大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

2024-03-31 10:45:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』 




 あ、ひいお爺ちゃんだ。


 そう思ったのは、目の前に現れた建物がひいお祖父ちゃんが勤めていた愛知県庁に似ていたから。

 愛知県庁は六階建ての鉄筋コンクリートなんだけど、部分的に七階になっていて、七階部分は名古屋城そっくりの和風の屋根になっている。

 目の前の建物は縦にも横にも県庁の半分の三階建。そして真ん中が四階建になっていて、お城の天守閣みたいな和風の屋根が載っている。

「サハリン州郷土博物館なんだけどね、元々は樺太庁博物館なんだ」

『子どもの頃に社会見学で来ましたよ!』

 交換手さんが御息所の姿で声を弾ませる。いつも冷静な交換手さんなんで、ちょっと新鮮。
 御息所は、いつもはにくたらしいんだけど、交換手さんの魂が宿っていると、とても清楚な美人さんだ。1/12サイズだけどね。

「さあ、入るよ」

 少彦名さんが歩き出すと、デラシネがわたしの後ろに隠れた。

「ケルベロスみたいなのが居る!」

「え?」

 見ると、玄関の両脇に強そうな狛犬が居る。

「ああ、うちに居た狛犬だ。口を開けてるのが太郎、閉じている方が次郎。僕のお客さんだ、挨拶しろ」

 少彦名さんが言うと、二匹の狛犬は怖い顔のままペコリと頭を下げた。

「あ、おっかない……」

 デラシネはわたしの後ろにくっついたまま博物館の中に入った。

「展示物にも面白いのがあるんだがね、今日は時間がない、食堂の方に行くぞ」

 そう言って、正面の階段は登らずに階段の下へ。

『そうだ、地下には食堂があったんです。社会見学に来た時いい匂いがしてました!』

「交換手さん、食べたことあるの?」

『いえ、社会見学でしたから匂いだけでしたけどね(^_^;)、見学が終わってから、近くの公園でお弁当食べました』

「じゃあ、百年ぶりに実物を食べられるわけだな」

『百年も経っていません、九十年ですョ!』

 アハハハハ((´∀`*))

 いつも冷静な交換手さんがムキになるのでおかしい。

「オトヨさん、連れて来たよ~」

 少彦名さんが呼ばわると奥の方から「ハイヨ~」と明るい声がして割烹着に三角巾の女の人が出てきた。

「いらっしゃい、ひい、ふう、みい……少彦名入れて四名様だね」

「ああ、樺太ランチ四つで頼むよ」

「樺太ランチ四つ!」

 厨房の方にオーダーを通すオトヨさん。

 感じは高級レストランなんだけど、ノリは大衆食堂の雰囲気だよ。

「乱暴な感じだけど、美人だなぁ、オトヨさん」

 デラシネはオトヨさんの方に感心している。

『ひょっとして、豊受神(とようけのかみ)さまでいらっしゃいます?』

「ああ、そうだよ」

「トヨウケノカミ?」

『食べ物の神さまです、天照大御神の孫娘でいらっしゃいますから、おきれいなのは当然です』

「少彦名といいオトヨさんといい、なんだか雰囲気がいいなあ……」

「神さまの有りようなんて、いろいろなんだ。異国の女神よ」

 あ、なんか少彦名さんの目が優しい、というか、言葉遣いまで。

「女神って……(-_-;)」

「俯かれるな、貴女がひとかどの女神、それも女王級のお方だというのは分かっております。先日、三方さんからも回覧板が回ってきました」

「三方さんから?」

「ははは、もてなしというほどのことは出来ませんが、まあ、ゆっくりされよ」

「は、はい」

「と、畏まった言葉遣いはここまでにして、ランチができたようだ」


「はい、おまちぃ! 樺太ランチ四つぅ!」


「「『うわあ(^▽^)!』」」

 あっという間にお誕生会のような雰囲気になって、おいしく樺太ランチをいただく。

 シャケのちゃんちゃん焼きをメインに、エビやらカニやらイクラやら、一見カチコチのロシアパンも中はモチモチ。

 みんなで美味しくいただいて、いよいよメインの樺太観光になったよ!

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》

2024-03-31 07:04:36 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第125話《尾てい骨骨折・5》さくら 




 唄い終ると松子さんは照明やらパソコンをいじって「ワンモアプリーズ( •◡-)♡ 」とウインクされてもう一回。

 そして、晩御飯を勧められた。

 地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かと家にはスマホで連絡。お誘いに乗った。
 
「かえって気を遣わせてしまったみたいね」

「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」

 お料理は気取らない多国籍料理だ。

「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」

 感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こういうものになると奥さんの弁。ちなみに息子さんと娘さんは大学生で、わたし同様、朝に家を出たら糸の切れた凧らしい。

「わたしたちの時代じゃ許されなかったけどねぇ」

 そう言いながら、お祖母さんが遅れてスタジオから上がってこられた。

「あ、そうだ。サクラさんに名刺渡しとこう」

 相変わらず、この「サクラ」は、あたしのことか、ひい祖母ちゃんのことか分からない。

―― よろずクリエーター 白波園子 ――と書かれていた。

「この『よろずクリエーター』って、なんですか?」

 無邪気に聞くと、みんながホタホタと笑った。

「ようは、なんでもやりたがり屋。好きなことをやってはブログに書いたりYouTubeに投稿したり……お母さん、さっきの佐倉さんの投稿なんかしてないでしょうね!?」

 校長先生が顔色を変えた。

「もちろんアップしたわよ。だって、あたしと桜の仲なんだもん。ねえ、桜ぁ(^▽^)」

 これは完全にひい祖母ちゃんと間違われている。

「ちょっと、確認」

 校長先生はテレビを点けると、入力をパソコンにした。

「『ゴンドラの唄 桜』で出てくるわよ」

 校長先生が、そう打ち込むと、まるで本物のスタジオで歌手が歌っているように、カメラ3台の画像が切り替わりながら、わたしの歌を流していた!

「いい出来ねぇ。ネット仲間でテレビのメカニックさんがいてね。昨日来てもらって、こういう仕様にしてもらったの。ホホホ」

「佐倉さん、ごめんね、すぐ削除してもらうから」

「なによ、こんなにいい出来になのにい」

「お母さん、肖像権の問題とか著作権の問題だとか……」

「著作権は切れてるからOK。写っているのは桜だし、ねえ」

「え、ああ、いいですよ。あたしYouTubeなんて載ったことないし、良く撮れてるし、記念になっていいです」


 そう答えたのが運命の分かれ道だった。


「ちょっと、さくらのアクセスすごいわよ!」

 帰るなりさつきネエに言われた。

 パソコンには、校長先生の家で観たのと同じ画面が写り、その下のアクセス回数は1000を超えていた。コメントも10個ほど来ていた。

 懐かしいー! 若いのに上手! 大正ロマン!などなど、ご年配と思われる人たちのコメントばっか。

「これ、いつものさくらの鼻歌のレベルじゃないわよさ。なんか特訓した?」

「ううん、お姉ちゃんがのど飴ぶちこんだぐらいよ……」


 そこまで言って気づいた。


 こうなっちゃったのは、秋分の日の夜。尾てい骨骨折やって、なんだか無性に眠くなるようになった。で、そのあくる日にひい祖母ちゃんが夢に出てきて、それからだ……お彼岸ミステリー!

