大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巷説志忠屋繁盛記・22『ウィルス感染!』

2020-01-31 15:28:07 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・22
『ウィルス感染!』     

 

 

 いるんよねえ、こういう人て!

 

 そう言うと、トコはカウンターに四つ折りのままの新聞を投げ出した。あおりを受けた紙ナプキンの束が翻る。

 トコの視界の外でカウンターの整理をしていたチーフは『ア』と叫んだが、声には出さない。こういう時のトコは無敵だからだ。

「そやけど、検査受けるのは任意やからな」

 チーフの災難に気づいていながら滝さんが返す。

「そやかて、武漢肺炎ですよ、うつるんですよ! 国のチャーター機で戻って来たんやから検査受けるのは義務でしょ!?」

 トコは、新聞で中国のコロナウイルスの記事を読んで憤慨しているのだ。自身が理学療法やら老人介護のエキスパートなので、こういう医療関係者の指示に従わない人間には憤りを感じるのだ。

「ほら、指定感染症にもなってるやないですかあヽ(`Д´)ノ! 強制隔離かてできるんですよ!」

 また新聞を取り上げる。チーフは畳んだ紙ナプキンを手で押さえた。

「閣議決定はしたけど、施行されるのは二月七日からや」

「えーー、なんで、そんなトロクサイことを! どんどん罹患者は増えてるんですよ! もう、これやから安倍政治はあかんねん!」

「そら、安倍さん可哀そうやで、法律でそないなっとる。日本は法治国家やからな」

「そのホウチて、こっちの放置とちゃいます!」

 チーフのナプキンをふんだくって、乱暴に書きなぐった。

「ほな、なんで中国人の入国とめへんねん。フィリピンなんか送り返しとるで」

「それは……」

「それにな、新聞は情報が古い。半日も前の事はニュースの価値ない……」

 滝さんは器用にタブレットを操作して最新情報を探った。

「おう、指定感染症の施行は二月一日に前倒しになったなあ……特例措置やなあ……検査拒否してた人も検査に同意したらしいぞ」

「ほんまあ?」

「ああ、ほんまや。何を隠そう、さっき安倍君に言うたったとこからなあ」

「あ、安倍君!?」

「せや、安倍は学年は一個下やからなあ、ガハハハハ( ̄∇ ̄)」

 

 その時、自動ドアが開いてトモちゃんが帰ってきた。

 

「いやあ、走り回ったわあ(^_^;)、はい、やっとマスク手に入った」

「おう、ご苦労さん」

「はい、滝さんもチーフも、外出る時はマスクしてくださいね」

「いや、こんなんせんでも、オレは不死身やねんぞ」

「不死身なんは重々知ってます」

「ほな、なんで?」

「世間の人にバカをうつさないためです!」

 

 滝さんは二の句が無かった。

 トコは手遅れだと思った。だって、志忠屋に出入りする者は何年も前から滝さん菌に感染してるから。

 

 チャンチャン(⌒▽⌒)アハハ!

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巷説志忠屋繁盛記・21『13人の予約・2』

2020-01-29 08:39:20 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・21
『13人の予約・2』     

 

 

 夕べの客は大変だった。

 

 そう、あの十三人の団体さんだ。

 幹事は湯田という感じのいいおっさん。

 十三と湯田(ユダ)で分かると思うのだが、あれはキリストと十二人の弟子たちだ。

 数年に一回、ユダが予約を入れて志忠屋で飲み明かす。

 欧米人は十三人で飲み食いするのを不吉に思う。滝さんは気を利かして開いている席に人形を置いた。人形を置くことで13の不吉から逃れることが出来るからだ。

「いや、それはいいですよ」

 キリストも弟子たちも微笑みながら人形を断る。これだけは十三人の意見が一致する。

 

 滝さんを入れたら十四人ですから。

 

 湯田さんなどは、滝さんの耳元で小さく、しかしハッキリと礼を言う。

 こいつら、また、俺に仲裁させるつもりやなあ……。

 思っていても、滝さんは口に出さない。

 せっせと料理を作ってはテーブルに並べ、古今東西の酒をふるまってやる。早いとこ酔い潰すのに限るからだ。

 宴たけなわの手前くらいでヨハネが口を開いた。

 ヨハネは弟子たちの中で最年少。いつもは先輩弟子たちの話をニコニコと聞いている気のいい若者で、キリストや兄弟子たちの一挙手一投足を尊敬と憧れの目で見ている。

 ただ、若さゆえに言葉が足りないところがある。だからこそ、宴の席では寡黙でいるのだが、この日は口を滑らせた。

「マグダラのマリアさんは、主を愛していらっしゃいます」

 ここまでにしておけば罪はなかったのだが、一番弟子のペトロが最年少のヨハネに花を持たせてやろうと思った。

「主と交わった人々は皆、主のとりこになる。しかし、それだけでは言葉が寂しい、もう少しマグダラのマリアさんの愛の思いを描写してごらん」

 青年の憧れや思いを寿いでやろうと、キリストも弟子たちも暖かい眼差しをヨハネに向ける。

 麗しい心配り……なんだけど、ちょっと危ういと滝さんは思う。

 ヨハネは続けた。

「マグダラのマリアさんは愛しておられました。だから、ベタニヤのシモンの家で食事をなさっていたとき香油の油を主の頭に垂らしたのです」

「そうだね、マリアは若さゆえに主に接した喜びを表す言葉を持たなかった。だから、歓喜の衝動のままに香油をね……そして、すぐさま、その長く麗しい黒髪で手のお体を拭ったのだよ。ユダなどは目を三角にして起こったけど、主は承知しておられたのだよ、だからこそ、マリアがなすままにされておられた」

「そうです、主もマリアさんを寿ぎ……いえ、主もマリアさんを愛しておられたのです。二無きものと愛しく思われていたのです」

「二無き者とは?」

 ユダが身を乗り出した。

「主よ、マリアさんと付き合ってやってください!」

「付き合っているではないか、マリアはわたしの敬虔な信徒だよ」

「いえ、そういうことではなく。ぜひ、恋人に、嫁にしてあげてください!」

 

 滝さんは、ちょっとヤバいと思って割って入った。

 

 いつものように滝さんの割り込みで事なきを得たが、滝さんは、ちょっと後悔している。

 また牧師から勧誘されそう……。

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巷説志忠屋繁盛記・20『13人の予約』

2020-01-28 06:55:36 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・20
『13人の予約』     
 
 
 
 
 マスターは外国人の友だちや知り合いが多い。
 
 国別で言うとフランスが多いが、アメリカや韓国の他十か国余りになる。
 
 そのくせ自分は外国に行ったことが無い。
 
「ひょっとして、パスポートを取得できない理由があるのかい?」
 馴染みのフランス人が、客が居なくなるのを見計らってカウンター越しに聞いたことがある。
「ヤバイパスポートやったら持ってんねんけどね、(ΦωΦ)ふふふ・・・・」
 とケムに巻いた。
 
