焼きプリン信長 

 

 

 …………今日のところは帰るか。

 

 素戔嗚の化身たる桃太郎は、やっつけたが、なんとも後味が悪い。

 再び現れた鬼を退治してみたら、その中から出てきたのは荒んだ桃太郎だった。

 恨めし気に理屈を並べ立て、そのいくつかは――なるほど――と思わせないでもなかったが、結局は桃が鬼に入れ替わっただけの、いわば桃太郎のマイナーチェンジ、劣化版。

 口には出さなかったが、奴には分かったんだろう、最後は赤い口を開けて飛びかかる事しかできなかった。

 

 しかし、桃太郎は退治した、退かせ丸く治めた。退かせて治めたのだから退治には違いなかろう。

 文句は言わせん。

 

 しかし遅い。

 

 丸く治めて、御山に戻ってきたと言うのに、天照は姿を見せん。

 思金(おもいかね)は蹲踞したままだし、あっちゃんは草薙剣のままダンマリを通している。

 

 いい匂いがしてきた。焼きプリンの匂いだ。

 

 そうか、美味しいプリンに挑戦するとか言っていたな。

 その場しのぎの言い訳かと半分疑ったが、どうやら本気で作っているようだ。

 カラメルだかメイプルシロップだかが香ばしく焦げる匂い。

 思金も思わず腰を浮かせている、今度こそ会心の焼きプリンにお目にかかれる。

 そう思うと、幼いころの市のように唾が湧いてきたぞ。

 

 ドッカーーーーーーン!

 

 神域中央の石が、発射と同時に失敗したロケットのように吹飛んだ!

 

 ゲホ! ゲホ! ゲホ!

 

 煙にむせかえっていると、髪も装束もボロボロになった天照が現れた。

 

「いやあ、上総之介を労ってやろうと焼きプリンを作っていたのだがな、どうも、また失敗してしまった」

「…………(-_-;)」

「まあ、そう怒るな、素戔嗚をやっつけるのと同じくらい難しいんだぞ、天照の焼きプリンは。思金、とりあえず、このありさまをなんとかしてくれ」

「ハ、ただいま」

 そう言うと、思金は勾玉の姿になって、光ながら天照の周りを、足もとから頭に向けてクルクル周る。

 胸から上に至ると、速度を増し、キラキラとエフェクトが入って、いつも以上にきらびやかな天照になった。

 

「さて、約束通り、茶姫の傾向と対策を教えてやることにしよう」

 

「うむ、待っていたぞ」

「茶姫も素戔嗚に負けず劣らずこじらせておる」

「うむ」

「こじらせの主因は兄の曹操。曹操は己のためならば、たとえ主であろうと我が子であろうと恩人であろうと容赦のない強欲のサイコパスだ。こいつを乗り越えなければ、茶姫は三国志においては身の置き所が無い」

「三国志に戻れと言うか?」

「この扶桑に居てもしばらくの安寧は保証されるだろうが、長続きはしない。根本の問題を解決してやらなければな」

「しかし、曹操の目は三国志全域に広がっている。この扶桑に亡命してからは、いっそう警備の目は厳しいぞ」

「しかし、それしかない。一日伸ばしにしていては、こちらで根が張り、扶桑の災いの種にもなりかねない。真っ直ぐでいいやつだが、曹操の妹だ。ひとたび動き出せば容赦はない」

「三国志に戻って曹操を倒すしかないのだな……」

「ああ、それも茶姫一人では為し難い。上総之介、そなたと市が付いてやらねばならないだろう。おまえたち兄妹は、もう十分過ぎるくらい、茶姫とは縁で結ばれている」

 改めて言われると、事の重さに息苦しくなる。

「息苦しいと思えるほどには成長したんだ」

「俺のことはいい」

「そうだな。向こうに行ったら、その三人でも危うい」

「ああ、だからこそ皆虎からは一目散に逃げてきた」

「ここから見ていたぞ、いたずらに固まらないで二手に分けての逃避行を選べたのはさすがに上総之介。朝倉攻めの退き戦以上に秀逸であった」

「褒めるのはいい、これからのことを言ってくれ。三人で三国志に戻って、それからの手立ては?」

「蜀の孔明、呉の大橋(だいきょう)と連携することだ。特に曹操と対峙する時に、この二人は欠かせない」

「……で、あるか」

「そこで締めくくるな。この二人の助力は妙薬だが、同時に毒でもある。その覚悟は持っておけ、覚悟さえあれば、その場、その時に至っても道は開ける。上総之介のイマジネーションは……この天照が言うのもなんだが神がかっておる」

「フフ……」

「なにが可笑しい?」

「褒めるのはいい、天照の誉め言葉は『そこから先はお前次第、責任は持たぬ』と言っているように聞こえる」

「ああ、バレてた(^_^;)?」

「バレてた」

「テヘペロ(ノ≧ڡ≦)」

 若者言葉としては古いが神様としては新しい……ので、スルー。作り笑いが出来るほどには、まだ修業ができていない。ちょっとサルが羨ましくなった。

「えと……じゃ、これがお土産だぞ」

「え、不二家のペコポコボックス?」

 すかさず意表を突かれた。

「かわいいから、余計に貰っておいたの」

「アンナミラーズのがよかった……」

「とっくに閉店したぞ。上総之介も古~い」

「で、中身は?」

「焼く前の焼きプリン」

「ク……」

「じゃ、がんばってねぇ、今度はシホンケーキに挑戦するから~」

「それも言うなら『シフォンケーキ』だ!」

 

 ダメを出したら、もう姿が無い。

 

 思金も蹲踞ではなく退去してるし、腰が軽いと思ったら草薙剣も消えて、俺は学校の制服に戻っていたぞ。

 

 焼きプリンの焼き加減を考えながら御山を下りて家に帰った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

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RE・かの世界この世界:143『ユグドラシルを目指して・1』

2023-06-30 06:19:41 | 時かける少女

RE・

143『ユグドラシルを目指して・1』タングリス 

 

 

 

 ロキの元気がない。

 
 ひとり、船尾の手すりに寄り掛かってウェーキ(船の航跡)ばかり見ている。

 ウェーキと言っても時間が停まっているので、ほんの十メートルほどで立ち消えているのだが、見てさえいればウェーキが伸びて、自分の記憶も戻るのではないかと祈っているようにも感じられる。

 
 トール元帥がパラノキアとクリーチャーを引き受けてくださったので、やっとユグドラシルを目指して進めるようになった。

 
 しかし、いざ目指すことになると、ユグドラシルについての知識が致命的に乏しいことに気づいた。四号の乗員の誰もユグドラシルには行ったことが無いのだ。

 島の中央には世界樹ユグドラシルが生えていて、その麓の泉には時を司る三姉妹の女神が住んでいる。

 過去を司る長女のウルズ  現在を司る次女のヴェルサンディ  未来を司るスクルド

  ヘルムの守護神ヤマタが力を失って、それを補うためにヴェルサンディだけは姿を現したが、ウルズ、スクルドは消息不明だ。

 
 だからロキに聞いてみた。

 
 ロキはウルズの子どもなのだ。この旅の目的の一つがロキを母親の元に帰すことだった。先の大戦で戦災孤児になったロキはシュタインドルフの孤児院に従弟妹のフレイ・フレイア共々預けられていた。狭い四号に三人は乗せられないので、とりあえずロキ一人を預かったのだ。

 しかし、ロキが母親とはぐれたのは、ほんの幼児のころだ。

「うん、ユグドラシルというのはね、大きな泉があって、お母さんや叔母さんが水を汲んではユグドラシルの樹にやるんだ。空気は澄んで、小鳥たちは夜明けとともに囀りだして、オレたちに『早く遊びに出ておいで』って呼びかけるんだ。お母さんは長女だから、一番ユグドラシルの幹に近いところに住んでいて、ユグドラシルに水をあげたあとは、オレの事を抱っこして、ゆっくりユグドラシルの見回りをするんだ。所々に休憩するところがあって、遅れてやって来る叔母さんたちと待ち合わせ、その日一日の予定を話し合ったりしてね、ブルーベリ-とかストロベリーとかが実っていたりしたらジュースにして飲ませてくれたりしたんだ(^▽^)」

 楽し気に話してはくれるのだが、では、そこに行くにはどこを通ればいいのか?