「ハハ、まさかね」

 まあ、一晩だけジババのアイドルになるのもいいか(^_^;)。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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鳴かぬなら 信長転生記 173『擬態を解いて温泉に浸かる』

2024-03-30 12:07:47 | ノベル2
ら 信長転生記
173『擬態を解いて温泉に浸かる』信長 




「三蔵法師さまとお弟子の方は村長さんのお屋敷をお使いください。あ、この近辺の地図も置いておきます。あとでまた寄りますからね(^▽^)!」

 それだけ言うと、チュウボウ(孫権)は笑顔で手を振って旅の一行に宿の割り振りを伝えに走った。
 働き者の王弟は一つ前の宿場から先行して、事前に一行の宿の手配をしていたんだ。いつものカメラをぶら下げ、気に入った風景やら人やらを撮りながら。いい意味で遊び半分という姿勢は人の心に負担をかけない。

「孫策はいい弟を持ったッパ……」

 沙悟浄の姿で茶姫がこぼす。

 茶姫もなかなかな奴だ。

 愚兄の曹素に謀られて生まれ故郷の魏はおろか、手塩にかけた騎兵旅団も失い、国賊認定されて扶桑に亡命。その後、俺たちの偵察に付き合い、贋三蔵法師隊の沙悟浄に化けて行動を共にしてくれている。
 けして、本性の茶姫に戻ることは無いが、それでも、時おり、その意図はなくとも、そうと知れる溜息を漏らすことがある。曹茶姫は兄弟に恵まれていない。

「悟空、八戒といっしょに温泉にでも浸かってこい。三蔵法師さまのご案内なら、この沙悟浄一人で十分ッパ」

 そう言って、チュウボウの地図を示す沙悟浄。

「いいのか、お師匠を差し置いて温泉だなんてブヒ」

「地図は二枚ある。一般用と三蔵法師御一行用、かち合って、互いに気を遣わないようにというチュウボウの配慮だ。先に入るのは下見のためだ。晩飯までに戻って来ればいいッパ」

「そうか。では、ありがたく行かせてもらうぞウキ」

「そうするがいい、わたしも後で使わせてもらうからねぇ」

 三蔵法師もアルカイックスマイルで応える。

「そうですかウキ」「それでは遠慮なくブヒ」


 八戒と二人で村の外れの温泉に向かう。

 
 ザッパ~ン!

 うわ!


 ゆっくり浸かったつもりなんだろうが、石で囲んだだけの浴槽は四畳半ほどの広さしかなくて、けっこうな量のお湯が溢れてしまい、先に浸かっていた俺は浴槽の外に流されてしまいそうになる。

「あ、ごめんブヒ(;'∀')」

「人目も無いし、浸かっている間だけ擬態を解かないかウキ」

「ああ、そうだな。目隠しもしっかりしているし、そうしようか」

 擬態を解いて、信長と市に戻る。

「あはは、今度はお湯が足りなくなったかなぁ」

「浸かっているうちに戻ってくるさ……やっぱり本来の自分の姿でいると楽だぁ……」

 お湯が胸元のあたりまでしかないので、市のきれいな上半身が露わになって、思わず見とれそうになるがポーカーフェイス。

 転生したころは俺が美少女化していても裸を見られるのを嫌がっていた。俺自身は何も変わってはいないのだが、慣れたのか、いまは平気でいる。

「孔明は何をしにきたんだろう、けっきょく当たり障りのないことしか言わなかったけど」

「偵察だ、俺たちの企みに乗っていいかどうかのな」

「三蔵法師のことは見抜かれてないよね?」

「ああ、さすがは一言主、三蔵法師に成りきっている。天照はいい人選をしている。思金神(おもいかね)では、こうはいかなかったぞ」

「そうねぇ、なんだかんだ言っても御山の神さまだけのことはある……ねえ、三合の河原で説法会、その後はどうするの?」

「曹操の出方次第……というか、曹操という男を見極めなきゃならない」

「見極める……」

「ああ、手を結べるなら手を結ぶ」

「曹操と手を結ぶ!? 茶姫はどうなるのよ!?」

「茶姫に手は出させん、そこだけは変わりはない。もし、三蔵法師を通して仏教を大事にするなら、いくらでも手の打ちようはある。三蔵法師が頂点に立つなら、比叡山のような仏教ヤクザにはならんだろうしな。茶姫と大橋、それに孔明がいれば収まるだろう。収まれば、扶桑も三国志とうまくやっていけるだろうし。あとは、信玄や謙信に任せておけばいい」

「そうか……で、あんたはどうするの?」

「つぎの転生の準備をする」

「そうか……」

「と……その前に、とりあえずは、三国志と扶桑のスィーツを食べまくる。天照から預かったシフォンケーキの型も練れてくるだろうし、そっちも楽しみだな」

「あはは、そうだよね、みんなで甘いもの食べたいよねぇ……」

 市は、時どきこういう顔をする。

 なにか美味しいことや面白いことに想いが至ると、ちょっと遠い目をする。

「市、娘たちのことが気になるか?」

「え……」

「図星か」

「そんなことないし」

「サルが餌付けに来ていただろう」

「え、餌付け!?」

「小谷落城の折、お前たちの救助を命じて以来サルは市に執心していた。しかし、サルは寧々を正室にしていたからなあ、主筋の市を側室にはできん、それでも、市の顔が見たいものだから、あちこちからスィーツを仕入れては、娘三人に献上すると言って岐阜のおまえたちのところに足を運んでいたんだ」

「そうだったかしらぁ」

「茶々はちょっと引き気味だったが、お初もお江もサルに懐いて『そんなに食べては虫歯になります』と茶々が叱って、下の二人が口を尖らせて、サルがそれを真似するものだから、けっきょくはみんな笑ってしまった」

「話を聞きつけたあんたが『スィーツの献上なら、最初は俺のところにもってこい!』って……サルが平身低頭、あの時は、つい笑ってしまったけどね。あれは、お兄ちゃん、あんたのことが可笑しかったのよ! サルを認めたわけじゃないからね!」

「あはは、市も子どもの頃は俺の後ろに着いて、そういうのを面白がっていたからな」

「サルはね、あの時――お市の方がダメなら茶々を育て上げて――という気になっていたのよ、ほんとうに不潔なサル!」

「そこがサルの可愛いところじゃないか、寧々には頭が上がらんし、主筋の市はずっと憧れに留めていたし」

「そういうとこが不潔なの!」

「そうか」

「そうよ」

「一度だけ、サルのことで大爆笑したことがあっただろ」

「え、そう?」

「茶々がおまえの真似をしてサルサルと陰口叩いて、俺が訂正してやったときのことだ『茶々、あれはサルではなくて禿げ鼠だ』と言ってやったら、茶々が噴き出して、市もノドチンコ丸見えにして笑っていた」

「フフ、つまらないこと憶えてるのね」

「娘三人が笑わないとお前も笑えなかった」

「…………」

 ちょっと喋り過ぎたか。

 気づくと、ようやくお湯の水位が戻って、俺も市も黙って首まで湯に浸かった。

 


☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主



 







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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》

2024-03-29 07:02:38 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第124話《尾てい骨骨折・4》さくら 




 寝ダメはきかなくなってきた。


 昨日は、スマホもパソコンも見ないで、8時頃にはベッドに入った。で、11時間以上寝たんだけど、それでも眠り足りない。

 さつきネエの話では、相変わらず寝言みたくゴニョゴニョ言ってるらしいけど、さすがにハッカののど飴を口に入れられることは無くなった。
 なんでも、看護師やってる友だちに話したら「寝てる人間の口に飴なんか入れたら誤嚥して窒息する恐れがある!」と言われたらしい。

 あやうく殺されるところだったんだぁ(^_^;)

 その友だちは、こう続けた。

「尾てい骨の痛みが続くようなら、お医者さんに診てもらったほうがいいよ」

 お医者さんはぜったいイヤ!