 そのケムが本当ではないかと思ってしまうことがある。
 
 めずらしく客ハケの早かったランチタイム。
 トモちゃんが早手回しにカウンターとテーブルの拭き掃除にかかろうとすると、お客さんが入って来た。
 
「いらっしゃいま……」まで言うと。
「えと、ディナータイムの予約に来ました」にこやかに返答が返って来た。
「マスター」と首を振ると、それまで居眠りしていたマスターがガバっと顔を上げる。
「お、これは湯田さん、めっちゃお久しぶりで」
 そこから湯田さんというお客さんはペラペラと外国語で喋り出した。
 
――え?――
 
 トモちゃんは英語とフランス語が喋れて、聞いて凡その意味が分かる程度ならドイツ語・韓国語・北京語もOKだ。
 他の言語も、意味は分からずとも、ああ~語で喋ってるんだ。ということは分かる。
 ところが湯田さんの言葉は分からない。
 自分には日本語で話しかけてきたので日本人と決めてかかっていたが、その横顔を見ると、小柄ではあるが欧米系だ。
 だが、その発する言語は聞いたことが無い。
「そうでっか……湯田さんも苦労しまんなあ」
 マスターは、もろ河内訛の日本語で会話が成立している。
「……OK、ま、あのお方も来られることやったら大丈夫でっしゃろ、ほな、今夜19時から十三名様でリザーブさせてもらいます」
 湯田さんは、嬉しそうに頷くと「お邪魔しました」とトモちゃんにも笑顔を振りまいて帰って行った。
「十三人も来られるんだったら、ヘルプで入りましょうか?」
「ありがとう、でも、オレ一人で間に合うから、トモちゃんは定時でええよ。今夜ははるかも帰ってくる日やろし。食材の買い出しだけ頼めるかなあ」
「はい、もちろん」
 買い出しをしながらもトモちゃんは不思議だった、あの言語は何だったんだろう?
 こだわる性質ではないので、買い出しの帰りには気にしなくなった。
「はるかが帰ってくるんだ、わたしもオデンの仕込みしなくちゃね」
 トモちゃんは娘の好物のオデンの材料も併せて買った。
 はるかは慣れない大阪で文句も言わずに適応してくれたが、ことオデンのレシピにだけは関東風こだわった。
 関東風はちくわぶを使うこととスジ肉の使い方が違う。厳密には、それに合わせて出汁も違うのだが、今夜の出汁は、マスターが前もって用意してくれている。東京と大阪の二重生活をしているはるかには、こういうことが憩いになるだろうと力が入るのだ。
 さすがに十三人分の仕込みは大変そう、チーフも法事で休みなので、トモちゃんは仕込みだけ手伝うことにした。
 
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巷説志忠屋繁盛記・19『アイドルタイムはアイドルタイム・5』

2020-01-27 05:52:18 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・19
 『アイドルタイムはアイドルタイム・5』  
 
 
 マスターの喜怒哀楽の半分は演技である。
 
 子どものころから心がけていて、生の感情は見せないようにしている。
 
 生の感情をむき出しにしたとき、かならずトラブルがおこるからだ。
 捨てられていた子犬がめっぽう可愛くて抱きしめているうちに心肺停止状態にしてしまったり、煽りをかけてきた車にブチ切れて、車を降りて相手のフロントガラスを軽くたたいただけで粉みじんにしてしまったり、愛おしさのあまり彼女を抱きしめ肋骨を折ったりした。
 
 子犬を仮死状態にしてしまった時など、最初に見つけた幼なじみの百合子に鬼畜のようになじられた。
 いっしょに居た酒屋の秀が「おばあに頼もや」と提案、おばあとは町内で古くからオガミヤをやっているヨシ婆で、子犬を連れて行くと「このバカタレが!」と一括した後、見事に子犬を蘇生させた。それ以来、なにかにつけて生の感情を爆発させないようにしている。ヨシ婆は向かうところ敵なしのマスターにとって数少ない鬼門筋になった。
 
 だから、このロケでの驚きを制御するのは並大抵ではなかった。
 
「マスター……やっぱ怒ってる……?」
 中川女史が恐る恐る声を上げた時は、撮影が中断してしまった。
 マスターの驚きオーラが強すぎて、人には静かに激怒しているように見えるのだ。
「な、なにかありましたか!?」
 ロケ現場の異様な空気に交番の秋元巡査まで飛び出してきて、マスターの大魔神のような顔に思わず拳銃のホルスターに手を掛けたほどだ。
「みなさん、滝川浩一はただただ驚いているだけです! 秋元はん、拳銃は抜かんように!」
 長年の付き合いの大橋が出てきて、真実を叫ぶまで呪縛は解けなかった。
 
「え……あ……いや、さっき夢子やってたんもお母ちゃんやってたんも上野百合さんなんでっか!!??」
 
「え、あ、は、はい……」
 身体を張って百合の縦になったチーフADの陰から小動物のように百合は応えた。
 
 な、なんちゅうーーーこっちゃーーーーー!!
 
 マスターの雄たけびで半径五十メートルの建物のガラスにヒビが入った。
「百合さんは、うちのはるかが居た乃木坂学院高校の先生だったんですよ。分けあって退職されてからは女優に転身されたと聞いていましたけど……いや、こんなに演技幅の広い女優さんだとは思いませんでした! 夢子の時は完全にハイティーンでしたもの!」
「え、え、じゃ、坂東はるかさんのお母さんでしたの……?」
「はい、はるかの母でございます。『春の足音』でははるかがお世話になりまして」
「いえ、あ、その節はこちらこそなんですけど……てっきりアルバイトの女子大生くらいにお見受けしておりました」
 これには志忠屋の一同も驚いた。
 毎日接しているから分からなくなっているが、トモちゃんは、とても二十歳の娘の母親には見えなかったのだった。
 
 ロケは、協議の結果、月に二回のペースで行われることになった。
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巷説志忠屋繁盛記・18『アイドルタイムはアイドルタイム・4』

2020-01-26 06:01:07 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・18
 『アイドルタイムはアイドルタイム・4』  
 
 
 ……にしては若すぎる。
 
 トモちゃんの確信は揺らいだ。
 
 ロケの最初は、上野百合演ずる夢子が学校から直で夢中屋に帰ってくるところだ。
 地下鉄の階段を駆け上がり、交番の角を曲がって店に突撃してくる。
「ごっめーん! ホームルーム長引いちゃって!」
 言いながら上着を脱いで通学カバンといっしょに壁のフックに掛かっているエプロンと交換して、チャッチャと着替えている。
「……え、あ、それもあったんだけどね。ま、この時期の高校生っていろいろとね。今日のランチは……(ボードのランチメニューを睨む)トルコライスのボローニャ風。お父さん得意の国籍不明ランチだね……ううん、文句はないけど、お皿が増えるのがね……いえいえ、よっろこんでいたします!」
 