「えと……えと……それはね……(-_-;)」 

 肝心なことを聞くと、ロキは答えられない。

 ヴァィゼンハオスで、フレイとフレイアと喋っているうちに故郷ユグドラシルの思い出が出来あがってしまったのではないだろうか。バイゼンハオスに引き取られたのはほんの赤ちゃんのころだ。

 毎日話しているうちに、ほんとうにそうであったかのように思い込んでしまい。行き方や詳しい様子を聞いてみると詰まってしまって、なにも答えられなくなる。

 そして、自分は何も知らないことに気づいて、落ち込んで、短すぎるウェーキを見ているというわけだ。

 

「でも、世界樹っていうくらい大きいんだったら、かなり遠くからでも見えるんじゃない?」

 

 ケイトが気楽に言う。

 ちょっと唖然だ。

「ユグドラシルというのはよほど近くに寄らなければ目には見えないものなのだぞ」

「そうなの?」

「それに島はね、世界樹ユグドラシルの根が絡まったもので出来ていて浮かんでいるだけのものだから、ヘルムの島のように一定のところには居ないのよ」

 ユーリアが補足してくれる。

 姫とわたしは――そういうものだろう――とイメージが湧くのだが、テルとケイトは少し置いてけぼりを食った表情をしている。

「世界の中心はオーディンの住むブァルハラとかじゃないの?」

「世界の軸がもう一本あるということなのか?」

 思い出した、ケイトとテルは異世界の住人なのだ。この数か月の旅で完全に仲間になってしまったのだが、この世界では微妙に常識が違うはずだ。

 はてさて、取りあえずはチームワークの醸成であろうか。

 気づくと、ポチが寄り添って元気づけてくれている。

 日が暮れることのない航海だが、夕飯までには元気になってくれるだろう。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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銀河太平記・167『ピタゴラスゴールデン街・1』

2023-06-29 13:14:40 | 小説4

・167

『ピタゴラスゴールデン街・1』緒方未来 

 

 

 月の勤務は月番になっている。

 月の月番、なんかダジャレっぽいけど、本当のはなし。

 

 昔の江戸幕府は上から下まで月番制だった。

 ほら、時代劇でよく出てくる江戸の町奉行は北町奉行と南町奉行でしょ?

 桜の入れ墨で有名な遠山金四郎は北町奉行、大岡裁きで有名な大岡越前守は南町奉行とかさ。

 江戸の街は広いから、北と南に奉行所が置かれて分担してたように思われてるけど、ぜんぜん違う。

 ひと月交代で奉行が交代する、奉行所ぐるみね。

 奇数月が北だったら、偶数月は南とかね。

 奉行所以外にも、たいていの役職は二つあって交代でやってたんだよ江戸幕府は。

 理由は、二つにして互いにけん制させてサボったり不正なことをさせないため。

 もう一つは、武士の数が多すぎるから。

 戦国時代は武士=軍人だった。戦争では兵隊がいっぱい必要だった。旗本八万騎とか云ってウジャウジャいた。

 平和になると、そんなには要らないんだけど、クビにするわけにもいかず、一つの役職を複数でやらせた。

 月番制でね。

 とうぜん給料は安いんだけど、それでも、不正もせずに黙々とお務めを果たしていた。

「まあ、それが日本人なんだ」

 現役の時に老中まで務めたお祖父ちゃんが加齢臭のする膝に幼児だったわたしを載せて言ってた。

 お父さんの消毒薬の匂いも好きだったけど、お祖父ちゃんの加齢臭も嫌いじゃなかった。

 

 扶桑も幕府の体制をとっているので、月番制がある。

 

 人数が多いからじゃない。

 扶桑は独立前から人手不足で、地球からの入植者を受け入れて、なんとかやってきた。

 開墾、インフラ整備、国境警備、水の生成事業、大気循環管理、教育の充実、やることはいっぱいあって、どの仕事も楽じゃなかった。

 それで、初代将軍の一仁(かずひと)様は「幕府なんだから月番制にしよう」とおっしゃった。

 みんなビックリした。

 江戸幕府とは違って、扶桑幕府は人手不足。

「いや、比較的に穏やかな仕事と、きつい仕事を交代でやるんだよ」

「交代で?」

「そう、交代で。例えば……」

 

 ということで、真っ先に月番制になったのが月面でのあれこれの仕事。

 

 パスカルの診療所勤務を一か月やったわたしは、ピタゴラス医科大学の医局勤務に戻る。

 医局は、月面のあちこちにある病院や診療所への派遣や設備更新の仕事が中心なんだけど、附属病院での診療もあって、江戸時代の月番で言う非番とは違う。

 最前線の現場と職種の中央を交代させることで血の巡りを良くしようという仕組み。

 むろん月番に馴染まない職種もある。学校の先生とか芸能関係、軍人、議員とかね。人によっては交代したくないという人も居て、そういう人までも縛ったりはしない。

 

 パスカルの診療所では考えられなかった5時に仕事を終えて街に出る。

 

 修学旅行で行った東京とは比較にならないけど、ピタゴラスにも羽を伸ばすところはある。

 ピタゴラスゴールデン街

 ご先祖が新宿ゴールデン街で店を持っていたおばちゃんがピタゴラスで居酒屋を始めたのがきっかけで、いろんな人が寄り添うように店を出したのが150年前。

 その後扶桑国が3PA(パスカル、プラトン、ピタゴラス、アルキメデス)の開発権を獲得して再開発され、今では、プラトンの八戸ノ里と並ぶ賑わいを見せている。

 

 三層構造になっているゴールデン街の南半分には大きな吹き抜けになっていて、吹き抜けの底のイベント広場では駆け出しのミュージシャンやアーティストたちが演奏したりパフォーマンスをやっている。

 みんな指向性のマイクを使っているので、その周囲にしか音が漏れなくて、混じり合ってグチャグチャになることはない。気にいればハンベを指向させて、ゴールデン街に居る限り聴き続けることができる。

 ハンベを操作して、お気に入りの『月面宙返り楽団』の演奏を拾って二階のスリッパ書房に向かう。

 

「あ、緒方先生、入ってますよ(^▽^)」

 店に入ると、お父さんと歳の変わらない店主のおじさんが笑顔で迎えてくれる。

「え、ほんと!?」

「復刻版ですけどね、正真正銘の『宇宙戦艦三笠』の初版本」

 復刻版で初版本は笑っちゃうんだけど、こういうやり取りが面白い。

「わ、この紙質、インクの匂いぃ~」

「はい、ちゃんと琥珀の風合いを出して、二百年前の出版された時のままです」

「アハハ、さすが復刻版ですね(^_^;)」

「はい、本物は手に取っただけでバラバラになりますからね」

「ありがとうございます! これで来月の診療所勤務もがんばれます!」

「いやあ、お若いのに先生も大変ですね」

「アハハ、それほどでもぉ」

「いえいえ、こうやって店に出られているのも先生のお蔭です」

「いえいえ、たまたま当直だったからですよ。他の先生でも、ちゃんとやってますから(^_^;)。えと、次の予約していいですかぁ?」

「はい、次は『はるか』ですか?」

「はい、作者初期の単行本です」

「さすがはお目が高い、普通は『まどか』を好まれる方が多いですが『まどか』は本来は『はるか』のスピンオフ。『はるか』から読むのが正当ですよ」

「あ、じゃあ、よろしく」

「承りました」

 

 ペコリと頭を下げて店を出る。

 この歳で「先生」と呼ばれるのは、居心地が悪いんだけど「緒方さんとか未来さんとか呼んでは、こちらが喋れなくなります」と言われては仕方がない。

『月面宙返り楽団』を聴きながら、北半分のコアなピタゴラスゴールデン街に足を向ける。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:142『トール元帥のミョルニルハンマー』

2023-06-29 06:01:33 | 時かける少女

RE・

142『トール元帥のミョルニルハンマー』ブリュンヒルデ 

 

 

 身の丈三十メートルのトール元帥は一個連隊の親衛戦車隊を引き連れている。

 

 親衛戦車隊は空を飛べる。

 日ごろ、ムヘンの警備任務にあたっているのは国防軍で、国防軍の戦車は飛ぶことができない。

 我々の四号は国防軍仕様の四号だ。テルやケイトは羨ましそうな顔をしているが、空飛ぶ戦車は燃費が悪い。飛行していると満タンでもニ十分が限度。それが一個連隊の大編隊で飛べるのはトール元帥が飛行しながら補っているからだ。

 トール元帥の図体が大きいのも、その全身にエネルギーを貯めているからだ。

 かつて、父オーディンから辺境の討伐を命ぜられた時、元帥は父に言った。

「一年や一年半なら、存分に暴れまわって見せましょう。しかし、二年三年となっては、まったく目途が立ちません。それでもやれとおっしゃるなら、オーディンの歴史には書けない非常の手段を用いなければなりませんが。よろしいか?」

 父は、黙って元帥の目を見るばかり。

「…………承知いたしました」

 父はずるい。

 困ったときは、相手の目を見るばかりで、応えは相手に言わせる。

 わたしの時も、そうであった。

 わたしは、そんな父が許せなくてヴァルハラを飛び出してしまった。父は、わたしの討伐を命じたが、トール元帥はムヘンの流刑地に押し込めるだけで済ませてしまった。それも、いずれは、わたしが抜け出し、独自に行動に出ることを見越して……でなければ、こんな風に仲間を募ってヴァルハラを目指すことなどできなかったであろうからな……。

 トール元帥のエネルギーが尽きる時……耐えがたいことが起こる。

 クリーチャーの上空を旋回しながら攻撃のタイミングを見計らっているトール元帥。もう、そのことを覚悟したのだろうか。

 それとも一撃で敵を屠って、エネルギーをリチャージすることなく終わらせる奇策があるというのだろうか。


 おお!?