 授業中の居眠りも常態化しつつあり、数学の先生も何も言わなくなった。尾てい骨は相変わらず痛かったけど、庇いながら寝るすべを覚えたのか、痛さに飛び起きるということも少なくなった。


「放課後、校長室へ行きなさい」


 担任の亜紀ちゃん先生に宣告されたのは、今日の放課後。

 そうかぁ、何も言われないと思ったら、そんなとこまで話は飛躍してんのか……と覚悟を決めた。

 校長室は例の七不思議の偶然でお邪魔して以来。

「いやあ、呼び出してごめんなさいね」

 校長の白波先生は、予想に反して穏やかだった。

「あ、あの、居眠りの話じゃないんですか……?」

「ああ、耳には入ってるけど、あんなのは、あなたの歳ではありがちなことよ。今日呼び出したのは、個人的なお願いがあってのことなの」

 そう言って、先生は御みずから紅茶を入れてくださった。

「実は、これを聞かせてもらってたの」

 校長先生は、パソコンのキーをいくつか叩いた。すると、こないだ音楽の時間に歌っていたわたしの姿が音声入りで再生された。

「あ、これは……」

 マクサが撮った動画だ。

「あまり上手いので佐久間さんから美音先生のスマホにコピーされて、職員室で話題になってたので、ちょっと取り込ませてもらったの」

 この後、校長先生は意外な話をした。びっくりして椅子の上で飛び上がったら、もろに尾てい骨を打って、びっくりは三倍ほどに増幅して校長先生に伝わってしまった。


 そして、その日の夕方、校長先生のお家にお邪魔することになった。


「まあ、桜じゃないのお!」

 そう言って校長先生のお母さんが抱き付いてきた。

 前もって聞いていたので、この「桜」というのはひい祖母ちゃんのことだとは分かっている。いるんだけど、やっぱ、現実にハグされると戸惑いが先に立つ。

 うちのひい祖母ちゃんは佐倉桜子といって、日ごろは呼びにくいので、ただの「桜」と呼ばれていた。音だけで聞くと、わたしといっしょ。で、同じ帝都の女学生なので、校長先生のお母さんは完璧に、あたしをひい祖母ちゃんの「桜」と思い込んでいる。

「聴かせてもらったわよ、見せてもらったわよ、桜とうとうやったのね!」

 ここで解説。

 校長先生のお母さん白波松子さんは、ひい祖母ちゃんの桜子とは親友だった。

 二人が女学生であったのは戦時中。後半は勤労動員に狩り出されて学校どころでは無かったみたい。でも二年生までは、まともに授業をやっていた。
 音楽のテストで、松・桜コンビは『ゴンドラの唄』を歌うつもりでいた。音楽の先生も、時局がら、これが最後の歌唱テストになると思い、曲目は各自の自由にした。で、おしゃまな二人は『ゴンドラの唄』を選んだ。

「そうだったのよ、あなたのひいお祖母ちゃんは、わたしと『ゴンドラの唄』を歌うはずだった……」

 一瞬松子さんは正常になった。

「でもね、ゴンドラの唄って松井須磨子でしょ。築地小劇場でしょ。さすがの先生も、これは許してくれなかった。だから『早春賦』で妥協したのよね。いいお点はいただいたけど、やっぱり『ゴンドラの唄』が歌いたかった、そしたらサクラ、あんた見事にやりとげたのよね。あたし感動しちゃった!」

 この「サクラ」はどちらを指しているのかよく分からない。

「ねえ、桜、生で聴かせてよ。あたしは、もうあのころの声は出ないわ。でも桜はあの時のままなんだもん。ねえ、こっちきて!」

 これは完全に、ひい祖母ちゃんと間違っている。そして通されたのは、地下の防音室だった。

 八畳ほどの地下室に、本物のスタジオ並の機材が揃っていた。

「さあ、唄って桜!」

 松子さんの目は、少女のように輝いていた……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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勇者乙の天路歴程 011『視界が開けると糺の森に似て』

2024-03-28 10:34:01 | 自己紹介
勇者路歴程

011『視界が開けると糺の森に似て』 




 森の出現に歩みを止めると、視界が開けてきた。

 駅からここまで、見えているのは幼稚園の園庭ほどでしかなく、その周囲は霞が立ち込めたように煙っていた。

 それが……

 目の前に森が出現すると、俄かに開けて視界が東京ドームほどに広がった。

 草原の左側には川が流れて、前方でYの字に分かれ、森はそのYの字に挟まれて奥に続いている様子だが霞に紛れてはっきりしない。

 Yの字によって三分割された地面は橋によって結ばれて往来は自由のようだ。

 Yの字の縦棒を跨ぐ橋に行って森を見晴るかすと既視感がある。

「糺の森に似ています」

 ビクニの言葉で既視感はデジャブではなく記憶として蘇ってきた。

 子どもの頃は親父に連れられて、高校生の頃は友だちといっしょに、学校を出てからも友人たちと、職に着いてからは生徒を引率して遠足で。
 遠足の時は出町柳で京阪を降りて十分ほどで、それ以前は三条で降りて川端通りを歩いた……そうか、いままで歩いてきた道は川端通りにあたる。

「いいえ、あそこまでは安達ケ原です」

「アハハ、そうだったな」

「デジャブはわたしです」

「え?」

「見たもの出会ったものによって姿が変わる」

「あ、そうだったな」

「あれ……奥さんとは来てないんですね?」

「え、読んでるの!?」

 思わず胸を押えてしまう。

「すみません、見えてしまうもんで(^_^;)」

 ムニュムニュムニュ……糺の森や下賀茂神社、出町柳、双ヶ岡、百万遍、京都大学……近辺での思い出が雨後の筍のように首を出す。その都度、ビクニの顔もムニュムニュ蠢く。

「こ、ここは、小説とかアニメとかでもよく出てくるからねえ(;'∀')!」

 記憶をアニメに切り替えると、川の中の飛び石をアニメのキャラがピョンピョンと渡って行った。

 軽音部のキャラに変わりそうになって、ビクニが宣言する。

「さ、先にいきましょう!」

 宣言して顔をつるりと撫でると、元の静岡あやねに戻って先をいく。

 橋を戻って、今度はYの字の右上、リアルの地図で言えば出町橋を渡って糺の森の正面に出る。

 朱塗りの大鳥居があって、その向こうは下賀茂神社の参道と思いきや、森の中の一本道。

「冷やかしは終わったようだね」

「はい、いよいよ本編のようです。油断しないでいきましょう」

 糺の森は東京ドーム三つ分くらいだが、その十倍ほどの道を行くと、森の切れ間の向こう、木の間隠れに、また川が見えてきた。

 え…………?

 今度は、黄河か揚子江かというような巨大河川だった。

 


☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》

2024-03-28 06:32:06 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第123話《尾てい骨骨折・3》さくら 




 目が覚めると、世界はハッカの香りに満ち満ちていた。


 目が覚めきるにつれ、香りの元が自分の口だと分かって驚いた。さつきネエがニヤニヤしている。

「ちょっと、あたしに何かしたぁ?」

「え、覚えてないの?」

「なんのことよぉ?」

「さくら、寝言でのど飴くれって言ってたんだよ」

「え( ˙ㅿ˙ ) ?」

 さつきネエの話では、あたしは寝ながら口をパクパクやっていたらしい。で、最後にのど飴と言ったらしい……。


「あら、声もどったのね」


 今度はお母さんに言われた。

「え、そんなだったのあたし?」

「覚えてないの?」

「え、ああ、ううん……」

 いいかげんな返事をした。

 実のところ、昨日の秋分の日の記憶が飛んでいた。若年性健忘症……にしては、それ以前の記憶はしっかりしている。尾てい骨が痛いことや、そのために数学の先生に誤解されたこと。そいでひい祖母ちゃんが夢の中に……そうだ、ここから記憶があいまいだ。

 今日はレイア姫の勝負パンツを穿いている。

 と言っても放課後イカガワシイことをするためではない。今日は苦手な音楽の歌唱テスト。まあ、人並みに歌えればいいと思って、歌は教科書の『若者たち』と決めている。ただ江戸っ子の見栄っ張りで恥はかきたくない。当たり前程度には歌えて、尾てい骨に響きませんようにとの願いから。


 で、音楽のテストの時間になった。


「じゃ、次、佐倉さくらさん」

「はい」

 腹はくくっている。

「曲目は?」

「ゴンドラの唄……」

 と言って自分でも驚いた。どこへ行ったのだ『若者たち』は!?