 店の手伝いのため早く帰って来た夢子がプータレながら手伝いをするというシーンだ。
 狭い店なので、最低人数のキャストとスタッフしか入っていない。
 
「相手役の役者さんて、お父さん役の人だけですか?」
 ロケバス横がスタッフの控え場になっていて、そこのモニターを見ながらトモちゃんが指摘する。
「狭いから別撮りすんねんやろ」
「それもあるんですけどね……」
「すんまへんな、狭うて……」
「あ、いやいや、ちょっと仕掛けがあったりしましてね(^_^;)」
 中川女史が額の汗を拭く。
 
「カットー!」
 
 カメリハとランスルーを一発で済ませると、スタッフが照明やら音声のセッティングのやり変えに動き回り、監督は百合とお父さん役の役者に身振りを交えて説明を始める。
「了解しました、じゃ、着替えますね」
 百合は、さっき挨拶に来た時とは違う真剣さで受け答え。そのクールな姿にマスターの目尻が下がる。
「孫ほど年下の女性にときめいたらあきまへんで」
 チーフが突っ込む。
「じゃかましい、ええもんはええんじゃ」
「思うだけにしといてくださいね」
「手ぇワキワキさせたら、やらしいでっせ!」
「ほぐしてるだけじゃ」
「目つきがやらしいー」
「そっちが偏見の目でみるからじゃろがー」
 志忠屋のメンバーで盛り上がっているうちに、ロケバスからお母さん役の女優さんが下りてきた。
 
「……じゃ、本番いきまーす!」
 
 さっきよりも簡単にテストもリハーサルも終わって本番になった。
「え、掃除当番とか言ってなかったっけ?」
 なるほど、お母さんの台詞は先ほどの夢子の台詞と噛みあうように発せられる。
 別撮りにしてはめ込むようだ。
 だが、いくら狭い店とは言え、夢子といっしょに撮ればいいのにと志忠屋の三人は思う。
――お母ちゃんもええけど、やっぱり夢子役の百合がええなあ――と、マスターは思う。
 
「カットー!」
 
 監督の一言で本番の緊張が緩む。とたんに役者のオーラが役のそれから役者個人のものに変わる。
「お疲れさまでしたー」
 キャスト・スタッフに声を掛けながらお母さん役が出てきた。トモちゃんは再びハッとした。
「あ、あ、貴崎先生じゃありませんか!?」
「え、あ……」
 お母さん役がビックリして立ち止まる。
「わたし、坂東はるかの母でございます!」
 え、え、えーーーーーー!
 
 その場にいたみんなが、それぞれにビックリした。
 
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巷説志忠屋繁盛記・17『アイドルタイムはアイドルタイム・3』

2020-01-25 06:37:21 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・17
 『アイドルタイムはアイドルタイム・3』    
 
 
 
 年齢不詳というのはウソだと確信した。
 
 ロケバスから降りてきた中谷芳子似の女優……いや、その清楚な雰囲気はアイドルという方がしっくりくる。その彼女はマスターの姿を認めると、まっすぐにマスターの前にやってきた。
「『夢中屋の四季』で新月夢子をやります上野百合です。急なロケでご迷惑おかけいたしますが、よろしくお願いいたします」
 
 ペコリと下げた百合からはシャンプーの良い香りがして、クラっときた。
 
 もちろん五十年前の中谷芳子とは違うのだが、フレッシュなオーラは芳子と同じものだった。首から上は整形やスキンケアでごまかせるが、耳元や襟足、お辞儀した時にフト見える胸の谷間の佇まいなどは騙せない。十中八九、百合はハイティーンだ。
 日ごろバカにしまくっているが、大橋が御贔屓のアイマスのステージ衣装を着せて『お願いシンデレラ』などを歌わせたら似合うと思った。
 
「百合ちゃん、道具のチェックして!」
「あ、はい……キャ!」
 スタッフの声に振り向きざま、百合はよろけてしまう。
「おっと……」
「あ、すみません!」
 こういう時の反射神経はピカイチで、よろけた百合をきれいに抱きとめる。
 どさくさに紛れて胸などを触ったりはけしてしない。重心のある所ををしっかりホールドして男らしく支えてやる。
「まちがいない……」
 服を通してではあるが、両手に残った感触は百合が16歳~18歳の処女であることを確信させた。
「タキさん、目がヤラシーーー」
「うっさい!」
 トモちゃんの冷やかしを一蹴するとロケの借用料の積算根拠になる売り上げの釣り上げ……計算に没頭するマスターであった。
 
 ドラマは『夢中屋夢レシピ』というタイトルの九十分の単発もの。
 高校生のヒロインが母の不慮の死のあと、家のイタ飯屋を父とともに繁盛させるという物語である。
 
 志忠屋の厨房に女性が入ったことは無い。
 特に女人禁制というわけではないのだが、四半世紀の志忠屋の歴史の中でそうなってしまった。
「でも、先代の奥さんは……」
「あいつは女の内には入れへん」
 なぜかこだわるマスターだが、理由はすぐに分かった。
 店の使用料の交渉をやっているのだ。
「……というわけで、女が入ったことが無い厨房やさかいなあ、ま、つまらんこだわりやけど、知ってもろといた方が……」
「ん? でも、トモちゃん入ってなかったっけ?」
「あれはイカの皮むきだけや。厨房のカナメは鍋や、火の周りはオレとKチーフしか触らへんねんぞ」
「アハハ、信ぴょう性に欠けるなあ、後ろでトモちゃん笑ってるよ」
 
 男子禁制は通らなかったが、使用料はマスターの皮算用よりも二割ほど高くなった。
 
「月に三日もやってくれたら助かるなあ……」
 
 マスターが欲どうしい愚痴を呟いているうちにトモちゃんは気づいた。
 
 上野百合って……あ、あの人だ……だよね?
 