 
 元帥がミョルニル(聖なる大鉄槌、ミョルニルハンマー)を振りかぶった!

 
 ミョルニルは鬼神であろうとゴジラであろうと大魔神であろうと一撃で粉砕する。その聖なる大鉄槌ミョルニルが巡洋艦を取り込んだクリーチャーのど真ん中に振り下ろされる!

 グヮッシャーーーーーーン!!

 ミョルニルの炸裂にクリーチャーは粉々に粉砕! さすがはトール元帥!

 しかし、本体は粉砕されたものの、破片の多くが独立したクリーチャーになって四方八方に逃げ始めた。

 追え!

 元帥の一言で、一個連隊の戦車隊がクリーチャーを追いかけ、三次元行進間射撃を加える。

 一つも残さず、地の果てまで追いかけてせん滅せよ!

 戦車隊は水平線の彼方までクリーチャーどもを追撃していった。

 

 元帥は、マーメイド号に並んで飛行しながら語り掛けてきた。

 

「姫、パラノキアとクリーチャーは、この元帥にお任せあれ。姫は、ひたすら障害を乗り越えつつヴァルハラを目指されよ」

「元帥!」

「大丈夫、時の女神がそろって目覚めるころにはカタがつきましょう」

「元帥、わたしもお供を!」

 タングリスが手を差し伸べる。分かっている、元帥が立ち上がったのだ、副官であるタングリスは付いていかざるを得ないだろう。過酷な任務と知りながら……でも、こういう時のタングリスって、わたしが見ても震えが出るほどに美しくなる。アンビバレンツな美しさを、わたしは正視出来ないぞ。

「おまえは、姫のお供をしろ。今度の出征にはタングニョーストが付いてくれている、心配するな」

「元帥……」

「テル、ケイト、ロキ、ユーリア、おまえたちにも苦労をかけるが、よろしく頼むぞ」

「元帥、あたしにもお!」

「ポチ、この戦が終わって、姫の旅が成就したら、このトールが新しい名前をつけてやろう。それを楽しみにわたしも戦う。姫も皆も息災でな!」

 ブゥイーーーーン

 身体を捻り、大きく旋回すると、元帥は西の水平線を目指して飛び去ってしまった。

 大丈夫だろうか……空飛ぶ戦車もミョルニルも恐ろしくエネルギーを消費するのだが……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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くノ一その一今のうち・61『商店街の秘密』

2023-06-28 14:59:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

61『商店街の秘密』そのいち 

 

 

 商店街に出て、西に下った四辻、昆布屋の角にポストと並んで纏(まとい)が立っている。

 神田祭で神輿が担げない子どもたちが持つような小さな纏で、見通すと、商店街の辻々に立っているようで、おそらくは商店街振興のマスコットのようだ。

「うわあ、かわいい(^▽^)!」

 今や顔文字と並んで世界共通言語であるJK語で賛美の声を上げる。これさえ言っておけば、シゲシゲ見ようが写真に撮ろうが怪しまれることはない。

『先っぽに付いているのは千成瓢箪です』

 えいちゃんがチェックしてくれる。

 パッと見には鈴なりのジャガイモだが、ちょっと身を引いてみて見るとたしかに千成瓢箪。

『やっぱり太閤秀吉との関りを大事にしてるんですねえ』

 それだけではない、ポストと纏の後ろに石碑がある。

――旧町名継承碑――

 碑にはめ込まれた石板には、このあたり現在は谷町7丁目だけれど、昔は南空堀町と表記されていたとある。

 これがもう一つの鍵かもしれない!

 動画を撮るふりをしながら、もう一度観察。

 あ……( ゚Д゚)!

 千成瓢箪は真ん中に大きな瓢箪が逆立ちしていて、その周りを小さな瓢箪が取り巻いているんだけど、後ろの方、取り巻き瓢箪の一つが欠落している。

 これには意味があるはず。

 困った時の風魔の魔石。

 これまでも、草原の国やら甲府城の地下やらで、わたしを救ってくれた。

――南無八幡魔石大明神、我に、このからくりの秘密を解かせたまえ――

 密やかに念じる……んだけど、魔石は沈黙したまま。

 むむむ……魔石は謎解きとかの頭脳戦には向いていないのかもしれない。

『あ、お札の方が!』

 えいちゃんに促されてポケットのお札に触れると、ほんのりと暖かい。

――お願い、大和大納言さま、教えてください――

 念ずると、住居表示の『谷町七丁目』の七が微妙に浮かび上がって来る。

『あれですかね!』

 えいちゃんに促されて、七に触れてみるが何事も起こらない。

 あ、そうか、七はヒントだ……今度は瓢箪が欠落したところが薄く光る。

 ゲームだったら、ここに来るまでにキーアイテムの瓢箪を手に入れていて、ここではめ込む的なフラグが立つんだけど、持ってないから……そうだ!

 瓢箪列の欠けたところから七つ目の瓢箪をグリっと回してみる。

 カク

 ポンプの時と同じ手応え。

 一歩引いて見ると、横のポストの集配扉がわずかに開いている。

 ここだ!

 一瞬、周囲に気を飛ばし、人が見ていないことを確認、同時にポストの扉を全開にする。

 ポストの中は、薄暗く、地下に向かって消防士が出動で使うようなステンレスのバーが降りている。

 セイ!

 飛び込むと同時にバーを掴んで滑り降りる。

 カチャ

 同時に頭上の扉が閉まる音がする。

『キャ』

「大丈夫、人には見られていない」

 感覚的には三階分ほど下って、足が石畳を認識する。

 目を凝らすと、商店街の真下を通っている地下道のようで、横方向にいくつかの枝道が伸びて、立派な地下通路になっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

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RE・かの世界この世界:141『絶体絶命!』

2023-06-28 06:32:04 | 時かける少女

RE・

141『絶体絶命!』タングリス 

 

 

 

 マーメイド号の最高速度は15ノットでしかない。

 
 パラノキアの巡洋艦と融合したクリーチャーは33ノットで迫って来る!

 33ノットは巡洋艦の最高速度だ。このままではすぐに追いつかれてしまう!

 前回の戦いでは、かろうじて勝てたが。今度の敵の本性はクリーチャー。こちらの船は一万トンの貨客船シュネーヴィットヘンではなくて200トンそこそこのフェリーボートのマーメイド号なのだ。

 まっすぐ突っ込まれてくると、全速力で逃げても相対速度18ノット(時速32キロ)で追われることになる。サッカーのフォワードが全速力で小学生を追い回すようなものだ。

 できることなら戦いたくないが、戦闘配置だけはとっておいた方がいいだろう。

「テル、戦闘配置だ!」

「もう完了している!」

 デッキの四号は、クリーチャーに向けて砲口を指向しているところだ。これまでの戦闘でみんな慣れてきたんだ、戦闘配置をかけるまでもなく、自分で目的をもって行動できるようになった。

 しかし、こんな小さな戦闘集団の技量が上がっても、目の前のクリーチャーに太刀打ちできるものではない。

「姫、逃げることを専一にします。緊急時以外は発砲しないでください!」

――分かっている。操舵は任せた、逃げ切ってくれ!――

 ブリッジのスピーカーに姫の声が響く。

 

 おや、あいつ……?

 

 クリーチャーは全速で追ってはくるのだが、時おり速度が落ちて頭がふらついている。

 

 クリーチャーは我々を襲うよりも、どう変態していいかを試すことに熱中し始めた。巡洋艦のパーツを様々に組んでは解している。その様子は、子どもが新しい玩具に夢中になっているような。或いは巨大なナメクジがファッションに目覚めてしまったようで、見ようによってはユーモラスでさえある。

 マーメイドを追いかてくる方向も、かなりのブレが出てきた。我々を敵だとは認識しきれていないのかもしれない。追ってくるのは、クリーチャーの習性なのだろう。時間が停まった洋上では、動いているものは当のクリーチャーの他は、我々のマーメイド号だけなのだ。

 ニ十分ほどもすると、クリーチャーは空飛ぶ武装クジラの姿に固定され、ゆっくりと海面を離れ、それ以上変異することをやめた。

――タングリス、間合いを取ってくれ!――

 直ぐに姫が反応する。

 気持ちは分かる。空を飛ばれては四号の主砲を最大仰角でかけても狙えないのだ。

 しかし、15ノットの速度ではいかんともしがたい!

 悪いことに、変態に飽きたクリーチャーは本気でマーメイド号を指向し始めた。

 もう、出来ることは、奴の指向とタイミングを見計らって突っ込まれる寸前に舵を切るしかない。

 ザザー 

 ザザー

 二度は躱したが、次は危ない……舵輪を握ぎる手に力が入る……今だ!

 奴の微妙な姿勢変化に進路予測をして、その反対方向に舵を切る!

 ザザ

 しまった!

 敵は右に回るフリをしたが、鼻づらを左に向けると、体をよじってきれいなカーブを描いて突っ込んでくる。

 読まれていたのだ!

 尻尾を勢いよく振ってさらに進路を修正すると、真っ直ぐに迫ってきた!