「えらく、渋い曲ね、先生弾けるかなあ……」

 ほんの少し考えて音楽の美音先生が前奏を奏で始めた。


 いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 あせぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを♪
 
 いのち短し 恋せよ乙女 いざ手をとりて かの舟に いざ燃ゆる頬を 君が頬に ここには誰れも 来ぬものを♪♫

 いのち短し 恋せよ乙女 波にただよう 舟のよに 君が柔わ手を 我が肩に ここには人目も 無いものを♪♫♪

 いのち短し 恋せよ乙女 黒髪の色 褪せぬ間に 心のほのお 消えぬ間に 今日はふたたび 来ぬものを♪♫♪♫


 パチパチパチパチパチパチ!

 美音先生やみんながびっくりして拍手してくれる。一番びっくりしたのはあたしだった。

 こんな歌は聞いたこともないし、唄ったこともない。

「すごいいわよ、佐倉さん。ちょっと待っててね……」

 先生はデスクのパソコンを操作して森昌子さんの『ゴンドラの唄』を流した。

「すごい、先生、もう一度歌ってもらって録画していいですか?」

 マクサが言った。気が付いた、順番から言えば佐久間マクサの方が先なんだけど、あたしが先になったことに誰も不審に思っていない。マクサは、どうやら気づいているようで、あわよくば自分の番が回ってこないうちに時間を終わらせようという腹だ。

 いつもなら、こんなズルッコ許さないんだけど、あたしは自分でも歌いたい気持ちになっていた。

「すごいすごい! あたしのピアノもカンタービレになっちゃった!」と、先生。


 これが奇跡の始まりだった……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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銀河太平記・212『先生のドッグタグ』

2024-03-27 16:19:14 | 小説4
・212

『先生のドッグタグ』ダッシュ 




 シュビィーン! ズズーン! ドゴゴーン! ダダダダ! ビビビビ! 

 パルス弾、実体弾、レーザー、ミサイル、ドローン、新旧様々な弾やエネルーギー波が飛び交う中で、壮絶な戦闘が繰り広げられている。


 静かの海は、月面の中では最も広く平坦な地面が広がっているところだ。それが静かに凪いだ海を思わせるところから古くから静かの海と呼ばれてきた。

 月は火星に先立つこと80年、21世紀の後半から開拓が進められてきた。

 南極条約に準じて、ベース以外では領土を設定しないことになっていたが、豊富な地下資源を目の前にして、紳士協定でしかない月面開発協約は空文化していた。
 各国は基地の概念を、それぞれのベースが置かれているクレーター全域に拡大し、月面の半分は事実上分割されていた。アメリカや漢明は50以上のクレーターを自国領にしている。扶桑幕府も遠慮がちにだが、パスカルやピタゴラスなど大小八つのクレーターを天領として保有してきた。

 クレーターは隕石の衝突によって形成されるが、衝突の衝撃で地層が攪拌され、鉱物資源が露頭していたり、地表近くに現れて採取や採掘が容易なんだ。

 しかし、静かの海とかの平坦地は、地下深くに資源が潜ったままで、21世紀の海底資源のように採掘が難しい。

 そこで、火星に比べて開発面積の狭い月面の状況を鑑み、日本のK首相が声高らかに『異次元の月面開発!』を提言したのが四半世紀前。

「大規模な共同事業で、月面開発の新時代を開こう!」

 月面有数の平坦地である静かの海は、地下資源は地中深くにあって、開発コストが高くつくため、各国ともに進出も開発も控えてきた。

 K首相は21世紀中葉、深海域に分布していたメタンハイドレードや石油の開発に成功し、一躍日本を資源輸出国に押し上げたように、資源革命を月で行おうとしたのだ。 

 K首相は、この月面最大の平坦地を共同開発することによって、地球では夢物語に終わったグローバリズムの世界を実現しようと提言し、地球各国の資本、技術、労働力を集約する旗頭になった。

『静かの海はうさぎの顔にあたります。みんなで力を合わせ、うさぎを笑顔にして美味しいお餅をつきましょう(^▽^)/』

 日本のスローガンを3Dホログラムにして全世界に広め、一応の事業計画はたった。

 みんなも知っていると思うんだが、静かの海がうさぎの顔に見えるのは日本だけだ。

 ヨーロッパやアメリカではカニの鋏だし、中東ではライオンの腰に見えている。

 誤解や曲解、思惑違いや思い違い、それに文化や宗教の違いに経済感覚の違い、互いに他力本願で他罰的な理想主義がぶつかるのは目に見えていた。

 実際、開発は資金や技術開示の問題、小さなところでは試掘プラントでの待遇や、食事メニューのもめ事で行き詰ってしまった。

 百年、二百年前の地球なら、全責任を日本に押し付けて撤退しておしまいになる。底意地の悪い一部の国は謝罪と賠償を要求したかもしれない。

 しかし、なまじ日本だけが本気で取り組んだために、技術的な見通しだけはついてしまった。

 各国は、事業からは撤退しながらも、将来の可能性に掛けて静かの海の部分的領有権や採掘権を主張し、20年前に壮絶な『静かの海戦争(日本では事変と矮小化して呼ぶ)』を引き起こしたんだ。


 その戦争の真っただ中に、姉崎先生は日本の開発区を守るための傭兵として、地を這うような戦いの中に居た。

 シュビィーン! ズズーン! ドゴゴーン! ダダダダ! ビビビビ! ドゴゴーン! ダダダダ! ビビビビ! シュビィーン! ズズーン! ドゴゴーン! ダダダダ! ビビビビ!

 パルス弾や実体弾が飛び交う中、俺たちが知っているよりもいくぶん若く、小気味よく駆けていく先生。

「すごい、ジャンプでパルス弾避けた!」

 ピシュンピシュン! ズズーーン!

「え、アサルトで実体弾破壊した!」

 いくぶん義体化はしているんだろうけど、その落ち着きと戦闘力は、軍警の俺が見ても超人的だ。

 ダダダダダ

 実体銃の射撃を受け、ジャンプと前転を繰り返して弾を避ける!

 え?

 ちょっとした違和感を感じてモニターを停める。

「え、どうかした?」

 ミクが二つ目のお握りに伸ばす手を停めた。

 数コマ戻して、先生の胸元をアップにする。

「おい、これを見ろ……」

 胸元で揺れているドッグタグを拡大する。

「え、なんで……」

 先生のドッグタグには『姉崎すみれ』というミスマッチだが慣れ親しんだ名前ではなく『山野勘十郎』という、見かけにはピッタリの、しかし、俺たちには馴染みのない名前が彫られていた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》

2024-03-27 06:58:00 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第122話《尾てい骨骨折・2》さくら 





 昨日の学校はさんざんだった。


 教室の席に座る時は、家での体験があるので、尾てい骨を庇うように座れる。
 だけど授業中にノートをとろうとして顔を上げた拍子に姿勢が真っ直ぐになって、もろに尾てい骨に響く。
 さすがに家にいるときのように気軽に叫んだり唸ったりはできず、その分表情に出る。

「佐倉、おれの授業、そんなにつまんないか?」

 数学の先生は、三度目に目が合ったときに言った。

「いえ、そんなことはありません」

「……だったらいいんだけどな」

 で、授業の後半、ムズイ公式の説明になって、またやらかした。論理的な思考が苦手なんで、説明はじっくり聞かなければ全然わからない。で、つい身を乗り出したところで、まともに尾てい骨に響いた。