 
 
 
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巷説志忠屋繁盛記・16『アイドルタイムはアイドルタイム・2』

2020-01-24 06:38:35 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・16
 
『アイドルタイムはアイドルタイム・2』    
 
 
 予定していたロケ地が使えなくなってしまったそうだ。
 
 阿倍野にあるイタ飯屋を予定していたのだが、未明の火事で焼けてしまって使えなくなってしまった。
 スタッフはともかくキャストのスケジュール変更が難しい。
 同じキャストが使えるのは三月も先で、とても間に合わない。
 いっそ台本を書き替え、部分的な撮り直しも検討されたが、二回分は撮り直さなければならず、これも却下された。
 
「あ、志忠屋に似てる!?」
 
 ADの女の子が膝を打ち、ディレクターの中川女史も気が付いた。
「レイアウトがいっしょだ! これならいけるやんか!」
 もうマスターに交渉している暇もなく、女史の一存で強行撮影とあいなったわけである。
「そやけど、完全に同じいうわけにもいかんやろ」
 機嫌悪そうにマスターは腕組みする。
「そこは台本を変えた!」
「使用料はなんぼくれんねん?」
「今日一日の予想売上分」
「しかし、今日の食材無駄にまるしなあ~」
「ランチで、たいがい使い切ったんじゃないの?」
 常連客である女史は志忠屋の冷蔵庫の中身まで知っている。
「それも見込んでランチの大盛況仕込んだんやな~」
「いや、あれはあくまでも必要な撮影やったから」
「タキさん、店の名前変わってるーー!!」
「なんじゃとお!?」
 トモちゃんの声に店のスタッフは表に出てみた。店の看板はそのままに屋号だけが『夢中屋』に替わっていた。
「ダメじゃないの、フライングしちゃあ」
「す、すみません」
 文句を言う女史だが、ディレクターも美術さんも真剣みに欠ける。
「ディレクターのくせして、下手な芝居やのう……売り上げ三日分や!」
「よし、二日分プラスアルファ!」
 
 午後の志忠屋は臨時休業することになった。
 
 あっさり折れたタキさんだったが、ワケがある。
 ロケバスの窓から覗いた女優さんが似ていたのである、あの中谷芳子に……。
 
 ※ 中谷芳子  大和川で溺れているのをタキさんが助けた年上の女の子

「ラッキー! じゃ、二日分ということで!」

 決まってしまった。
 
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巷説志忠屋繁盛記・15『アイドルタイムはアイドルタイム・1』

2020-01-23 06:09:07 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・15
 
『アイドルタイムはアイドルタイム・1』     
 
 
 マスターは写真集を封印した。
 
 ここのところアイドルタイムになると昭和の八尾の写真集にのめり込んでしまうので、トモちゃんに持って帰ってもらったのだ。
 実際に伝票の整理が遅れてしまって仕事に差し障るとチーフからも言われている。
 
「仕事に身ぃ入れるとお客さんの入りもちがうでしょ」
「ほんと、お店の外に列が出来てるわ」
「悪い日に来てしもた~(;'∀') どうぞ、お待ちの二名様~」
 勝手知ったるトコは急きょエプロンを付けさせられ、臨時のウェイトレスにさせられている。
「海の幸とビーフシチューのランチセットです、はいご注文承ります……はい、お冷すぐに……」
「すみません、一つお詰め合わせ願えますか、申し訳りません、お一人でお待ちのお客様~」
「山の幸大盛りあがり~」
「オーダー入ります、海と山、海大盛りで麺硬め~」
 厨房もフロアーもてんてこ舞い、ズーーっと自動ドアが開く音。
「すみません、満席ですので……」
 
 トモちゃんが振り返ると交番の秋元巡査。
 
「店の前、ちょっと整理してもらえませんか」
 お客が溢れかえって通行の邪魔になってきているのだ。
「ごめん秋元巡査、すぐに……」
 首を45度も回せば見渡せる店内をサーチライトのように三往復舐めまわした。
「お、大橋、それ食べたら店の前整理して!」
「え、おれか?」
「他に大橋はおらへん」
 マスターは、この作品の作者さえも使い始めた。大橋の人柄の良さと現役教師時代に熟練した列整理(教師は集会や行事で整理の仕事が多い)の技で、店の外をきれいに整理した。念のためマスターがチラ見すると『最後尾』のプラカードが見えた。
――あんなプラカードあったんかいな?――
 詮索する暇もなく厨房に戻り八面六臂獅子奮迅の働きで二時過ぎにやっとアイドルタイムにこぎつけた。
 
「あーーしんどかった……」
 
 マスターが冷蔵庫に背中を預けた時には、チーフはじめトモちゃんも臨時のトコも作者の大橋までもカウンターに打ち伏せていた。
「ご苦労様でした、マスター」
 四人掛けシートの向こうから声が掛かった、どこに潜んでいたのか、テーブルを潜って顔を出したのは近所のテレビ局の中川女史だった。
「あ、中川はん……」
「じつはお願いがあるんだけど……」
「…………なんでっしゃろ?」
 返事に間が開いたのは、疲れていたこともあるが、こんなクソ真面目な顔をした中川女史は初めてで、海千山千のマスターの脳みそは『要注意』のアラームが灯っていたからだ。
「お店をロケに使わせて欲しいねんけども」
「え、あ……いつ?」
 以前にもグルメコーナーで紹介されたこともあるので、そういう線だろうと思った。
「いや、ドラマの収録やねんけども」
 違う答えが返ってきたが「ドラマ」という言葉にカウンターのゾンビたちも顔を上げる。
「で、いつなん?」
「実は、今日……もう、その角曲がったとこで、みんなスタンバイしてるんやけど……」
 
「え、なんやて?」
 
 入り口に近かったトコが外まで出てみた。
「わ、えらいこっちゃ!」
 カメラやマイクの機材を構えたスタッフだけではなく、キャストを乗せたロケバスまでが今か今かと待機していたのだ。
「そんなことは前もって言うてくれやんと」
 不平そうに言うマスターだが、ランチの爆発的な客の入りもあって、頬っぺたが緩んでいる。
「実は……もう部分的には撮影させてもろてんねんわ」
「「「「「え?」」」」」
「めっちゃ流行ってる店という設定で、ランチのお客は、うちの仕込みやねんわ……」
「な、なんじゃと!?」
 
 ひっくり返りそうになったアイドルタイムであった。
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巷説志忠屋繁盛記・14『写真集・4 渋川神社の境内』