 絶体絶命! 

 まるでモビーディックに迫られたキャッチャーボートだ。

 このままエイハブ船長のように海底に引きずり込まれるのか!?

 
 ザザーーーーー!

 ドッゴーーーン!!!

 
 一瞬黒い影が過り、砂を噛んだ時のような音が響いたかと思うと、マーメイド号の左舷に巨大な水柱が立った!

 今のはなんだ!?

 首を巡らすと、四時の方角、高さ200メートルのあたりに、抜いた剣を緩やかに下段に構える姿があった!

 背後に空飛ぶ戦車隊を引き対れ、果敢にクリーチャーを追うムヘン方面軍総司令官トール元帥の雄々しき姿が!

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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せやさかい・418『ミカサンパサランとネコメイド』

2023-06-27 11:24:59 | ノベル

・418

『ミカサンパサランとネコメイド』さくら   

 

 

 ここのとこ週に一回は学校休んでる。

 

 なんで休んでるかというと『宇宙戦艦三笠』ですわ。

 秋アニメなんで、放映までにはだいぶあるねんけど、放映が始まるまでに全編撮っておきたいというのが製作委員会の意向なんです。

 監督の宗武真さんは仕事が遅いのんで有名。

 監督の仕事は絵コンテ描くとこから始まるねんけど、これがなかなか書かれへん。

 ええ作品をつくるため、ええ加減なことはでけへんいうプロ根性やねんけど、ワンクール13回の放映で2回も総集編で誤魔化されては、テレビ局もスポンサーも、その代表組織の製作委員会もかなわんので、早めにスケジュールを組んでるとか。

 それで、現在のところ制作も順調で週に一回は東京に行って収録の仕事というわけです。

 

「出港用意! 碇揚げぇ!」

「各索放せ!」

「両舷前進微速! 150度ヨーソロ! 三笠出港!」

「三笠出港!」

「両舷前進元速! 赤黒無し! 航海長操艦!」

「航海長操艦! いただきました、両舷前進元速! 赤黒無し!」

「両舷前進元速! 赤黒無し!」

「「「ジャンジャン ジャンジャカジャンジャン ジャジャジャジャーン(軍艦マーチ)♪」」」

 

 ええと……別に収録風景やないんです(^_^;)

 リアル戦艦三笠のブリッジで出港ごっこをやってます。天音(酒井さくら)・樟葉(百武真鈴)・トシ(花園あやめ)ミカさん(吉永百合子)の四人で。

「ああ、やっぱり艦長の役ってカッコいいわよね!」

 吉永さんがいちばん無邪気。

「今のん、めっちゃハマってましたね!」

「そりゃそうよ、いつも男前の役やってるからね」

「いまの草薙熱子の声じゃなかったですか?」

「あやめも、いつかそういう役やりたいです」

「あはは、でも、やっぱり艦長は本人がやらなくちゃねえ」

 吉永さんが、ラッタルの下の凜太郎さんを冷やかす。

「勘弁してくださいよ、そんな露天艦橋でやるから、みんな見てますってば(;'∀')」

 ああ、たしかに、前の甲板どころか、三笠の外の公園にいてる人らも見てるしぃ。

 最初は「秋アニメ『宇宙戦艦三笠』よろしくお願いしまーす!」とアピールするつもりやったらしいけど、それは、さすがに凜太郎さん帰ってしまいそうやし、やめた。

 

 カンカンカンカン

 

 小気味よくラッタルを降りて艦内に。

「おお、ここだよここ!」

 真っ先に下りた吉永さんが指差したのは艦内神社。

「あ、もっと大きいのかと思ってた」

「そうだね、お地蔵さんくらいはあるかと思ってた」

 真鈴先輩とあやめさんが不足を言う。

「大きさって関係ないよ、浅草の御本尊は10センチあるかなしかの観音様だよ、ねえ、さくら?」

「ああ、うちは浄土真宗やさかい、よう分かりません」

「ええ、浄土真宗に観音様はいないの?」

「あ、もっぱら阿弥陀さんですよって(^_^;)」

「うん、でも、なかなか立派な神棚だ、みんなでお参りしよう!」

 神棚の下には、小振りやけど立派な賽銭箱があって、スタッフさんらもいっしょにお賽銭を上げてお参り。

「そこで問題です」

 凜太郎さんがふってくる。

「船のデッキは、上中下の甲板に分かれてるんだけど、ここは、その上中下のいずれの甲板でしょうか? 当たった人にはささやかだけど、すごい賞品が当たります!」

「「「中甲板!」」」

 女子三人の声が揃う。

「うう……残念、上甲板!」

「「「ええ!?」」」

 みんなで上を向く。

 上を向くと天井が見えるわけで、当然、その上にはさっきまで居った甲板がある。

「なんでだよ、凜太郎?」

 凜太郎さんを呼び捨てに出来るのは、やっぱりベテラン吉永百合子の貫録!

「あ、草薙熱子の声やめてもらえます、ちょっとオッカナイっす(;'∀')」

「ええ、おせーてくれないと、マコ泣いちゃうぞ」

 おお、これは『魔女っ子マコ』の声や!

「一番上のは最上甲板て言うんですよ」

「なんだと、上の上に最上とは、卑怯ではないか! 貴様、それでも男か!」

 おお、またもや草薙熱子!

「い、いや、そういうものなんっすよ。あ、景品はあげますから(^_^;)」

 ポケットから、なんやカイラシイもんを出した。

「「「あ、ミカさんのマスコット!?」」」

「あ、なんかホワホワしてて、手触りいいですねえ」

「気持ちいいわねぇ」

 真鈴さんあやめさんがスリスリする。

「ふつうのPVCのもあるんだけど、特別バージョン」

「いいなあ、これ……よし、ミカサンパサランと名付けよう!」

「あ、なんか怪しげでいいっすね!」

「わたしらのんは、ありませんのん?」

「鋭意制作中だって、だよね?」

 スタッフに振ると、ディレクターさんが指を七本立てた。

 

 次は、司令長官室。

 上甲板の一番後ろにあって、いちばん豪華な部屋。

 

「おお、アニメといっしょ!」

「今日は、特別に座ってもいいそうだ」

 凜太郎さんが、通せんぼのゲートを開けてくれる。

「ああ、ここだ、この席だ!」

 真鈴先輩が真ん中の席をスリスリする。

「え、なになに?」

「天音がマッパで召喚されて、生尻のまま落ちてきた席!」

「ああ、ここかあ」

「なになに、ここにさくらの生尻がぁ?」

「ちゃいます、天音ですよ、百合子さん!」

 なんか、自分のお尻触られてるみたいにゾクゾク。

「ええ、ここで、みんなに紹介する乗組員が登場しま~す」

「「「ええ?」」」

 スリスリもゾクゾクも止めて、ドアに注目。

 

「「「「しつれいしま~~す(^▽^)」」」」

 

 声が揃ったかと思うと、猫耳を付けた四人のメイドさんたちが入ってきた。

「ピレウスまでの航海の間、皆さんの世話をさせていただきます。ネコメイドのシロメで~す」

「クロメで~す」

「チャメで~す」

「ミケメで~す」

「「「「よろしくおねがいしま~す、ニャン!」」」」

 

 そろいのネコポーズで決めた四人は、6話から登場するネコメイドの声をやる声優さんたちだ。

 なんか、若いと言うか幼い感じがする……と思ったら。

 

 全員、中学三年生だって!

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

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RE・かの世界この世界:140『パラノキアの化物船』

2023-06-27 06:24:55 | 時かける少女

RE・

140『パラノキアの化物船』テル  

 

 

 体が夜を欲している。

 

 R18的な言い回しだが、そんな意味ではない。

 ヘルムの守護神ヤマタが活動を停止して地上から光が無くなった。

 そのピンチヒッターに世界樹ユグドラシルの三神の一人ヴェルサンディが現れたのだが、いかんせんヴェルサンディは現在の時間を司る女神。過去の時間を司るウルズ、未来の時間を司るスクルドの三神が揃わなければ時間は動かない。

 我々は世界樹の島ユグドラシルを目指して船出した。ウルズ、ヴェルサンディの二神を起こすためだ。

 当直を終えてキャビンに戻るのだが、なんせ二百トンのフェリーボート。田舎駅の待合室ほどでしかないキャビンはカーテンを閉めても真っ暗にはならない。アイマスクなどもしてみるのだが、体が夜とは認識しないのだ。露出した手足だけではなく、服を通しても光は感じるようで、熟睡することができない。

 エンジンがうるさいから!