「……(>▲☆)!!」

 声にこそ出なかったけど、痛みはマックスで、我ながら怒った顔のようになったと自覚した。

「あのなあ佐倉、数学なんてつまんねえよ。教えてる自分でもそう思うよ。数学なんて、買い物に行った時にお釣りの計算出来りゃ十分だ。微分なんて微かに分かったでいいし、積分なんて分かった積りでいいんだ。要は数学を通じて、論理的な説明に慣れるようにすることが重要なわけ。分かるか? そうすれば将来結婚しようかなって相手に出会った時に、惚れた晴れたってこと以外に互いの所得や月々の経費、ローンの計算なんかがきちんとできるわけさ。そうすりゃ、つまらん家庭争議なんか起こさずにすむんだよ! いいか、佐倉……」

 そのお説教の最中に、悪気はないんだろうけど「だいじょうぶ?」という気持ちで、マクサがシャーペンでお尻をつついてきた。

「ウググ……!!」

「あ、ひょっとして、こんな愚痴こぼすおれのことバカにしてんだろ! いいよ、どうせお前らは、おれのこと……おれのこと……今日は、もうこれでおしまいだヽ(`Д´)ノ!!」

 八分も早く数学が終わってしまって、ちょっとクラスは騒ぎになった。「先生、昨日彼女と一悶着あったんだよ」「え、フラれたとか!?」「フラれるってことは、フッテくれる彼女がいたってことでしょ」「でも、さっきのさくらは、やっぱ変だよ……」

 マクサや恵里奈が聞いてきたのなら「うるさい、あんたたちに関係ない!」と開き直れるんだけど、由美と吉永さんというクラス一番と二番の清純真面目コンビニ聞かれたから、つい喋ってしまった。

「じつは……」

「「え、尾てい骨骨折!?」」

 クラスのみんなに知られてしまった。

 二人に悪気はない「骨折」というところにアクセント感じて共感の叫びをあげただけ。恵里奈はジョバレだけあって、尾てい骨骨折のなんたるかを知っているんだろう。こいつも悪気なく爆笑。とんだ人気者になってしまった。

 で、二時間目以降は、例の睡魔と尾てい骨の痛みが交互にやってきて地獄の一日だった。


 ゆうべ夢を見た。


 夢の中にあたしに似た女学生が出てきた。制服はスカートが長めだったけど、同じ帝都だ。

―― あなただれ……? ――

―― 佐倉桜子よ ――

―― え……? ――

―― あなたのひいばあちゃん ――

―― え、ひいばあちゃんが、どうして、そんな若い格好で……? ――

―― 実はね…… ――


 なんだか長い物語を聞かされた。

 そして、最後にとんでもないことを頼まれた。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』

2024-03-26 11:28:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』   





「あら、本職だと思ってた?」


 鏡に映った御神楽さんが巫女服の襟を直しながら意外の声。

 結婚式場の仕事に来ると、たいてい同じ神主さん、同じ巫女さんなので、巫女の御神楽さんも本職だと思っていた。

 ボスの直美さんは仕事にきっちりした人で、開式の一時間前には式場の公民館に来て待機する。むろん、助手のわたしも写真館での機材の積み込みをやって、ホンダZでいっしょに来る。

 式場に隣接するスタジオで機材や照明のチェックが終わったら控室で待機。

 控室は他のスタッフとも共用で、御神楽さんとは一緒になることが多い。

「だって、名札……」

 スタッフは館長以下全員が胸に小さな名札を付けている、わたしも直美さんも『須之内写真館』と名前の入った名札を付けている。名札を付けないのは神主さんと巫女さんぐらいのもの。

「神主や巫女が名札って、ちょっと変でしょ?」

「あぁ、それもそうですね(^_^;)」

「神主さんは本物よ。宮之森や大浜の神社の神主さんと契約してるの。そういう神社は常勤の巫女なんて置いてないしね」

「え、そうだったんですか?」

「うん、でも、神主さんもたいてい兼職してるから、いつでも来られるわけじゃないからね。巫女はバイトだけど公民館と年季契約、身分は非常勤職員なんだよ。ちょっと特別職的だから、時給は400円」

 さっき目についた給与明細をヒラヒラさせる御神楽さん。

「そうなんですねぇ、お名前も御神楽さんだから、てっきり神社関係の人だと思ってました」

「そうねえ……御神楽采女、いかにもって感じよね」

「采女(うねめ)っておっしゃるんですか?」

「あはは、ま、親が適当につけた名前。まあ、不足は無いけどねぇ……フワァ~~~( ´⚰︎` ) 」

 御神楽さんは今日何度目かのノビをしてあくびを噛み殺した。

 けしてノドチンコが見えてしまうようなことはないけど、いつも端正に座っている御神楽さんなので、ちょっと意外だ。

「いかんいかん、また襟元がぁ……」

 ササッと襟元を直すと、袴の結び目のところをポンと叩いて式場に向かった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》

2024-03-26 08:25:16 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第121話《尾てい骨骨折・1》さくら 






 今日は年に数回しかない不快な日だ。


 小学校の頃から思ってんだけど、なんで日曜と祭日の間の日って休みにならないのかなあ。

 仕事も勉強も三連休にして、明けてから集中した方が絶対効率がいい。

 先週は敬老の日のハッピーマンデーの三連休だったことと、もう一つの事情で、余計そう感じる。

 ここんとこ、由美(学級員の米井由美)と佐伯君のことで気が張っていたせいかもしれない。


 昨日は起きたら三時だった、午後の三時『わたしの日曜はどこへ行ったんだ!?』って感じ。

 それもすっきりした目覚めではなかった。なんだか頭がボーっとして、まだまだ寝たりない。

 シャワーでも浴びてすっきりしようと階段を降りたら、下から二段目で踏み外した。

 ウ……(>▲☆)

 しばらく声が出ないで、数秒たってから「アタタタ……」になった。

 尾てい骨をしたたかに打ってしまったようで、遠いご先祖がお猿さんであったことを久々に思い出す。

「何やってんのよ、こんな時間に」

 とパソコン見てたさつきネエが顔を出す。

「なによ、あれだけ寝といて、そのブチャムクレは!?」

「せっかくの休みだから寝ダメしてたの!」

「ハハ、ねだめカンタービレだ」

 古いギャグを言う。

「お姉ちゃんだって、五十歩百歩の時間に起きたんでしょうが」

「昼には起きてたわよ。どうしたオケツ打ったか?」

「ちょっちね。ご先祖がお猿さんだってこと自覚した」

「さくらはマンマだけどね。それにしても痛そうだねぇ、診たげようか?」

「けっこうです!」

「尾てい骨骨折だったら、お医者さんに診てもらわなきゃダメだよ」

「大丈夫だったら!」

 ふと、お医者さんに行ってお尻丸出しで診てもらってる様子が頭に浮かんで、どーしよぅと思ったけど、お姉ちゃんのニクソイ笑顔の前で弱みは見せられない。

 平気な顔して浴室へ。

 しだいに痛みが薄れてきたのでシャワー浴びてリフレッシュ! オーシ、残りの休日を取り戻さなきゃと思って着替えに手を伸ばす……と、パンツが無かった。寝ぼけて忘れたんだ。仕方ないんでバスタオル体に巻いて取りに行く。

 フワ

 階段の下までいくとパンツが降ってきた。

「さくら、あんた、もう高二なんだからキャラプリのおパンツなんかよしなよ」

「も-、取りに行くとこだったの!」

「タンスの前に落っことしてたのよ、あんた」

「お姉ちゃんに関係ないよ!」

 アミダラ女王とレイア姫のは、あたしのラッキーアイテムなんだ。

 スターウォーズは後から観たんだけど、メグ・キャボットの『プリンセスダイアリー』でハマってしまった。

 主人公のミアは、このおパンツでジェノヴィアの王女になったんだ。わたしも、入試はこれで合格した。リラックスしたいときや、ここ一番の勝負のときは、これに決めている。あ、勝負たって、世間がいうとこの勝負とは違うので念のため。

 部屋に戻ってパソコン起こして座ろうとしたら激痛!

「ウッ!!」

 尾てい骨を忘れていた(-△-;)。

 少し前かがみで座ると……痛みがない。その姿勢で『尾てい骨骨折』を検索。自然治癒を待つ以外に手が無いことを知り、安心したり落胆したり。

「そんな姿勢で見てると目ぇわるくするよ。お医者さんに……」

「自然治癒しか手が無いの!」

「アハハ、明日から学校どうするつもりよ。タチッパで授業受けるわけにいかないでしょ……」

 そうだ、学校で、こんなみっともない姿勢で座っているわけにはいかない。しばし研究の結果、座るときに気を付けることや、座っているときは左右どちらかに重心を寄せればヘッチャラということに気づく。

 でも、慣れて忘れたころに姿勢を戻すと、また「ウッ!!」ということになる。

 で、夕べは安静第一と、9時にはベッドに入った。

 で、延べ10時間近く寝たというのに、まだ眠い。

 駅の招き猫に『大丈夫かニャ?』と見送られて電車に乗ったら、奇跡的に目の前のシートが空いていた……が、座るわにわいかない。すると、なんという偶然、四ノ宮クンが横にやってきて、わたしが座る意思が無いとみて、さっさと座ってしまった。

「あ、やっぱさくらだ。良かった、おれ?」

「あ、いいですよ。今日から健康のために車内では立つことにしたんです」

「ふうん、でも、ホームで何回もアクビしてたけど、徹夜で勉強?」

「あ、まあ、そんなとこです」

 本当のことなんか言えない。

 こうして、あたしの『ねだめカンタービレ』が始まった。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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やくもあやかし物語2・038『廃墟と少彦名』

2024-03-25 11:40:18 | カントリーロード
くもやかし物語 2
038『廃墟と少彦名』 




 あ……


 御息所が戸惑いの声をあげて視界が開けた。

 いつもだったら『ええっ!?』とか『ギョエー!?』とか品のない声を上げる御息所なんだけど『あ……』と上品な声。

 そう、今の御息所は交換手さんのスピーカーというかインタフェイスを兼ねているからね。今の上品な『あ……』は交換手さんの声なんだ。

 わたしもデラシネも「え?」と思ったよ。

 1941って番号を回したから、とうぜん1941年に飛んだんだと思ったよ。


 着いたところは、なんか、大きな工場の廃墟だ。

 昔は五階建てぐらいだったんだろうけど、所どころ床が抜けていて、最上階の屋根まで見通せる。壁もいたるところ抜けたり欠けたり、床はボロボロのコンクリートで、機械が据え付けてあったんだろう、土台が剥き出し。瓦礫やら草やらコケやらカビみたいなのも生えていて、ゾンビ映画とかのロケにはいいけど、思念だけとは言え地球の裏側からわざわざ見に来るものじゃないよ。

『す、すみません、なにか手違いのようです(;'∀')』

 めずらしく交換手さんが狼狽えている。


「申しわけない、交換手」


 声がして振り返ると、壁の崩れたところにミノムシみたいなのが立っている。

『あ、少彦名さん!』

 ミノムシはすくなひこなというらしい。

『少彦名と言えば、大国主の国造りスタッフ。それがどうして? ちょっと体つきも大きすぎるし! あんた、ほんとうに少彦名!?』

 御息所が自分の声で責め立てる。

「ああ、あんたは、ただのスピーカーじゃないみたいだなぁ」

『六条御息所よ、本来は東宮妃だからね、感謝しなさいよ』
『あとは、わたしがやりますから(^_^;)』
『そう、じゃあ、よろしくね。わたしはもう出てこないから!』
『はい、すみみません』

「説明してよ、わけ分からんからぁ!」

「まあまあ(^_^;)」

 デラシネが切れかかって、なだめるわたし。

『少彦名さんは樺太神社の神さまだったんです。樺太神社はもうありませんけど、日本にはまだ樺太に住んでおられた方もいらっしゃいますし、訪れる日本の方々もいるので、現地の案内人として残っておられるんです』

「本来は親指ほどの背丈しかないんだけどな、樺太は草深い、見失われては困るんで、このサイズで出てくるんだ」

 元のサイズだったら御息所とも仲良くなれたかもしれないかなぁ。

「で、ここはいったい何なの? こんなもの見せるために、ここまで連れてきたの!?」

「まあ、話を聞こうよデラシネ」

「すまんなあ、今のロシアは、ちょっとごたついていてなあ。いつものように昔へ飛ぶことができないんだ。あ、ここは真岡にあった製糸工場の跡でなぁ、コンタクトしやすいんで、こっちに来てもらったんだ」

『ええと、昔の真岡や樺太を偲ぶところはないんでしょうか?』

「希望通りのところは無理だろうが、あんたの頼みだ。ちょっと考えてみよう」

『すみません、お手数をかけます』

「なあに、わざわざヤマセンブルグから来たんだ、歓迎はするよ」

 グゥ~~~~

「お、なんだ腹が減ってるのか?」

「あ、お昼食べる前にこっちにきたからかなぁ、思念体でもお腹が空くんだね(#^_^#)」

「そうか、二人とも思念体なんだ。それならもてなしようもあるというもんだ」

「え、なんか食べさせてくれるのかぁ!?」

「え、デラシネってリアルにご飯食べるの?」

 いつもは食堂で食べるフリだけしている。

「うん、じつは、どっちでも……というか、思念体ならリアルには食べられないだろう?」

「まかせておけ、これでも元は樺太の一の宮、それくらいは造作もない。行くぞ!」

 少彦名がクルっと回って風が起こったかと思うと、辺りが真っ白になったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》

2024-03-25 07:30:18 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第120話《牛乳が切れてまねき猫》釈迦堂一葉(由紀子) 





「牛乳きれてるよぉ」


 亭主が平板な声で言った。若いころは落ち着いたバリトンに惚れたものだけど、今はただの鈍いオヤジにしか見えない。

「さつきじゃないのぉ? スコットランド人を助けたとかなんとか言いながら冷蔵庫開けてたから」

 今日は日曜だ……けれど、亭主は図書館勤務なので仕事がある。今からコンビニに買いに行っては出勤に間に合わない……こともないんだけど面倒だ。

「……インスタントコーヒーにしとくか」

「ペットボトルのがあったわよぉ……」

「……ないぞぉ」

「ええ、ペットボトルのも空なの?」

「さくらだなぁ、昨夜は遅くまで本読んでたみたいだからなあ」

 あいかわらず平板な声でそう言うと自分でスクランブルエッグを作り始めた。やや脂肪肝なので油を控えてレンジでスクランブルエッグを作っている。   
 なるほど、これなら油使わずにすむけど、あとでしこたまマヨネーズを入れたら同じことだと思う。だけど、男のこういうこだわりにはチャチャを入れない方がいいのは30年も夫婦やってれば分かる。
 
「行ってきまーす」

 鉋くずのような平板声で亭主は出勤。娘たちは昼近くまで寝てるだろうから、ここからはわたしだけの時間。

 あんまり……ほとんど売れていないけど、これでも作家の端くれ。来月末までと期限を切られた短編のプロットを考える。洗濯はそれから、娘二人の目覚まし代わりにかけてやればいい。


 今日は宮沢賢治の命日……それだけで、いい話が……浮かんでこない。


 だいたい、この作家の大先輩の命日も、朝一番に見た新聞のコラムから。

 アイデアが浮かばないときは、やたらに他のことがしたくなる。たっぷりの牛乳が入ったカフェオレが飲みたくなる。で、先ほどの亭主の牛乳のことなど、すっか忘れて、お財布掴んで駅前のコンビニを目指す。

 そのコンビニの前で運命に出会ってしまった。

 直観で、ジョバンニだと分かってしまった!