2020-01-22 06:26:51 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・13
 
『写真・4 渋川神社の境内』    
 
 この物語は、かつての志忠屋にヒントを得て書いたフィクションです
 
 
 タキさんは国鉄八尾駅のすぐ近くの植松町に住んでいた。
 
 そのあたりの写真は写真集のあちこちに載っているのだが、黒歴史に満ち満ちているのでスルーしてきた。
「あ、これは……」
 不覚にも目についてしまった。
 渋川神社の境内の写真だ。
 渋川神社はタキさんちの裏庭と言っていい、事実タキさんは自分の庭だと思っていた。
 タキさんの近所の公園には遊具らしい遊具が無かった。
 それが、なぜか渋川神社の境内にはシーソーや滑り台があって、近所の子どもたちの良い遊び場になっていた。
「なんで神社には、ゆーぐがいっぱいあるんやろ?」
 四年生になったばかりの百合子は、夕べお父ちゃんと喋って「ゆーぐ」という大人言葉を覚えたので、滑り台のテッペンに立って呟いた。
「そら、おれの庭やからやんけ」
 真後ろでコウちゃんの声が上って来たので、サッサと滑り降りる百合子。
 そんなことはお見通しなので、すぐ後ろから滑り降りてコウちゃんはペッチョリとくっついて滑り降りる。
「いやー、もうコウちゃん、ひっつくのんイヤやーー!」
「よいではないか~よいではないか~(^^♪」
「もーお代官様みたいなこと言うてもあかん」
 去年あたりからグッと大きくなったコウちゃんは暑苦しかった。
 幼いころは、こうやってくっ付いて転がっているとケタケタ無邪気に笑いあえたのが、ちょっと変わってきたのだ。
 たかが小学四年生なのだが、引っ付いてくるコウちゃんがうとましい。
 でも、コウちゃんには通じなくって、滑り落ちた地面では暑苦しく覆いかぶさってきた。
「いや、え、あ……百合子、なんで泣いてんねん?」
「もう、うっさい! コウちゃんなんか、あっち行けーーー!」
 そう叫んで、百合子は鳥居の方へ駆け出してしまった。いっしょに遊んでいた子どもたちはポカンとしている。
「ヒューヒュー女泣かしよった!」「エロの滝川やーー!」
 日ごろタキさんに頭の上がらない隣町のガキどもが囃し立てる。
 タキさんが仕切っているうちは遠慮しているガキどもだ。むろん隣町のガキと言えど邪険にするようなタキさんではないが、すすんで「きみたちもいっしょに」と優しく声をかけるような天使でもない。普段は蛙の面に小便を決め込むタキさんだが、百合子に泣かれて機嫌が悪い。

「じゃかましいわ!!」

 あっという間に隣町を駆逐した。
「コウちゃん、血ぃ出てるよ」
 五年生のリッちゃんが、年長らしく傷の手当てをしてくれる。
「もー、しゃーないやっちゃなー!」
「百合子」
 鳥居の陰から駆けてきて、ハンカチを出して割り込む百合子。
「ほな、ゆりちゃん、頼むよ」
 リッちゃんは穏やかに看護婦のポストを明け渡した。
「お、おー、すまんな」
 一瞬なにかが浸みて傷が痛んだ。
 膝の傷に目をやると、百合子の涙が落ちて浸みたのだと知れた。
 
 無性に頭を撫でてやりたくなったが、これ以上泣かれては困るので我慢した。
 
「マスター、ディナーでっせ」
 
 今日もチーフの声で現実に引きもどされるタキさんであった。
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巷説志忠屋繁盛記・13『写真集・3 玉手山遊園の観覧車』

2020-01-21 06:27:11 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・13
『写真・3 玉手山遊園の観覧車』    
 
 
 
 
 あ 玉手山遊園や……
 
 写真集の巻末近くで思い出の遊園地を発見したタキさんだ。
 なぜ巻末近くかといううと、大和川からこっち、どのページを見ても黒歴史そのもの、あるいは、それに繋がる写真ばかり。
 懐かしくはあるが、いかんせん黒歴史、アイドルタイムに見ていて思わず呟いた言葉がKチーフやランチタイムから居続けの常連さんなどに聞かれてはまずいので、巻末に飛んだというしだい。
 
 玉手山遊園は、平成十年に閉じられたが、日本で二番目に古い遊園地なのだ。  
 
 八尾から近いこともあって、タキさんにはディズニーランドやUSJよりも、ある意味思い入れが深い。
 写真集に載っているのはゴンドラがわずか9個しか付いていない観覧車だ。
――吊り橋をいっしょに渡ると、いっしょに渡った異性を好きになる――
 社会の時間にN先生が脱線して『吊り橋論』の話をした。
 要は、吊り橋などを一緒に渡ってドキドキすると、脳みそが勘違いして、その異性を好きだと思ってしまうという話。
 中学生にもなると色気づいてくるので、N先生は、うまく牽制球を投げたのだ。
 タキさんは、こういう話され方をすると――なるほどなあ――と思ってしまう。
 道徳的に、かくあるべし! などと言われると反発してしまうが、N先生のように科学的かつウィットに富んだ言い方をされると「なるほど」と思ってしまう。
 
 で、その週の日曜日は子供会の遠足の日だった。
 
 もとより子供会というのは小学生のものなのだが、生まれついてのガキ大将。
 それに家の宗旨がキリスト教ということもあり、何かにつけて境界や町内の用事は進んで参加する。
 ガキ大将でもあるので、自然とその場を仕切ってしまうことが多くなる。
「玉手山遊園は目えが届かへんねん、コウちゃんなんかが来てくれると助かるねんけどなあ」
 世話係のオッチャンに言われては行かざるを得ない。
 実際のところは、子どもたちに人気のあるタキさんなので、なまじ大人が仕切るよりも楽しくなることを、みんなが知っている。
 同様に声を掛けられた中一三人といっしょに楽しく玉手山遊園に出かけたのであった。
 三つのグループに分けた子どもたちを、タキさんたち中学生はうまく遊ばせた。
 お昼はいっしょにお弁当を食べながらのビンゴ大会。人間いっしょに飯を食ってビンゴをやれば身も心も温まってくるのだ。
「これで、こいつらの絆の『き』の字くらいはできたよ、オッチャン」
「ありがとう、ありがとう、午後は好きにしてくれてええよ」
 
 三人の中学生、タキさんの他は酒屋のせがれと、もう一人は、あの百合子だ。
 
「コウちゃん、いっしょに回ろか」
 酒屋のせがれをソデにして百合子が寄って来た。
「秀(酒屋のせがれ)は?」
「子どもらと盛り上がってるから……」
 大人びた言い方で馬跳びをしている秀を一瞥した。
 なにか吹っ切ろうとしている風を感じたので、タキさんは並んで歩いた。
「秀と付き合うてんのかと思てた」
「友だちとしては……あ、すみません、シャッター押してもらえます?」
 最後まで言わずに、持っていたカメラを通りがかりのアベックに声を掛ける百合子。
「撮りますよー引っ付いてー」
「はーーい」
 アベックの照り返しだろうか、百合子はちょっぴり大胆に腕を組んできた。不覚にも胸キュンのタキさんだ。
「ありがとうございます、よかったらお二人のも撮りますけど」
「そう、じゃ、お願いしよかな」
「観覧車背景に撮ってもらえます?」
「ちょうど乗ってきたとこやねん(o^―^o)ニコ」
「ハイ、いきまーす……」
 
「わたしらも乗ろっか!」
 
 アベックにカメラを返すと、素敵な笑顔でタキさんにねだる百合子。
 ついさっきまで秀の彼女だと思っていたので、気持ちがポワポワと浮き上がってしまう。
 浮き上がったまま二人は観覧車のゴンドラに乗った。
 ジェットコースターはあちこち制覇しているタキさんだが、観覧車は生まれて初めてだ。
 狭いゴンドラの中では互いの膝が触れ合ってしまう。ゆっくりと上昇するゴンドラ、互いの息遣いさえ聞こえてきそう。
 秀とのことで封印してきた気持ちがあることをゴンドラの上昇とともに感じてくる……ドキドキと自分の心臓がうるさい……しかし、これは……きっと吊り橋効果や……せやけども……ああ、なんちゅうカイラシイ目すんねん!
 外の景色を見るふりをして、時々目線を避けるが、かちあった時の百合子の目は凶器だった。
 