 ケイトは言う。たしかにマーメイド号のエンジンはうるさいし振動もハンパではないが、四号のそれと比べるといい勝負だ。それでも四号の狭い車内で睡眠はとれた。

「おい、次の次の当直だろ、そろそろ起きておけよ」

 ケイトの肩を揺さぶる。

 キャビンに戻ったら、次の次を起こすことになっている。起こしておかないと交代の時にブリッジが無人になる時間ができてしまうためだ。

 ……ところが、ケイトは起きない。

 あれほど「熟睡できない!」と文句を言っていたが、疲労のレベルが高くなると自然に眠れるのだろう。これが子どもの健康さだ。他の者を起こしてもまずい、時間になったら起こしてやればいい、どうせ微睡む程度の眠りしか得られないのだからな……。

 

 そろそろ起こそうかと体を捻ると、スピーカーからタングリスの声がした。

『テル、ちょっとブリッジまで来てくれ』

 わたしが眠れないでいるのはお見通しのようだ、ケイトをそのままにしてブリッジに向かった。

 

 ブリッジへのラッタルに足を掛けたところで気づいた。左舷十時の方角に見覚えのある船が見えるのだ。

 パラノキアの巡洋艦……

 シュネーヴィットヘンを襲ってきた巡洋艦……撃沈したはずなのに。

 一人では判断できない、一気にブリッジに向かった。

「同型艦か?」

「これで覗いてみろ」

 タングリスの双眼鏡で覗いてみる。あちこち傷だらけだが、傾きもせずに走っている。そうだ、あの巡洋艦は艦首がぶっ千切れて、砲塔が吹き飛んでしまったはずだ。そんな艦が浮いているはずがない。

 それとも幽霊船か……あきらかに五海里ほど彼方の海を白波を蹴立てて進んでいる。

 やはり、同型艦?

 しかし、洋上を航行中だったら、時間が止まった時に静止してしまって動けないはずだ。

「艦ナンバーを見てくれ、煤けて定かではないが83……8B……」

「8Bなんてありえないだろ」

「でなければ88……88なら、あの艦だ」

「まさか……幽霊船?」

「いや、化物船だ、クリーチャーと融合してしまったんだ」

「クリーチャーと?」

「パラノキアは、クリーチャーとの共存を謳っている。沈没したところで時間が止まってしまって、クリーチャーに憑りつかれてしまったんだろう、クリーチャーは時間が停まっても活動できるからな。まだ憑りつかれて間が無いんだ、修復と変態の真っ最中といったところだな」

「逃げを打つしか手が無いな」

「面舵三十度……逃げるぞ……」

 タングリスは、そろりと舵輪を回した……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・035『高校生集会とシャンプーと』

2023-06-26 10:39:52 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

035『高校生集会とシャンプーと』   

 

 

 正しく漢字でと書くと時司巡なんだけど、初見で読める人はめったにいない。

 

 じし・じゅん? とき・しじゅん? とか読まれる(^_^;)。

 たまに苗字の方を『ときつかさ』と正確に呼んでくれても、名前は『じゅん』と読まれてしまう。『じゅん』という読み方は男にも女にもあってかっこいいんだけど、正しい読み方じゃないので凹む。

 時司というのは、ご先祖が朝廷で時間の管理をする役職に就いていたので、遥か昔に役職名が苗字になったんだって。

 一族の女子は名前が一字。

 お祖母ちゃんは応(こたえ) お母さんは旋(まわり) わたしが巡(めぐり)

 小学校の時、交通安全の指導に来た女性警察官のおねえさんがカッコよかったので、将来は女性警官になろうと思ったことがある。

 でも、時司巡巡査……きっと誤植と思われる。

 で、その日のうちに諦めた。

「ねえ、せめてさ、巡里とか巡梨とかにしたらよかったのに、だったら『めぐり』って読んでもらえるよ」

「気にすることないじゃない、お祖母ちゃんの同僚で小林って苗字の一佐がいたんだけど。本人も面白がってたよ」

「え、どうして?」

「だって、小林一茶と同じになっちゃう」

「こばやしいっさ?」

「ほら、俳句読む人、『やせ蛙 まけるな一茶これにあり』とか『雀の子 そこのけそこのけお馬が通る』とか詠んだひと」

「なに、その俳句おもしろーい!」

 お祖母ちゃんは人の気持ちを誘導するのがうまい。

 それからは、友だちは「ときつかささ~ん」ではなくて、だんだん「めぐり」とか「メグ」とか「メグッチ」とか呼んでくれるようになった。ひょっとしたら、お祖母ちゃんが魔法をかけたのかもしれない。

 

 入学して三か月、その呼ばれ方が微妙に変わってきた。

 

 まあだいたい「メグ」って呼ばれるんだけど、時どき「グッチ」と呼ばれる。「メグッチ」から「メ」が取れたかたち。

「ねえ、グッチ、グッチ」

 最初に「グッチ」を考案したロコが、目を輝かせてわたしの席に寄ってきた。

「真知子さんが……」

 言われて、真知子の席に目をやると「あっちです、でも、ガン見しちゃダメですよ」と注意され目の端で捉えたのは、委員長の高峰君と楽しそうに語り合ってる本邦初公開の真知子のツーショット。どちらも普段はクールな優等生って感じなんだけど、とってもフレンドリーで話が弾んでる。

 

「高峰君が来てるとは思わなかったわ」

「分科会ハシゴしてたし、ちらっと見えて似た人だなあって思っただけだから」

「私服だったしね」

「横田さんは、ずっと、あの分科会だったんですか?」

「うん、安保とかベトナムとかは重いでしょ、それで、今度はサブカルチャーにしてみたの」

「ぼくは、ああいうのには疎くて、あの賑わいは羨ましかったけどね」

「こんど、高校生集会とは別に鑑賞会とかやろうって話になってるの、ギターとかも持ってくる人いるから、きっと盛り上がる」

「へえ、発展してるんだなあ」

「ほら、今度はね……」

 メモ帳を出して楽しそうに説明する真知子、遠慮しながらも、それを覗き込む高峰君。

 あの近さだと、シャンプーの香りとかモロだよ(^△^;)。

「真知子さんはエメロンですぅ」

「え、メロン?」

「アハハ、エメロンですよエメロン!」

「あ、そかそか(^_^;)」

 適当に合わせる。

 だって、ロコの笑い声が大きいので、真知子も高峰君もこっち向いたし(n*´ω`*n)。

 

 休み時間に階段の踊り場で、スマホをチェック。

 高校生集会は、意識高い系の高校生たちが集まっていろいろ討論とかお話をする、たぶん、左翼政党系のらしくて、令和の時代でもやってるっぽいけど、よう分からん。

 エメロンはエメロンシャンプーとかリンスとか、昔は絶大的に流行ったらしい。ハニー・ナイツ「ふりむかないで」とかいう歌が出てきて、聴いてみると壮絶に面白い!

 泣いてぇいるのか~笑っているのか~♪ ふりむ~かないで~○○のひ~と~♪

 

 ヤバイ! つぎは水泳だ!

 

 着替えを持って更衣室へ!

 速攻で着替えたんだけど、点呼に遅れてしまう。

「トキツカサメグリ! グランド一周してこーい!」

「あ、やっぱし……」

 宇賀先生は、正確にわたしの名前を呼んで罰則の『水着でグランド一周』を命ずる。

 相方組の六組の女子にも遅刻の子が居て、ふたりでグランドを走る。

 校舎の方からも、素通しフェンス越しの道路の方からも視線を感じながら走ったよ。

 六組の子はプロポーション抜群だし、8割は、そっちを見てる。

 令和だったら、ぜったいセクハラ、パワハラ。

 お祖母ちゃんみたいだったら、ステルス魔法で見えなくできる。

 ほんと、走り終わってプールに戻るまで本チャンの魔法少女になろうかと思ったよ。

 

 昼休み、真知子と高峰君を中心に高校生集会とかの話題で盛り上がる。

 10円男の加藤高明が鼻で笑ってる感じ。唯一爽やかだった髪も伸びてきちゃってさ、ちょっと、感じ悪い。

 こんど、みんなで真知子の言ってる鑑賞会というのにいってみることになる。

 ちょっと楽しみ。

  

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

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RE・かの世界この世界:139『みんなで協力……なんだけど』

2023-06-26 06:50:36 | 時かける少女

RE・

139『みんなで協力……なんだけど』タングリス  

 

 

 

 乾ドックに海水を満たし、マーメイド号のエンジンを始動。

 

 ドド ドドドド ドドドドドドドドドド

 
 二百トンのマーメイド号は一万トンのシュネーヴィットヘンとは比べ物のならないほど振動する。

 ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・アハハハ……((^O^))

 ロキが振動で声を震わせて喜んで、ポチは甲板の振動をお尻で受けて煎り豆のように弾んで遊んでいる。

「もう、二人とも子どもなんだから・ら・ら・ら・ら・らららららら~((^▽^))/」

 二人に呆れたケイトも、語尾がトレモロになってくると、陽気に『ら』を転がして可笑しがっている。

「水位が海と同じになった」

 機械小屋のランプがグリーンになった。珍しモノ好きの姫がテルといっしょにポンプを操作しているのだ。

 ドックに水を満たし海面と同じ高さにしなければ、船を海に出せない。

 

「マーメイドも準備OKです! ゲートを開けてください!」

 操舵室からメガホンで叫ぶ。数秒、ウィーンというモーターの音がしたが、ガクンという音がしてモーターは停まってしまった。機械小屋で、二人が焦っているのが分かる。二度三度と試してみるが、モーターは直ぐに停まってしまう。

「あれって、安全装置が働いているんじゃないかしら?」

 ユーリアが眉を寄せて推測する。

「どこかで負荷がかかり過ぎているのだろうか?」

 時間が止まってしまっているのだ、予期せぬ不具合が起こっているのかもしれない。ひょっとしたら、我々の船出を喜ばない者たちが妨害しているのかもしれないとまで思った。なんせ、ヘルムの守護神であるヤマタの力が消滅してしまったのだ。なにが起こるか知れたものではない。

 手分けしてドックの周囲を警戒してみよう……そう思った時、ポンとユーリアが手を打った。

「ゲートにも注水しなくっちゃ!」

 
 あ!?