 チノパンにカーキグリーンのシャツ。髪は自然な褐色で、憂いを湛えた横顔は、まさにジョバンニ。こんな朝っぱらから銀河のお祭りに行くわけでもないだろうけど、なんだか気になってあとを着けてしまう。

 ジョバンニは、路線図を見て切符を買った。豪徳寺に来て間もない子なんだろうか、不慣れな様子がとても初々しい。

 どうしようか……と思ったら、駅のまねき猫と目が合ってしまう。

――いまなら間に合う――

 そう言って、つんつん上げた手でホームへのエスカレーターを指し示す。

 それで、ついスイカを使って改札をくぐってしまう。

 で、けっきょく渋谷まで付いてきてしまった。

 まだ渋谷は9時をまわったところで、渋谷としては一番閑散とした時間だ。ジョバンニはぐるっと駅前を見渡すとハチ公の近くに寄った。

 わたしの中で妄想が膨らむ。

 これはカムパネルラと待ち合わせているに違いない。

 こういう追跡観察は、程よく距離を取って付かず離れずが大事だ。わたしは視野の端でジョバンニを捉えてカムパネルラが現れるのを待った。

 5分ほどして……現れた!

 男の子ではなかったけど、サロペットが良く似合う女の子だ。

 わたしは年甲斐もなく完全に銀河鉄道の世界に入り込んでしまった。

 そこに、洗いざらしのシャツのオッサンが二人に近寄って、一言二言。すると、とたんに二人はジョバンニでもカムパネルラでもない、ただの若者になってしまった。

 そして、なぜかか、わたしに近寄ってきた。

「すみません、僕たちテレビの撮影なんです。まわりの人たちに意識されないように、遠くから撮ってるんですけど、オバサン、豪徳寺からずっと付いてこられたでしょ。すみませんけど、被っちゃうんで、ご遠慮願えませんか」

「え、テレビの撮影!?」

「はい、こういうの撮ってます」

 オッサンは、丸めた台本を見せた。『渋谷銀河鉄道』と書かれ、銀河放送のロゴが入っていた。

「どうもすみませんでした。良い雰囲気の子だったんで、つい……あ、わたし、こういうものです」

 普段めったに使わない名刺を出した。

「あ、作家の釈迦堂一葉さんだったんですか。おーいみんな、こっちこっち!」

 二人の役者さんの他にもカメラマンや音声さんなどが集まってきた。で、5分ほど立ち話して別れた。

「あーあ、なんだテレビの撮影だったのか」

 独り言ちて一瞬空を見上げ、視線を戻すと、撮影班の姿はどこにもなかった。全部で10人近くいた人たちが忽然といなくなった。


 え、ええ……?


 冷静に考えたら銀河放送なんて聞いたこともない。

 念のためスマホで検索。

 やはり出てこない。

 だいいちあたしのことを作家だと知っている人などほとんどいないのに、あの撮影班は、わたしの作品をかなり読んでいる形跡があった。

 まあ、牛乳が切れていたからおこった奇跡だと、思えるほどの大人子どもなわたしです。

 そうだ、お洗濯しなくっちゃ! 

 急いで豪徳寺に戻る。

 改札を出てまねき猫、微妙に目をそらせたような気がした。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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鳴かぬなら 信長転生記 172『赤壁の織部と武蔵』

2024-03-24 13:10:56 | ノベル2
ら 信長転生記
172『赤壁の織部と武蔵』織部 




「外していいか?」


 労務者用の出店から買ってきた弁当を見せると、前を向いたまま武蔵が訊ねる。この赤壁の築堤工事は規模が大きく珍しくもあるので、旅行者や近在の者たちが少なからず見物に来ていて、我々も大っぴらに偵察することができる。

「ああ、いいよ。ほら、弁当食べて一息入れたら帰るとしよう」

「よいしょっと……」

 カラコンを外すのに「よいしょ」は大げさなんだが、武蔵には随分なストレスなんだ。

 学院に転生してきた者はいずれもすこぶる付の美少女なんだが、武蔵は、ちょっと例外。

 双眼が鋭すぎる。三白眼だし。

 それで、三国志の偵察に当って、人前に出る時はカラコンをさせている。

 カラコンをした顔は鏡にでも映さなければ自分では見えないのだが、最初に着けた時の衝撃が大きく、今では装着しただけで人格が変わる。

「まずは弁当を食べよう、工事関係者用の弁当だけど、さすがは江南、おいしいよ」

「おお、二段重ねか」

「武蔵の二刀流にも通じておもしろいじゃん」

「うん、大刀を振りかぶった後に小太刀が見事に切り上げてくるようで小気味いい」

「盛り付けにさえ気を配れば夏場の茶会に使っても面白いかもね」

「織部はなんでも茶の湯にするんだな」

「ハハ、利休パイセンほどじゃないけどね。カタチのいいもの、美しいものが好きなだけさ」

 ピ~~ヒャララ タタタンタン♪

「……楽団が来ているのか?」

 ほとんど市になりかけている出店群から陽気な笛や鼓の音がする。

「ああ、売り切れの店が景気づけにやってるんだな」

 手すさびの楽団は、時どき笛の音が跳んでしまうが、昼時のBGMには申し分ない。

「三国志のカタチは見定められたのか?」

「見るべきものは見た。折々に紙飛行機で報告もしたしな。それをもとにどう判断し行動するかは学院と学園の生徒会。信玄や謙信パイセンの仕事だよ」

「さっきの書籍範と曹操の会話はどう見る?」

 剣聖らしく、構わずに切り込んでくる。

「文字通りなら、曹操が平和主義と互恵の精神に目覚めて長江の治水工事をかって出たというところだろうね」

「そうだなぁ……この武蔵にも文字通りに見える。あれは、勝負に片が付いて刀を収める。いや、収め終わった時の顔だ。だとしたら、曹操の性根は共存共栄の平和主義になる」

「ああ、堤防も魏の方を低くしている。使っているのは呉の兵士と労務者がほとんどだ」

 ドドドド ガガガガガ カーンカーン ブルルルルー

 午前の作業終了の太鼓はとっくに鳴っているのだが、兵士や労務者の半分は作業を続けている。作業が強制されたものではなく、自分たちの仕事だと自覚しているからなんだ。

 戦国大名は、人を能動的に働かせる術に長けていた。ちょっと懐かしい風景ではある。

「遅れた者たちの弁当はどうなってる?」

「いろいろだ、当番を決めて確保している組もあるし、節約して賄いで済ませている者もいる」

「統一はしてないんだな」

「競わせて選択肢を増やしている。安くて美味いものを作れる奴は、その才覚で儲けられる仕組みだ」

「なるほど……」

「手抜きや仕掛けはやりにくいだろう」

「無いだろう、手抜きや仕掛けをすれば色が濁る」

「孔明が豊盃寺の三蔵法師を訪ねている。あれは、どう見る」

「三蔵法師を見極めに来たんだろうなぁ、あの大説法会や大行進、本者か一発屋のまがい者か。玉門関からこっちを見てもあの三人はよくやっている。三蔵法師も一言主が成りきっているし危なげが無い」

「そうだな、ここに至るまで俺たちの出番は無かったしな」

「報告も一通り済ませたし、弁当を食べたら帰還の連絡だけやって帰ることにしよう……って、もう食べたのか!?」

「織部が遅すぎる」

「待ってくれ」

「ゆっくり食べろ。俺も、ちょっと様子を見てくる」

 そう言うと再びカラコンを装着して土手を駆け下り、出店が並んでいる方に走っていく。

 なにやら俄か楽団に話したかと思うと、豊盃でも聞いた陽気な曲が流れ、人の輪ができたかと思うと、その真ん中で武蔵が踊り出した。

 そのあと相談して、武蔵はもうしばらく三国志に残ることにした。

 わたしは、連絡の紙飛行機を飛ばすと、街道に戻って扶桑への帰路についた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》

2024-03-24 07:08:12 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第119話《かまってられるか!》さつき 





 かまってられるか!


 正直な気持ちだった。

 けれど、トムと最後に会ったのはあたしだ。

 佐倉さつきの聖地である山下公園で、焼き芋食べながら一発かましたクサイやつ! 
 なんだけど、その何倍もトムの性格の弱さをえぐってしまった。高坂先生も直々に電話されてきたことだし捨て置くこともできず、あたしは当たりをつけた。

 イギリス大使館の前……ビンゴだった!

 イギリス大使館は皇居の半蔵門から千鳥が淵公園沿いの一番町。名前からして高級な広大な敷地に建っている。高い建物は無く煙突のついた建物やテニスコートが並んで、アメリカ大使館や二番町のイスラエル大使館などのように厳しい警備や重苦しい雰囲気は無い。  

 その閑静な大使館前にグデングデンになったトムが居た。

「あ、あなた知合いですか。じゃ、あとよろしくお願いします(^_^;)」

 大使館前で、警備に当たっていたお巡りさんが渡りに船とばかり、あたしに押し付けてきた。

「あの、あなたの国の分裂寸前だったスコットランドの若者なんですけど、しばらくロビーの片隅にでも休ませてやっていただけませんか!?」

 ダメ元で、門の向こうのイギリス人職員に怒鳴ってみた。

 すると、その中年のイギリスのオッサンが、門を開けて出てきてくれた。

「彼の身元は自主的に見せてくれた留学ビザで分かっています。昨日から何人もスコットランドを含む我が国民がいたので、とうに引き上げてくれたと思ったんですけどね……」

 オッサンは、あたしに押し付けたそうに語尾を濁しながら、あたしの目をうかがった。

「第一義的にはイギリスの一部であることが確認されたばかりのスコットランド人なんです。大学にも連絡して引き取ってもらえるようにします。それまでの間でいいんです。もし拒否されるようなら、イギリスは心神耗弱なスコットランドの若者を路上に放置したって、直ちにFacebookに写真付きで投稿しますけど。拡散希望で!」

「オオ、もちろんですよ。スコットランド人は我が国民です。酔いがさめるまでお休みになってください」

 イギリス大使館、苦悩のスコットランド青年を保護する!

 キャプション付けて、Facebookに投稿した。むろんかいがいしくトムを介抱するオッサンとトムのツ-ショット付で。

 控室みたいなとこで休ませてくれた。その間にあたしは高坂先生に電話。先生は30分ほどでやってきてくれた。トムは半分ほどしか覚めてなかったけど、オッサンが手伝ってくれて、なんとか先生のセダンに乗せた。

「大使館のセキュリティーは甘かっただろう」

「はい、ボディーチェックとか無かったでしたし」

「実は、ああ見えて最新式のセキュリティーでね、入館者は全て特殊なカメラでチェックされてるんだ」

「え、どんな?」

 バイトの取材者意識丸出しで、あたしは聞いた。

「三方向にカメラがあって、それが入館者の服を透かして3Dの映像で見えるようにしてあるんだ。ほら、これが駐仏大使館の映像」

 先生は運転しながらパッドを見せてくれた。十秒ほどの動画だったけど、スッポンポンのオジサンやオネーサンが歩いているのがはっきり写っていた。ちゃんとブラやパンツの食い込んだとこまで写ってる!

「こ、これって、プライバシーの侵害じゃないですか(;'∀')!?」

「まあ、これだけテロがあると仕方ないね。それ、右にスライドしてごらん……」

「ギョエ( ゚Д゚)!」

 なんと、人の姿が骸骨になった!

「早すぎるんだ。もうちょっとゆっくりやると内臓が分かる。最近の自爆テロは体の中に爆弾入れてるやつもいるからね」

 ゆっくり戻すと内臓に、さらに戻すと下着姿になった。

「こんな恥ずかしいもの撮られてたんですか!?」

 イギリスはジェームスボンドの国だ、これくらいのことはやりかねない。すると先生は大笑いした。

「ワッハッハ(ᵔᗜᵔ*) 、それはエープリルフールの日にBBCが流したイタズラだよ。教材のためにとっておいたんだ」

 なるほど、わがゼミのテーマは『ユーモアの力』であった……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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勇者乙の天路歴程 010『草原(くさっぱら)を行く』

2024-03-23 14:15:17 | 自己紹介
勇者路歴程

010『草原(くさっぱら)を行く』 




「ビクニが来てくれて正解だったよ」

「でしょ」


 これだけで通じた。


 歩けども歩けども草原。これが北海道あたりの草原なら趣もあるんだろうが、ただの草原。

 ちなみにルビを振るとしたら「くさはら」で、けして「そうげん」ではない。

「ですよね、安達ケ原とか曽我兄弟が仇討ちをやった富士の草原(くさっぱら)のイメージですね」

 八百比丘尼だけあって、例えが古い。

「新しいことも言えますよぉ」

「ほう、どんな?」

「安出来のオープンワールドゲーム。アンリアルエンジンとか使って高精細なんだけど、どこまで行っても同じ原っぱ」

「あはは、あるねえ、某無双ゲームとか」

「おまけに、ここは見通しがきかないから、うっかりしていると同じところに戻って来てしまいます。砂漠や吹雪の中を歩いていると、人が通った跡を見つけて、それが自分の足跡だったみたいな」

「ああ、輪形彷徨癖現象だねえ」

「ええ、人間は右と左では微妙に足の長さが違うんで、起こる現象ですね」

「そうだねぇ、人生もそうだ、グルッと周って同じところに戻ってきたりする」

「ふふ、先生、最後の勤務校が自分が卒業した学校でしたものね」

「ははは、最後は教え子の校長に見送られてしまった」

「歴史もそうです、グルグル回って、ここはいつか来た道」

「どこかで聞いた言い回しだねぇ」

「ふふ、軍靴の音が聞こえるとかね……そんな次元の低いことじゃなくて……いえいえ、旅はまだ始まったばかりですから」

「ビクニは、ほんとうに800年生きてきたの?」

「あ、八百屋とか八百万の神々とかといっしょです」

「そうか、いっぱい生きてきたということの言い換えなんだね」

「先生は、幾つの歳から記憶がありますかぁ?」

「そうだねえ……皇太子殿下の、ああ、いまの上皇陛下の結婚式パレードはテレビで見てた」

「え、お金持ちだったんですね。昭和34年ですよ」

「いやいや、隣の家で見せてもらったんだよ」

「あ、そうなんだ」

「うちにテレビが来たのは、その二年ぐらい後かなぁ……あ、親父にタカイタカイしてもらったの憶えてる」

「いいお父様だったんですね」

「いやいや、大正14年生まれなのに、戦争にも行ってないんだ」

「……お体、悪かったんですか?」

「うん、背が低くって、よく病気をしていたなあ……自分じゃ言わなかったけど、親父は、おそらくは丙種だね」

 丙種、説明しなきゃと思ったら通じた。

「大正14年生まれなら、昭和19年の兵役検査でしょうか……でも、よかったですね」

「そうだね、親父が戦争にとられてたら、きっと、わたしは生まれてないよ。まあ、そんな小さくて病弱な親父がタカイタカイをしてくれたんだ。おそらくは三つになったかどうか」

「かわいい坊ちゃんだったんでしょうね(^○^)」

「坊ちゃんかぁ、いまは、あまり言わないね」

「ふふ、八百年ですから」

「そうだね、ボクよりうんとお姉さんだ」

「わたしもね、あまり昔の記憶は無いんですよ」

「昔って、きみの基準じゃどれくらいになるんだろう」

「じつは、気が付いたらタカムスビノカミさまのところに居たんです」

「そうかぁ、きっと、ひどく辛い目に遭ったんだろうねぇ……」

「一言だけ覚えてます……」

「どんな?」

「わたしたちが不甲斐ないばかりに、迷惑かけるわね……そんなことをおっしゃいました」

「ふふ、そうなんだ……」


 もうすこし話を継ごうかと思ったら、唐突、目の前に森が現れた。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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