 9個のゴンドラしかない観覧車は三分足らずで地上に戻ってしまった。
 
「ほんなら、あたし子どもらの相手してくるわね」
 地上に降りると、百合子はそそくさと行ってしまった。
 なじられたような気がしたが、N先生の影響だろうか――とりあえずは、これでええねん――自分に言い聞かせるタキさんだった。
 で、結局はS高校の偵察に行く百合子を玉櫛川のほとりで見かけるまで、ろくに口もきかなかった二人であった。
 
「マスター、ディナータイムでっせ!」
 
 タキさんは日常に引き戻されてしまった。
 
 
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巷説志忠屋繁盛記・12『写真集・2 タキさんの学校選び』

2020-01-20 06:20:33 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・12
『写真集・2 タキさんの学校選び』  
 
 
 
 
 なんでY高校なんだ?
 
 担任が不思議そうな顔をした。
 
 タキさんの強いため息に、机の上の進路調査票が飛んで行きそうになり、担任は慌てて手で押さえた。
 
「YM高がええんですわ」
 今どきの高校生とちがって、タキさんは教師には敬語で通す。
 別に、教師を尊敬してのことではなく、不要な摩擦を避けたいからだ。
「だけど、進路を考えたら、ぜったいY高校の方が有利だぞ」
 自身Y高校の出身である担任は、タキさんの学力ならY高に行くべしと、はなから決めてかかっている。
「もう決めたことですから、これでお願いしますわ」
「……ご両親は承知しておられるのか」
「書類にハンコついたんは親父ですよって」
「……ま、来週もう一度聞くから」
 無駄なことをと思ったが、軽く頭を下げて職員室を出た。
 中三とは思えない貫録に、出入り口近くの先生たちは盗み見するような視線を投げた。
 
――そういう目つきは、闘鶏場の軍鶏(しゃも)にこそ向けなはれ――
 
「コウちゃん、どないでした?」
 
 最近ようやく「あにき」と呼ばなくなった十円ハゲがイッチョマエの心配顔で聞いてくる。
「どないもこないも、俺は初手からY高校に決めとる」
「せやかて、Y高行けるのにもったいない!」
「おまえなー、高校ごときで人生決まるもんとちゃうぞ」
「そやろけども……」
「うちの担任でもY高や、ほんで京都大学進んで、いまはワイらの学校のセンテキや。俺は学校のセンテキなんぞにはならん」
「せやけど、えらそーに言うて共済年金もらえるし」
「志が低い、男は太う短う生きならあかんのんじゃ」
「それに、芳子ねえちゃんもY高に決めたて言うてましたよ」
 
 ちょっと心が動いた。
 
 芳子とは、数年前に大和川で溺れていたのを助けてやった女の子だ。
 芳子は一つ年上だが、身体を壊して学年が遅れ、タキさんと同学年になっているのだ。
 助けた時の柔らかさは、いまでも衝撃として皮膚感覚に残っている。
「先週、芳子ねえの写真もろたんですわ」
 ズック鞄から硫酸紙に包んだ写真を大事そうに出した。
 十円ハゲの姉は芳子の友だちで、彼はときどき姉にせがんで写真を撮ってもらっている。
「まあ、見せてみいや」
 こういうとき、タキさんは人の好意を無にしない。相手が子分格であっても同じだ。
 タキさんの生まれ持った優しさである。
 
「なるほど……磨きがかかってきたなあ」
 
「大原麗子に似てまっしゃろ」
「というよりは……言うといたげ、Y高校は水泳の授業に遅刻したら水着のまんまグラウンド走らされるねんぞ」
「え、女子でも?」
「女子でもや」
 タキさんなりに子分を教育している。
 水着ランニングに象徴されるように、Y高校は体育科を始めとする教師がうるさい学校だ。元々が府立の旧制中学だったので、男子校のころの気風が残っていて、そんな窮屈さはごめんだと言うのが第一の理由だ。
 それに比べてYM高校は旧制女学校が新制高校になったもので、「生徒の自主性を尊重する」ということで、なにかにつけて緩い。これが第二の理由。
 
「慶太(十円ハゲの本名)、ちょっと付いてこい」
 
 学校を出るとカバンだけ家に置き、自転車に乗ってYM高校を目指した。
 途中、Y高前を通り、近鉄八尾駅を中継点に喫茶店やらレコード屋やらハンバーガー屋やら本屋などを周る。
「なるほど、この通学路は楽しいなあ!」
 自由人タキさんは、Y高へ行っては味わえない道草が大事なのである。これが第三の理由。
 そして、YM高校の玉櫛川を挟んだ向かいで下校風景を眺め、Y高にはくらぶべくもない自由さを慶太に知らしめた。
「ま、こういうこっちゃ」
「自分の目で見るいうのは大事やねんなあ」
「ま、たこ焼でもおごったるわ」
 
 山本駅方面にチャリを漕いでいると、玉櫛川遊歩道に意外な後姿を発見した。
 
「「オ……」」
 向こうも気配を察した。
「あら、コウちゃん!?」
「百合子、なにしてんねん?」
「ちょっと偵察」
「偵察て、学校のか?」
 自分が行ってきたばかりなので、偵察でピンとくる。でも、これから行くとしたら方角が逆だ。
「あたしはS高やさかい、なんやったらいっしょに来る?」
「あほぬかせ、S高は女子校やないか」
「より取り見取りやでー、どや、慶太も」
 慶太もブンブン首を振る。
「アハハ、ほんならね!」
 スキップしそうな軽やかさで百合子が去っていく。
 ちょっと残念そうなタキさんは、それをおくびにも出さず慶太を引き連れたこ焼き屋を目指したのであった。
 
「このたこ焼き屋は、もうないなあ……」
 
 写真本を閉じると、Kチーフに言われる前にディナータイムの準備にかかるタキさんであった。
 
 
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巷説志忠屋繁盛記・11『写真集・1 大和川の海水浴』

2020-01-19 06:06:34 | 志忠屋繁盛記
  
巷説志忠屋繁盛記・11
 
『写真集・1 大和川の海水浴』    
 
 
 
 大和川の海水浴や! 
 