 
 盲点だった!

 

 最大三千トンの船が入れるドックはゲートもいかつく、幅が二十メートル、高さが十メートル、厚みが一メートルもある。しかし、中はガランドウで、ドックに水を張れば浮力を持ってしまう。そのためゲートの回転部分に異常な力が加わって開かなくなってしまったのだ。

「ゲートの注排水ポンプはありますかーー!?」

 メガホンで聞くと姫が×印のサインを返してきた。

「タングリス、あれじゃないかなあ?」

 ケイトがゲートの横を指さすとロキがポチに指示を与えて調べさせに行かせる。

「なにか、スイッチがあるの~(^▽^)/」

「それだ!」

 機械小屋を飛び出した姫とテルがドックの縁を周って制御盤に取りついた。

 構造は簡単なようで、すぐにスイッチが入れられ、くぐもった音がしてゲート内部のタンクに海水が満たされていく。

 

 三十分後、満水になったゲートを開き、無事にマーメイドは海に乗り出した。

 

 これからは、なんでも、この六人とポチでやっていかなければならない。なんせ時間が停まって、動けるのは我々だけなのだ。協力しあわなければな。

 あらためて船を岸壁に着け、四号を載せて本格的に海に乗り出す。

「陽が落ちたら、交代でブリッジに立とう」

 日没から日の出までを五つに分けて当直を決める。それまでは、わたしが舵輪を握る。

 あと一時間ほどか……そう思ったが、いっこうに日は傾かない。

 

 そうだ……時間が停まっているのだから、日が暮れるわけがない……。

 

 ずっと太陽に照らされっぱなし、それが海面への照り返しと相まって光の強さは陸上の比ではない。目的地のある航海なので雲の陰ばかり拾って行くわけにもいかないだろう。なるべく短時日で着かなければならないし、小型船には不慣れな者たちばかりだ。

 ああ…………

 ドッと疲労感が押し寄せてきた。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 128『鬼かしま決戦・4』

2023-06-25 10:45:24 | ノベル2

ら 信長転生記

128『鬼かしま決戦・4信長 

 

 

 一息つくと、うなだれたまま桃太郎は語り始めた。

 

「バケツ谷で鬼をやっつけた。鶴ちゃん(桃太郎は、まだ俺のことを鶴姫だと思っている)にはずいぶん世話になって、お礼を言わなきゃって、ずっと思ってた」

「ああ、ずいぶんなお礼だったがな」

「鬼になってしまったからなぁ……」

「なんで、桃太郎が鬼になるんだ」

「バケツ谷のあと、鬼たちの宝物を持って帰って、爺ちゃん婆ちゃんに渡したんだ」

「ああ、その宝物を元手に村のインフラを整えたんだな、田畑も村の家々も立派になっていたぞ」

「鶴ちゃん、村には行ってみたのか?」

「ああ、爺さん婆さん、村の者たち、みんな困っていたぞ」

「なにか気づかなかったか?」

「うん?」

――おお――

――あ、そう言えば――

 勾玉の思金と草薙の剣のアッチャンが声に出しそうになるのを、胸と柄を押えて制止する。

 ここは、俺ひとりで相手にしなければややこしくなる。

「村に子供や若い者の姿が見えなかったか……?」

 俺を出迎えたのは桃拾いのジジババとオッサンオバハンばかりだったぞ。

「村が豊かになると、若い奴らはよそに行っちまう。昔は、一家で三人四人と子供がいたが、晩婚化が進んで出生率も、やっと1.2だ。これじゃ、50年もすれば人が居なくなっちまう」

「しかし、金太郎と浦島太郎がいたぞ。というか、おまえ金太郎の首を切ってしまっただろ!?」

「あいつは金太郎飴だ、切れば、いくらでも新しい金太郎が出てくる、進歩も成長もしないバカだ」

「浦島太郎は?」

「あれは、竜宮城とか言ってるけど、ようはよそに行って、行った先で引きこもっていたバカだ」

「容赦ないな、おまえ(-_-;)」

「容赦なくなんかないぞ! ちゃんとオニカシマに収容して鍛え直すとこだ」

「みんな逃げちまったけどな」

「鶴ちゃんが暴れるからだ」

「おまえは、なんで鬼になって村を荒らした。田んぼなんか青田刈りされてメチャクチャだったぞ」

「そこだよ!」

 グッと顔を押し付けてくる、間近で見ると、こんなに暑苦しい顔も無い。

「な、なんだ(;'∀')」

「やっぱり、桃太郎とかあてにしないで、自分の村は自分で守るって気概が必要なんだ。いつまでも桃太郎に頼っているようじゃダメなんだ!」

「だからって、おまえが鬼になってしまうこともないだろ。せっかく貸間に浦島太郎を住まわせても、嫌がらせや城の兵隊にしてるだけじゃ実りが無いだろ、みんな逃げちまってるし」

「オレにはオレの考えがあったんだ……」

「おまえ、バケツ谷の時もむちゃくちゃだったけど、なにか突き抜けてたぞ。真っ直ぐ突き抜けてた。いまのおまえ、グニャグニャにこじれて……」

「うるさい!」

「桃太郎……」

「だ、だから、それは鶴ちゃんがああ!」

 ノドチンコを震わせ顔中口にして迫ってくる桃太郎!

『『ダメだ!』』

 二人の神が叫ぶのと、桃太郎の口がトンネルのように広がるのが同時だった!

 

 パク!!

 

 危うく呑み込まれそうになり、辛くも二人の神に引っ張られ宙を飛んだ。

 強烈なGがかかってブラックアウトとホワイトアウトを繰り返し、意識が飛ぶ寸前に着地した。

 

 ドスン!

 

 狭まった視野の中に星がとびまくり、荒い呼吸を数十回繰り返して、ようやく視界が戻る。

 

 傍らで思金が畏まり、あっちゃんは草薙の剣になって芝の上に静もっている。

 

 芝は百坪ほどの広がりがあって、真ん中には頭ほどの石が座っている……どうやら御山に戻ってきた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

  

 

 

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RE・かの世界この世界:138『動いていたものは動かせない』

2023-06-25 06:49:55 | 時かける少女

RE・

138『動いていたものは動かせない』ブリュンヒルデ  

 

 

 自分(車長)とケイト(装填手)の間にシートを付けた。

 

 シートと言ってもパイプ椅子の上半分をくっ付けたもので、横のハッチから出入りするときは折りたたむ。

 まあ、小柄なわたしとケイトの間なので、なんとか収まる。

「お客さんで乗っているのも申し訳ないですから、仕事を教えください」

 ユーリアの申し出ももっともなので、取りあえずはケイトと交代で装填手をやってもらうことにした。

 装填手というのは弾を込めるだけの仕事で地味に見えるが、戦闘中はいちばん運動量が多い。

 車内のあちこちに格納されている砲弾を車長の命令で取り出し、迅速に砲尾に籠めるのが仕事だ。

 4号の75ミリ弾は一発で7キロ近い重さがあって、足もとのラックから取り出して籠めるのはけっこうな運動だ。弾は装填と同時に尾栓を閉じるので、籠める時は手をグーにする。指を伸ばしたままで籠めると尾栓を閉じる時に指を挟まれてしまうからだ。日常生活で手をグーにして物を収めることなどほとんどやらないので、うっかりすると、すぐに指を伸ばしてしまう。

 発射の時は砲尾が反動で後座してくる、リコイルというやつだ。ボンヤリしていると、砲尾がまともに腹に当るので、腰を曲げて砲尾を避ける。

「アハハハ((´∀`))」

 この練習をすると、ユーリアは笑ってしまう。

「なんか、めちゃくちゃへっぴり腰(#^▽^#)!」

「そ、そうか(#'∀'#)」

「なんか可笑しい~」

 アハハハハハ

 今まで平気だったケイトも意識して顔を赤くする、狭い車内に笑い声が満ちて、これならやっていけるだろう。

 そして、日中はともかく、寝る時は窮屈すぎるので納屋の中からシートを出してゲペックカステン(砲塔後部の物入れ)に括り付けた。夜間は砲塔を横に回し、シートを伸ばしてテントにすることにした。これも一度練習「キャンプみたいで、夜が待ち遠しい!」と喜ぶユーリア。

 ユーリアの明るさ、多少の不便や苦労は楽しさに変換してしまう姿勢というか個性は天性のもののようだ。

 この弾みの良さが、ヤマタ神の電池としてのエネルギーだったのかもしれない。

 神々は美しいだけではなく、こういう明るく充溢した精神を好む。それは、我が父のオーディンも例外ではあるまい。

 翻って見ると、わたしは、父に対していささか刺々しかった。いやな娘だったかもしれない。

 譲れない相克があってのことなのだが、もし、父と和解する時が来たら、少し気を付けようかなどと思ってしまう。

 不思議な少女だユーリアは。

 

 二時間ほどで準備を整えると出発だ。

 

 ユーリアは眠ったように時間の止まっている母のアグネスと兄のヤコブに別れを告げた。

「では行くぞ、ユーリア」

「…………はい!」

 ふっきるようにユーリアが乗り込むと、四号は、取りあえずの目的地であるヘルム港を目指した。

 乗って来たシュネーヴィットヘンはドックに入ったままだ。たとえ動いたとしても、この人数では一万トンを超える輸送船を動かすことは出来ない。なんとか四号を載せられて、外洋を航行できる船を見つけなくてはならない。むろん、四号の乗員だけで操縦できる小型の輸送船、あるいはフェリーボートだ。

「ヘルムには大小六つの小島があって連絡船が通っています。運が良ければ、出港前の船を掴まえられると思います」

 港に舫っている連絡船が居ることを願うばかりだ。

「あそこに居ます!」

 ゲートを潜って岸壁沿いに走り出したところでユーリアが指差した。一つ向こうの桟橋に二百トンあまりの連絡船が見えたのだ。舳先がはね橋式になっていて車が乗せられるタイプだ。

「……だめだ」

 連絡船は出港ししたばかりで、舳先のゲートは閉じられ、二メートルほど海に乗り出している。

「おいらが飛び乗って停めてやる!」

「よせ!」

 ロキが飛び出し、砲塔の上からジャンプした。

「うわ!」

 勢いよく飛び移ったところまでは良かったが、舳先の上でバランスを崩して海に落ちてしまった。

「「「ロキ!」」」

 ポヨヨーン

 なんと、連絡船の周囲の海面はゼリー状に固まっている。ロキは、そのまま歩いて岸壁に上がってきた。

「動いているうちに時間が止まったものは固まってしまうんだろう、周囲の海面も影響を受けて固まっているんだ」

 そう言うと、タングリスは石ころを海に投げた。

 船の周囲は、ちょっと弾んで、石は海面に載ってしまう。数メートル離れた所では、普通に石は沈んでいくのだ。

「時間が止まった時に動いていたものは動かせないんだ」

「しかし、停まっている連絡船はあるのか?」

「……そうだ、ドックに行けば!」

「シュネーヴィットヘンは動かせないよ」

「違うんです、小型船舶用のドック。きのう皆さんを出迎えた時にメンテナンスの終わった船があったんです!」

「行ってみよう!」

 

 港の外れのドックに向かうと、乾ドックにメンテナンスを終えたばかりの連絡船マーメイドが鎮座していた。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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銀河太平記・166『パスカルからピタゴラスへ』

2023-06-24 11:50:31 | 小説4

・166

『パスカルからピタゴラスへ』緒方未来 

 

 

 月は地球に近いこともあって南極と同様に国際管理ということになっている。

 

 南極と同様の国際管理……と言っても、モデルになった南極大陸は21世紀の末に南極条約がなし崩しになって『国際社会のための有効活用』の美名のもとで乱開発されてしまったので押して知るべしなんだけど。

 地球と火星の大国が、あちこちにベースを作って、そこから地下資源を掘り出してはそれぞれの母国に送っている。

 月には大気が無いので火星のように地球化することができないので、地表に都市や国家が作れない。

 大きさも見てくれもドーム球場に似た街や施設はあるけど、月面全部合わせても100に満たない。

 ベースのほとんどは地下に作られている。資源の採掘、秘匿、防衛のためには地下に潜った方が有効なんだ。

 

 その中で数少ない露天掘りの採掘場が、このパスカル鉱山。

 

 扶桑第一の月面都市(月面と言っても大方は地下にある、さっきも言ったけど)はピタゴラスにある。

 それ以外に、プラトンとアルキメデスが扶桑のベースで、いずれもクレーターの中にある。

 

「助かる、乗せてってよ!」

 

 採掘場のドクターに引き継いでシャトルバスに乗るつもりでいたら、ダッシュがピタゴラスの基地まで戻ると言うので乗せてもらう。

 お互い、鉱山施設しかないパスカルよりも、扶桑第二の月面都市の方がいいに決まってる。

「オレは休暇じゃねえんだぞ。連隊で勤務が待ってる」

「残念、わたしは一カ月ぶりの休暇」

「一度、診療所に戻らなくていいのか?」

「昨日から交代のドクターが来てる。ちゃんと引き継ぎ規則は守ってるんだぞ」

「そうか、まあ、オレも連隊に戻れば原則的に週一回の休みはある。マス桜が五分咲きだっていうから観に行かないか?」

「ああ……うん、疲れの取れ具合でね」

「だな……ピタゴラスに近くなったら起こしてやるから、少し寝とけ」

「うん、ごめん」

 ウィーーン

 シートがパズルのように移動して後部に周る。

 ダッシュが気をきかせてくれたんだ。幼なじみでも寝顔を見られるのは恥ずかしい。

「照明落そうか?」

「このままでいい……無駄話でいいから、喋ってて、返事しなくなったら寝たと思って」

「ああ、それでいいなら」

「ほんと、パスカル勤務ってのは疲れるよねえ……」

「穴掘りの荒くればっかりだからな」

「信じられないよ、たかがゲームの得点で死人まで出るんだもんねえ。夕べので四回目だよ死体検案書書いたのぉ」

「西之島紛争からこっち、月でも地球でも荒れてるっぽいからな」

「ああ……うん……」

 

 西之島紛争は漢明の劉宏大統領がPI(パーフェクトインストール)したことで様相が変わってしまった。

 

 それまでは関羽と劉備を足して孔明で割って曹操を掛けたようなお爺ちゃんだったけど、王春華にPIさせてからは漢明は武断的政策を引っ込め融和的な方向に向きを変えた。

 西之島に侵攻していた部隊を引き上げさせただけではなく、引き上げ命令に従わない部隊には攻撃さえ加えた。元々中央の意思に従わない軍閥の暴発という体裁をとっていたけど、味方にも厳しい劉宏のやり方は、おおむね賞賛された。

 でも、関羽と劉備を足して孔明で割って曹操を掛け、見てくれは虞美人か楊貴妃か。

 世界の半分は騙された。

 ううん、騙されたフリをした。たとえ表面的にせよ、世界は平和を指向するものなんだ。

 実際には劉宏の息のかかった財閥、あるいは外国資本を迂回させた財閥、当面の利害を共にする外国資本。そういうのを通じて、軍事力を伴わないという意味において『平和的』に権益を拡大させつつあるんだけどね。

 そういう空気の中で、パージされた武断派や役人、表面上の穏やかさに業を煮やした荒くれや没落知識人、技術者たちが地下に潜った。

 その何割かが、地球を離れ月や火星に当面の息継ぎの場所を求めたんだ。そのしわ寄せが、そこに最初の任地を与えられたわたしやダッシュに来ている。

 まあ、苦労は若いうちにと割り切ってはいるんだけど、取りあえずは疲れたぁ(;゚Д゚)。

 

 あれ?

 

 やっと眠気がさして、ピタゴラスまで5キロというところで背中に伝わる感触が変わってきた。

「気が付いたか?」

「なんか、修学旅行で乗り回したアナログ車の感じなんですけど!」

「パルスギで人口重力を作った実験線だ」

「おお、まるで地球の道路を走ってるみたい!」

「だろ、これになぁ……」

 ダッシュがコンソールにタッチすると景色が一変した。

「ウワア、東京の湾岸線だ!」

「ああ、重力を変えると、ホログラムでも完ぺきにリアルになる」

「すごい発明だね!」

「だろ、これを作ったの、テルだ」

「え、ええ(# ゚Д゚#)!?」

 

 ビックリして懐かしくなって、とても感動して、涙が溢れてきた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

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RE・かの世界この世界:137『時の女神ヴェルサンディ』

2023-06-24 06:53:39 | 時かける少女

RE・

137『時の女神ヴェルサンディ』ブリュンヒルデ  

 

 

 右も左も 上も下も 遠いも近いも 重いも軽いも 前も後も 表も裏も 明るいも暗いも 太いも細いも 短いも長いも じゃがいも さつまいも

 
 全ての標(しるべ)がグチャグチャになった。

 全てのものが存在して目には見えるが秩序が無くなり、本来あるべき状態では認識できなくなってきている。

 これはわたしか? わたしはそれか? それはあれか? あれがそれかも? あれはどれかも? どれはそれかも? どれはだれか? だれはどれだ? いったい いったいだれなんだ!?

