大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 181『書籍範奮闘する』

2024-05-14 17:39:31 | ノベル2
ら 信長転生記
181『書籍範奮闘する』書籍範 




 だいじょうぶですよ、来た道を帰ればいいだけのことですから(^_^;)


 生まれてこの方、ひとりでは豊盃の街を出たことのない栞ちゃんを残していくのは心苦しかった。

 でも、行かなければならない。

 書籍に書かれたことを補強、確認するためにしか出かけない老生も、距離はともかく早駆けには自信が無い。


 しかし、自信は無くとも駆けなければならない、三合の河原に!


 岳陽で湖水越しに舜帝の御陵を拝んでため息をつき、老妻の栞ちゃんにも喜んでもらえた。
 しかし、岳陽の西、この時期には黄砂で煙っているはずの西の空が青く澄み渡っている。これは、さらに西の方で尋常ではない雨が降り、空中の黄砂が洗い落とされたことを現している。

 降った雨は長江に流れて岳陽に至り、やがては下流の赤壁に迫る。堅固に作られた右岸はしのげるだろうが、資金不足のため低く作られた左岸は越水するだろう。

 懐から『三国輿図』を出す。

 周末に作られた旅行者用の地図だ。あちこち旅をしたついでに様々な書き込みがしてある。
 馬や徒歩の旅では土地の高低差が重要なので書き込んである。同じ十里の道を行くにしても上りと下りでは時間も体への負担も全然違う。
 書き込まれた数字を気を籠めて読めば、自ずと平面2Dの地図が3Dの立体画像になる。

 これは……!?

 長江左岸以北は東西に平野が広がり穀倉地帯をなしているが、長江に沿って五尺から二間、所によっては一丈あまり低いところが続いて……三合河原に至っている。

 確認しなければ!

 栞ちゃんを置いて、一人西に駆ける。

 西に十里、石首の村を超え得たところで確信した。長江の水は濁って水位を上げている。西の空はどんよりと曇りはじめ上流で大雨が降っている。

 これは百年に一度の大水になるに違いない。

 曹操さまは予見されて堤防を強固にしてはおられるけど、あれでは間に合わないかもしれない。

 懐から地図を出して確かめてみる。

 工事中の堤防は、予算などの都合から左岸、曹操さまのご領地側が低くなっている。

 これは大事になる。重慶から南、赤壁のあたりでは越水するかもしれない。さらに下流の三合河原では、三蔵法師様の大説法会が開かれている。

 三合河原は長江本流の大水のみならず、後背地からの越水にも脅かされる。

 数人数十人の旅ならば、増水に気付いてからでも間に合う。しかし説法会に集まっている者は三万は超えるだろう。

 大方は前後の水に挟まれて溺れてしまう。

 付近には四つほど避難に向いた微高地がある。いずれも、たいして広くは無い。よほどに早くに気づいて誘導しなければ、この微高地への避難もままならず相当の犠牲が出る。


 知らせなければ!

 
 岳陽を右に見ながら近道の間道を行く。急げば二日も掛からずに三合の河原に着けるはずだ。

 十年前ならともかく、古希を目前の早駆けは予想以上の厳しさだ。

 近道の合間に見える長江は早くも色を変え水かさを増しつつある。

 間に合わないかもしれない……しかし、長江の流れは海と見まごうほどに緩い。三合に至るまでは弓の字を横倒しにしたほどに蛇行している。

 近道は、ほぼほぼ一直線。休まなければ間に合う!

 馬上一睡もせずに一日半……あの峠を越えれば三合の河原が見える。

 ハイヨー!

 この一鞭で馬は潰れるだろう、天下の一大事、我慢してくれ!

 ハイヨー!

 ヴヒヒィーン……ドサ!

 とうとう馬は前脚をつき、泡を吹いて潰れてしまう。

 くそ、ならば這ってでも!

 馬も荷物も捨てて峠に立つと……見えた。

 三合のあたりはまるで海だ。長江と河原の区別は無く、まるで上海の丘から海を臨んでいるようなありさまだ。

 北の微高地が島のようになり、そのいくつかには数百、合わせれば数千の人たちが取りついて難を逃れている。微高地は四つ、合わせてもせいぜい一万……目を右に向けると右岸の呉の国は無事なようで、呉の兵隊が、なんとか右岸に泳ぎ着いた人たちを助けているが、見える限り、その数は千は超えてはいない。

 川にはゴマ粒のような頭がいくつも浮き沈みして……これは……もう間に合わない。

 ただただ手を合わせ、一人でも多く、せめて大恩ある大橋さまだけでもと祈ることしかできないわが身が厭わしい。

 あのお方は、けしてわが身一つだけ助かればなどとは思われない。老生一人が不埒に祈るなど迷惑だろうが、こうせずにはおられない。

 クソ……クソ……クソォ………

 涙と涎と鼻水にグシャグシャになりながらわが身を呪いながらも祈っていると、背後から沢山の馬蹄の響き……。

 振り返ると、一本下の本道を軍勢が行く。

 ドドドドドドドドドドドド!