 タキさんは写真集を見て感動した。
 川で海水浴というのは変なのだが、タキさんのガキ時代はプールと風呂屋以外での水泳は全て海水浴と呼んでいた。
 
 海外旅行には一度も行ったことのないタキさんだが、ガキ時代の行動半径は広かった。
 並の子どもなら町内か、せいぜい校区内がテリトリーなのだが、河内の朝吉をヒーローとするタキさんは八尾柏原が行動半径の内だ。
 そんなタキさんは、市民プールなんぞというナマッチロイところには、あまり行かず、自転車をかっ飛ばして大和川まで泳ぎに行ったものだ。
 子分のガキたちが「コウちゃん、連れてってやー」というのをホッタラカシにして海パンを穿いたまま自転車に跨った。
 子分を連れて行かないのには理由があった。
 小学校で、国鉄の線路内に入って遊ぶことと、市内の川で遊ぶことを禁じられていたからだ。
 自分の危険はハナクソほども気にしないが、子分たちが危険な目に遭うことは極力避けた。
 大和川は八尾ではないが、ガキのタキさんにとっては自分のテリトリーは全て八尾であった。
 
 堤防の上、無造作に自転車を放り出すと「うりゃーーーー!!」と奇声を発して駆け下り、一気に川に飛び込む。
 奇声は一種の掛け声なのだが、地元のガキどもをビビらすためでもある。
「また。あのガタロ(かっぱ)や」
 おおかたの地元のガキは、そう言ってタキさんとの無用ないさかいを避けた。
 もっとも大和川の河川敷は広々としていて、タキさん一人ぐらいのがたろを気にすることもなく遊ぶことが出来た。
 しかし、そんなタキさんを快く思わないガキは当然いるわけで、一度タキさんは自転車を川に放り込まれたことがある。
 すぐに気づいたタキさんは「おんどりゃーー!」と追い掛け回し首謀者のガキ大将を組み伏せた。
 一発どついてから「オラ、子分といっしょにとってこいやあ!」と締め上げた。
 五人ほどいた子分で親分の窮地を救うべく戻って来たのは十円禿げのガキ一人だけだった。
 で、親分子分の二人に自転車を回収させると十円禿げを「おまえは偉い!」と褒めたたえた。
 「みんな逃げよったけど、おまえだけが戻って来た。なあおまえ(ガキ大将)これからは、こいつ可愛がったれよ」
 と、ガキ大将に説諭した。
 縁あって十円禿げは八尾に引っ越して、タキさんと同じ学校になったので無二の子分になり、前出の写真のようにタキさんのカバン持ちになった。
 
 この日も雄たけびあげて川に飛び込もうとしたら悲鳴が聞こえた。
 
――だれか助けてーーーー!――
 
 上流の方で、スク水を着た女の子たちが川面を指さして泣き叫んでいる。
 川面に目をやると、女の子がアップアップしながら浮き沈みしている。
 
 溺れてるんや!
 
 これが男の子なら、タキさんはなんの躊躇もなく川に飛び込んだ。
 だが女の子だ。
 ガキの頃のタキさんは、女はめんどくさいものと思って、なるべく関わらないでいるというのが信条だった。
 放っておいてもどこかの大人が助けるだろうと思った。
 その時、河原で助けを呼んでいる子と目が合ってしまった。
 ここで逃げたらカイショナシと思われる。
 
「まかしとけーーーー!」
 
 一声叫んで、タキさんは川に飛び込んだ。
 日ごろから「浩一は昔やったら甲種合格やな!」と祖父さんに言われてるほど体格と運動能力に秀でていた。
 あっという間に女の子のところまで泳ぎ着いた。
「あ、抱きついたらあかん!」
 恐怖のあまり女の子はしがみ付いてくる。このままでは二人とも溺れてしまう。
 立ち泳ぎしながらタキさんは、女の子を裏がえした。
 裏がえすと、頭の下から手を回して呼吸が出来るようにしてやって、結論を言うと無事に救助に成功した。
 
 女いうのは、こんなにやらかいもんか!?
 
 これがタキさん最大の感想であった。
 期せずして、タキさんは最適な溺者救助をやったのだが、最大の関心事はそこであった。
 あとで分かったことであるが、女の子は小学6年生で、当時のタキさんにとってはじゅうぶん女であった。
 
 タキさんは人命救助で表彰された。
 同時に、学校からは禁止されている川での水泳をやったことで目いっぱいオコラレタ。
 
「マスター、ディナータイムだっせ」
 
 Kチーフに言われ、やっと写真集から目を上げたタキさんであった。
 
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巷説志忠屋繁盛記・10『写真集を出窓に』

2020-01-18 06:42:15 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・10
『写真集を出窓に』    
 
 
 
 面白いことはみんなで楽しもう!
 
 トモちゃんのモットーだ。
 お客さんにも楽しんでもらおうと、写真集を志忠屋の出窓にオキッパにした。   
「こんなとこ置いたら陽に焼けるで……」
 大の読書家であるタキさんは山賊の親玉みたいな顔をしているが、本の扱いは女学生のように丁寧で優しい。
 去年、南森町の交番にゴブラン織りのブックカバーが付いた新刊本が落とし物として届けられた。
 ゴブラン織りは花柄にムーミンのキャラが散りばめてあり、新刊本は少女漫画の表紙や挿絵の豪華本であった。
「これは、三十代くらいの女性の落とし物やなあ」
 交番の大滝巡査部長は頷いた。
「自分は女学生……ひょっとしたら女子高生だと思量します」
 秋元巡査は真面目な顔で異を唱える。
「こんなに豪華な本ではありませんが、妹が同じようなものを持っておりました。それに……クンカクンカ……そこはかとなく良い匂いがいたします」
 数時間後、青い顔をして「本の落とし物……」とやってきたのがタキさんであった。
「え、マスターの落とし物でしたんか!?」
「え、クンカクンカしてしまった……」
 タキさんは、表紙に指紋が付くのを嫌って、あらかじめ文具売り場で見つけた特製ブックカバーを購入直後に付けたのだ。
 南森町の改札を出たところで、常連客のモデルの女の子たちに出くわした。一人の女の子タキさんの本に目を留めて「かっわいいーー、ちょっと見せてもらえます?」
 改札を出たところで十分ほど愉快に立ち話、そこへ列車がやって来たので慌てて別れた。
 別れ間際の数秒間でも山賊ギャグをかまし、メアドを交換したり……しているうちに、定期券売り場のライティングテーブルの上に置かれた豪華本を置き忘れてしまった。
「ほんなら、この香りは……?」
「モデルの子ぉが読んでたからなあ」
「あ、そ、そでありますか」
 
 タキさんはアイドルタイムの間、伝票整理も忘れて写真本に見入った。
 八尾・柏原の昭和を記録した写真ばかりである、八尾のネイティブとしては懐かしいに違いない。
 そんなマスターを微笑ましく見ていたKチーフだが、ぽつり零したタキさんの一言にむせ返った。
 
「どこも殺し合いしたとこばっかりやなあ……」
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巷説志忠屋繁盛記・9『タキさんゴジラ』

2020-01-17 06:17:46 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・9
『タキさんゴジラ』     




 ぜんぜん変わらへんなあ~!

 衝動買いした写真集を見て、Kチーフが感嘆の声を上げた。

 チーフが、こんな風に感嘆するのは数年前に三連単の馬券を当てて以来だ。
「ぜんぜんちゃうやろがーーー!」
 フライ返しをしながらタキさんは、チーフといっしょに買った馬券がハズレタ時のように不機嫌な声を揚げる。
「いまのワシは、もっと柔和なナイスガイじゃ、ど~~や(*^-^*)」

 振り返ったタキさんはカーネルサンダースがレンジにかけられ溶けかかったような顔だ。

「「「ア アハハハハ……💦」」」

 チーフとトモと、折悪しく客で着ていたトコが引きつりながらの愛想笑い。
「いや、しかし、この悪たれタキさんも可愛いですよ💦」
 トコが精一杯のフォロー。
「こういうガキは可愛いない、自分のことはよー分かってる。これかてカメラ目線で睨んどるしな、いまのワシやったら張り倒しとるわ」
「ね、タキさんをタイムリープとかさせて、この悪たれ時代のタキさんに対面させたら面白いだろーね」
 トモが面白がる。
「いまのワシが出て行ったら、この浩一は媚びよる」
「え、そうなん?」
「だれかれなしにこんな顔してたわけやない。とことん敵わん相手には媚びまくっとった」
「え、マスターてブレーキの効かんブルドーザーやと思てましたけど」
「ほんまの河内もんは、そのへんの機微はこころえとるもんじゃ」
「タキさんが媚びるて、どんな相手?」
「そら……んなもん言えるか。ほら、特製山賊スパじゃ」

 ドスンとカウンターに置いたのは、トコが無理矢理オーダーしたまかない料理。
 とても美味しそうに見えるので、全てのメニューを制覇している常連には提供している。食材は、その時その時の有り合わせなので、タキさんの気分次第で千差万別になっている。

「これは、なんの肉?」
 見かけない肉をフォークで刺し、グイッと突き出すトコ。
「ゴジラのモモ肉」
「モー、ええかげんなことを」
「ウソやない、パク!」
「あーー、わたしのお肉ゥゥゥーーーー!」
 トコの非難をよそに、肉を咀嚼するとシンゴジラのように口を開け、ガオーと火を噴いた!

「「「ウワーーー!」」」

「な、ゴジラじゃろーが」
 三人の頬がひきつる。
 とうぜんマジックのネタなんだけども、タキさんがやると、本当にゴジラの眷属のように思えてしまう。
「もっかいやってもらえます、動画に撮りますから」
「イヤ、失敗したらヒゲ焼いてしまう」
 なるほど、よく見るとタキさんのヒゲは先っぽのところが焦げて縮れてしまっている。
「トコも、それ食べたんやから不用意に大きい声出したら火ぃ噴くぞ~」
「えーーー、そんなんイヤや」
「ところで、この写真、なんで怖い顔してんの?」
「ああ、撮ったやつが気に入らんかったんや」
「だれが撮ったの?」
「学校のセンセ」
「なんでまた?」
「ゴジラの火ぃ噴き学校でやったらエライ怒られて、そのあくる日やったから」

 どこまで本当なのか、三人はあいまいに笑うしかなかった。

 志忠屋の帰り、トコは入れ違いに地下鉄の階段をあがってくる作者(大橋)に出会った。

「やあ、センセ!」

 思わず呼びかけたトコは三メートルほども火を噴いて大橋の顔を真っ黒にしてスプリンクラーを作動させてしまった。
 
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巷説志忠屋繁盛記・8『写真集の悪たれ』

2020-01-16 06:33:44 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・8
『写真集の悪たれ』         



 大阪に来て二年ほどは高安町のアパートに住んだ。

 急な離婚だったのでロクな準備も出来ない、だいいちお金もなかった。
 娘のはるかが文句ひとつ言わないで付いてきたのには、いまさらながら頭が下がる。
 そのはるかが一年後に女優になって半年。

「お母さん、お家買おう!」と言い出した。

 トモはギクリとした。
 はるかは、やっぱり故郷が恋しくて東京に戻る気なのではと思ったからだ。
 生まれは成城、育ちは南千住、間を取って練馬あたりか?

 そう勘ぐったが「隣町だよ」の答えが返って来た。

 高安町は百坪前後のお屋敷が多いので、女優になった勢いで、そういう家じゃないかと心配した。
 
 不動産屋といっしょに案内されたのは近鉄線の向こうの東山本新町のニ十坪ちょっとの中古物件だった。
「安心した?」
 どこで覚えたのか大阪風のドヤ顔で腕を組んだ。
「え、あ、そーね……」
「わたしの決心なんだよ。プロダクションが出世払いでお金貸してくれるの、十年は仕事辞められない」
 築十年の三階建て、二千五百万……
「いま算盤はじいたでしょ」
「んなことないわよ」
「このお家が気に入ったの」

 そして一年が過ぎた。

 住んでみると、家は高安と山本の中間に位置し、両駅とも準急が停まるので、トモは、その日の気分次第で駅を変えている。

 今日は山本だ。

 三十分早く家を出て、山本駅前の書店に寄った。
――この本いいな――
 折り込みチラシ見ながらはるかが呟ていたのを思い出した。
 タイトルは忘れたが高安・柏原の昔を六百枚あまりの写真で紹介した写真集だ。

 はるかには、こういうところがある。

 いいお店見っけたと言って、たこ焼やらタイ焼きやらお花を買ってくる。そのほとんどが高安・山本の店だ。
 この町を好きになることで――こんな街に引っ張て来た母親の気持ちを楽にしている――娘ながら、できすぎた子だと思う。
 写真集に興味を持つのも、そういうことなんだろう。

 見本本を手に取ってめくってみた。

 戦前から二十年位前までの街の様子が手に取るように分かる。
 昔の人は、とてもシャイか人懐っこいかのどちらか。
 今の日本人は、変に慣れてしまって、どの写真や動画でもフラット過ぎてつまらない。

 おーー!?

 思わず声が出た。
 店員さんやお客さんが注目するのが分かるが、発見した写真のインパクトが強いので、構わずに見入ってしまった。

 固太りの悪たれが、子分と言っていい子どもたちを引き連れての登校風景だ。

 名札はボカシてあるが、KTと大きなイニシャルのセーター、子どもとは思えぬ凄んだドヤ顔でカメラを睨んでいる。
 背景の街は国鉄八尾駅の西だ。
 悪たれは、グローブを引っかけたバットを、鬼退治にでも行くように右肩に担っている。
 かたわらの十円禿げが、自分のと悪たれのと二人分のランドセルを担いでいる。

――なにか確証は……あった!――

 バットの側面にKOUICHI TAKIGAWAの文字がかすれて読めた。 
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