 目をつぶるしかなかった。

 目を開けていては、三半規管どころか全ての感覚がおかしくなって気が狂ってしまう。

 気が狂ったブリュンヒルデなんて、ムヘンの流刑地に生息していたヒルのようなもんだ。ヌメヌメとナメクジのようにイヤらしく、ポタリと落ちて来ては人や動物の血を吸っうしか能がない軟体動物。ムヘンの流刑地に眠ったまま飛ばされて、ト-ル元帥に、その名で起こされた時は――我が名からブリュンとデを取ればヒルになる――そんな自嘲的なギャグを思いついた時よりも鬱になる。

 しっかりしろ!

 ペシペシ…………ビシバシ!…………ガツン!ゴツン!

 鼻血が出るほどに自分の頬を殴ると、やっとそれが功を奏して、ゆっくりと感覚が戻ってきた。

 

 右と左 上と下 遠と近 軽と重 前と後 表と裏 明と暗 太いと細い 長と短 じゃがとさつま そして、さっきは意識さえしていなかった自他の区別もついてきた。

「姫、大丈夫ですか!?」

 真っ先にタングリスが飛んできた。

「ああ、他の者は?」

 見回すと、テルもケイトを抱き起し、ロキは自分の背中に乗っているのにも気づかず、キョロキョロとポチを探している。ポチは、まだ少しボケているようで、自分が乗っているのがロキの背中だとは気づかずにキョロキョロ……まあ、いつもの光景だ。

「どうも、動けるのはわたしたちだけのようです。ヘルムの住人は、まだフリーズしたままです」

「ポチ、ちょっと空を飛んで様子を見ろ」

「ラジャー('◇')ゞ!」

 飛び上がると、自分が乗っていたのがロキの背中であったことに気づいて「ロキ!」「ポチ!」と、二人でハグ。命じたことは瞬間で忘れている。まあ、ざっと見て四号の乗員以外は、ピクリとも動かない。呼吸している気配さえないが死んでいるのではない、わたしの直感が、そう言っている。

 直観? なぜだ、なぜ自分の直観を信じるんだ?

 考え続けられるほどには回復してはいない。

「姫、ユーリアが……」

 テーブルで伏せていたユーリアがゆっくりと上体を起こした。続いて立ち上がると、立った姿勢のまま薄っすらと光って人の背丈ほどの空中に浮きあがった。

 

「……わたしは、時を司るノルン三姉妹の次女ヴェルサンディです。ヘルムのヤマタから託されて時間を回復しました」

 

「ヴェルサンディ……ユーリアは時の女神がったのか?」

「いいえ、ユーリアの体を借りているだけです。自分の姿を現すほどの力がありません……そう長く、こうもしていられません。要点だけになりますが聞いてください」

 穏やかな中にも凛とした響きがあるので、我々は居住まいを正した。

「時の女神は三人です。姉のウルズは過去の時間を司ります。わたしは現在の時を、妹のスクルドは未来の時間を司ります。姉と妹は眠っているので、回復できるのは、今の、この瞬間だけなのです」

「それで、他の人たちは……」

「過去も未来も止まったままなので、動くことはありません。姉と妹が眠っているのは世界樹の力が弱っているからです。ヤマタも力を失ったいま、完全な時の摂理を回復することはできません。そこで、あなたがたにお願いがあるのです。世界樹の勢いを取り戻すために、この閉じられた時間の中に湧きだす不条理を正してください。正しつつ世界樹をを目指してください。それと……わたしが借りてしまったために、わたしが去ればユーリアはあなたたち同様になります」

「同様とは?」

「ユーリアは、この停止した現在に覚醒しています。ひとり、このヘルムに置いておくのは不憫です。姉と妹が目覚め、過去と未来が回復するまで行動を共にしてやってください、それから……ああ、もう戻らなければなりません……ユーリアを……世界樹をよろしく……」

 フッと力が抜けるようにヴェルサンディが消えると、ユーリアの体はドサリと落ちてしまった。

「あいた!」

 お尻から落ちたユーリアは、痛さのあまり口がきけない。

「大丈夫か!?」

 一番近くのロキが声をかけて、テルとケイトが介抱する。

 その間、わたしとタングリスは考えた。定員いっぱいに乗っている四号に、どうやってユーリアを乗せたらいいのかと……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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RE・かの世界この世界:136『標(しるべ)』

2023-06-23 09:32:06 | 時かける少女

RE・

136『標(しるべ)』ブリュンヒルデ  

 

 

 ずっとヘルムを照らしてきましたが、ここまでです……

 

 ヘルム神の姿が薄くなってきた。

「あなたが消えると、この島は闇になるのか?」

「あなた方が思うところの闇ではありません、この世に光をあらしめているのは至高の神より託されたオーディンです。わたしは、オーディンがつつがなく役目を果たせるように、オーディンの世界の標(しるべ)の役割を果たしてきたのです。標を失った地上は闇よりもひどい世界になります……残り僅かの力を振り絞って、あなたたちをアグネスの家に戻します。家に戻れば、ユーリアの意識は戻るでしょう。そこからは世界樹ユグドラシルの根元に住む時の女神ノルン姉妹が標の代わりをしてくれるでしょう……」

「標の代わりとは?」

「オーディンの姫ブリュンヒルデ、貴女はムヘンの流刑地を離れたことで運命づけられたのです、この世界の綻びを繕い、緩んだ世界の関節を締め直す役割が。その標となるのがノルン姉妹なのです」

「この世界……ノルン姉妹はユグドラシルの全ての時を司どっています、神のおっしゃる世界とは……」

「…………」

「まさか、全ての世界!?」

「控えよ、タングリス!」

「ユグドラシルが包接する世界は、神の国アスガルドをはじめとして、ミッドガルド、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ヨトゥンヘイム、アルフヘイム、ムスペルヘイム、ニダヴェリール、ヘルヘイムの九つです! その九つ全てを指しておられるのか!?」

「タングリス!」

「よいのです。タングリスはトールの部下、優秀な軍人です。軍人にあいまいな表現は禁物、命を懸けて戦うのですからね。わたしは、これでも神。神が口にすれば命令同然、いえ運命になってしまいます。だから『世界』という言葉で堪忍してください」

「は、はい……」

「そして、外つ国の乙女、貴女は姫を助けたことでこの世界に抜き差しならない縁を持ってしまいました。この世界の綻び緩みが貴女を呼び寄せてしまいました。貴女は姫を助けることでのみ元の世界に戻ることができます」

「わたしのこともご存知なのですか!?」

「はい、ずっとこの世界を照らしてきましたから、その光は『始まりの草原』にも『荒れ地の峠』にも届いているのです。貴女もオーディンの姫に劣らぬ宿命を背負わされているようです。いずれは元の世界に戻ることになるでしょうが、一筋縄ではいかないでしょう。姫を助けながら進んでください。お互い助け合わなければ、この世界もかの世界も、運命の乱れからは解放されないでしょう、こちらとあちらを行きつ戻りつして道を探ってください。外つ国の勇者○○よ」

 ヘルムの神はテルの真名を呼んだようだが、わたしには聞こえなかった。

 テルも怪訝な表情をしているが聞き返すことはしない。わたし同様、何事かを悟ったのだろう。

「たとえ行き止まりでも、必ず別の道があります。苦しければ立ち止まってもいいのです。三歩前進二歩後退です。もう、あなたたちの道を照らすこともできませんが、助け合い、励まし合って前に進んでくださいね……かの世界にもこの世界にも光を、光あれかしと……祈って……いますよ……」

 

 そこまでだった、ユーリアに似たヤマタの神は輪郭を失って無数の光の粒子となって我々を包んだ。

 光の粒子に包まれてホワイトアウトした我々は、次の瞬間、ユーリアとヤコブの母であるアグネスの庭に戻ってきた。

 

 街の住人が酔いつぶれて、あちこちで眠っている。半身を起こしてボーっとしているのは四号の四人の乗員たちだ。

「出発の朝に戻ったようです」

 ふらつきながらもタングリスが立ち上がって状況を確認している。テルも周囲を見渡しロキとケイトが無事なのを見て肩の力を抜いた。

「みなさーーん!」

 駆け寄ってきたのはユーリアだ。

「ユーリア、憶えているか?」

「はい、ヘルム神は『ユーリアを取り込んでも輝きを取り戻せるのは、ほんの僅かの時間。間もなくユーリアを取り戻そうとして仲間たちがやってくる。わたしは、その者たちに全てを託そうと思う、いっしょに帰るがいい』とおっしゃいました。どうやら、今朝の時間まで戻ったようです……時の女神ノルン姉妹に託したというのは、このことなんでしょうか?」

「いや……そうでもないようだ」

 目まいがした。いや、目まいがしたように感じたんだ。

 まるでVRゲームがバグったように空間が歪んでくる。遠近感がむちゃくちゃになり、雲がすぐ目の前に迫ったかと思うと、わたしの顔を覗き込んでいたユーリアの顔が数百メートルの彼方でゆらゆら揺れて、四号の車体がシュールにゆがんだり、風景そのものがバクテリアの鼓動に似た変形を繰り返す。

 気持ちが悪い……世界が標を失うということはこういうことなのか?

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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