 その数二千余りだろうか……中軍のあたりには赤地に曹の旗印。

 曹操さまの軍勢だ!?



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)030・立ち入り禁止の部室棟

2024-05-14 06:32:55 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
030・立ち入り禁止の部室棟                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 二日で駆除できます。


 部室棟の検分を終わった業者は太鼓判を押した。

「ただ、柱や基礎への浸潤が限度を超えていてますんで、建物自体の検査をやって頂かないと手が出せません」

「というと……」

 正確さを期したい事務長が訊ねる。

「耐震補強はされてるんですが、そこと建物本体の接合部もグズグズだと思われるんです。万一の時は耐震補強の部分だけが残って倒壊するかもしれません。でも、その判断は害虫駆除のうちではできませんので」

 校長と事務長は渋い顔になった。

 業者の言うのはもっともで、建物の劣化を見過ごしたまま作業をすると後々問題になる。最悪、害虫は駆除したが建物自体が使用禁止では笑い話にもならない。

 そこで府の教育庁と連絡を取り、検査官に来てもらって検査をしたのが昨日のことだ。

「震度5強で倒壊の恐れがあります、とりあえず緊急に使用禁止にしてください」


 学校はただちに部室棟の出入り口を封鎖した。


 生徒も教職員も入れなくなってしまった。

「私物のパソコンとか残ったまんまなんですよ(;'∀')!」

 教頭に詰め寄った啓介だったが「決定事項や!」と突っぱねられてしまった。

 遅れて気づいた他の部長たちも、顧問やら教頭やらに木で鼻をくくったような返事しかしてもらえず、部室棟の前にたむろするしかなかった。

「どないなんねん、荷物くらい取らせてもらわんと活動でけへん」

「制服脱いだままや」

「あたしは体操服」

「俺は教科書」

「うちは金庫に部費!」

「弁当箱!」

「思い出!」

 騒ぎ始めた生徒たち、それを見かねたのだろうか、教頭と生徒会顧問の松平が現れた。

 なにか対策を発表してくれるのかと期待したが、予想もしない答えが返って来た。

「たった今、府から連絡が来た。今月末には取り壊しになる。けして中には入らんように!」

 いつになく厳しい物言いをする教頭。

 差し迫った事態というよりは、大阪府の権威を背負った小役人が威張っているだけのように思える啓介だ。

 部室棟の周囲にはトラロープが張られ、大阪府のハンコの押された立ち入り禁止証がペタペタ張られた。


 それが今朝の状態である。


 朝練の運動部のさんざめきが部室棟を貫いて聞こえてくる。

 文化部が退去させられた部室棟は、スカスカになったみたいで、いつもより、そのさんざめきが大きく聞こえるような気がする啓介たちだ。

 キーキー……

 車いすを転がす音もいつもより響くような気がする。

――なんでこうなるかなあ(-_-;)――

 順調に計画は進んでいた。

 がんばったけど、クラブが潰れたら仕方ないよね。

 その免罪符を勝ち取るための演劇部だった。

 この一か月学校に通えたのは、この企みがあったからだ。

 ズルズル在籍して、休みがちになり、いろんな人に気持ちを忖度されステレオタイプの同情をされ、お母さんと学校が眉根を寄せて相談。家庭訪問、クラスのみんなが手紙とか書いてくれて、それが口をきいたこともないような学級委員とかが家まで持ってくる。殊勝な顔でお礼を言って、先生とかクラスの何人かが痛ましそうな顔して……そのあげくに辞めるのなんてやだ。

 演劇部潰れたのが引き金で「やっぱ、惣堀は合いませんでしたあ(^〇^;)」くらいの軽さで辞めたかった。

 たった一か月だったけど、辞めるという不届きな目標だったけど、久しぶりにハリがあった。

 ハーーーーーーーーーーー

 長いため息が出る、涙まで出てきた。


 そんな千歳の姿を渡り廊下の柱の陰で見ている者がいたのであった……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする