大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草 40』

2012-03-29 08:20:36 | エッセー
わたしの徒然草

徒然草 第四十段『因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘』

 因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども、この娘、ただ、栗をのみ食ひて、更に、米の類を食はざりければ、「かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親許さざりけり。

 これは、今の感覚ではこうであろう。
「どこそこで、ツチノコが出た!」
という、地方ニュース(ツチノコとは歳がしれますなあ)
 ウソかマコトか、確かめられずもせずに、因幡(今の鳥取県)から、都に伝わった、その手の地方ニュース。

 中味は、鳥取県のある入道(在家で坊主のなりをした、たいがいお金持ち)の娘が、チョーカワイイのであるが、米のご飯をまるで食べずに栗ばっか食べている。
 で、父親の入道が、こう怒った。
「こんな栗ばっか食べているような変な娘は、人さまの前にも出せない!」

 意訳すると、こうであろう。
親の言うことをな~んにも聞かないわがまま娘。それが「栗をのみ食いて」にシンボライズされている。そういう娘のわがままぶりを、可愛く思いながらニクソサ半分の親心をあらわしている。
「人に見ゆべきにもあらず」
 これは、屈折した娘自慢。
「人さまの前にも出せない」
 これは、実は人さまに見てもらいたいという気持ちの表現。「誉め殺し」ならぬ「殺し誉め」である。
「いやあ、家の娘は、オテンバの気まぐれのブスで、嫁のもらい手があるか心配ですわ。アハハハ」
 そういう、今の娘を持つオヤジの心理と同じものを感じる。

 では、単なる親バカかというと、それだけではない。
 娘から、阻害されている気配を感じる。
「お父さんのパンツ、いっしょに洗わないでよね!」
「ひとが(自分が)携帯で話してんの、新聞読むふりして聞かないでよね!」
「バレンタインチョコ? 義理チョコ余ったらあげる(さげすんだ眼差し)」
「明日、トモダチ来るから、お父さん、どこか行っててよね!」
「やだ、お父さん、また、このソファーで寝てたでしょ。加齢臭がすんだからやめてよね!」
 このように、オヤジというのは年頃の娘にはジャケンにされている。そのウップンと寂しさが、うかがえる。

 また、十七八の女性というのは、人生でもっとも(その子なりに)輝いている時期で怖いモノ知らずである。
「わたしたち、な~にをしても、許されるとしごろ♪」
 AKB48の『スカートひらり』の歌詞の中にもあるように、その女性の一生の中で一番残忍な、お年頃である。
 太宰治の『カチカチ山』の中で、この年頃の娘ウサギに惚れた親父ダヌキを泥の船に乗せて沈めた。おぼれ死ぬタヌキが、断末魔にこう叫ぶ。
「惚れたが悪いか!」
 それを、ウサギは櫂(オール)でしたたかに打ち据え、トドメをさし、額の汗をぬぐって、ポンと一言。
「ホ、ひどい汗」

 このオヤジと娘のコントラストに面白さを感じる。兼好のオッチャンもそうだったのではないだろうか。

 ここまでは、若い頃から解釈に違いはないのだが、アラ還になって、一つ気づいた。
わたしの教え子は、早い子で、もう五十歳である。男の子は、年頃の娘にジャケンにされる年齢になり、ため息をついている。
 女の子は……書くと、カミソリの刃の入った郵便が送られてきそうなので、詳述はしない。おのおの胸に手を当ててご想像いただきたい。
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アクセス10万件を突破!

2012-03-27 09:59:54 | 自己紹介
アクセス10万件を突破!

『大橋むつおのホンワカブログ』のアクセス10万件を突破!
 昨日3月26日、ブログ開設380日で、アクセス10万件を突破しました。1年前、ブログを始めたとき、正直ここまでのアクセスをいただけるとは思っていませんでした。過去に共著こみで10冊ほど本を出しましたが。全部の売り上げを足しても1万冊に届くかどうかです。それが、ネットのブログは、1年ちょっとで10万を超えてしまいました。ブログの世界では、この数字がどの程度なのかはよく分かりませんが。わたし個人としては、驚いております。

それはモンド通信から始まった
わたしは、もともとモンド社の『モンド通信』というネットマガジンに連載を持っていました。
モンド通信は、以下の通りです。

メールマガジン『モンド通信 MonMonde』月刊(毎月10日配信)【購読無料】
【愛読者登録・解除】は
http://www.mag2.com/m/0000274176.html

 モンド通信を発行している門土社とは四半世紀前に『自由の翼』という処女戯曲集を出してからの付き合いです。3年前、『自由の翼』が完売したので、門土社にもストックがなく、一冊欲しいという門土社からのお便りからはじまりました。

ネットとは無縁の生活でした
 わたしは携帯を持たない主義で、手紙魔でした。年間で100通(年賀状を除く)は出していました。電話も苦手で、わたしの通信手段は昭和どころか、明治時代のようでした。
 しかし、門土社から、ネットマガジンの連載を頼まれるようになってから、電算機を使わざるをえませんでした。今の出版社は原稿の入稿は、一握りの大御所を除いて、全て電算機による入稿でした。そこで、カミサンにやってもらっていたのですが、煩雑さに音を上げたかみさんが、橋下知事がだした「コウタロウ」で、電算機を買ってくれました。糟糠の妻……と、感涙にむせびましたが、プロバイダーとの契約付きで、本体はウソみたいな値段(たしか量販店のポイントで賄えたとか) で、毎月のネット使用料はわたしの口座から落ちるしかけ。数ヶ月後、銀行の通帳を記帳するまで、このカミサンのカラクリには気がつかないメデタサでした。

それは、宣伝からはじまりました
 門土社の注文で、高校演劇の入門書を書くことになり、ネットで連載が始まりましたが、思いの外読者が増えず、自分で営業するつもりで、ブログというカタチで、『女子高生HB』を載せることから始めました。

高校演劇で火がつきました
 一昨年の大阪府高等学校演劇連盟のコンクールで、T高校が私の作品をとりあげてくれ、わたしもコーチとして加わりました。創作が90%を超える大阪で、唯一の既成脚本として本選に出場。出来を観客席で観ていたわたしと、友人の映画評論家、関西大手劇団のベテラン女優さんの意見が一致しました。
「一等賞や!」
 しかし、結果は意に反して選外でした。常任委員の先生や、審査員のかたにも「審査の経緯を教えて欲しい」と頼みました。審査員の答えは二転三転し、合評会のレジメでは「T高校にも、なんらかの賞をやるべきであった」と、事実上、ご自身の審査結果を変えられました。で、年甲斐もなく、合評会で異議を唱えましたが……まあ、蒸し返しになるので詳述は避けます。
 これをブログに載せたところ、アクセスが急増。そして1年後の昨日、10万件を突破しました。

連盟への批評は一部です
 それ以来、高校演劇や、大阪の連盟の実態を知り「こら、あかんわ」と感じ、40年を超える経験から、感じたままに、高校演劇や連盟のありようについてブログで書き、正直何人かの知人の先生からの信頼を失い、いささかの人数の生徒クンからも嫌われたようです。しかし、高校演劇は、ゆっくりと衰退の坂を(少なくとも大阪、他府県も似たようなものだと思います)下っています。AKB48のプロディユサーの秋元康氏は、リーダーの高橋みなみに、こう言いました。
「高橋が人から嫌われるようにならないと、AKBは伸びないぜ」
 わたしは、ロートルで、リーダーでも、なんでもありません。しかし、44年間も高校演劇を見てきました。そんなオッサンが一人ぐらい憎まれ役をやらなければと、勝手に思っています。
 しかし、高校演劇について書いたものは全体の1/3ほどでしかありません。ほとんどはわたしの作品とエッセーです。その比重はさらに、自分の作品に移りつつあります。有料のブログ解析をやっておりませんので、どのブログにどれだけのアクセスがあったかは分かりませんが、わたしの主戦場は「高校ライトノベル」のサイトです。おそらくこのサイトへの投稿者の中でも、かなりの年寄りの部類に入ると思います。
 いい歳をして、いつまでも感覚は高校生か、せいぜい大学生のままです。昔風にいうと、書生気質が抜けません。読書傾向も、いちおう年齢に相応しく、司馬遼太郎は全部読破、吉川英治、海音寺潮五郎、今東光、佐藤愛子、北方謙三、浅田次郎なども読みましたが、『魔女の宅急便』や氷室冴子の一連の作品、メグ・ギャボット、赤川次郎もかなりの量になります。

AKB48のファンであったりします
 前の方でも書きましたがAKB48が好きです。生徒に、芝居の中で挿入曲としてやらせたのが始まりでした。AKB48というのは、なんだか部活に似ています。15歳ぐらいから、25歳ぐらいの子までいます。わたしも、過去現役の顧問として演劇部に関わり、ちょっと前までは、大阪小劇場(現在は休団中)という劇団で、それくらいの歳の子を相手に芝居をしていました。
 あのAKBの子たちのがんばりは、プロディユーサーの秋元康という人も含めて親近感を感じます。若い子たちが、なにかに打ち込んでいるというものは良い景色です。また、それを上手くプロディユースし、彼女たちの力を最大限に引き出す、秋元康という人も好きです。
 しかし、オッサンの悲しさ。AKBの歌は覚えられません。名前と顔が一致するのも5人ほどしかいません。 ときどきYou Tubeで観ています。観ていて、この子は「やる気と、リーダーシップがある」と感じた子がいます。
 高橋みなみです。身長148.5、けして、とびきりの可愛さやとびきりの美人ではありません。将来AKBを引退(卒業というらしい)して、この世界でやっていける子かどうかも、わたしには分かりません。しかし、このタカミナという愛称の子は、理想的に青春を燃焼させ、それまで自分でも気づかなかったリーダーとしての資質まで身につけました。この子が、秋元康氏をして「AKBとは高橋みなみのことである」と言わしめるほどの存在であると言われているのに気づいたのは、かなりたってからです。自画自賛とか、キショイとか、若い人から言われそうですが、若い子の資質を見る目はまだ確かかなと思っています。

そういう青春を書いていければと思います
 わたしには『女子高生HB』『なゆた 乃木坂学院高校演劇部物語』という二本の長編小説があります。本来は劇作家で、小説を書き始めたのは、ここ1年ほどです。中、短編を含めると10本ほどになります。ようやく、ネット向きの作品のありようが少しだけ分かってきました。どこまで、がんばれるかは分かりませんが、もう少しやってみようと思います。
 わたしを支持してくださった方、わたしを嫌いになった方、間違ってアクセスした方、みなさんに感謝します。10万件を突破したといっても、ブログ全体では30万番台です。年間1600万ほどのブログがあるそうなので、素直に喜んでおります。
 
 目出度さも中くらいかな、おらが春でありました。   
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高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草39』

2012-03-25 11:57:47 | エッセー
わたしの徒然草 第三十九段
 或人、法然上人に、「念仏の時、睡にをかされて、行を怠り侍る事、いかがして、この障りを止め侍らん」と申しければ、「目の覚めたらんほど、念仏し給へ」と答へられたりける、いと尊かりけり。
 また「往生は、一定と思へば一定、不定と思えば不定なり」と言はれけり。これも尊し。
 また「疑ひながらも、念仏すれば、往生す」とも言はれけり。これもまた尊し。

 ちょっとコムツカシイが仏教の話である。
 法然上人(ほうねんしょうにん)から話さなければならない。

 ザックリ言って、日本の仏教の総元締めは、比叡山延暦寺である。
 延暦寺の天台宗は、平安時代に最澄が空海と前後して遣唐使の船に乗り込み、唐と言われた中国から、輸入してきた仏教である。
 空海は天才であった。わずか数年の間に仏教の神髄をきわめ、自分の頭の中に取り込んで日本に帰り、真言宗を始めた。本山は高野山にある。
 真言宗では、空海一人が極めた(解脱した)ので、後輩たちは、一生懸命にそれに追いつくしかなかった。つまり目標は空海その人、そのものである。

 最澄は、ちょっと違う。天才ではなくただの秀才である。
 天才は直感で、物事の本質をつかみ取ってしまう。
 分かり易いところで、坂本龍馬が同じ人種である。龍馬は、あまり真面目に勉強した様子がないが(今の並の大学生よりは勉強してはいる)民主主義や株式会社の有りようを直感で理解していた。だから倒幕して国民国家を創らなければならないことも分かっていたし、海援隊という株式会社の運営にも成功している。
 仏教=宗教というものは形而上の問題であり、龍馬が海援隊を創ったような「儲かる」というような目に見えるカタチでは分からない。だから、空海の弟子達は今でも苦労されている。
 最澄は、自分では分からないけど、中国にあった仏教のあれこれを持ち帰った。空海のように正式な留学僧ではない最澄は、時間的にも経済的にも空海ほど恵まれてはおらず、必要と思った全てを持ち帰るわけにもいかず、帰朝後、空海に教本を借りにいったりしている。
 最澄は、持ち帰った教典の全てを極めることができず、後身に、それをゆだねた。
 法華経も、座禅も、阿弥陀経(念仏)も、日本の仏教の大きなエッセンスがその中にはあった。比叡山というのは総合大学に似ている。

 鎌倉時代に比叡山にいた法然は、その天台宗の中にある阿弥陀経をエモーションとして持ち出し浄土宗を始めた。
 エモーションということが大事なのである。
 コムツカシイ教典の理解や、修行は全て捨てた。
「南無阿弥陀仏」が全てである。
 南無は、サンスクリット語で呼びかけの「ナーム」である。呼びかけるからには目的がある。目的は「タスケテホシイ」である。「タスケ」とは極楽往生することである。
「極楽」とは、どういうところかというと「わしは、行ったことがないから、ようわからん」と、答える。
 そんなアホな……と、凡夫のわたしは今でも、そう思っているところがある。見たことも、行ったこともないものを信じろというのは、現代の感覚では分かりにくい。
「詐欺師やんけ」とも受け止められかねない。
 わたしの家は、長らく、この法然さんの浄土宗であったが、父の死をきっかけに浄土真宗に鞍替えした。
 理由は簡単。母方の親類が、みな浄土真宗の坊主であるからである。葬儀の導師は従兄弟に頼んだ。安くあがるというだけではなく、親類の気安さと、浄土宗以上の簡明さがあったからである。ややこしいので、浄土宗も浄土真宗も念仏宗と括っておく。
 法然さんは、こうもおっしゃっている。
「ほんまかいな……と、疑って念仏しても往生できる」
 すさまじい信念である。浅学非才なわたしには、正直、まだ完全には分からない。

 今のところ、こう置き換えている。
「ゼロの概念」である。ゼロとは、何もないことで、質量も大きさも色も匂いも無い。
 でも、世間の人は、軽々とゼロの概念を信じている。
 これに似ていると思う。ゼロも仏教もともにインドで発見(発明)された。

 世の中には、憲法に平和だと書いておけば平和が保たれるものだと信じている人が、かなりいる。なんだか宗教じみているようにさえ思える。
 それに比べれば、浄土はある(らしい) 仏の力(絶対他力)により、人はそこに行ける。このほうが、よっぽど信頼が持てる。

 そういうことに気づいていた兼好のオッチャンというのは、我々より、よほど近代人のように思えてくる。
 南無阿弥陀仏……。
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高校演劇・クラブはつらいよ(春編その一)

2012-03-25 10:03:00 | エッセー

クラブはつらいよ(春編その一)
これは一昨年、モンド社の演劇部の基礎について、一年間連載した記事の再版です。地元の大阪府高等学校演劇連盟加盟校のみなさんを始め、高校演劇の生徒のみなさん、顧問の先生、コーチの方々の参考になれば幸いです。

いよいよ春が来る。泣く子も笑っちゃう春がやってくる。世間は、進学、就職、春休み、卒業旅行、ひな祭り、果ては、春闘、花見と忙しくも、華やぎと嬉しさを惜しげもなく、出血大サービスの春である。
しかし、弱小クラブ。なかんずく演劇部にとっては一年で一番つらい季節である。三年生が卒業し、ただでも少ない部員が最少になってしまい、当面の公演の予定もない時期であるから。そしてたいていの部員が学年末の自分の身の回りの変化に気をとられたり、遊びやバイトのほうに気もそぞろになって、実質クラブ活動がお留守になりがちだからである。その間、活発な体育会系のクラブは練習に励み、余裕のあるクラブなんか、新入生勧誘の準備をしていたりする。そして四月に入り、新入生のためのオリエンテーションや新入生歓迎会では、そういうテニス部や野球部とかに先をこされて・・・・・・たとえばクラブ紹介の時に、テニス部がやる勧誘のための素人コントが案外うまかったりする。で、そういうクラブには見学やら体験入部者がおしかけ、演劇部はカンコドリが鳴くありさま。
 たまさか、熱心な新入生が入っても、部員の少なさに気が滅入り、単調なクソキソ練習に嫌気がさして五月の連休明けになると、新入部員ゼロという最悪の事態に落ち込み。果ては生徒会のクラブ予算の奪い合いでは並み居る体育会系のクラブにゴッソリ持って行かれのイカレコレ。そして連盟への加入金にも窮し。部活動そのものが休止……そして、明くる年には廃部。
 そういう事態にならないように、今から、来年度当初のことをドタマ……アタマに入れた部活のありようを考えてみたいと思う。
 かつてこの紙面で「芸術は場数だ!」と叫んできた。そう、場数の場の字は四月に始まる。新入生向けのクラブ紹介やオリエンテーションや新入生歓迎会で、一発かましておくべきである。五分から十分のコント(昔は寸劇と言った)のレパートリーを演劇部たるもの、いつでも四五本はもっておきたいものである。「えー、そんなの無いよ!」 本音を言うと、それくらい普段から「レッドカーペット」「エンタの神様」「爆笑レッドシアター」「ザ イロモネア」などを観て研究にいそしんでもらいたい。これに出てくる芸人さんたちは命がけでやっている。なんと言っても生活と自分の夢がかかっているから。それでもここに上げた番組の一つはこの三月で放送が打ち切りになる・・・・・プロは厳しい! 
 で、急に言われてもという演劇部のために二本コントの見本を書いておくことにする。創作のヒントにしていただければ幸いである。

コントA「なにしに来たんだっけ!?」

部長 えー、ただ今から演劇部の紹介をさせていただきます。「しょうかい」
なんっちゃってオヤジ風のギャグが頭に浮かんだ人は演劇部員としての素 要十分。「ショーかい」 わかるS・H・O・W、見せ物、コントなんて教養あふれる言葉が浮かんだ人は、もう明日から演劇部の部長! 明後日以降は平の部員だけどね。「しょーもない」なんて言葉が浮かんだ人は、このあとすぐに退学届けを書いてくださいね。そもそも我が校の栄えある演劇部というのは・・・・・・

一発の銃声(体育の先生から競技用のピストルを借りておくといい)が
して、部長衝撃をうけて胸を押さえる(弾着をしこんでおく。本物はむずかしいので、ラップにゆるく溶いておいた赤絵の具を包んでおいたものをあらかじめ手にさりげなく持っておく。制服が汚れる、ステージを汚しては叱られるところは、弾着は省略)

部長 なんじゃ、これは・・・・・!?(倒れる)

部員ピストルを手に客席後方より現れる 

部員 ハハハ・・・・・これで演劇部はわたしのものだ。諸君、入学おめでとう。新入生の諸君には、新しい制服、新しい教科書、新しい教室、新しい先公、いや新しい先生。そして新しいクラブには新しい部長。そうわたし○○が新しい部長として君たちを迎えよう! 我が演劇部は少数精鋭主義だ! けしてだれでも入れるわけじゃない。容姿端麗、眉目秀麗、わかるかこの四文字熟語? カッコイイということだ。立てば芍薬。座れば牡丹。歩く姿は百合の花。わかるだろう?(男子校では、この部分の台詞は使えない) 多少言葉はむつかしくても、このわたしを見れば一目瞭然。一目みたら分かるってこと。このスラっとのびた脚。引き締まったウエスト。憂いをひめた瞳。そのまま大河ドラマの主役が務まろうかってお姿よ。それにここ(頭をさす)ノーベル賞とまでは言わなくても。ヘキサゴンで最前列を占め、島田紳助とはりあえて、北野大(ひろし)知ってっか? 北野武の兄さん。大学の先生なんだぞ、それを打ち負かすほどの頭脳!それくらいの・・・・・・
部長 そんなに注文つけられるタマかよ!?(ハリセンでしばく。ハリセンは無対象。以下同じ)
部員 あ、部長死んでなきゃ。
部長 一回やりたいって言うから、やらせてやったんだよ。それが台詞は退屈、メリハリはきいてないし・・・・・・
部員 え、外人さんが聞いてんですか?
部長 どこに外人さんなんだよ?
部員 だって、メリーさんとハリーさんが聞いてないって?
部長 そういう古典的なボケかたするんじゃないよ(ハリセンでしばく)見ろ、あの子なんか入ろうかなんて顔してたのに退いちゃったじゃないかよ(ハリセンでしばく)
部員 あ、そんなにしばくって台本に書いてないでしょ(ハリセンでしばく)
部長 このやろう、平の部員のくせしやがって(ハリセンでしばく)
部員 部員が○人しかいないのに、部長も平もないでしょ(ハリセンでしばく)
部長 やろう、勝負しようってか(ハリセンでしばく)
部員 このう(ハリセンでしばく)
部長 やるってか(ハリセンでしばく)

ひとしきりハリセンでしばきあう。やがて二人とも疲れ果てる。

部員 疲れますねえ(ゼーゼーいってる)
部長 まだまだ(同様にゼーゼー)ようし、今度は縄跳びで勝負!

二人、無対象でひとしきり縄跳び。

部員 ああ、もうだめ・・・・・・
部長 なんで、こんなことやってんだよ・・・・・・?
部員 さあ、なんでしたっけ? あ、クラブの宣伝!
部長 あ、そうだっけ? ま、そういうことで、演劇部・・・・・・
二人 よろしくお願いしまーす!


簡単なコントだが、無対象のハリセンと縄跳びがきちんとできること。しゃ
べくりがなめらかにできることが大事。男女いずれでもできるようになっているので性別、学年の違い、個性によって言葉は多少手を加えたほうがいい。
    
コントB「本校怪談ものがたり」

先輩 (芝居がかって)これから演じますコントはフィクションであり、実在の学校や先生ども(どもにアクセントをおく)いえ先生方やクラブのやつら、もとい、クラブの人たちとはいっさい関係ありません。演劇部の楽しさを除いて。オホホホホ(ころっと変わって)あ、トコちゃんやんじゃない!?(無対象で荷物をかかえている)
後輩 あ ミヤちゃん先輩!
先輩 おひさ~、あんた、うちの学校受けたのね?
後輩 よく覚えていてくれましたね。わたし一年でクラブやめたのに。
先輩 そりゃ演劇部だもん。記憶力はいいわよ。それにトコちゃんやめる前によくわたしのとこに相談にきてたじゃない。
後輩 先輩、話しやすい人だったから。
先輩 旧館へはもういった?
後輩 旧館って?
先輩 同窓会館とか、購買部のあるとこ。
後輩 いいえ。
先輩 だったらね、このお札あげる。
後輩 なんですか、このお札?
先輩 旧館ね、出るのよ・・・・・・
後輩 なにがですか?
先輩 これよ、これ(荷物を置いて手を胸の前にたらす)
後輩 それって・・・・・・
先輩 そう、幽霊。
後輩 え ほんとですか!?
先輩 うん。あの旧館ね、古墳の跡にたってんの。
後輩 古墳?
先輩 うん。社会科で習ったでしょ。小さいけど前方後円墳。
後輩 そこに葬られてる人とかが出るんですか?
先輩 うん。ううん。
後輩 え、どっちなんですか?
先輩 あのね、学校とか教育委員会の都合で、ここ十年ほどおまつりしてない
のよね。それでね近所の成仏できてない幽霊さんとかが集まっちゃってね。
後輩 ああ、地縛霊とか浮遊霊とか?
先輩 うん。戦災で亡くなった無縁さんとか多いからね。
後輩 そんなの入学案内にもブログにも載ってなかったですよ。
先輩 載せられるわけないじゃん。科学的に証明できるもんじゃないし、印象
だって悪くなるでしょ。
後輩 ああ・・・・・・
先輩 ほら、あそこに座ってる先生首からお札ぶら下げてるでしょ(適当な先生を指さす)社会科の○○先生、
後輩 ほんとだ・・・・・・
先輩 ちょっと抜けてんだ。ほかの先生はみんなシャツの中とか目立たないとこにしてんの。
後輩 そうなんだ。
先輩 校長先生とかは、伊勢神宮とか、出雲大社とか、明治神宮のおっきいお札もってるらしい。教頭先生はクリスチャンだから、教会から聖水もらってきてちっこいポーションに入れて持ち歩いてるって。
後輩 なんだか、ファイナルファンタジーの世界ですね。霊障とかあるんですか?
先輩 あるある!
後輩 どんな!?
先輩 教育委員会が査察に来たとき、車のタイヤがみんなパンクしたり、校長先生がバナナの皮で滑ったり。野球部が県(都、道、府でもいい)大会で優勝したり・・・・・・
後輩 ああ、新聞にも載ってた。「○○高校野球部奇跡の優勝!」って。でも、それっていいことじゃないですか!?
先輩 それがね、地区予選の一週間まえに転校生が野球部に入ってね。あれよあれよって間に優勝! それまでは毎年ずっとコールド負けだったんだよ。
後輩 ラッキーじゃないですか!?
先輩 それが、県大会優勝の三日後には、その転校生、また転校しちゃって。きっと、その転校生に野球好きの幽霊さんが付いてたんでしょうね。でもそれからは、ライトに飛んだボールを取ろうとした外野の目に鳩のフンがおっこちて、三塁打になっちゃったり。九人しかいない部員の一人が試合前に盲腸になったり、もうさんざん。今日も監督以下部員全員でお払いに行くって。
後輩 こわ~い・・・・・・
先輩 アハハハ、じゃあね・・・・・・
後輩 先輩。
先輩 え?
後輩 その手に抱えてるものはなんなんですか、わたしには見えないんですけど?
先輩 ああこれ? 幽霊さんのウンコ。
後輩 ウンコ!? 
先輩 うん・・・・・・こ。(後輩ずっこける)
後輩 幽霊さんがウンコするんですか?
先輩 生きてる人のウンコとはちがうけどね。生きてたころの恨み、つらみを時々吐き出しに来るの。演劇部の部室に。それを時々校長室の裏に捨てに行くの。
後輩 どうして演劇部に?
先輩 わたしって、話やすいってか頼られやすいのよね。トコもそう言ってたじゃん。
後輩 先輩、幽霊さんが見えるんですか?
先輩 ハハハ・・・・・・まだわかんない?
後輩 え?
先輩 幽霊さんが見えるのは、幽霊さんだけ。
後輩 ってことは・・・・・・
先輩 そう、わたし幽霊さんなの。
後輩 え!?
先輩 去年のコンクールで、スポットライトが倒れてきてね。打ち所が悪かったのね。
後輩 そんな・・・・・・
先輩 そして・・・・・・まだ気付かない?
後輩 え?
先輩 そんなわたしが見えるってことは、トコちゃん、あなたも幽霊さんなのよ(ずっこける後輩。高笑いする先輩)
二人 チャンチャン。ありがとうございました! 演劇部、どうぞよろしく!

これも学校やクラブの状況に合わせて、両方、あるいは片方を男にして上演することも可能である。
                   大橋むつお
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高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草38』

2012-03-22 09:54:58 | エッセー
わたしの徒然草38

徒然草 第三十八段

 名利に使はれて、閑かなる暇なく、一生を苦しむるこそ、愚かなれ。


これは、ちょっと意訳がいる。単なる世捨て人の決まり文句ではないだろうと思う。
俗な世捨て人は、世俗を捨てることによって、なにか悟りを開けるようなことを言うが、実は、単なる現実からの逃避であることが多い。それを言い当てたような格言がある。
「小人閑居して不善をなす」
つまり、つまらん世捨て人は、一人すまし顔で暮らしていても、ろくな事はしない。という意味である。へんなブログや、ツィッターで、ろくでもないことを書いたり、つぶやきたおしたり。したり顔して同窓会などで、晴耕雨読を気取ってみたりする。

まるで、五十五歳で早期退職をして、毎日駄文を書いているわたしに対する警句のようなものである。
わたしは、高校教師として三十年。メシの種にならない芝居に関わって四十年余り。気が付けば、大阪で高校演劇や、アマチュア演劇(わたしは市民演劇とよんでいる)に関わっている人間としては最古参の部類に入ってきた。ブログで劇評を書くこともあり、劇団によっては、招待券入場者名簿にサインをすると、こんなこともある。
「あ、大橋先生ですか。お噂はかねがね……」
などと、劇団の代表者の方からご挨拶を受けることもある。

また、高校演劇では、こんな風である。
コンクールなり、発表会に行くと、遠巻きに目礼されるか、完ぺきにシカトされるか。
わたしは、今の高校演劇。特に大阪の高校演劇は、創作率が九十パーセントを超え、芝居の根幹のところで踏み外していると折に触れて言ったり、書いたりしているので、正直嫌われている。ブログのコメントの半分近くが批判的なものであった。
――大阪の高校演劇を潰すつもりですか!
――どこまで敵をつくったら気がすむんですか!
――自分が全てだとは、寂しくはありませんか?
――キショイんじゃ! ウザイんじゃ!
などなど……。
わたしは、高校演劇の衰退は、本の貧しさと排他性(オタク化)にあると確信しているので、あまり痛くも痒くもない。

しかし、この兼好のオッチャンの言葉である。                  
「 名利に使はれて、閑かなる暇なく、一生を苦しむるこそ、愚かなれ」
演劇の世界で一目置かれることと、大阪の高校演劇で、ここまで嫌われること。相反するようだが、兼好のおっちゃん言うところの、「名利に使われて、閑なる暇なく」の状況では同じなのではないかと思う。前者はチヤホヤ、後者はケギライ。ケギライされても、自分が正しいと思っているので、後者も、ほとんど前者の名利と同じである。
「一生を苦しむこそ、愚かなれ」
この言葉は、「自分のことも分からずに」という意味が頭に隠れていると思っている。

わたしは、常々、高校生や高校演劇関係者に、こう言っている。
「もっと本を読みなはれ、簡単に創作なんかやったらあきまへん」
実際、集団による表現という点では、吹奏楽と同じである。しかし、高校の吹奏楽がコンクールなどで、自分たちが作曲し、演奏することはありえない。
吹奏楽の関係者は、作曲ということの難しさと同時に、作曲への畏敬の念をおもちである。だから、普通の人でも、立ち止まって聞いてみようかと思う。
ネットでアクセスすると「高校吹奏楽」は「高校演劇」を上回る検索数が出てくる。
理屈の上では、わたしの立論は正しいと思うのだが、こと自分に関してはどうであろう?
どれだけ、自己研鑽ができているであろうか。
『押しつけ映画評』を同誌に連載している滝川浩一のオッサンとは、四十年に近い付き合いである。自分で「志忠屋」という飯屋を経営しながら、映画評論家としても顔を売っている。年間に読む本は十倍の開きがある。映画にいたっては、わたしの十年分を二週間ほどで観ている。
この三十八段は、含むところ大なるものがある。

と、ここまで素直に自戒してみるのだが……。
兼好のオッチャンも、案外あの時代のエリートやらエスタブリッシュな方々との付き合いが多かった。
兼好のオッチャンも、京の俗塵の中で生きており。これは、自分自身を棚に上げてのことかもしれない。
自戒とは、このようにヌケヌケと人ごとのように書けなければイッチョマエではないのかもしれない。
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高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草37』

2012-03-17 21:04:22 | エッセー
わたしの徒然草第三十七段『今更、かくやは』

朝夕、隔てなく馴れたる人の、ともある時、我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ、「今更、かくやは」など言ふ人もありぬべけれど、なほ、げにげにしく、よき人かなと覚ゆる。
疎き人の、うちとけたる事など言ひたる、また、よしと思ひつきぬべし。

普段慣れ親しんだ人が、急に気遣いして、よそ行きの言葉や態度で接してくることに、こう言うひとがいる。
「いまさら、どうしたんだよ。なんか居心地が悪いや」
しかし、オレは思うんだよなあ。そういう時って、つくづく、その人がユカシイってのか、いい人に思えちゃう。
で、もって、普段よそよしくしてる人が、急にうち解けたってか、馴れ馴れしくしてくるのもいいもんだよなあ(^o^) 一見、兼好のオッチャンの対人感覚が分からなくなる段である。

親しいってか、オトモダチと思っていた人間が急に改まったりすると、普通はこう思うよね。
「こいつ、なにか後ろめたいことでもやりやがった……?」
あまり親しくないやつが、急に馴れ馴れしくしてくると、こう思う。
「なんだよ、適当に話し合わせてただけなのに、なんかオトモダチだって誤解するようなこと言っちゃったっけ……?」
これを「いいもんだよなあ(^o^)」と、思っちゃうわけだから、分からなくなる。

実は、これは若い女の子への、感想だというのが真相らしい。
兼好のオッチャンは、生涯シングル。読みの浅い人は、兼好のオッチャンという人は、達観した世捨て人のように思っている人が多い。
しかし、現実の兼好のオッチャンは、女の子とも適当によろしくやっている。
前段や、その前を読んでいると、さも人ごとのように書きながら、女の子にメロメロになって、夜中に、その子の家の周りをうろついたり、しばらくご無沙汰の彼女が「お見限りじゃないのよさ」と、露骨に言ってくるんじゃなくて「アシスタントでいい子いないかしら」と、間接的に水を向けてくれる女の子っていいよなあ。などと言っている遊び人である。
女の子、多分その道のプロ。今風に言えば、東京じゃ銀座のオネエサン。大阪で言えばミナミや、北新地のその道のプロ。そのプロの男心のつかまえ方の上手さについて書いているよような様子。
「ケーさん、いえ先生。今日は、ゆっくりしていってくださいな。なんだか、わたし先生と、ゆっくり話したい心境なんです……ご迷惑じゃなかったら……」
「先生……兼チャンでいいよね。なんか兼ちゃんテキトーにしか話してくんなかったから、あたしもね、そんな風じゃったじゃん。今夜はアプローチしていいかなあ。なんならアタシのことフライングゲットしちゃう?」
てな駆け引きを喜んでいるような中年のオッサンである。

三文文士、教師の落ちこぼれであるわたしには縁のない話しである。

しかし、女性から急に態度や物言いをガラッと変えられたことは度々あった。
二十年ほど前、組合が二つに割れたことがある。わたしは、こう主張した。
「あくまでもN教組に残るべきやと思います。もしZ教に加盟するなら組合の規定に従って、組合員全員による投票が必要なんとちゃいますか」
これに対して、女性組合員のオバサンにこうやられた。
「我々は、上部組合組織に加盟するんじゃないんです。自分たちで新しい組合を創るんです。だから、再加盟に関わる全員投票には馴染みまセン!」
「そやかて、昨日までは全員投票必要や、言うてはったやないですか!」
「わたし達は学習したんです。その結果、こういう結論に達したんでス!」
「これがM集中制いうやつでっか?」
「違います。あくまでも、我々の自主的判断でス!」

これ、同じ大阪の教師同士のやりとりである。会議などで、カタクナに教条主義的なご発言をされるときに、なぜかこうなる。
日の丸、君が代で、いつも職員会議でもめた。そのときも、こうなる。
「日の丸も君が代も、軍国主義の産物とちゃいまんねんで。そのずっと前、明治のころにできたもんで、わたしらは終戦で、やっとそれを取り戻したんやないですか。思い出してください。子どもの頃、正月になったらみんな日の丸揚げてたやないでっか」
「そのころは、まだ私たち日本人は気づいていなかったんです。あの旗には、どれだけ血塗られた歴史がこめられているか! どれほどアジアの国々にご迷惑と恐怖を与えたか」
「アジア、アジアて言わはりますけど、どこのアジアでっか。知ってはりますか。パラオとかバングラディシュの国旗は日の丸がモデルになってまんねんで」
で、これに対し綺麗な標準語で、こう返ってきた。
「帝国主義者!」
「反動分子!」
「裏切り者!」

東京の人には分かりにくいでしょうが、大阪の人間、それも五十代以上の人が、「今更、かくやは」と、標準語を使うときは、往々にして「自分」がありません。若い人が使うときは、改まってキチンと話さなければならない面接の場合だったり、ちょっと気取ってみたいときなどで、カワユゲがあり、「よき人かな」と感じます。

また、普段は丁寧語で喋っている子が、急にくだけた言葉になることもあります。
学校で、十万円盗られた女の子がいました。
なぜ、そんな大金を持ってきていたかというと、その子は父子家庭の長女で、家事一般その子が仕切っていました。
その日は、家賃や公共料金の払い込みがあり、その子は放課後振り込もうと思って持ってきたのです。
学校は警察ではありませんので、取り調べにも限界がありました。体育の時間に起こったことなので、判明した直後に全員を会議室に集め、事情を説明したあと、無記名で各自に知っている限りのことを書かせ、五人の教師でそれを読みました。その間、生徒達の様子も観察しましたが、何も手がかりは出てきませんでした。
「ごめん、やれるだけのことはやったんやけど……分かれへん」
そう言うと、その子は涙を浮かべ、こう吐き出しました。
「センセ……うち、悔しい! 悲しい!」
疎き人が、うち解けた瞬間でした。でも、とても悲しい、残念なシュチュエーションでの「うち解け」でありました。

その子は、悔しさ、悲しさの持って行き場がありませんでした。
思わず、わたしに抱きつこうとしました。まさに「うち解け」た刹那でありました。そのままハグしてやればよかったのですが、その前の月、体育の先生が、ささいな事でセクハラを取られたことが頭をよぎり。一瞬の逡巡(ためらい)が出てしまいました。
その子は、すぐにそれを感じ、自制しました。ほんの刹那のやりとりでした。ほんの0・二秒ぐらいの時間でした。
わたしは、教師という立場の怯えがありました。それが逡巡になってしまいました。
その子は、そういうわたしの立場としての怯えも瞬時に理解し、一人で耐えていました。
その子は、限りなくうち解け、よき人でありました。

よき人になり損ねた、なんとも身の置き所のない思い出でありました。

【作者情報】《作者名》大橋むつお
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高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草 第三十六段 さもあるべき事なり』

2012-03-14 20:23:40 | エッセー
わたしの徒然草『第三十六段 さもあるべき事なり』
さもあるべき事なり、つまり「そういうこともあるべきだ」
「そういうこと」とは、以下の内容である。
あるオッサンが、何かの事情というか、気が乗らなかったので、今まで通っていた女のところへ、しばらく行けず(行かず)、少し敷居が高くなっちまったなあ……と思っていたら、彼女のほうから、こう言ってきた。
「今さ、使用人のニイチャンが一人足りないのよね、いい子がいたら紹介してよ」と、便りが届いた。「ずいぶんご無沙汰じゃないのよさ」などと、アカラサマに責めるのではなく、人手がたりないことにこと寄せて、そのオッサンが自然に来やすいような便りであった。でオッサン……彼は、彼女のところに自然なカタチで行きやすくなった。そういう彼女の機転の利いた心映えに、「そういうこともあるべきだ」なのである。
日本人は一般に気の利いた言葉がヘタクソである。国会中継などをみていてもセンセイがたのボキャ貧に、思わずチャンネルを変えてしまう。
欧米人は、平均的に言葉が上手い。
昨年、オバマ大統領がスピーチ中に、演台のエンブレムがポロリと取れて、コロリンと落ちてしまう、ハプニングがあった。気づいた大統領は、子どものように、エンブレムが取れたところを見てこういった。
「これが無くても、ボクが誰だかみんな分かってるよね?」
これが日本なら、首相は無視し、係りの役人がコソっと落ちたエンブレムを拾い、NHKは、その部分のテープをカットするか、アングルを変える。で、あとで、営繕担当の役人が始末書を書かされる。
エンブレムで思い出した。昨年アジアの某国高官が来日し、首相が使っている演台でスピーチをされた。この様子が某国で放送されると、こんなクレームがついた。
「あのマーク(桐の紋所)は、わが国を侵略した豊臣秀吉のマークであり、侮辱である」というものであった。日本の総理大臣は「大いなる臣」であるので、皇室の副紋である桐の紋を使っている。また、戦後日本国の紋章は菊紋をやめて桐紋に切り替えているので、日本国の紋章である。歴代功績のあった、臣にはこの紋の使用が許されてきた。だから江戸時代の小判にも桐紋の刻印がある。
それに、総理大臣の桐紋は「五七の桐」で、秀吉の「五三の桐」とは違う。こういう一見ささいなことではあるが、政府はきちんと説明をすべきである。

話がそれた。言葉の問題である。
チャーチル首相が、二日酔いで、議会に出たとき、ある婦人議員から、こう言われた。
「神聖な議会にそんな(二日酔い)顔で来るとはなにごとですか!?」
チャーチル首相は、こう答えた。
「どうも失礼、あなたのお顔はずっとそのままだが、わたしの顔は明日には元にもどりますんで、ご容赦を」
日本で言えば、問責決議かもしれない。いまのイギリスでもこのジョークは言えないかもしれないが、わたしは上手い返し方であったと思う。
ケネディー大統領が、宇宙飛行士に勲章を授与するときに、ポロリと落としてしまったことがある。テレビで全米中継の真っ最中である(アメリカのテレビは、アングルを変えたりしない) 大統領はにこやかに落ちた勲章を拾い上げ、こう言った。
「地上の大統領より、宇宙の英雄の栄誉を讃えて!」そして、勲章を宇宙飛行士の胸につけた。
ドゴールだったと思うのだが、ドイツがまだ東西に分裂していたころ、記者からこう質問された。
「東西ドイツの統一について、どうお考えでしょうか?」大統領はこう答えた。
「わたしはドイツが大好きです。そのドイツが二つある。それが一つになってしまうのは寂しいね」
こういう政治家は日本にはいない。しかし、この言葉については、「もうちょっと、お勉強なさっては」と、いう程度の問題である。欧米は、国の中で人種や宗教、思想の違いが大きく、自然と言葉や、その言い回しが発達してきた。
日本は、そういう問題が比較的に小さい。元来が人の和を尊ぶ農耕社会であるので、言葉には「推し量る」ということが尊ばれる。

今般の東日本大震災の折の天皇陛下の、お言葉に「雄々しき国民の……」というフレーズがあった。歴代の陛下が国民に対し「雄々しき」というフレーズをお使いになったことは、わたしが知る限り、明治からこっち、三回目でしかない。
最初は、日露戦争の開戦にあたり明治天皇がこのフレーズを使われた。二度目は終戦の明くる年、昭和二十一年の歌会始めで、国民を「雄々しき松」に例えて使われた。
そして今上陛下の今回のお言葉で、三回目である。そして救援に携わる人々の苦労をねぎらう人々のトップに「自衛隊のみなさん」と、おっしゃった。陛下が自衛隊という言葉を使われることは、日常においては無い。陛下が異例なお心、ご心配を今般の震災にお持ちになっておられるのが分かる。日本語には、このような忖度(そんたく)が必要な表現が多い。かつての日本人は、これに敏感であった。今の日本人は鈍感になった。そして言葉の表現は相変わらず下手なままである。

以前にも書いたが、わたしは晩婚で、婚約も四回やったと書いた。我ながら「ようやる~」である。プロポ-ズの言葉は何種類もあった、こんなのがあった。
「オレの、生命保険の受取人になれへん?」
「なんぼ入ってんのん。わたしの期待金額は高いよ~」くらいの返事を期待したのだが、彼女は、気まずい沈黙をもってこれに答えた。コタエタ~、この沈黙には。
「さもあるべき事」のような女(ひと)は、今も昔も少ないですなあ、御同輩……

大橋むつお (劇作家 八尾市在住)
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高校ライトノベル『ステルスドラゴンとグリムの森』

2012-03-14 09:15:43 | 戯曲

ステルスドラゴンとグリムの森

大橋むつお






時   ある日ある時
所   グリムの森とお城
人物  赤ずきん
白雪姫
王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
家来(ヨンチョ・パンサ)


幕開くと、夜の森のバス停。表示板と街灯が、腰の高さほどの藪を背景に立っている。街灯の周囲だけがなつかし色にうかびあがり、その奥の森の木々は闇の中に静もっている。時おり虫の声。ややあって、赤ずきんが携帯でしゃべりながら花道(客席通路)を小走りでやってくる。

赤ずきん ……うん、わかってる。でも朝が早いから、うんやっぱり帰る……ありがとう。婆ちゃんも、近ごろ森もぶっそうだから、オオカミさんにも言ってあるけど、戸締まりとかしっかりね……変なドラゴンが出るから、戸を開けちゃだめよ……え、ああ夜泣き女。それは 大丈夫、人間相手だったら赤ずきん怖くない……もう、そうやって人を怖がらせるんだから……じゃあ、またね、バイバイ(切る)……もうお婆ちゃんたら長話なんだから……最終バス……(時時刻表を見る)わ、出ちゃったかな……わたしの時計も正確じゃないから……排気ガスの臭いも残っていないし、バスはよく遅れるもんだし……大丈夫よね……なんとかドラゴンに、夜泣き女……オオカミさんも婆ちゃん守らなきゃとかなんとか言って、レディを送ることもしないで……本当は自分がビビってるんじゃん……でも、わたしは強い子良い子の赤ずきん、怖くなんか……

間、静寂、虫の声も止む。

赤ずきん ……怖くなんか……

静寂な中から、女のすすり泣く声が聞こえる

赤ずきん ……なに、今の……

森の闇と藪の間に、幽霊のように、顔を手で被って泣いている、立姿の女の影が浮かび上がる

赤ずきん 出たあ!……(舞台の端まで逃げて、ふと思いつく)……って、ひょっとして、そのコスチューム……ひょっとして、もしかして……
あなた白雪姫……?
白雪 (泣いたままコックリする)
赤ずきん あ、あなたって呼び方むつかしいのよね。思わず白雪姫って、呼びすてにしちゃったけど、どうお呼びすればいいのかしら? ユアハイネス? 殿下? 白雪姫様? プリンセス・スノーホワイト、それともシュネー・ビットヒェン?
白雪 ……雪でいいわ。
赤ずきん 雪だなんて、まるでそっ気ない冬の天気予報みたい……
白雪 なら、雪ちゃん。日本で最初の翻訳では雪ちゃんだった。
赤ずきん 雪ちゃん……?
白雪 白雪でもいいわ、同じグリム童話の仲間としては。でも、わたしとしては、より親しみの感じられる雪ちゃんの方が嬉しいんだけど……
赤ずきん ん……でも、それだと対等にわたしのことを呼んでもらった場合、赤ちゃんになっちっちゃうでしょ。年上でもあるし……白雪さんてことで……
白雪 ありがとう、敬意をはらってくれたのね、赤ずきんちゃん。
赤ずきん どういたしまして……でも、その白雪さんが、どうしてこんなところで泣いているの? ひょっとして近ごろ評判の夜泣き女って……
白雪 多分、わたし。このごろ夜になると、こうして泣きながら森をさまよっているから……
赤ずきん 白雪さんて、ゲームで言えばミッションコンプリートの一歩手前、九十九パーセントクリアの状態でしょ?
白雪 はい……
赤ずきん 無事に毒リンゴ食って仮死状態になり、小人さんたちにガラスの棺に入れられて。花屋一件借り切ったぐらいの花に囲まれて、あとはいよいよ待つだけでしょ……その、王子さまがあらわれて……その、いいことすんのが……
白雪 そんな、いいことだなんて……
赤ずきん わたしなんか、せいぜい、おばあちゃんがホッペにキスしてくれるぐらいのもんだからね、子供ってつまんない。
白雪 ……
赤ずきん どうしたの、クリア寸前に邪魔が入ったの?
白雪 いいえ。ちゃんとガラスの棺に納まって、小人さんたちが心の底から嘆き悲しんでくれました。そして小人さんたちがその場を離れたその後に定石通り、白馬に乗った王子さまがあらわれたのです。アニマ・フォン・モラトリアム・ゲッチンゲン王子が……
赤ずきん やったじゃん!
白雪 そして、棺の蓋を開け、熱い眼差しでカップメン一杯できるほどの時間、わたしの顔をご覧になり……そして……口づけをなさろうと……なさろうと……一センチのところまで唇を寄せてこられて……
赤ずきん 寄せてこられて……ゴクン(生つばをのむ)
白雪 そして、溜息をつき、せつなそうに首を左右に振られては帰ってしまわれるの、毎日毎日……だからわたしは生き返ることができず、日が落ちてから、夜ごと幽霊のように森の中をさまよっているの……日が昇れば、またコウモリのように洞窟ならぬ、ガラスの褥(しとね)にもどらねばならない。こんなことが夏まで続けば、わたしミイラになってしまうわ。
赤ずきん どうして……
白雪 どうしてだかわからない。毎朝きまった時間に、あの方の馬の蹄の音が聞こえる……今日こそはと胸ときめかせ、棺の蓋が開けられ、あの方の体温を一センチの近さで感じて、悶え、あがいて……でも、わたしは指一本、髪の毛一筋動かすこともできない。この生殺しのような苦しみを一筋の涙を流して知らせることもできない。七人の小人さんたちも、木陰や藪に隠れて、その様子を見てくやしがり、せつながってくれている。でも体が自由になる夜、小屋にもどるわけにはいかない。小人さんたちにわたしの苦しみを悟られるわけにはいかない。でも、じっとしていては気が狂いそう。いえ、もう狂っているかも知れない。夜な夜な森の中をほっつき歩くようじゃね……いっそ、月明かりをたよりにわたしの方から王子さまのもとへ……もう、はしたない……
赤ずきん はしたない?
白雪 なんて言ってる場合じゃない。はしたないだけなら、とうにこの森を抜け出し、王子さまのお城にむかっているわ。こう見えても、水泳やロッククライミングは一流の腕よ。王子さまの部屋なんかヒョイヒョイっと……でも、何の因縁か、夜、体は自由になっても、この森のいましめから外へ出ることができない、きっとリンゴの毒気が、悪魔と呼応し、この森に、わたしだけをいましめる結界を張ったのよ。
赤ずきん 神さまかも知れないよ。
白雪 神さま、神さまがどうしてこんな意地悪を?
赤ずきん 悲しみとせつなさと……それに育ち始めた憎しみで、ひどい顔になってるよ。神さまでなくとも、そんな白雪さんを人目にはさらしたくなくなるよ……今はお后の魔法の鏡も、気楽に真実が言えると思うよ。
白雪 (コンパクトで自分の顔を見て)ほんと、ひどい顔……
赤ずきん 悲しみとせつなさはともかく、その胸にともりはじめた憎しみを育ててはいけない……憎しみは人を化物にするわ。
白雪 うん……自信はないけど。
赤ずきん 同じグリムの仲間だ、一肌脱いであげる。夜は最終のバスが来るまで話し相手になってあげる。そしてできたら王子さまに会って話もしてくるよ。
白雪 ほんと?
赤ずきん うん、王子さまにも何か事情があるのかもしれないからね……あ、バスが来る(遠くから狸バスの気配)じゃ、それから、変なドラゴンが森に住みつきはじめたから気をつけてね。
 
バスの停車音。ライトを絞り、バス停のかなり手前で停車する。

赤ずきん 何よ、バス停はここよ! ライトまで絞っちゃって!
狸バス (声、狸語でなにやら語る)
白雪 なんて言ってるの?
赤ずきん ドラゴンを避けるためだって……早く乗れって。じゃ、白雪さんも気をつけて!(下手に去る。バスの発車音)
白雪 お願い! がんばってね!
赤ずきん (遠ざかる声で)まかしといて……

いつまでも手を振る白雪。暗転。鳥の声がして朝になる。アニマ王子の洗面所。起きぬけらしく、ガウンの下はトランクスとシャツ姿で洗面台にあらわれる。ジャブジャブと顔を洗った後、家来?が差し出したタオルで顔を拭く。

王子 ありがとう……ん、おまえ!?
赤ずきん シー、お騒ぎになるとためになりません。
王子 なんだおまえ?
赤ずきん 赤ずきんと申します。近ごろ森の中での殿下のおふるまい、ぜーんぶ知ってます。
王子 え……?
赤ずきん 毎朝毎朝、未練たらしく白雪姫のもとに通い、唇一センチのところまで顔を寄せながら、首を横に振るだけで、なーんにもしないで帰ってくること。
王子 おまえ……
赤ずきん はい、今一度申し上げます。グリムの赤ずきんでございます。アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン王子さま……!

そこへ家来のヨンチョが、タオルを持ってあらわれる

ヨンチョ 申しわけありません、不寝番のルドルフが居眠っておりましたので、たたき起こそうとしたのですが、いっかな、こいつ起きません。こりゃあきっとゆうべ一晩宿直の者同志でオイチョカブでもしておったのではないかと、叱りつけておりまして……あ、御洗顔は。
王子 ああ、もう済んだ。タオルはこの者から……
ヨンチョ おお、赤ずくめの怪しき奴! 賊か!? 郵便ポストの化け物か!? サンタクロースの孫か!? それとも 王子様のお命をねらう赤き暗殺者か!? いずれにしても生かしてはおけぬ。それへ直れ、十重二十重にいましめて、そっこく……(刀の柄に手をかける)
王子 まてまて、この者は今日よりわたしの近習をつとめる、赤ずきんだ。
ヨンチョ あ、さようで……
赤ずきん よろしく赤ずきんよ。あなたは?
ヨンチョ 近習頭のヨンチョ・パンサである。
王子 着替えがしたい。
ヨンチョ はい、ただちにお召しものを!
王子 ゆっくりでよい。しばらくここで小鳥のさえずりなど聞いていたいのでな、ゆるりと、よいな。
ヨンチョ ゆるりと、アイアイサー!(退場)
王子 ……これでいいか?
赤ずきん さーすが。
王子 赤ずきん、どうしておまえは……
赤ずきん それはね……
王子 わたしは、これでも一国の王子、死んだ兄にはかなわねまでも、武芸一般人より優れておるつもりだ。白雪姫に会う時には特に気を配り、家来共も遠ざけておる。あたりには七人の小人達の忍んだ気配、それ以外に人の気配を感じたことはないぞ。ましておまえのような赤ずくめで隙だらけ、郵便ポストのように気配だらけの者など……
赤ずきん フフフ……顔を洗う時気づかなかったよ。
王子 あれは、いつもそこのヨンチョが……
赤ずきん わたしとヨンチョさん、ずいぶん気配が違うよ。
王子 ……まだ起きぬけなんだヨ!
赤ずきん 言葉が過ぎたら許してね。わたし……生きて泣いている白雪さんに会ったの。
王子 なに……白雪姫が生き返ったと言うのか!?(あまりの驚きに、赤ずきんを部屋の隅まで追いつめる)いつ!? どこで!? どんなふうに!? どうしていらっしゃる、あの姫は!?
赤ずきん 夜の間だけ。知らなかったでしょ……日が昇る頃には、あのガラスの棺にもどって、また夕暮れまで死んでいるの。そして、話を聞いたんです。毎朝のあなたの思わせぶりな訪れを……一センチにまで唇を寄せて……そして溜息をつき、せつなそうに首を振り、帰ってしまわれる。この仕打ちのため、白雪さんの心は悲しみとせつなさに加え、ゆうべは憎しみの芽さえ宿していたわ。
王子 仕打ちとは心外!
赤ずきん 心外はこっちよ、あのまま放っておいたら、いずれ人喰いの化物にでもなってしまうわ。
王子 わたしにも人に言えぬ葛藤があるのだ。しかし、今夜にでも森に出向き、生きているあの人に話をしよう、このまま放っておくわけにもいくまい。
赤ずきん それはやめてください!
王子 どうしてだ!? 夜とは申せ、愛している者が生きているというのに。それに、わたしに会えぬ苦しみゆえに悶え、憎しみの芽さえ育てはじめているというではないか!
赤ずきん だめなんです! 夜の白雪さんは昼間の白雪さんではありません。彼女の暗い内面が彼女の姿をも支配し、神もそれを憐れんでか、森に結界を張り、白雪さんが森から出られぬようにしておられます。おそらく王子さまが入ろうとしても、その結界が遮るはずです。
王子 しかし、おまえは……
赤ずきん わたしは赤ずきん、もとから、あの森とは縁のあるグリムのオリジナルキャラクターです。
王子 ……そうか、オリジナルでないわたしには、その結界が越せぬか……
赤ずきん 元気を出してください。日があるうちは、森の出入は自由です。どうか日のあるうちに……そして白雪さんに口づけを……
王子 それができないのだ!
赤ずきん どうして!? あなたの口づけ一つで、白雪姫の物語は、ミッションコンプリート。最後のピースの一コマが埋められ大団円を迎えられるのに!
王子 わたしにその資格はないのだ。物語をゲームとこころえる者には、それでミッションコンプリートの大団円なのだろうが……それから先、わたしはあの人を妃とし、この王国を、この手で治めていかねばならないのだ。
赤ずきん あなたは、白雪さんが嫌いなの?
王子 愛している、心から。熱い口づけを交わし、あの人をしっかりとこの胸に抱きしめたい。あの人を生き返らせたい。その思いで、この胸は一杯だ。もし切り開いて見せられるものなら、この胸たち割って、この真心を、あの人にもお前にも見せてやりたいぐらいだ!
赤ずきん それならどうして!
王子 わたしには無理なのだ、あの人を生き返らせることはできても……幸福にしてあげることができない……!
赤ずきん どうしてよ!
王子 わたしには兄がいた……アニムス・ウィリアム・フォン・ゲッチンゲン。本当はこの兄が姫と結ばれるはずだった、いわばグリムのオリジナル……兄は幼いころから王たるべく育てられ、また、その素質も十分であった。その兄が昨年、病であっけなく死んだ、グリム兄弟も予想もしていなかっただろう。そして、このわたしに、一生気楽な部屋住の次男坊と決めこんでいたわたしに王位継承権がまわってきた……幸い母は元気だ、当分わたしに王位がまわってくることはあるまい。遠いその日まで、少しずつがんばれば……わたしにも王の真似事ぐらいはできるだろう。だが今はそれに加えて、あんな素敵な人を妃にしたら、わたしには荷が重い……あの人を不幸にする!
赤ずきん 要は自信がない、それだけのこと。
王子 そう簡単に言うな! わたしはチョー理性的に言っているのだ。毎日王子としての公務、加えて帝王学に始まる十を超える学習。あの兄が二十数年かけて身につけたものを、わたしはこの数年で身につけなければならない。本番直前に成りあがった、無名の代役のようなものだ。あの人を生き返らせ妃とすることはたやすい。しかし、あの人にかまっている時間がわたしにはない。毎日あの人の眠る森にたちよるために、わたしは毎日三十分、睡眠時間を犠牲にしている。それでも女王である母は良い顔をせぬ。妻にすれば公務のために何日も、何週間何ヶ月も、言葉一つかけてやれない生活が簡単に想像できる。単に自分の醜い独占欲を満足させるだけだ。そんな人形のような扱いをあの人に強いることは、わたしにはできない。
赤ずきん やっぱり、要は自信のなさ、それだけのことよ。
王子 何度も言うな! あの人を籠の鳥にして、それでいいと言うのか!?
赤ずきん ハー(溜息)見かけはいい男なのにねえ……
王子 兄とは製造元がいっしょだからな。兄は車で言えばレーシング仕様の特別製、それにひきかえ、この僕は、ボディこそ似ているものの全てがノーマル仕様の大衆車、それも型落ちのアウトレット。とても勝負にはならない。
赤ずきん そんなことないわよ。たとえ大衆車でレースに向かなくとも、家族を乗せるファミリーカー、シートが倒せたり、クッションやインテリアがよかったり、そういう人を和ませるスペックは、レーシングカー以上よ。
王子 でも、今はその大衆車がカーレースに出ろといわれてるいるんだ! 華奢なエンジンを無理矢理強化し、軽量化のために内装は剥がされ、ロールバーのパイプが張りめぐらされて、とても人を、それも愛する人を乗せる余裕なんてない。
赤ずきん 何よ、弱虫! やってみもしないで結果なんてわかりはしないわ!

この時、ヨンチョが衣裳を持ってあらわれる

ヨンチョ 御衣裳をお持ちいたしました。
王子 ごくろう。

以下着替えをしながら、ヨンチョが慣れた手つきで介添えする。

赤ずきん 愛しているならやってごらんなさいよ!
王子 シー、話はそこまでだ。
ヨンチョ わたしのことならお気づかいなく。小鳥のさえずりは聞こえても、殿下の大事なお話は耳に入らなくなっております。それが近習と申すもの。でも、いざという時はお役に立ちますぞ。申すではありませんか。遠くの親類よりも、近習の他人とか、ウフフ……
二人 ズコ(ずっこける)
王子 ギャグは言う前に申告するように。おまえのダジャレは心の準備がいる。
ヨンチョ ……
赤ずきん そんなに落ち込まなくても……
ヨンチョ 深刻になっております……わかります? 申告と、深刻……アハハ(二人、よろめく)
王子 いいかげんにしろ(着けかけた剣で、ポコンとする)
ヨンチョ 僭越ながら、森へのお通いは、殿下にとって大事大切な御日課と存じます。殿下が森におられる間、森の入口で邪魔の入らぬよう、しっかと目を配っております。心おきなく御考案の上、そろそろ御決断を……
赤ずきん 王子さま……
王子 うん?
赤ずきん 王子さまは、自分でやらなきゃならないことばかり気にかけているわ。
王子 どういうことだ?
赤ずきん 愛しあっているならフィフティーフィフティー、白雪さんにも、変化と努力を求めなければ。そう、王子さまが懸命の努力をなさっているなら、きっと喜んで、我慢もし、努力もするはずよ。夫婦というものはいつもそう、病める時も貧しき時も互いに助けあい……結婚式で神父さまもそうおっしゃるじゃない。彼女は、その苦労をきっと進んで受け入れると思うわ。
王子 ……そうだろうか?
赤ずきん そうよ。王子さまが期せずして、ファミリーカーからレースカーへの変貌をとげざるを得ないのなら、チャンピオンにおなりなさい! キング・オブ・ザ・レーサーに! そして白雪さんは……
ヨンチョ レースクイーンに! よろしゅうございますぞ。ハイレグのコマネチルックに網タイツ、大きなパラソルを疲れたレーサーにそっと差しかけて、ひとときのくつろぎを与える……
王子 レースクイーンか……
赤ずきん もう! 変な方向に期待を膨らませないでください! ヨンチョさんも! 白雪さんは、見かけ華やかなレースクイーンよりも、ピットクルーのチーフをこそ望むでしょう。レース途中で疲れはててピットインした王子さまを、他のクルー達を指揮し、みずからも油まみれになり、限られた時間の中で、タイヤやオイルを交換し、ガソリンを注入し、チューニングをして、再びレースに復帰させる。白雪さんは、その立場をこそ望み、見事にこなしていくと信じます。美しい人形のような妃としてではなく、油まみれの仲間として彼女を愛してやってください……王子さま。
王子 仲間としてか……ありがとう赤ずきん、迷った山道で道しるべを見つけたように気持ちが軽くなった。よし! このこと、この喜びを決心とともに母上に申し上げ、その足で森へ急ぐぞ。二人とも、それまでに馬の用意を……!
ヨンチョ 馬は何頭用意すればよろしゅうございますか?
王子 おまえの名前ほどに……(いったん去る)
ヨンチョ 俺の名前ほどに……どういう意味だ?
赤ずきん ばかだね。ヨンチョだから四丁、つまり四頭という意味でしょ。王子さまとヨンチョさんとわたしの分……そして白雪さんの分!
ヨンチョ なるほど、おめえ頭いいな。
赤ずきん グリムの童話で主役を張ろうってお嬢ちゃんよ、頭の回転がちがうわよ。

王子が再びもどってくる。

王子 すまん、馬の数は、おまえの兄の名前の数ほどに修正だ!
ヨンチョ と、申しますと
王子 わたしは姫と同じ馬に乗る。鞍もそのように工夫しておけ、では……(緊張して額の汗をぬぐう)まず母上から口説かねば……(去る)
ヨンチョ 女王さまは難物だからな……しかし同じ馬に肌ふれあい互いのぬくもりを感じあいながら……これはやっぱりレースクイーンだべ。

王子再々度もどってくる。

王子 バカ、変な想像をするな(ゴツン)
ヨンチョ あいた!
王子 今度こそ行くぞ、母上のもとへ……!

王子上手袖へ、ヨンチョがそれに続くとファンファーレの吹奏、ドアの開く音。

ヨンチョ 皇太子殿下が朝の御あいさつにまいられました!
女王 (声のみ、ドスがきいている)おはいり……モラトリアム……
王子 (うわずった声で)お、お早うございます母上……

ヨンチョをともない上手袖へ、ドアの閉じる音。

赤ずきん 王子さま、がんばって……!(手にした王子のガウンを抱きしめている)

暗転、フクロウの声などして、夜の森のバス停が浮かび上がる。花道を、携帯でしゃべりながら赤ずきんがやってくる。

赤ずきん ごめん、今日はそういうわけで遅くなる、行けないかもしれない。どうしてもつきとめておきたいの、だから婆ちゃんごめんね(切る) 何よ、てっきり白雪さんを連れてもどってくると思ったのに、もどってきたのは、いつもどおり王子一匹! 白雪さんはどうしたの? あの眉間によせたシワはなんなのよ!? 聞いてもちっとも教えてくんないし、ヨンチョのおっさんもあてになんないし……白雪さーん……白雪さーん……と、ここにも姿が見えない。棺は空だったし、きっと森の中にいるはず、小人さんたちのところにいるはずもないし心配だなあ……白雪さーん!

花道に、腕をつり、杖をつきながら、傷だらけの白雪があらわれる

白雪 赤ずきんちゃーん……
赤ずきん あ、白雪さん……どうしたのその怪我は!?(白雪をたすけ、舞台へもどる)何があったの、誰に何をされたの!?
白雪 (泣くばかり)
赤ずきん 泣いてちゃわからないよ。とにかく大丈夫だからね、わたしがついているから。携帯もあるし、いざとなったらお婆ちゃんもオオカミさんもいるからね。ね、どうしたの?
白雪 あの、あのね、ドラゴンがあらわれてね……まだ夕陽が沈みきっていないのにあらわれて、ようやく動けるようになり始めたわたしを襲ったの。今日は側にあった棒きれで追い払ったけれど……明日は殺されてしまうわ……(泣く)
赤ずきん 大丈夫、わたしがついているから、ドラゴンだろうが何だろうが、指一本触れさせやしないんだから……
白雪 ありがとう……今はあなただけが頼り……小人さんたちにもあんな姿は見せられない。心配して、怒ってドラゴンに立ち向かうでしょうけど、とても小人さんたちの手に負えるしろものじゃない。逆に返り討ちにあって全滅させられてしまうわ。
赤ずきん 大丈夫、今夜はおばあちゃんの家に匿ってもらうわ……今朝、お城に忍び込んで、王子さまと話をしたのよ。
白雪 え、お城まで行ってくれたの?
赤ずきん 言ったじゃないか、まかしといてって。水泳とロッククライミングは、白雪さんだけの専売特許じゃないのよ。
白雪 赤ずきんちゃんもやるんだ……
赤ずきん あたりまえよ、友だちじゃないか! 王子さまは真面目な人だったよ。ただ真面目すぎて……
白雪 真面目すぎて……?
赤ずきん 口づけをして救けてあげることはやさしいけども、その後、白雪さんを幸福にできないって。
白雪 どういうこと、他に好きな人でも……
赤ずきん そんなのいないよ。あの人も白雪さんのことが大好きだって!
白雪 だったら
赤ずきん 王子さまは、去年お兄さんを亡くしたの。それで王位第一承継者の皇太子になってしまって、今そのための勉強と訓練が大変なんだって……
白雪 それはわかるわ、わたしも違う王家とはいえ王族の一人。皇太子とそれ以下の並の王子とは、その自由さが天と地ほどに違う……だけど、それを考えても、この仕打ちと言ってもいいおふるまいは理解できない。たとえ王子さまがどんなにお忙しく、お辛くても、それを分かち合ってこその夫婦……いえ、まだ口づけも誓言も交わしあっていないから夫婦とは言えないけども。将来を許しあった恋人としては当然の覚悟、そうでしょ。
赤ずきん そうだよ、それを、朝の一番鶏が時を告げる前からお城に忍び込み,宿直の二人を薬で眠らせて、王子さまが目覚めると同時に説得したわ。病めるときも貧しきときにも互いに助けあい、王子さまが帝王学を学ばれ、懸命の努力をなさっている間、きっと喜んで我慢も努力もされるはず。たとえ何日も顔を会わせなくても、たとえ夜遅く帰ってベットにバタンキューでも、きっと白雪さんは耐えて王子さまを支えてくれるはず。そう懸命にお伝えしたら、そこは賢明な王子さま、女王さまに朝の御あいさつに行かれるころには、ジュピターのように雄々しく……とまではいかないけども……ちゃんと白雪さん救出を神聖な使命とお考えになるようになったわ。わたしを近習の一人として森の入口まで、他の御家来習といっしょの供をするようにお命じになったくらいよ。
白雪 信じられないわ……今朝の王子さまは、いつにも増して、険しい御表情でひざまづいて、わたしの顔をいとおしそうにご覧になって、何やらつぶやかれるばかり。棺の蓋を開けようともなさらずに立ち去ってしまわれた。ごめんなさい……一瞬ではあるけれども、あなたの約束を疑りもした。でも、やはり一日や二日の説得ではあの方の心を動かすことはできないのだと、あきらめ……いえ、気長に待つことにしたの……でも、あのドラゴンののさばりよう……気長に待つうちに、日干しのミイラになる前に骨にされてしまいそう……
赤ずきん しっ! 伏せて、何か邪悪なものが……

二人身をひそめる。バサバサと音をたてて、ドラゴンが梢の高さほどのところを通り過ぎる気配がする(音と光で表現)

白雪 ……今の見えた?
赤ずきん ううん、気配だけ。多分ドラゴン。
白雪 そう、ドラゴンよ。夕方わたしを襲った時も、半分体が透けていたけど、とうとう……
赤ずきん ステルスになっちまいやがった。よほど気をつけないと、不意打ちをくらってしまう。この分では狸バスも……
白雪 どうしよう……
赤ずきん 仕方ない、今夜はわたしも婆ちゃんちに……

携帯を出そうとすると、下手よりかすかなパッシングと間の抜けたクラクション。

赤ずきん 狸バス、あんなところに隠れていたんだ……(狸語が返ってくる)え、今日は特別に婆ちゃんちまで送ってくれる? じゃ、白雪さんを送ってもらって、それから、ちょこっとだけ婆ちゃんと話して、それからお城まで……オッケー?(狸語)え、そのかわりしばらく休業? 仕方ないわねえ、あんなぶっそうなドラゴンがいたんじゃねえ……(白雪に)婆ちゃんに薬をもらおう、よく効くの持ってるから。じゃタヌちゃん、お願いね!(狸エンジンの始動音)

二人、下手の狸バスに行くところで暗転、小鳥たちの朝を告げる声で明るくなる。花道を、王子を先頭に、ヨンチョが続き、赤ずきん遅れて駆けてくる。

王子 だから何度も言ったろう、その場で気持ちが変わったのではない。姫の女性としての尊厳を守るために、わたしはあえて我慢をして……
赤ずきん なにが尊厳を守るよ、白雪さんの気持ちはズタズタよ。
王子 それを乗り越えて自分で行動を起こさねば、一生わたし、つまり男性に従属せねばならなくなる。男の口づけを待って生命をとりもどすなど、女性を男の玩具とし、その尊厳を汚すものだ。わたしに出来ることは、男とか女とかを越えた人間としての地平から「がんばれ、めざめられよ!」と叫び続けることだ。
ヨンチョ 王子は叫ばれた!
王子 「がんばれ、めざめられよ!」
ヨンチョ 「がんばれ、めざめられよ!」
赤ずきん ……それが何やらつぶやかれるってやつね。それ、自分の考えじゃないよね。
王子 わたしのの考えだ!
ヨンチョ 王子さまのお考えである!
赤ずきん 影響されたわね……女王さまに? 朝の御あいさつに行ってから変だもん。
王子 ……参考にはした。しかし自分の考えではある。
ヨンチョ 御自分の考えではある! とおおせられた。
赤ずきん うるせえ!
ヨンチョ おっかねえ……
赤ずきん 家来にバックコーラスしてもらわないと自分の考えも言えないの!? 女王にちょこっと言われただけでコロッと考え変わっちゃうの!?
王子 ……
赤ずきん わたし、昨日は自分の説得力に自信持ったけど、とんだピエロだったようね。さようなら、時間かかるけど別の王子さま探すわ。そして白雪さんの怪我はわたしが治して見せる!
王子 待て! 姫は怪我をしているのか……!?
赤ずきん ええ、森のドラゴンが成長し、夜と昼のわずかな境にも居座るようになり、ガラスの棺からよみがえろうとして、まだ低血圧のところを襲われた。心配はいらない、全治一ヶ月程度の怪我よ。それにこれからは、わたしたちグリムの仲間で白雪さんを守るから……じゃ、さよなら!
王子 待て、待て、行くな……行くなと申しておるのだぞ!(ヨンチョに)赤ずきんをつかまえろ!
ヨンチョ アイアイ(サー……と動きかける)
赤ずきん (花道の途中で立ち止まり)バカヤロー! そんなことも家来に言わなきゃできないのかよ!
王子 ……すまん、わたしの悪い癖だ……頼む、もう一度もどってきてはくれないか?

階段(花道のかかり)まで進み、手をさしのべる

赤ずきん その手は、白雪さんのためにとっておいてあげて(舞台へもどる)
王子 わたしは何をすれば……
赤ずきん 自分で決めて!
王子 何をすればいいか、今言おうとしたんだ!
赤ずきん そう……ごめん……
王子 わたしはドラゴンを倒す! で……どうしたらいい?
赤ずきん そうでしょ、けっきょく人に聞かなきゃ何もできない……
王子 すまん……
赤ずきん やっかいな相手です、成長してステルス化したため、ほとんど姿が見えません。それに、ほとんど夜にしか現れませんから、戦いは困難が予想されます。とどめには、銀の鉄砲に銀の弾……それも正面から急所を狙うか、戦いで弱ったところをしとめるしかありません。
王子 やろう! 銀の鉄砲なら母上のものがある。弾は鉛しかないから、急いで造らせよう。
赤ずきん 待って。並の銀の弾では効果は半分以下。製造から三十年以上たったもので、できたら神の祝福の籠った弾が望ましいんです。昔わたしを救けてくれた狩人のおじさんがそう言ってました。
王子 それはちょっとむつかしいぞ……
ヨンチョ なら、これを……兄のサンチョがお守りがわりにくれた銀の弾です。サンチョの御主人様が神の祝福をうけられたもので、四百年はたっていますで……
赤ずきん ありがとうヨンチョのおじさん。
王子 すまん、この礼はいずれ……
ヨンチョ いずれと言わずに今すぐに。
王子 なに? 抜け目のない奴だ、いくら欲しい?
ヨンチョ なあに、わたしもいっしょに戦わせて下さい。これが条件でさ。
王子 こいつ、わたしに仕えて初めて気の利いた台詞を吐いたな!
赤ずきん もともとはわたしのアイデアなんだからね!
王子 赤ずきん!
ヨンチョ 決まった! 
王子 三人寄れば文殊の知恵も団体割引!
赤ずきん 成功疑いなし!
ヨンチョ 合点!
王子 それじゃあ、実行は今夜、月のアルテミスが、太陽のアポロンと睨みあうころに。
二人 おお!
王子 では、作戦の成功を祈って!(剣を抜く)……一眠りしておこうか、(二人ズッコケる)おまえたちも、夜の戦いにそなえて眠っておけ(去る)
ヨンチョ アイアイサー
赤ずきん ヨンチョさん、もう少し打ち合わせをしておこう、仮眠はそれから。
ヨンチョ 合点だ、今眠らなくても、今夜が永遠の眠りの始まりになるかもしれないからな……

二人、王子とは反対側に退場。暗転。虫たちの集く声して、なつかし色に明るくなる。例の森のバス停前をめざして、主従あらわれる。バス停には「運休」と書いた紙が貼ってある。

王子 あのバス停だな、赤ずきんとの待ち合わせは?
ヨンチョ ちょいと早く来すぎたようで……
王子 気の早いアルテミスが山の上で頬杖ついて、この勝負を見物しているぞ。
ヨンチョ アポロンが西の山から片目だけ出して見物してござる。さても物見高い兄妹どもじゃ。
王子 お、あの赤いフードは?
赤ずきん ごめん、遅くなっちゃった。
ヨンチョ 大丈夫、まだ数分は昼の世界。しかしひやひやさせた分、何か土産があるんだろうな?
赤ずきん するどいねヨンチョのおじさん。
王子 なんだそれは?
赤ずきん 狼のマックスからもらってきたんだ。飲むと感覚が狼と同じくらいに鋭くなるんだよ。
ヨンチョ なんだかハナクソのような……
赤ずきん そんなもんじゃないよ、ちょっとくせがあるけどね(苦しそうに飲む)
王子 なあにハナクソでさえなければ……(飲む。とりつくろってはいるが気持ち悪そう)なあに大したことは……ない。
ヨンチョ おつな味だねえ……で、本当は何なんだい
赤ずきん 聞かない方がいい……
ヨンチョ そう言われると余計知りたくなる。
赤ずきん 青い狼のミミクソ!
二人 ゲッ?!
赤ずきん もどしちゃだめ! あーもどしちゃった。(王子はかろうじてこらえる)
ヨンチョ おまえが言うから……
赤ずきん ヨンチョのおじさんが聞くから……
王子 シッ! 来るぞ……
赤ずきん ほんとだ……
ヨンチョ え、どこに……?
王子 来た!
ヨンチョ え?……ワッ!

ドラゴンの降下音。一瞬目玉を思わせる光が走る、王子と赤ずきんは左右の藪に、素早く身を隠すが、ヨンチョのみ、ボンヤリ立っていてふっとばされる。脱げ落ちたヘルメットを拾いつつ……

ヨンチョ すまん、あのミミクソまだあるか?
赤ずきん 今度はもどしちゃだめだよ……
ヨンチョ ありがとう(あわてて飲む)
王子 今のはほんの小手調べ、上空を旋回しながら様子を見ている……
ヨンチョ 今度は儂にもわかる……
赤ずきん 王子さま。
王子 心配しなくても、貴重な弾を無駄に使ったりはしない。降りてきたところを二三度ぶちのめしてから、とどめに……
赤ずきん 違うの。王子さまには、もう一つ薬を飲んでもらいたいんです。
王子 今度は何のクソだ?
赤ずきん 違いますよ。お婆ちゃんからもらってきた幸福の薬、敵の打撃を弱める力があります。はい、このポーション!
王子 ヨーグルトみたいな味だなあ……
赤ずきん 天使たちが世界中の母親の愛情を一万人分集めて作ったエッセンスだそうです。
王子 そうか、一万人分の母性愛に守られるわけだなあ。
赤ずきん 王子さまは、この国でただ一人の王位継承者、大事にしていただかねば。
ヨンチョ 来るぞ!

戦闘のBGMカットイン、飛翔音、降下音、光が走る。三人それぞれに剣をふるい、ドラゴンに当たるたびに金属音がする。二三合渡りあうと、ドラゴンは再び上空へ、藪へころがりこむ三人(戦闘を歌とダンスで表現してもいい)赤ずきんは頬を、ヨンチョは腕に打撃を受ける。

王子 大丈夫か?!
赤ずきん ホッペを少し(頬横一線に出血)
ヨンチョ 右腕を少し、大丈夫でさあ……かえって燃えてきましたぜ!
王子 気をつけろ、今度は奴も気がたっている……来たぞ!

再び前に増す飛翔音、降下音、光が走る。激闘。ヨンチョ、赤ずきんは何度かころび、ヘルメットはとび、王子の服にも血しぶきが飛ぶ、前回にも増して激しい打撃の金属音。赤ずきんなど、藪までふき飛び、袖もちぎれ、胸から腕にかけて血しぶきをあび「大丈夫か!?」と王子の声、瞬間の気絶のあと、渾身の力をこめて、ドラゴンに斬りかかる(前の台詞を間奏にして、歌とダンスの処理でもよい)

赤ずきん オリャー!

ザクッと金属に切り込む音がして、王子が鉄砲を放つ。意外に重々しい「ドキューン」という腹に響く音。「キュー」っという悲鳴を残し、また上空へ逃げ去るドラゴン

赤ずきん やった?!
ヨンチョ ……いいや、傷は負わせたが急所は外したようだ……
王子 そのようだなあ……二人とも大丈夫か?
ヨンチョ まだまだ。
赤ずきん 大丈夫よ。

と言いながら二人とも、あちこち服は破れ、血しぶきをあび、あまり大丈夫そうではない(これらの傷、血しぶきは藪に忍ばせた黒子による。歌とダンスの処理なら省略)

ヨンチョ 弾はあと二発です。
王子 わかっている。今度こそしとめてやる!(銃を、目標にあわせつつかまえる)
赤ずきん 来る……!
ヨンチョ 来るぞ……!
王子 わたしにまかせろ!!

戦闘のBGM、カットアウト。腰を据え、今や水平からの攻撃の体制に入ったドラゴンにピタリと照準をあわせる王子。剣を構えながらも、動物的勘で身をよじり、王子にその瞬間を譲る二人。ドラゴンは王子一人を目指し渾身の力でいどみかかってくる。二発連続で発砲する王子。断末魔のドラゴンの叫び。この一連の運動はスローモーションでおこなわれる。わずかに間を置いて通常のモーションにもどると、ドラゴンの突撃してきた、ほとんど水平に近い方向から、大量のマンガ、マンガ雑誌、CD、ゲームソフトなどが、空中分解したミサイルの部品のようにとびこんでくる(CD等は実物を使うと危険なので、銀紙を貼ったボール紙などの代用品が良いと思われる。または、音と演技だけで表現してもいい)

ヨンチョ これは……
赤ずきん これがドラゴンの正体……
王子 マンガ……CDにゲームソフト……
赤ずきん みんな童話の世界の敵……
王子 敵にしてしまったんだ……
二人 ……?
王子 これらは、みな童話の世界から、別れ、自立し、育っていった者たちだ……それが異常繁殖し、ドラゴンとなって、この世界を食いつぶしかけていたんだ。
ヨンチョ とんでもねえ野郎共だ(踏みつける)
王子 よせヨンチョ……ドラゴンに変化したとは言え、もとはわが同胞、兄弟も同然、後ほど、塚をつくり丁重に葬ってやろう。
赤ずきん 王子さま……
王子 おお、こんなに怪我をして……二人ともよくふんばってくれた。
赤ずきん 王子さまこそお怪我は?
王子 大丈夫、みな軽いかすり傷だ……
ヨンチョ おう、あれに……!

花道に白雪があらわれる、怪我は意外にも治りかけていて、額や頬にバンソーコウを残す程度に回復しかけている。

白雪 王子さまーっ! 赤ずきんちゃーん! それに……
ヨンチョ 王子さま第一の家来にして近習頭のヨンチョ・パンサと申します。
白雪 こんにちはヨンチョさん、そしてありがとう。みなさんの御奮闘ぶりは、その丘の木陰から見せていただきました。三度目のドラゴンの突撃の時など思わず目をふせてしまいましたが、御立派にお果たしになられたのですね。
赤ずきん 駄目じゃないか、ちゃんとお婆ちゃんの家に籠っていなくちゃ。
白雪 ごめんなさい、赤ずきんちゃんの話を聞いて、時刻がせまってくると矢も盾もたまらず。それに夜になって体が自由になると、思いの他傷も……ゆうべお婆ちゃんにいただいた薬が効いたみたい、幸福のポーション。
赤ずきん でも、それ古い薬だから、効き目は半分だね、まだ、体のあちこちが痛いでしょ?
王子 そう、お体はしっかりといたわらねば。
白雪 それはこちらが申す言葉ですわ。三人とも、こんなに傷だらけになられて。
赤ずきん 白雪さん……
白雪 御心配ありがとう、でも、もう大丈夫。こんな痛み、薬の力で半分に、そしてこの喜びと感謝の気持ちでさらに半分に減ったわ……今までは仮死状態の心の目でしか王子さまを見ることができなかったけど、やっとこうして、フルカラー、スリーDのお姿として拝見して……バーチャルじゃない、本当の王子さまなのね。
赤ずきん きまってるじゃないか。百パーセント混じりっ気なしの王子さまだよ。
ヨンチョ 戦闘で、ちょいと薄汚れっちまってらっしゃいますがね、なあに一風呂あびて磨き直せば、この百五十パーセントくらいにはルックスもおもどりになります。
白雪 いいえ、このままでも、わたしには十分凛々しく雄々しくていらっしゃいます。これ以上磨かれては、そのまぶしさに目が開けていられなくなります。
王子 姫……
白雪 王子さま……
赤ずきん 行け! 白雪さん!

白雪、その場で半歩進み、目を閉じ、王子の口づけを待つ姿勢をとる。

王子 白雪姫……(白雪を両手で抱きしめ、口づけの一歩手前までいく)しかし、今のわたしは汗くさい……
三人 ガクッ……
白雪 何を汗くささなど、お気にしすぎです。それこそ殿方の雄々しさのしるし、その軽い塩味こそが男の値打ちと申すもの
赤ずきん がんばれ、塩味王子!
王子 エヘン、オホン……
ヨンチョ 勝負どころでございますぞ、殿下!
王子 ケホン、では……
白雪 どうぞ!

再度いどむ王子! しかし一センチの壁を越えられない……

王子 だめだ……わたしという男は!
白雪 王子さまあァ……
ヨンチョ 殿下ァ……(わが事のように身悶える)
赤ずきん こんなオクテ見たことないよ……
王子 (顔を被って)すまん……泣きたいくらい自分が情けないよ。
白雪 泣きたいのは、わたくしの方でございます。
ヨンチョ ここで口づけなさいませんと、姫は朝にはまた仮死状態におなりになるのですぞ……!
赤ずきん わかった、最後の手段!
王子 何か他の方法が……
白雪 あるの!?
赤ずきん 二人とも、例の一万人のお母さんの心のエッセンスの薬、幸福のポーションを飲んだでしょう?効き目は半分ほどしかないみたいだけど……握手をしてごらんなさい。ほら、二人とも愛しあっているから……握手と言っただけで、外分泌腺を刺激して汗ばんできたでしょ。口づけのかわりになるかもしれない……
王子 握手ぐらいなら……
白雪 少しもの足りないけど……
王子 では、姫、失礼します!
白雪 どうぞ……

握手する二人、赤ずきんはポンプの仕掛けにかかる。

赤ずきん 誓いの言葉を……黙っていちゃあ何の握手だかわかんないでしょ!
王子 なんと言えば……
ヨンチョ じれってえ……
赤ずきん 「愛しています」でいいわよ
王子 ……(息を吸う)
白雪 愛しています、神の御名にかけて、そしてわが命にかけて……愛しています。
王子 うん……あ、愛しています、神の御名と、この名誉と……
白雪 この方々の友情にかけて、愛しています。

この誓いの言葉の途中から、白雪のおなかが膨らみはじめる(白雪のスカートの中に風船が仕込んであり、白雪の背後で赤ずきんが懸命にポンプを押している。工夫は様々)

白雪 あ……ああ、なんということ!?
ヨンチョ おお、なんという神の御技!
白雪 ああ、おなかが、おなかの中に赤ちゃんが……
赤ずきん この薬、オクテのおじいちゃんを口説かせる時に使ったって言ってたけど、ほんとうに、効き目があったんだ!(白々しい。赤ずきんはかなりの役者である)
王子 これは、早く医者を産婆を……誰がサンバを踊れと言った(ヨンチョをはり倒す)そうか、人まかせではいかんのだな、赤ずきん?
赤ずきん そうよ、自分で、自分の愛する者のために行動をおこして!
王子 わかった、わたし自身、城下まで走り医者と産婆を連れてこよう、ヨンチョ、赤ずきん、それまで姫を頼んだぞ!
ヨンチョ アイアイサー!
赤ずきん まかしといてー!
白雪 がんばってね、あなた……



赤ずきん けなげねえ……少しかわいそうな気もするけど……
ヨンチョ ああやって大人になっていかれるんだモラトリアム王子は……
白雪 もういいかしら……
赤ずきん いいわよ、もう峠のむこうまで行っちゃったから。

白雪、手にしていたピンで、おなかを一刺しする、ボンと音がして、おなかの風船が割れる。

白雪 なにか騙したようで気がひける。
赤ずきん 念のためと思ったことが役にたったんだからいいじゃない。
ヨンチョ 儂も事前に話を聞いていなかったら、ぶったまげて怒ったかも知れねえだども、これでいいよ。さっきの戦闘指揮もなかなか立派なもんでがした。お子様の方は、男と女いっしょに暮らしていれば、どうにかなるもんだで。
赤ずきん おじいちゃんの時はうまくいったんだけどね。
ヨンチョ 何十年もたってるんだで仕方のないことさ。なんせ敵の攻撃をやわらげ、傷もやわらげ、オクテの男もやわらげようって欲ばった薬だもんなあ、その分効き目が早く抜けても仕方ねえ。
白雪 王子さまには想像妊娠だったって言えばいいのね?
赤ずきん でも、これでもう朝がきても仮死状態にもどらないはずだよ……気がとがめる?
白雪 ……
赤ずきん 王子さまの手を握ったとき、心が通じたような気がしたでしょ?
白雪 うん……シャイで恥ずかしがり屋で、普段は思ってることの半分も言えず、やりたいことの十分の一もできない……その分良くも悪くも思い込みが強く……これと思うことにはまっすぐで……
赤ずきん まっすぐ白雪さんを愛している。
白雪 手を握って王子さまと目があったとき、一瞬本当に赤ちゃんが……ウッ(口をおさえて、えずくはじめる)こ、これって……ウッ
赤ずきん 効いたんだ! そうか、つわりだよ白雪さん! 白雪さんも傷を治すためにゆうべ 飲んだから、飲んだもの同志手を握って汗を通して効き目が〇.五かける二で一に、元の効き目が出てきたんだ!
ヨンチョ ほ、ほんとけ!?
赤ずきん きっとそうだよ。
白雪 嬉しい……けど苦しい……ウッ……
赤ずきん がんばりな白雪さん。
白雪 うん……がんばる……
ヨンチョ 儂は何を?
赤ずきん 婆ちゃんとオオカミさんに知らせてきて。
ヨンチョ アイアイ……
赤ずきん ごめん、それよりも、王子さまを手伝って二人で、お医者様と産婆さんを背負って……
ヨンチョ アイアイ……
赤ずきん でも、やっぱりお婆ちゃんに……いえやっぱり王子さま……やっぱ婆ちゃん……がんばって白雪さんん……やっぱ王子……やっぱ……

白雪がえずきはじめた頃からハッピーエンドを思わせるテーマFI ここで一気にFUして、キャストと出られるだけの黒子、スタッフが出てきてフィナーレの歌とダンスになり……幕


作者の言葉
ちょっとだけ大人びた童話です。楽しく演じて下さい。そのためには、稽古は多めに装置はシンプルに。ドラゴンの空中分解、役者と息があわないと芝居をつぶします。マンガやゲームソフトは大量に、最低でも五メートルは飛ばして下さい。むつかしい場合は音響と演技だけでもやれます(音響は第二の役者という言葉もあります)白雪のおなかが膨らむ仕掛け、簡単ですが、あなどらず、何度も稽古してください、ふうせん以外の方法もあると思います。とにかくシンプルで確実なものを。花道は「できたら」ぐらいでいいです。
また、全員女子で、宝塚ののりでやっても楽しいと思います、女子校にもおすすめの一品です。


【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2
《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp
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小規模演劇部用の戯曲脚本『ステルスドラゴンとグリムの森』

2012-03-14 09:15:16 | 戯曲

ステルスドラゴンとグリムの森

大橋むつお






時   ある日ある時
所   グリムの森とお城
人物  赤ずきん
白雪姫
王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
家来(ヨンチョ・パンサ)


幕開くと、夜の森のバス停。表示板と街灯が、腰の高さほどの藪を背景に立っている。街灯の周囲だけがなつかし色にうかびあがり、その奥の森の木々は闇の中に静もっている。時おり虫の声。ややあって、赤ずきんが携帯でしゃべりながら花道(客席通路)を小走りでやってくる。

赤ずきん ……うん、わかってる。でも朝が早いから、うんやっぱり帰る……ありがとう。婆ちゃんも、近ごろ森もぶっそうだから、オオカミさんにも言ってあるけど、戸締まりとかしっかりね……変なドラゴンが出るから、戸を開けちゃだめよ……え、ああ夜泣き女。それは 大丈夫、人間相手だったら赤ずきん怖くない……もう、そうやって人を怖がらせるんだから……じゃあ、またね、バイバイ(切る)……もうお婆ちゃんたら長話なんだから……最終バス……(時時刻表を見る)わ、出ちゃったかな……わたしの時計も正確じゃないから……排気ガスの臭いも残っていないし、バスはよく遅れるもんだし……大丈夫よね……なんとかドラゴンに、夜泣き女……オオカミさんも婆ちゃん守らなきゃとかなんとか言って、レディを送ることもしないで……本当は自分がビビってるんじゃん……でも、わたしは強い子良い子の赤ずきん、怖くなんか……

間、静寂、虫の声も止む。

赤ずきん ……怖くなんか……

静寂な中から、女のすすり泣く声が聞こえる

赤ずきん ……なに、今の……

森の闇と藪の間に、幽霊のように、顔を手で被って泣いている、立姿の女の影が浮かび上がる

赤ずきん 出たあ!……(舞台の端まで逃げて、ふと思いつく)……って、ひょっとして、そのコスチューム……ひょっとして、もしかして……
あなた白雪姫……?
白雪 (泣いたままコックリする)
赤ずきん あ、あなたって呼び方むつかしいのよね。思わず白雪姫って、呼びすてにしちゃったけど、どうお呼びすればいいのかしら? ユアハイネス? 殿下? 白雪姫様? プリンセス・スノーホワイト、それともシュネー・ビットヒェン?
白雪 ……雪でいいわ。
赤ずきん 雪だなんて、まるでそっ気ない冬の天気予報みたい……
白雪 なら、雪ちゃん。日本で最初の翻訳では雪ちゃんだった。
赤ずきん 雪ちゃん……?
白雪 白雪でもいいわ、同じグリム童話の仲間としては。でも、わたしとしては、より親しみの感じられる雪ちゃんの方が嬉しいんだけど……
赤ずきん ん……でも、それだと対等にわたしのことを呼んでもらった場合、赤ちゃんになっちっちゃうでしょ。年上でもあるし……白雪さんてことで……
白雪 ありがとう、敬意をはらってくれたのね、赤ずきんちゃん。
赤ずきん どういたしまして……でも、その白雪さんが、どうしてこんなところで泣いているの? ひょっとして近ごろ評判の夜泣き女って……
白雪 多分、わたし。このごろ夜になると、こうして泣きながら森をさまよっているから……
赤ずきん 白雪さんて、ゲームで言えばミッションコンプリートの一歩手前、九十九パーセントクリアの状態でしょ?
白雪 はい……
赤ずきん 無事に毒リンゴ食って仮死状態になり、小人さんたちにガラスの棺に入れられて。花屋一件借り切ったぐらいの花に囲まれて、あとはいよいよ待つだけでしょ……その、王子さまがあらわれて……その、いいことすんのが……
白雪 そんな、いいことだなんて……
赤ずきん わたしなんか、せいぜい、おばあちゃんがホッペにキスしてくれるぐらいのもんだからね、子供ってつまんない。
白雪 ……
赤ずきん どうしたの、クリア寸前に邪魔が入ったの?
白雪 いいえ。ちゃんとガラスの棺に納まって、小人さんたちが心の底から嘆き悲しんでくれました。そして小人さんたちがその場を離れたその後に定石通り、白馬に乗った王子さまがあらわれたのです。アニマ・フォン・モラトリアム・ゲッチンゲン王子が……
赤ずきん やったじゃん!
白雪 そして、棺の蓋を開け、熱い眼差しでカップメン一杯できるほどの時間、わたしの顔をご覧になり……そして……口づけをなさろうと……なさろうと……一センチのところまで唇を寄せてこられて……
赤ずきん 寄せてこられて……ゴクン(生つばをのむ)
白雪 そして、溜息をつき、せつなそうに首を左右に振られては帰ってしまわれるの、毎日毎日……だからわたしは生き返ることができず、日が落ちてから、夜ごと幽霊のように森の中をさまよっているの……日が昇れば、またコウモリのように洞窟ならぬ、ガラスの褥(しとね)にもどらねばならない。こんなことが夏まで続けば、わたしミイラになってしまうわ。
赤ずきん どうして……
白雪 どうしてだかわからない。毎朝きまった時間に、あの方の馬の蹄の音が聞こえる……今日こそはと胸ときめかせ、棺の蓋が開けられ、あの方の体温を一センチの近さで感じて、悶え、あがいて……でも、わたしは指一本、髪の毛一筋動かすこともできない。この生殺しのような苦しみを一筋の涙を流して知らせることもできない。七人の小人さんたちも、木陰や藪に隠れて、その様子を見てくやしがり、せつながってくれている。でも体が自由になる夜、小屋にもどるわけにはいかない。小人さんたちにわたしの苦しみを悟られるわけにはいかない。でも、じっとしていては気が狂いそう。いえ、もう狂っているかも知れない。夜な夜な森の中をほっつき歩くようじゃね……いっそ、月明かりをたよりにわたしの方から王子さまのもとへ……もう、はしたない……
赤ずきん はしたない?
白雪 なんて言ってる場合じゃない。はしたないだけなら、とうにこの森を抜け出し、王子さまのお城にむかっているわ。こう見えても、水泳やロッククライミングは一流の腕よ。王子さまの部屋なんかヒョイヒョイっと……でも、何の因縁か、夜、体は自由になっても、この森のいましめから外へ出ることができない、きっとリンゴの毒気が、悪魔と呼応し、この森に、わたしだけをいましめる結界を張ったのよ。
赤ずきん 神さまかも知れないよ。
白雪 神さま、神さまがどうしてこんな意地悪を?
赤ずきん 悲しみとせつなさと……それに育ち始めた憎しみで、ひどい顔になってるよ。神さまでなくとも、そんな白雪さんを人目にはさらしたくなくなるよ……今はお后の魔法の鏡も、気楽に真実が言えると思うよ。
白雪 (コンパクトで自分の顔を見て)ほんと、ひどい顔……
赤ずきん 悲しみとせつなさはともかく、その胸にともりはじめた憎しみを育ててはいけない……憎しみは人を化物にするわ。
白雪 うん……自信はないけど。
赤ずきん 同じグリムの仲間だ、一肌脱いであげる。夜は最終のバスが来るまで話し相手になってあげる。そしてできたら王子さまに会って話もしてくるよ。
白雪 ほんと?
赤ずきん うん、王子さまにも何か事情があるのかもしれないからね……あ、バスが来る(遠くから狸バスの気配)じゃ、それから、変なドラゴンが森に住みつきはじめたから気をつけてね。
 
バスの停車音。ライトを絞り、バス停のかなり手前で停車する。

赤ずきん 何よ、バス停はここよ! ライトまで絞っちゃって!
狸バス (声、狸語でなにやら語る)
白雪 なんて言ってるの?
赤ずきん ドラゴンを避けるためだって……早く乗れって。じゃ、白雪さんも気をつけて!(下手に去る。バスの発車音)
白雪 お願い! がんばってね!
赤ずきん (遠ざかる声で)まかしといて……

いつまでも手を振る白雪。暗転。鳥の声がして朝になる。アニマ王子の洗面所。起きぬけらしく、ガウンの下はトランクスとシャツ姿で洗面台にあらわれる。ジャブジャブと顔を洗った後、家来?が差し出したタオルで顔を拭く。

王子 ありがとう……ん、おまえ!?
赤ずきん シー、お騒ぎになるとためになりません。
王子 なんだおまえ?
赤ずきん 赤ずきんと申します。近ごろ森の中での殿下のおふるまい、ぜーんぶ知ってます。
王子 え……?
赤ずきん 毎朝毎朝、未練たらしく白雪姫のもとに通い、唇一センチのところまで顔を寄せながら、首を横に振るだけで、なーんにもしないで帰ってくること。
王子 おまえ……
赤ずきん はい、今一度申し上げます。グリムの赤ずきんでございます。アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン王子さま……!

そこへ家来のヨンチョが、タオルを持ってあらわれる

ヨンチョ 申しわけありません、不寝番のルドルフが居眠っておりましたので、たたき起こそうとしたのですが、いっかな、こいつ起きません。こりゃあきっとゆうべ一晩宿直の者同志でオイチョカブでもしておったのではないかと、叱りつけておりまして……あ、御洗顔は。
王子 ああ、もう済んだ。タオルはこの者から……
ヨンチョ おお、赤ずくめの怪しき奴! 賊か!? 郵便ポストの化け物か!? サンタクロースの孫か!? それとも 王子様のお命をねらう赤き暗殺者か!? いずれにしても生かしてはおけぬ。それへ直れ、十重二十重にいましめて、そっこく……(刀の柄に手をかける)
王子 まてまて、この者は今日よりわたしの近習をつとめる、赤ずきんだ。
ヨンチョ あ、さようで……
赤ずきん よろしく赤ずきんよ。あなたは?
ヨンチョ 近習頭のヨンチョ・パンサである。
王子 着替えがしたい。
ヨンチョ はい、ただちにお召しものを!
王子 ゆっくりでよい。しばらくここで小鳥のさえずりなど聞いていたいのでな、ゆるりと、よいな。
ヨンチョ ゆるりと、アイアイサー!(退場)
王子 ……これでいいか?
赤ずきん さーすが。
王子 赤ずきん、どうしておまえは……
赤ずきん それはね……
王子 わたしは、これでも一国の王子、死んだ兄にはかなわねまでも、武芸一般人より優れておるつもりだ。白雪姫に会う時には特に気を配り、家来共も遠ざけておる。あたりには七人の小人達の忍んだ気配、それ以外に人の気配を感じたことはないぞ。ましておまえのような赤ずくめで隙だらけ、郵便ポストのように気配だらけの者など……
赤ずきん フフフ……顔を洗う時気づかなかったよ。
王子 あれは、いつもそこのヨンチョが……
赤ずきん わたしとヨンチョさん、ずいぶん気配が違うよ。
王子 ……まだ起きぬけなんだヨ!
赤ずきん 言葉が過ぎたら許してね。わたし……生きて泣いている白雪さんに会ったの。
王子 なに……白雪姫が生き返ったと言うのか!?(あまりの驚きに、赤ずきんを部屋の隅まで追いつめる)いつ!? どこで!? どんなふうに!? どうしていらっしゃる、あの姫は!?
赤ずきん 夜の間だけ。知らなかったでしょ……日が昇る頃には、あのガラスの棺にもどって、また夕暮れまで死んでいるの。そして、話を聞いたんです。毎朝のあなたの思わせぶりな訪れを……一センチにまで唇を寄せて……そして溜息をつき、せつなそうに首を振り、帰ってしまわれる。この仕打ちのため、白雪さんの心は悲しみとせつなさに加え、ゆうべは憎しみの芽さえ宿していたわ。
王子 仕打ちとは心外!
赤ずきん 心外はこっちよ、あのまま放っておいたら、いずれ人喰いの化物にでもなってしまうわ。
王子 わたしにも人に言えぬ葛藤があるのだ。しかし、今夜にでも森に出向き、生きているあの人に話をしよう、このまま放っておくわけにもいくまい。
赤ずきん それはやめてください!
王子 どうしてだ!? 夜とは申せ、愛している者が生きているというのに。それに、わたしに会えぬ苦しみゆえに悶え、憎しみの芽さえ育てはじめているというではないか!
赤ずきん だめなんです! 夜の白雪さんは昼間の白雪さんではありません。彼女の暗い内面が彼女の姿をも支配し、神もそれを憐れんでか、森に結界を張り、白雪さんが森から出られぬようにしておられます。おそらく王子さまが入ろうとしても、その結界が遮るはずです。
王子 しかし、おまえは……
赤ずきん わたしは赤ずきん、もとから、あの森とは縁のあるグリムのオリジナルキャラクターです。
王子 ……そうか、オリジナルでないわたしには、その結界が越せぬか……
赤ずきん 元気を出してください。日があるうちは、森の出入は自由です。どうか日のあるうちに……そして白雪さんに口づけを……
王子 それができないのだ!
赤ずきん どうして!? あなたの口づけ一つで、白雪姫の物語は、ミッションコンプリート。最後のピースの一コマが埋められ大団円を迎えられるのに!
王子 わたしにその資格はないのだ。物語をゲームとこころえる者には、それでミッションコンプリートの大団円なのだろうが……それから先、わたしはあの人を妃とし、この王国を、この手で治めていかねばならないのだ。
赤ずきん あなたは、白雪さんが嫌いなの?
王子 愛している、心から。熱い口づけを交わし、あの人をしっかりとこの胸に抱きしめたい。あの人を生き返らせたい。その思いで、この胸は一杯だ。もし切り開いて見せられるものなら、この胸たち割って、この真心を、あの人にもお前にも見せてやりたいぐらいだ!
赤ずきん それならどうして!
王子 わたしには無理なのだ、あの人を生き返らせることはできても……幸福にしてあげることができない……!
赤ずきん どうしてよ!
王子 わたしには兄がいた……アニムス・ウィリアム・フォン・ゲッチンゲン。本当はこの兄が姫と結ばれるはずだった、いわばグリムのオリジナル……兄は幼いころから王たるべく育てられ、また、その素質も十分であった。その兄が昨年、病であっけなく死んだ、グリム兄弟も予想もしていなかっただろう。そして、このわたしに、一生気楽な部屋住の次男坊と決めこんでいたわたしに王位継承権がまわってきた……幸い母は元気だ、当分わたしに王位がまわってくることはあるまい。遠いその日まで、少しずつがんばれば……わたしにも王の真似事ぐらいはできるだろう。だが今はそれに加えて、あんな素敵な人を妃にしたら、わたしには荷が重い……あの人を不幸にする!
赤ずきん 要は自信がない、それだけのこと。
王子 そう簡単に言うな! わたしはチョー理性的に言っているのだ。毎日王子としての公務、加えて帝王学に始まる十を超える学習。あの兄が二十数年かけて身につけたものを、わたしはこの数年で身につけなければならない。本番直前に成りあがった、無名の代役のようなものだ。あの人を生き返らせ妃とすることはたやすい。しかし、あの人にかまっている時間がわたしにはない。毎日あの人の眠る森にたちよるために、わたしは毎日三十分、睡眠時間を犠牲にしている。それでも女王である母は良い顔をせぬ。妻にすれば公務のために何日も、何週間何ヶ月も、言葉一つかけてやれない生活が簡単に想像できる。単に自分の醜い独占欲を満足させるだけだ。そんな人形のような扱いをあの人に強いることは、わたしにはできない。
赤ずきん やっぱり、要は自信のなさ、それだけのことよ。
王子 何度も言うな! あの人を籠の鳥にして、それでいいと言うのか!?
赤ずきん ハー(溜息)見かけはいい男なのにねえ……
王子 兄とは製造元がいっしょだからな。兄は車で言えばレーシング仕様の特別製、それにひきかえ、この僕は、ボディこそ似ているものの全てがノーマル仕様の大衆車、それも型落ちのアウトレット。とても勝負にはならない。
赤ずきん そんなことないわよ。たとえ大衆車でレースに向かなくとも、家族を乗せるファミリーカー、シートが倒せたり、クッションやインテリアがよかったり、そういう人を和ませるスペックは、レーシングカー以上よ。
王子 でも、今はその大衆車がカーレースに出ろといわれてるいるんだ! 華奢なエンジンを無理矢理強化し、軽量化のために内装は剥がされ、ロールバーのパイプが張りめぐらされて、とても人を、それも愛する人を乗せる余裕なんてない。
赤ずきん 何よ、弱虫! やってみもしないで結果なんてわかりはしないわ!

この時、ヨンチョが衣裳を持ってあらわれる

ヨンチョ 御衣裳をお持ちいたしました。
王子 ごくろう。

以下着替えをしながら、ヨンチョが慣れた手つきで介添えする。

赤ずきん 愛しているならやってごらんなさいよ!
王子 シー、話はそこまでだ。
ヨンチョ わたしのことならお気づかいなく。小鳥のさえずりは聞こえても、殿下の大事なお話は耳に入らなくなっております。それが近習と申すもの。でも、いざという時はお役に立ちますぞ。申すではありませんか。遠くの親類よりも、近習の他人とか、ウフフ……
二人 ズコ(ずっこける)
王子 ギャグは言う前に申告するように。おまえのダジャレは心の準備がいる。
ヨンチョ ……
赤ずきん そんなに落ち込まなくても……
ヨンチョ 深刻になっております……わかります? 申告と、深刻……アハハ(二人、よろめく)
王子 いいかげんにしろ(着けかけた剣で、ポコンとする)
ヨンチョ 僭越ながら、森へのお通いは、殿下にとって大事大切な御日課と存じます。殿下が森におられる間、森の入口で邪魔の入らぬよう、しっかと目を配っております。心おきなく御考案の上、そろそろ御決断を……
赤ずきん 王子さま……
王子 うん?
赤ずきん 王子さまは、自分でやらなきゃならないことばかり気にかけているわ。
王子 どういうことだ?
赤ずきん 愛しあっているならフィフティーフィフティー、白雪さんにも、変化と努力を求めなければ。そう、王子さまが懸命の努力をなさっているなら、きっと喜んで、我慢もし、努力もするはずよ。夫婦というものはいつもそう、病める時も貧しき時も互いに助けあい……結婚式で神父さまもそうおっしゃるじゃない。彼女は、その苦労をきっと進んで受け入れると思うわ。
王子 ……そうだろうか?
赤ずきん そうよ。王子さまが期せずして、ファミリーカーからレースカーへの変貌をとげざるを得ないのなら、チャンピオンにおなりなさい! キング・オブ・ザ・レーサーに! そして白雪さんは……
ヨンチョ レースクイーンに! よろしゅうございますぞ。ハイレグのコマネチルックに網タイツ、大きなパラソルを疲れたレーサーにそっと差しかけて、ひとときのくつろぎを与える……
王子 レースクイーンか……
赤ずきん もう! 変な方向に期待を膨らませないでください! ヨンチョさんも! 白雪さんは、見かけ華やかなレースクイーンよりも、ピットクルーのチーフをこそ望むでしょう。レース途中で疲れはててピットインした王子さまを、他のクルー達を指揮し、みずからも油まみれになり、限られた時間の中で、タイヤやオイルを交換し、ガソリンを注入し、チューニングをして、再びレースに復帰させる。白雪さんは、その立場をこそ望み、見事にこなしていくと信じます。美しい人形のような妃としてではなく、油まみれの仲間として彼女を愛してやってください……王子さま。
王子 仲間としてか……ありがとう赤ずきん、迷った山道で道しるべを見つけたように気持ちが軽くなった。よし! このこと、この喜びを決心とともに母上に申し上げ、その足で森へ急ぐぞ。二人とも、それまでに馬の用意を……!
ヨンチョ 馬は何頭用意すればよろしゅうございますか?
王子 おまえの名前ほどに……(いったん去る)
ヨンチョ 俺の名前ほどに……どういう意味だ?
赤ずきん ばかだね。ヨンチョだから四丁、つまり四頭という意味でしょ。王子さまとヨンチョさんとわたしの分……そして白雪さんの分!
ヨンチョ なるほど、おめえ頭いいな。
赤ずきん グリムの童話で主役を張ろうってお嬢ちゃんよ、頭の回転がちがうわよ。

王子が再びもどってくる。

王子 すまん、馬の数は、おまえの兄の名前の数ほどに修正だ!
ヨンチョ と、申しますと
王子 わたしは姫と同じ馬に乗る。鞍もそのように工夫しておけ、では……(緊張して額の汗をぬぐう)まず母上から口説かねば……(去る)
ヨンチョ 女王さまは難物だからな……しかし同じ馬に肌ふれあい互いのぬくもりを感じあいながら……これはやっぱりレースクイーンだべ。

王子再々度もどってくる。

王子 バカ、変な想像をするな(ゴツン)
ヨンチョ あいた!
王子 今度こそ行くぞ、母上のもとへ……!

王子上手袖へ、ヨンチョがそれに続くとファンファーレの吹奏、ドアの開く音。

ヨンチョ 皇太子殿下が朝の御あいさつにまいられました!
女王 (声のみ、ドスがきいている)おはいり……モラトリアム……
王子 (うわずった声で)お、お早うございます母上……

ヨンチョをともない上手袖へ、ドアの閉じる音。

赤ずきん 王子さま、がんばって……!(手にした王子のガウンを抱きしめている)

暗転、フクロウの声などして、夜の森のバス停が浮かび上がる。花道を、携帯でしゃべりながら赤ずきんがやってくる。

赤ずきん ごめん、今日はそういうわけで遅くなる、行けないかもしれない。どうしてもつきとめておきたいの、だから婆ちゃんごめんね(切る) 何よ、てっきり白雪さんを連れてもどってくると思ったのに、もどってきたのは、いつもどおり王子一匹! 白雪さんはどうしたの? あの眉間によせたシワはなんなのよ!? 聞いてもちっとも教えてくんないし、ヨンチョのおっさんもあてになんないし……白雪さーん……白雪さーん……と、ここにも姿が見えない。棺は空だったし、きっと森の中にいるはず、小人さんたちのところにいるはずもないし心配だなあ……白雪さーん!

花道に、腕をつり、杖をつきながら、傷だらけの白雪があらわれる

白雪 赤ずきんちゃーん……
赤ずきん あ、白雪さん……どうしたのその怪我は!?(白雪をたすけ、舞台へもどる)何があったの、誰に何をされたの!?
白雪 (泣くばかり)
赤ずきん 泣いてちゃわからないよ。とにかく大丈夫だからね、わたしがついているから。携帯もあるし、いざとなったらお婆ちゃんもオオカミさんもいるからね。ね、どうしたの?
白雪 あの、あのね、ドラゴンがあらわれてね……まだ夕陽が沈みきっていないのにあらわれて、ようやく動けるようになり始めたわたしを襲ったの。今日は側にあった棒きれで追い払ったけれど……明日は殺されてしまうわ……(泣く)
赤ずきん 大丈夫、わたしがついているから、ドラゴンだろうが何だろうが、指一本触れさせやしないんだから……
白雪 ありがとう……今はあなただけが頼り……小人さんたちにもあんな姿は見せられない。心配して、怒ってドラゴンに立ち向かうでしょうけど、とても小人さんたちの手に負えるしろものじゃない。逆に返り討ちにあって全滅させられてしまうわ。
赤ずきん 大丈夫、今夜はおばあちゃんの家に匿ってもらうわ……今朝、お城に忍び込んで、王子さまと話をしたのよ。
白雪 え、お城まで行ってくれたの?
赤ずきん 言ったじゃないか、まかしといてって。水泳とロッククライミングは、白雪さんだけの専売特許じゃないのよ。
白雪 赤ずきんちゃんもやるんだ……
赤ずきん あたりまえよ、友だちじゃないか! 王子さまは真面目な人だったよ。ただ真面目すぎて……
白雪 真面目すぎて……?
赤ずきん 口づけをして救けてあげることはやさしいけども、その後、白雪さんを幸福にできないって。
白雪 どういうこと、他に好きな人でも……
赤ずきん そんなのいないよ。あの人も白雪さんのことが大好きだって!
白雪 だったら
赤ずきん 王子さまは、去年お兄さんを亡くしたの。それで王位第一承継者の皇太子になってしまって、今そのための勉強と訓練が大変なんだって……
白雪 それはわかるわ、わたしも違う王家とはいえ王族の一人。皇太子とそれ以下の並の王子とは、その自由さが天と地ほどに違う……だけど、それを考えても、この仕打ちと言ってもいいおふるまいは理解できない。たとえ王子さまがどんなにお忙しく、お辛くても、それを分かち合ってこその夫婦……いえ、まだ口づけも誓言も交わしあっていないから夫婦とは言えないけども。将来を許しあった恋人としては当然の覚悟、そうでしょ。
赤ずきん そうだよ、それを、朝の一番鶏が時を告げる前からお城に忍び込み,宿直の二人を薬で眠らせて、王子さまが目覚めると同時に説得したわ。病めるときも貧しきときにも互いに助けあい、王子さまが帝王学を学ばれ、懸命の努力をなさっている間、きっと喜んで我慢も努力もされるはず。たとえ何日も顔を会わせなくても、たとえ夜遅く帰ってベットにバタンキューでも、きっと白雪さんは耐えて王子さまを支えてくれるはず。そう懸命にお伝えしたら、そこは賢明な王子さま、女王さまに朝の御あいさつに行かれるころには、ジュピターのように雄々しく……とまではいかないけども……ちゃんと白雪さん救出を神聖な使命とお考えになるようになったわ。わたしを近習の一人として森の入口まで、他の御家来習といっしょの供をするようにお命じになったくらいよ。
白雪 信じられないわ……今朝の王子さまは、いつにも増して、険しい御表情でひざまづいて、わたしの顔をいとおしそうにご覧になって、何やらつぶやかれるばかり。棺の蓋を開けようともなさらずに立ち去ってしまわれた。ごめんなさい……一瞬ではあるけれども、あなたの約束を疑りもした。でも、やはり一日や二日の説得ではあの方の心を動かすことはできないのだと、あきらめ……いえ、気長に待つことにしたの……でも、あのドラゴンののさばりよう……気長に待つうちに、日干しのミイラになる前に骨にされてしまいそう……
赤ずきん しっ! 伏せて、何か邪悪なものが……

二人身をひそめる。バサバサと音をたてて、ドラゴンが梢の高さほどのところを通り過ぎる気配がする(音と光で表現)

白雪 ……今の見えた?
赤ずきん ううん、気配だけ。多分ドラゴン。
白雪 そう、ドラゴンよ。夕方わたしを襲った時も、半分体が透けていたけど、とうとう……
赤ずきん ステルスになっちまいやがった。よほど気をつけないと、不意打ちをくらってしまう。この分では狸バスも……
白雪 どうしよう……
赤ずきん 仕方ない、今夜はわたしも婆ちゃんちに……

携帯を出そうとすると、下手よりかすかなパッシングと間の抜けたクラクション。

赤ずきん 狸バス、あんなところに隠れていたんだ……(狸語が返ってくる)え、今日は特別に婆ちゃんちまで送ってくれる? じゃ、白雪さんを送ってもらって、それから、ちょこっとだけ婆ちゃんと話して、それからお城まで……オッケー?(狸語)え、そのかわりしばらく休業? 仕方ないわねえ、あんなぶっそうなドラゴンがいたんじゃねえ……(白雪に)婆ちゃんに薬をもらおう、よく効くの持ってるから。じゃタヌちゃん、お願いね!(狸エンジンの始動音)

二人、下手の狸バスに行くところで暗転、小鳥たちの朝を告げる声で明るくなる。花道を、王子を先頭に、ヨンチョが続き、赤ずきん遅れて駆けてくる。

王子 だから何度も言ったろう、その場で気持ちが変わったのではない。姫の女性としての尊厳を守るために、わたしはあえて我慢をして……
赤ずきん なにが尊厳を守るよ、白雪さんの気持ちはズタズタよ。
王子 それを乗り越えて自分で行動を起こさねば、一生わたし、つまり男性に従属せねばならなくなる。男の口づけを待って生命をとりもどすなど、女性を男の玩具とし、その尊厳を汚すものだ。わたしに出来ることは、男とか女とかを越えた人間としての地平から「がんばれ、めざめられよ!」と叫び続けることだ。
ヨンチョ 王子は叫ばれた!
王子 「がんばれ、めざめられよ!」
ヨンチョ 「がんばれ、めざめられよ!」
赤ずきん ……それが何やらつぶやかれるってやつね。それ、自分の考えじゃないよね。
王子 わたしのの考えだ!
ヨンチョ 王子さまのお考えである!
赤ずきん 影響されたわね……女王さまに? 朝の御あいさつに行ってから変だもん。
王子 ……参考にはした。しかし自分の考えではある。
ヨンチョ 御自分の考えではある! とおおせられた。
赤ずきん うるせえ!
ヨンチョ おっかねえ……
赤ずきん 家来にバックコーラスしてもらわないと自分の考えも言えないの!? 女王にちょこっと言われただけでコロッと考え変わっちゃうの!?
王子 ……
赤ずきん わたし、昨日は自分の説得力に自信持ったけど、とんだピエロだったようね。さようなら、時間かかるけど別の王子さま探すわ。そして白雪さんの怪我はわたしが治して見せる!
王子 待て! 姫は怪我をしているのか……!?
赤ずきん ええ、森のドラゴンが成長し、夜と昼のわずかな境にも居座るようになり、ガラスの棺からよみがえろうとして、まだ低血圧のところを襲われた。心配はいらない、全治一ヶ月程度の怪我よ。それにこれからは、わたしたちグリムの仲間で白雪さんを守るから……じゃ、さよなら!
王子 待て、待て、行くな……行くなと申しておるのだぞ!(ヨンチョに)赤ずきんをつかまえろ!
ヨンチョ アイアイ(サー……と動きかける)
赤ずきん (花道の途中で立ち止まり)バカヤロー! そんなことも家来に言わなきゃできないのかよ!
王子 ……すまん、わたしの悪い癖だ……頼む、もう一度もどってきてはくれないか?

階段(花道のかかり)まで進み、手をさしのべる

赤ずきん その手は、白雪さんのためにとっておいてあげて(舞台へもどる)
王子 わたしは何をすれば……
赤ずきん 自分で決めて!
王子 何をすればいいか、今言おうとしたんだ!
赤ずきん そう……ごめん……
王子 わたしはドラゴンを倒す! で……どうしたらいい?
赤ずきん そうでしょ、けっきょく人に聞かなきゃ何もできない……
王子 すまん……
赤ずきん やっかいな相手です、成長してステルス化したため、ほとんど姿が見えません。それに、ほとんど夜にしか現れませんから、戦いは困難が予想されます。とどめには、銀の鉄砲に銀の弾……それも正面から急所を狙うか、戦いで弱ったところをしとめるしかありません。
王子 やろう! 銀の鉄砲なら母上のものがある。弾は鉛しかないから、急いで造らせよう。
赤ずきん 待って。並の銀の弾では効果は半分以下。製造から三十年以上たったもので、できたら神の祝福の籠った弾が望ましいんです。昔わたしを救けてくれた狩人のおじさんがそう言ってました。
王子 それはちょっとむつかしいぞ……
ヨンチョ なら、これを……兄のサンチョがお守りがわりにくれた銀の弾です。サンチョの御主人様が神の祝福をうけられたもので、四百年はたっていますで……
赤ずきん ありがとうヨンチョのおじさん。
王子 すまん、この礼はいずれ……
ヨンチョ いずれと言わずに今すぐに。
王子 なに? 抜け目のない奴だ、いくら欲しい?
ヨンチョ なあに、わたしもいっしょに戦わせて下さい。これが条件でさ。
王子 こいつ、わたしに仕えて初めて気の利いた台詞を吐いたな!
赤ずきん もともとはわたしのアイデアなんだからね!
王子 赤ずきん!
ヨンチョ 決まった! 
王子 三人寄れば文殊の知恵も団体割引!
赤ずきん 成功疑いなし!
ヨンチョ 合点!
王子 それじゃあ、実行は今夜、月のアルテミスが、太陽のアポロンと睨みあうころに。
二人 おお!
王子 では、作戦の成功を祈って!(剣を抜く)……一眠りしておこうか、(二人ズッコケる)おまえたちも、夜の戦いにそなえて眠っておけ(去る)
ヨンチョ アイアイサー
赤ずきん ヨンチョさん、もう少し打ち合わせをしておこう、仮眠はそれから。
ヨンチョ 合点だ、今眠らなくても、今夜が永遠の眠りの始まりになるかもしれないからな……

二人、王子とは反対側に退場。暗転。虫たちの集く声して、なつかし色に明るくなる。例の森のバス停前をめざして、主従あらわれる。バス停には「運休」と書いた紙が貼ってある。

王子 あのバス停だな、赤ずきんとの待ち合わせは?
ヨンチョ ちょいと早く来すぎたようで……
王子 気の早いアルテミスが山の上で頬杖ついて、この勝負を見物しているぞ。
ヨンチョ アポロンが西の山から片目だけ出して見物してござる。さても物見高い兄妹どもじゃ。
王子 お、あの赤いフードは?
赤ずきん ごめん、遅くなっちゃった。
ヨンチョ 大丈夫、まだ数分は昼の世界。しかしひやひやさせた分、何か土産があるんだろうな?
赤ずきん するどいねヨンチョのおじさん。
王子 なんだそれは?
赤ずきん 狼のマックスからもらってきたんだ。飲むと感覚が狼と同じくらいに鋭くなるんだよ。
ヨンチョ なんだかハナクソのような……
赤ずきん そんなもんじゃないよ、ちょっとくせがあるけどね(苦しそうに飲む)
王子 なあにハナクソでさえなければ……(飲む。とりつくろってはいるが気持ち悪そう)なあに大したことは……ない。
ヨンチョ おつな味だねえ……で、本当は何なんだい
赤ずきん 聞かない方がいい……
ヨンチョ そう言われると余計知りたくなる。
赤ずきん 青い狼のミミクソ!
二人 ゲッ?!
赤ずきん もどしちゃだめ! あーもどしちゃった。(王子はかろうじてこらえる)
ヨンチョ おまえが言うから……
赤ずきん ヨンチョのおじさんが聞くから……
王子 シッ! 来るぞ……
赤ずきん ほんとだ……
ヨンチョ え、どこに……?
王子 来た!
ヨンチョ え?……ワッ!

ドラゴンの降下音。一瞬目玉を思わせる光が走る、王子と赤ずきんは左右の藪に、素早く身を隠すが、ヨンチョのみ、ボンヤリ立っていてふっとばされる。脱げ落ちたヘルメットを拾いつつ……

ヨンチョ すまん、あのミミクソまだあるか?
赤ずきん 今度はもどしちゃだめだよ……
ヨンチョ ありがとう(あわてて飲む)
王子 今のはほんの小手調べ、上空を旋回しながら様子を見ている……
ヨンチョ 今度は儂にもわかる……
赤ずきん 王子さま。
王子 心配しなくても、貴重な弾を無駄に使ったりはしない。降りてきたところを二三度ぶちのめしてから、とどめに……
赤ずきん 違うの。王子さまには、もう一つ薬を飲んでもらいたいんです。
王子 今度は何のクソだ?
赤ずきん 違いますよ。お婆ちゃんからもらってきた幸福の薬、敵の打撃を弱める力があります。はい、このポーション!
王子 ヨーグルトみたいな味だなあ……
赤ずきん 天使たちが世界中の母親の愛情を一万人分集めて作ったエッセンスだそうです。
王子 そうか、一万人分の母性愛に守られるわけだなあ。
赤ずきん 王子さまは、この国でただ一人の王位継承者、大事にしていただかねば。
ヨンチョ 来るぞ!

戦闘のBGMカットイン、飛翔音、降下音、光が走る。三人それぞれに剣をふるい、ドラゴンに当たるたびに金属音がする。二三合渡りあうと、ドラゴンは再び上空へ、藪へころがりこむ三人(戦闘を歌とダンスで表現してもいい)赤ずきんは頬を、ヨンチョは腕に打撃を受ける。

王子 大丈夫か?!
赤ずきん ホッペを少し(頬横一線に出血)
ヨンチョ 右腕を少し、大丈夫でさあ……かえって燃えてきましたぜ!
王子 気をつけろ、今度は奴も気がたっている……来たぞ!

再び前に増す飛翔音、降下音、光が走る。激闘。ヨンチョ、赤ずきんは何度かころび、ヘルメットはとび、王子の服にも血しぶきが飛ぶ、前回にも増して激しい打撃の金属音。赤ずきんなど、藪までふき飛び、袖もちぎれ、胸から腕にかけて血しぶきをあび「大丈夫か!?」と王子の声、瞬間の気絶のあと、渾身の力をこめて、ドラゴンに斬りかかる(前の台詞を間奏にして、歌とダンスの処理でもよい)

赤ずきん オリャー!

ザクッと金属に切り込む音がして、王子が鉄砲を放つ。意外に重々しい「ドキューン」という腹に響く音。「キュー」っという悲鳴を残し、また上空へ逃げ去るドラゴン

赤ずきん やった?!
ヨンチョ ……いいや、傷は負わせたが急所は外したようだ……
王子 そのようだなあ……二人とも大丈夫か?
ヨンチョ まだまだ。
赤ずきん 大丈夫よ。

と言いながら二人とも、あちこち服は破れ、血しぶきをあび、あまり大丈夫そうではない(これらの傷、血しぶきは藪に忍ばせた黒子による。歌とダンスの処理なら省略)

ヨンチョ 弾はあと二発です。
王子 わかっている。今度こそしとめてやる!(銃を、目標にあわせつつかまえる)
赤ずきん 来る……!
ヨンチョ 来るぞ……!
王子 わたしにまかせろ!!

戦闘のBGM、カットアウト。腰を据え、今や水平からの攻撃の体制に入ったドラゴンにピタリと照準をあわせる王子。剣を構えながらも、動物的勘で身をよじり、王子にその瞬間を譲る二人。ドラゴンは王子一人を目指し渾身の力でいどみかかってくる。二発連続で発砲する王子。断末魔のドラゴンの叫び。この一連の運動はスローモーションでおこなわれる。わずかに間を置いて通常のモーションにもどると、ドラゴンの突撃してきた、ほとんど水平に近い方向から、大量のマンガ、マンガ雑誌、CD、ゲームソフトなどが、空中分解したミサイルの部品のようにとびこんでくる(CD等は実物を使うと危険なので、銀紙を貼ったボール紙などの代用品が良いと思われる。または、音と演技だけで表現してもいい)

ヨンチョ これは……
赤ずきん これがドラゴンの正体……
王子 マンガ……CDにゲームソフト……
赤ずきん みんな童話の世界の敵……
王子 敵にしてしまったんだ……
二人 ……?
王子 これらは、みな童話の世界から、別れ、自立し、育っていった者たちだ……それが異常繁殖し、ドラゴンとなって、この世界を食いつぶしかけていたんだ。
ヨンチョ とんでもねえ野郎共だ(踏みつける)
王子 よせヨンチョ……ドラゴンに変化したとは言え、もとはわが同胞、兄弟も同然、後ほど、塚をつくり丁重に葬ってやろう。
赤ずきん 王子さま……
王子 おお、こんなに怪我をして……二人ともよくふんばってくれた。
赤ずきん 王子さまこそお怪我は?
王子 大丈夫、みな軽いかすり傷だ……
ヨンチョ おう、あれに……!

花道に白雪があらわれる、怪我は意外にも治りかけていて、額や頬にバンソーコウを残す程度に回復しかけている。

白雪 王子さまーっ! 赤ずきんちゃーん! それに……
ヨンチョ 王子さま第一の家来にして近習頭のヨンチョ・パンサと申します。
白雪 こんにちはヨンチョさん、そしてありがとう。みなさんの御奮闘ぶりは、その丘の木陰から見せていただきました。三度目のドラゴンの突撃の時など思わず目をふせてしまいましたが、御立派にお果たしになられたのですね。
赤ずきん 駄目じゃないか、ちゃんとお婆ちゃんの家に籠っていなくちゃ。
白雪 ごめんなさい、赤ずきんちゃんの話を聞いて、時刻がせまってくると矢も盾もたまらず。それに夜になって体が自由になると、思いの他傷も……ゆうべお婆ちゃんにいただいた薬が効いたみたい、幸福のポーション。
赤ずきん でも、それ古い薬だから、効き目は半分だね、まだ、体のあちこちが痛いでしょ?
王子 そう、お体はしっかりといたわらねば。
白雪 それはこちらが申す言葉ですわ。三人とも、こんなに傷だらけになられて。
赤ずきん 白雪さん……
白雪 御心配ありがとう、でも、もう大丈夫。こんな痛み、薬の力で半分に、そしてこの喜びと感謝の気持ちでさらに半分に減ったわ……今までは仮死状態の心の目でしか王子さまを見ることができなかったけど、やっとこうして、フルカラー、スリーDのお姿として拝見して……バーチャルじゃない、本当の王子さまなのね。
赤ずきん きまってるじゃないか。百パーセント混じりっ気なしの王子さまだよ。
ヨンチョ 戦闘で、ちょいと薄汚れっちまってらっしゃいますがね、なあに一風呂あびて磨き直せば、この百五十パーセントくらいにはルックスもおもどりになります。
白雪 いいえ、このままでも、わたしには十分凛々しく雄々しくていらっしゃいます。これ以上磨かれては、そのまぶしさに目が開けていられなくなります。
王子 姫……
白雪 王子さま……
赤ずきん 行け! 白雪さん!

白雪、その場で半歩進み、目を閉じ、王子の口づけを待つ姿勢をとる。

王子 白雪姫……(白雪を両手で抱きしめ、口づけの一歩手前までいく)しかし、今のわたしは汗くさい……
三人 ガクッ……
白雪 何を汗くささなど、お気にしすぎです。それこそ殿方の雄々しさのしるし、その軽い塩味こそが男の値打ちと申すもの
赤ずきん がんばれ、塩味王子!
王子 エヘン、オホン……
ヨンチョ 勝負どころでございますぞ、殿下!
王子 ケホン、では……
白雪 どうぞ!

再度いどむ王子! しかし一センチの壁を越えられない……

王子 だめだ……わたしという男は!
白雪 王子さまあァ……
ヨンチョ 殿下ァ……(わが事のように身悶える)
赤ずきん こんなオクテ見たことないよ……
王子 (顔を被って)すまん……泣きたいくらい自分が情けないよ。
白雪 泣きたいのは、わたくしの方でございます。
ヨンチョ ここで口づけなさいませんと、姫は朝にはまた仮死状態におなりになるのですぞ……!
赤ずきん わかった、最後の手段!
王子 何か他の方法が……
白雪 あるの!?
赤ずきん 二人とも、例の一万人のお母さんの心のエッセンスの薬、幸福のポーションを飲んだでしょう?効き目は半分ほどしかないみたいだけど……握手をしてごらんなさい。ほら、二人とも愛しあっているから……握手と言っただけで、外分泌腺を刺激して汗ばんできたでしょ。口づけのかわりになるかもしれない……
王子 握手ぐらいなら……
白雪 少しもの足りないけど……
王子 では、姫、失礼します!
白雪 どうぞ……

握手する二人、赤ずきんはポンプの仕掛けにかかる。

赤ずきん 誓いの言葉を……黙っていちゃあ何の握手だかわかんないでしょ!
王子 なんと言えば……
ヨンチョ じれってえ……
赤ずきん 「愛しています」でいいわよ
王子 ……(息を吸う)
白雪 愛しています、神の御名にかけて、そしてわが命にかけて……愛しています。
王子 うん……あ、愛しています、神の御名と、この名誉と……
白雪 この方々の友情にかけて、愛しています。

この誓いの言葉の途中から、白雪のおなかが膨らみはじめる(白雪のスカートの中に風船が仕込んであり、白雪の背後で赤ずきんが懸命にポンプを押している。工夫は様々)

白雪 あ……ああ、なんということ!?
ヨンチョ おお、なんという神の御技!
白雪 ああ、おなかが、おなかの中に赤ちゃんが……
赤ずきん この薬、オクテのおじいちゃんを口説かせる時に使ったって言ってたけど、ほんとうに、効き目があったんだ!(白々しい。赤ずきんはかなりの役者である)
王子 これは、早く医者を産婆を……誰がサンバを踊れと言った(ヨンチョをはり倒す)そうか、人まかせではいかんのだな、赤ずきん?
赤ずきん そうよ、自分で、自分の愛する者のために行動をおこして!
王子 わかった、わたし自身、城下まで走り医者と産婆を連れてこよう、ヨンチョ、赤ずきん、それまで姫を頼んだぞ!
ヨンチョ アイアイサー!
赤ずきん まかしといてー!
白雪 がんばってね、あなた……



赤ずきん けなげねえ……少しかわいそうな気もするけど……
ヨンチョ ああやって大人になっていかれるんだモラトリアム王子は……
白雪 もういいかしら……
赤ずきん いいわよ、もう峠のむこうまで行っちゃったから。

白雪、手にしていたピンで、おなかを一刺しする、ボンと音がして、おなかの風船が割れる。

白雪 なにか騙したようで気がひける。
赤ずきん 念のためと思ったことが役にたったんだからいいじゃない。
ヨンチョ 儂も事前に話を聞いていなかったら、ぶったまげて怒ったかも知れねえだども、これでいいよ。さっきの戦闘指揮もなかなか立派なもんでがした。お子様の方は、男と女いっしょに暮らしていれば、どうにかなるもんだで。
赤ずきん おじいちゃんの時はうまくいったんだけどね。
ヨンチョ 何十年もたってるんだで仕方のないことさ。なんせ敵の攻撃をやわらげ、傷もやわらげ、オクテの男もやわらげようって欲ばった薬だもんなあ、その分効き目が早く抜けても仕方ねえ。
白雪 王子さまには想像妊娠だったって言えばいいのね?
赤ずきん でも、これでもう朝がきても仮死状態にもどらないはずだよ……気がとがめる?
白雪 ……
赤ずきん 王子さまの手を握ったとき、心が通じたような気がしたでしょ?
白雪 うん……シャイで恥ずかしがり屋で、普段は思ってることの半分も言えず、やりたいことの十分の一もできない……その分良くも悪くも思い込みが強く……これと思うことにはまっすぐで……
赤ずきん まっすぐ白雪さんを愛している。
白雪 手を握って王子さまと目があったとき、一瞬本当に赤ちゃんが……ウッ(口をおさえて、えずくはじめる)こ、これって……ウッ
赤ずきん 効いたんだ! そうか、つわりだよ白雪さん! 白雪さんも傷を治すためにゆうべ 飲んだから、飲んだもの同志手を握って汗を通して効き目が〇.五かける二で一に、元の効き目が出てきたんだ!
ヨンチョ ほ、ほんとけ!?
赤ずきん きっとそうだよ。
白雪 嬉しい……けど苦しい……ウッ……
赤ずきん がんばりな白雪さん。
白雪 うん……がんばる……
ヨンチョ 儂は何を?
赤ずきん 婆ちゃんとオオカミさんに知らせてきて。
ヨンチョ アイアイ……
赤ずきん ごめん、それよりも、王子さまを手伝って二人で、お医者様と産婆さんを背負って……
ヨンチョ アイアイ……
赤ずきん でも、やっぱりお婆ちゃんに……いえやっぱり王子さま……やっぱ婆ちゃん……がんばって白雪さんん……やっぱ王子……やっぱ……

白雪がえずきはじめた頃からハッピーエンドを思わせるテーマFI ここで一気にFUして、キャストと出られるだけの黒子、スタッフが出てきてフィナーレの歌とダンスになり……幕


作者の言葉
ちょっとだけ大人びた童話です。楽しく演じて下さい。そのためには、稽古は多めに装置はシンプルに。ドラゴンの空中分解、役者と息があわないと芝居をつぶします。マンガやゲームソフトは大量に、最低でも五メートルは飛ばして下さい。むつかしい場合は音響と演技だけでもやれます(音響は第二の役者という言葉もあります)白雪のおなかが膨らむ仕掛け、簡単ですが、あなどらず、何度も稽古してください、ふうせん以外の方法もあると思います。とにかくシンプルで確実なものを。花道は「できたら」ぐらいでいいです。
また、全員女子で、宝塚ののりでやっても楽しいと思います、女子校にもおすすめの一品です。

上演の際は、下記までご連絡ください。
【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2

《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp
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高校ライトノベル・らいと古典・わたしの徒然草『第三十五段 手のわろき人の』

2012-03-12 17:31:01 | エッセー
わたしの徒然草『第三十五段 手のわろき人の、はばからず、文書き散らすは、よし。』

じつにありがたい段である。
字や文章のヘタクソなやつが、ばんばん書きちらしているのはいい! と言ってくれている。まるで、悪筆、乱筆、支離滅裂な戯曲や駄文を書いているわたしに対して、七百年の時空を超えて兼好のオッチャンが励ましてくれているようである。

わたしは電算機に馴染むまでは手紙魔であった。常に定形最大の封筒と、便せん代わりの原稿用紙、それに八十円と十円の切手(よく、二十五グラムを超えて九十円になったので)と、万年筆のインクカートリッジは座卓横の小引出や、棚の上に常備していた。
たいがいの人は返事をくださる。封筒で返事がくるときは、迷惑がらず「また、お便りちょうだいね」であり、葉書ですます人は「もう、しばらくよこさんといて、邪魔くさいよってに!」という気持ちがこめられている。
勢い、封筒でくれる人には沢山送ることになる。たいてい四五通やりとりすると葉書になる。
そんな中で、わたしの手紙にめげず、それどころか倍の量にして送り返してくるやつがいた!
わたしの駄文の中にたびたび登場する、映画評論家のタキガワである。こいつとは二十歳ごろからの付き合いであるが、教師を辞めてから、付き合いが濃厚になった。昼はパスタ屋で、コックをやり、土日に映画を観て、評論の下書きを兼ねて手紙をよこしてくる。ときに、便せんに性格とは真逆の小さな字で四十枚を超えることもあった。いただいた手紙は、どなた様に関わらず、五年間は保存している。このタキガワの手紙だけで、茶箱一杯分になり、溢れそうで広辞苑で蓋をしてある。
こいつについて語り出すときりがないので、ここまで。

現役の教師だったころ、定期考査の問題は、退職するまで、手書きであった。悪筆ではあるが、ガリ版時代からの手書きで、芝居の台本のガリ切りなど、やっていたので、「読みやすさ」には自信があった。ところが、五年ほど前、生徒にこう言われた。
「今時、手書きの問題出すのん、センセだけやで」
調べてみると、職員全員が、いわゆる「ワープロ」で問題を作っておられた。公文書も手書きで書いていたが、わたしにとって最後の教頭が赴任してきたときに宣告された。
「大橋センセ、公文書は、パソコンでやってください」
「そやかて、こないだまでは手書きでやってましたけど」
「あれ、前の教頭さん、パソコンで打ち直してはったんですよ」
と、あわれむように言われた。

駄洒落でもうしわけないが「ワープロ」では「わー、プロや」とは思えないのである。手書き字には、人格や、その人の、そのときの気分が反映される。わたしも電算機に毒され、たいがいの便りは電算機を使っているが、それでも手紙にしなければならないとき(上演許可の返事などは、手書きである。くだんのタキガワには、もちろん手書きである。
逆に、わたしにくる手紙のほとんどがワープロである。ワープロの文章は、いくら名文で書かれていても、見たとたんに、心が萎える。われながら前世紀の遺物である。ちなみに、わたしは携帯電話を持っていない。家人には「原始人!」といわれている。電話そのものを、わたしはほとんどしない。相手の状況や気持ちも分からぬまま、脳天気に「もしもし元気~!?」などとは、気の弱いわたしにはできない。ケータイに関しては、また別の駄文で書きたいと思う。

後半の「見ぐるしとて、人に書かするは、うるさし」で、ある。
「字も文章もヘタッピーなんで、人に代筆してもらうのはウザイんだよな」という意味で、ここでいう代筆とは、恋文のことである。恋文について書くと、これも長くなるので別の機会に。
代筆について。卒業式の、送辞や、答辞は、たいがい教師の加筆訂正が入っていて、ほとんど教師の文章である。
「梅の香匂い、桜も硬い蕾を付け始めた今日。先輩方をお送りするのは、嬉しくもありますが、後輩としては、一抹の寂しさを禁じ得ません。思い起こせば……」などと始まったら、まず間違いなく教師の代筆である。

生徒会の担当で、思いかけず送辞の監修係りにあたったわたしは、どうせ代筆になるなら、思い切り大橋色にしてやろうと思った。
「梅の香匂い……」の慣用句の後、こうつづけさせた。
「ここには、百十二名の先輩方がいらっしゃいますが、三年前、同じ席に新入生として座られていたときは、二百四十名の先輩方がいらっしゃいました。ぼくは、今ここにいない百二十八人の先輩に想いをいたします。心ならず、中退し、別の道を歩まれている、先輩方にもエールを送りたいと思います……」という意味のことを言わせた。
それまで、ざわついていた生徒の席が寂と静まりかえった。
わたしがいた学校は府内でも有数の教育困難校(府教委は、公式には困難校を認めはしない。なにか、大戦中の大本営に似ている)で、入学者の五割以上が卒業式には姿を消している。特に一年のときに中退者が多く、教師は一年の担任をしたがらなかった。一年生の担任の最大の職務は、いかに無事に生徒をクビにするか(公式の表現では、進路変更という。大本営が撤退を転進と言い換えたのにやや似ている)であった。
他の教師は、こういう言い方をした「もう、見込みないですよ」ハサミでちょん切ったような宣告である。有り体にいえば、その一言に尽きるのだが、わたしはこう言った。
「まだ、可能性はあります。休まんと学校にきて、こんどの期末テストで七十点とったらいけますよ。お母さんもがんばらしてください! おまえも腹くくってがんばれよ! ほんで、万一あかんかったときの覚悟はしといてください」
これは、アケスケにいうと営業上のテクニックである。「もう、見込みないですよ」は、あまりに冷たく、学校が切りにかかっているのが丸出しである。わたしの物言いは、最後のところで駄目だったのは、本人と保護者の責任ということになり、わたしの場合百パーセント「お世話になりました」という言葉を聞いて送り出すことができた。保護者と本人が校門を出て、姿が見えなくなるなるまで見送った。門を出る刹那、振り返る子が案外多い。その最後の瞬間まで見守ってやる……こうやって、わたしは六十人余りの生徒を見送ってきた(正確には、クビを切ってきた)しかし、中には、ごく僅かではあるが、わたしの言葉通りに進級、卒業する者もいた。励ましは、効率は悪いが実を結ぶこともある。

始めのほうに話をもどす。送辞の途中で生徒達が寂と静まったことである。近所や世間からは、「あかん学校」と、言われてきた。たしかに行儀も成績も悪かった。
しかし、あの子達は、中途で辞めていった仲間たちへの気がねがあったのである。事故に遭ったとき、自分だけが生き残った人が持つ心の痛みに似ている。代筆したわたしも、この反応には、少し驚いた。アクタレに見える子供たちの心の中にも、ヒトガマシイ心がちゃんとあるのである。そんな子達を六十余人切ったところで、わたしの教師としての何かが切れてしまった。もとより、わたしの人間的、教師としての覚悟の弱さであったのではあるが、そういう教師生活を三十年近く勤めてきたものとしては、このくらいのグチは許してはいただけないだろうか。
「人に書かするは、うるさし」なんでしょうが、
たまにはいいんじゃないだろうか、兼好のオッチャン。

大橋むつお(劇作家 八尾市在住)

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高校ライトノベル・らいと古典・わたしの徒然草 『第三十四段 甲香は、ほら貝のようなるが……』

2012-03-10 07:39:51 | エッセー
わたしの徒然草 『第三十四段 甲香は、ほら貝のようなるが……』

この段は、たった二行の短い段である。
金沢文庫の近くの入り江に甲香(かひかう)という小さな貝が転がっていて、地元の者は、その蓋のとこを「へなだり」というんだって。
それだけのウンチクとも言えないメモのようなものである。

「へなだり」というのは小型のホラ貝みたいで、広島の一部で食用になっているようだが、全国的にはあまり知られておらず。どうということのない貝である。
しかし、よくよく調べると、この「へなだり」というのは香の原料になるのである。
昔は「聞き香」という遊びがあって、いろんな香を焚きしめては、その香りを言い当てる遊び……というか、貴族や上流武家にとっては「たしなみ」の一つであった。
織田信長が、皇室の持ち物で、正倉院に所蔵されていた蘭奢待(らんじゃたい)という香木を削って楽しんだことは有名で、大河ドラマの「江」でも、このシーンがでていた。

日本人の風呂好きは、わたしの知識では江戸時代に入ってからで、それまではあまり入浴の習慣がなかった。江戸期でも女性が髪を洗うのは大変で、今のご時世のように、朝シャンなどという習慣はなかった。当然臭いが気になり、香でごまかしていた。また身分の高い貴族などは自分の香りというものを持っており、外出の折りなどは、衣に香を焚きしめていた。『源氏物語』などには、夜に忍んできた男が、この香でだれであるか分かる仕組みになっている。

ひるがえって、今のご時世はどうであろう。
分けて二種類あるように思える。洗剤などに香りの粒が含まれており、軽く、服をポンと叩くとホワーンといい香りがするもの、という積極派。
なにかにつけて臭いを消してしまう、消臭派。
両極に見えるこの臭い(匂い)に対する対応は同根であるように思えるのだが、いかがであろう。
わたしが幼かったころ、街も人もニオイで満ちていた。
トイレが汲み取り式であったっため、どこの街も、そこはかとなくカグワシイ香りがした。田舎にいくと、これを熟成させて肥料にしていたので、なんとも弥生の昔から、わが遺伝子に組み込まれた魂の奥底が平らかになっていくような心地がした。もっとも都会育ちのわたしは、田舎の便所(トイレなどというヤワなものではない)に、戦時中の米機のの大編隊に囲まれた、戦艦大和のような心境であった。ハエやカの数が半端ではなく、用を足したあとは、露出した身体のあちこちに銃爆撃の跡がのこったものである。
また、子供たちは(わたしもそうだったが)日向くさい匂いがした。街のお母ちゃんたちは、洗剤やら、お総菜やらの入り交じった匂いが、じいちゃん、ばあちゃん達は、なんというか番茶に通じるような匂いがした。あのころは加齢臭などという言語明瞭、意味明瞭、人間性皆無な言い方は無かったように思う。

匂いには、もう一つ意味がある。
「らしさ」を例えた匂いである。たとえば「学生服に、染みついたオトコの匂いがやってくる~♪」と歌にあるようなラシサである。
以前、タクシーなどに乗ると「学校の先生だっしゃろ」と、言われたものである。
今でも街で「ああ、こいつは学校の教師(先生ではない)やろなあ」という人を見かけることがある。演劇部の指導員をやっていたころは「この人は組合のバリバリやねんやろなあ」というところまで分かった。
昔の先生はコンセントの多い顔をした人が、わりといたように思う。ここでいうコンセントとは生徒とのコンセントである。
今の教師にはコンセントを感じない。USB端子とでも言おうか、マウスでもコントローラーでも大容量記憶装置でも接続できそうな……何を象徴しているかは、読者のみなさんのご想像におまかせする。

昨年、高校演劇コンクールの合評会に出て、驚いた。バラエティー番組のように適度に平穏、適度に面白く、あらかじめ構成台本があるんじゃないかしらと疑いたくなるような平穏さ。わたしが疑義を持って発言すると、
「ここは、大橋先生の演説の場ではありません」と、USB端子に「弁士中止」を申し渡された。合評とは「互いに批判しあうこと」と、小学生が使う国語辞典にも書かれている。わたしの頭には以下の言葉が浮かんでいた。
「あんた、国語の先生やろ? それも有名私学の……?」
もう十歳若ければ言っていたであろう。アラ還のわたしにはこのUSB端子の生徒たちが視界に入ってしまった。
この生徒たちにとっては、このUSB端子は神さまなのである。子供たちへの影響を考えて、わたしは黙してしまった。
このUSB端子の先生は、傾向はあるが演劇的には力のある方である。わたしは口惜しかった。この先生は自分のクラブのことについてや、常任委員の先生達による職員劇には熱心である。コンクールにはトラック二台の大道具を持ち込み、照明のつり込みは、大手の専門劇団なみであった。リハでは時間的にも道具の保管場所でもオーバーした。

大阪だけではないが、全国的に演劇部は衰退の傾向にある。
こういう先生たちに、絶滅の淵に立っている演劇部に道を照らして頂きたいのである。具体的には、少人数劇を書いていただきたい。また、少人数クラブのマネジメントの指針を示していただきたいのである。

そうそう匂いの話である。
合評会に出席した生徒諸君の匂いが以前とは変わってしまっていた。昔の演劇部は、文化部の中でも花形で、生徒も一癖ありげなヤツが多かった。それがみんな行儀がいいのである。合評会であるのに批判めいた発言が何もない。こんな言い方は当を得ていないかもしれないが、「この子らは、教室でも大人しく目立たない子たちなんだろうな」
はやりの言葉で言うと、昔の演劇部は肉食系が多かったように思うのだが、いまの子たちは、総じて草食系である。
教師にかかわらず、USB端子ではなく、コンセントの匂いのするひとこそあらまほし……と、締めくくっておく。

大橋むつお(劇作家 八尾市在住)

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高校演劇・坊ちゃんと呼ばれたころ

2012-03-09 10:37:54 | エッセー
坊ちゃんと呼ばれたころ

 大阪府高等学校演劇連盟が、まだ大阪府高等学校演劇研究会といわれ、その運営の主導権を握っていたのは生徒たちでした。
 あの時代は70年安保闘争の残り火がくすぶっていた時期で、高校生というのは、今と全然違う意味で手におえないものでした。今、公立高校で私服の学校がいくつかありますが、大半は、この時代にそうなりました。
「制服は、支配と従属のシンボルである。脱ぎ捨てよ制服!」
 そう、脳天気に叫んでおりました。
 脳天気と言ってしまえば、当時、校内闘争の先頭に立っていた先輩の方々に叱られそうですが。この脳天気には、二つの意味があります。
 一つは、制服を廃止した学校の生徒の多くが、今でも制服を着ているからです。
 私の家の近所にも、制服を廃止した府立高校がありますが、生徒の大半は旧制女学校、旧制中学から変わらぬ制服を着ています。先輩たちが獲得した自由を、あまりアリガタクは思っていないようです。
 もう一つは、その頃、どんな経緯があったのかは忘れましたが、日本の高校生の代表たちが、国連の若者たちの集会に参加して、こう演説しやことに由来します。
「ぼく達はは、こんな制服を着せられて、表現の自由や、個性の自由をうばわれているんです!」
 日本以外の、若者たちの反応は当惑でした。
「君たちは、そんな制服が着られるほど豊かで、保護されているんじゃないか」
「保護……?」
 日本の代表は戸惑いました。
「だって、それを着ていれば、高校生だということが分かるし、そのために保護の目で見てもらえるじゃないか」
 ま、当時の日本の高校生というのはこの程度でした。

 その程度の高校生が、大阪の高校演劇の連盟に相当する組織の運営を任されていたのです。
 会長は名誉職で、四天王寺高校の校長である滝藤先生がなさっていました。今の常任委員会に当たる中央委員会は副会長である生徒が仕切っていました。副会長は総会の選挙で選ばれました。総会の出席者は生徒です。顧問である先生方には投票権がありませんでした。
 わたしは、この副会長を二年務めました。むろん選挙で選ばれました。最初の年は対立候補がいました。夕陽丘高校のFさんでした。シャレのようですが、わたしは旭高校でした。
 旭と夕陽の対決。で、わたしが選ばれました。

 むろん、先生の後見人が事務局長という肩書きでおられました。四天王寺高校の藤木先生です。藤木先生のことは、他のブログでも書きましたが、戦前からの学生演劇のリーダー的な存在で特高にも目を付けられておられ、戦時中は沖縄に派兵され、あの沖縄の激戦を戦い抜かれて、捕虜になられ、捕虜収容所では英語力を活かされ、米軍との通訳をされ、捕虜たちで劇団を作り、たくましく捕虜生活、戦後は、四天王寺高校の英語教師として、高校演劇やアマチュア演劇の世話役として腰を据えておられました。
 中央委員会で決めたことには目を通されましたが、注文をつけられることは、ほとんどありませんでした。

 ある年、こんなことがありました。コンクールの時期になって、専門家の審査員がなかなか決まらないことがありました。当時、専門家の審査員の選定は関西芸術座の道井直次先生にお任せしていました。予選の初発が始まる二週間ほど前になっても、専門家審査員決定の連絡が入ってこないので、藤木先生に相談しました。
「しゃあないなあ。大橋、今から言う専門家のとこに自分で電話して交渉しろ」
 そのアドバイスに従って、わたしは二日ほどで専門家審査員を、予選、本選を含めて決定しました。
 しかし、数日後、道井先生から、お叱りの電話をいただきました。
「なんで、ボクにことわりもなく、キミが勝手に決めるんだ!」
 そのときは業腹でした。道井先生が決めるのが遅いから、こっちでやったのに! そう思っていました。
 後日、その話を藤木先生は「朝日」というキツイ煙草をふかしながら横目で笑っておられました。
 あとで、気づきました。まず道井先生に話しを通しておく。これ、大人の世界では常識でした。藤木先生は「朝日」の煙とともに、横目の笑顔で「それくらい、気ぃつかんかい」と言っておられたのです。

 こんなこともありました。秋のコンクールの初発の地区大会の場に、岸和田産業高校の顧問の先生が来られました。岸和田産業高校は、第6ブロックに属していましたが、直前に出場辞退校が出て、コンクール出場校が、岸和田産業高校1校だけになってしまいました。
「予選がひらけないので、我が校を直接本選に出してもらえないだろうか」
 岸和田産業高校の先生は、そう頼みにこられました。高校2年生の生徒に、五十を過ぎた、先生が真剣に頼まれるのです。むろんその場には、藤木先生はじめ後見の先生方がいらっしゃいました。
「大橋、どないすんねん」
 藤木先生は、そう振ってこられました。
 連盟、いや、研究会の規約では、予選で最優秀に選ばれた学校しか、本選には出られません。組織のモラールを考えれば、岸和田産業は出られません。しかし、岸和田産業さんには、なんの落ち度もなく、情においては、出場させてあげたかったのです。急遽、役員を臨時招集しまして話し合いましたが、みな自信のある答がだせません。
「大橋、おまえが決めろ」
 藤木先生は、ランチのメニューを決めるような気楽さ(内心は真剣であったことは分かりました)で、またもや振ってこられました。
 で、苦悩の末、岸和田産業さんには泣いていただきました。
 あの決定が正しかったのか、全く正しかったのか……というと自信はありません。
 ただ、組織の基本原則。カタチとしては規約というのは、それほど重いものだという認識は、そのころも、今もかわりません。
 今、思えば、藤木先生はムチャブリではありますが、規約通り、教師は役員(生徒です。念のため)の議事や決定には立ち入ってはこられませんでした。

 そんな藤木先生が、わたしの家に電話してこられるときは、こうでした。
「四天王寺の藤木ですが、坊ちゃんはおられますか?」
 明治男の物言いでは、こうなるのでしょうが、この「坊ちゃん」には……スゴミがありました。
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高校ライトノベル・らいと古典『第三十三段 今の内裏作り出されて……』

2012-03-08 09:04:59 | エッセー
わたしの徒然草『第三十三段 今の内裏作り出されて……』
この段は、二条富小路の内裏が、再建されたときのことである。
花園天皇が内裏のお入りになる前に、祖母の玄輝門院が下見をされて、
「あ、閑院殿ののぞき窓のカタチがちゃいますよ」と述べられた。
それを兼好のオッチャンは「いみじきこと」と、喜んでいる。

「いみじ」とは、程度が甚だしい事に使う形容詞で、平安時代この方、よく使われる。
兼好のオッチャンには、申し訳ないが、女子高生の「かわいい」と大差ない頻度(品度にかけたシャレですが)でつかわれている。

今回は、兼好のオッチャンの「いみじ」にこだわってみたい。
この閑院殿の窓とは、やんごとなき皇族の方々が、役人たちの仕事ぶりなどを「のぞき見」するための小窓のことである。この内裏が再建されたのは、じつに五十八年ぶりのことで、「カタチちゃやいますよ」と指摘した玄輝門院は、そのとき七十二歳。焼亡前の内裏のころは十四歳の少女であった。
つまり、玄輝門院は、おちゃめな少女で、この閑院殿の窓から、のぞき見をしていたのである。その少女の「オチャメな少女時代」を、無意識に「その窓ちゃいますよ」で、出してしまったことを、兼好のオッチャンは「いみじ」と感じた。
その少女時代のみずみずしいオチャメを「いみじ」と感じられ程の歳に、兼好自身が感じたのであれば、彼自身オッサンになっているだろうと思って調べたら、この三十三段以後を四十代の作とする先生達が大半である。

現職の教師であったころ、昼休みに教室を覗いてみると、前日に同じ短大を受験した二人の女生徒が言い争っていた。
「準備万端」と黒板に書かれており、「これに読み仮名をつけなさい」という問題であったらしい。真面目そうなセミロングが気弱にこう言った。
「『じゅんびばんたん』やと思うけど……」
元気印のショ-トカットは自信たっぷりに、こう言った。
「『じゅんびマンタン』やなあ、先生!?」自信マンタンに鼻を膨らませた。
「『じゅんびばんたん』やでえ」と、答えてやった。
「え、うそ……」鼻を膨らませたまま、ショ-トカットはフリ-ズした。
これに似た感性を七十二歳の玄輝門院が、不覚にも見せてしまったことを兼好のオッチャンは感じたのであろう。兼好自身いい感性をしている。

ここからは、わたしの感性である。
兼好というひとは、よく「無常観の人である」と言われるが、この無常観は、変わらぬものへの信頼があっての上であろうと思う。
兼好は有職故実に詳しい。
有職故実とは、ブッチャケて言えば形のことである。挨拶のしかたに始まる礼儀作法や、衣装、儀式のありようである。
象徴的なことだけ書く(言い出せばきりがないので) 看護婦さんという言い方が公には消えた。看護師と書く。
保母さんという言い方が公には消えた。保育士と書く。「婦」という字には「帚」という字が入っていて、差別的なのだと聞いている。でも、現場の病院や保育所にいくと「看護婦さん」「保母さん」が、まだ現役の言葉として残っている。
ある社会的な考え方に右へならえで、前世紀の終わり頃に変わったと思うのだが、現役の言葉として生きているということは、やはり新しい言葉には無理があるのではと思うのだが、いかがであろう。
平塚雷鳥や、市川房枝が戦ってきたのは「婦人解放運動」である。「女性解放運動」と言わなければならないのだろうか。また「主婦」という言葉は置き去りにされていると思うのだが、どうなんだろう。
また、「看護師」「保育士」では「し」の字が違う。浅学のわたしには分からない。ご教示いただければ幸甚である。
わたし一人の感覚かもしれないが「婦人」という言葉には、独立したイッパシの女性の姿と尊厳が感じられるのだが、もし間違っているのなら教えていただきたい。

話は飛ぶようだが、おおかたの学校から「仰げば尊し」「蛍の光」が消えた。
教師は聖職ではなく労働者だと、現職のころよくいわれた。
ブッチャケ、わたしはどちらとも言い切れない。ただ人の人生に大きな影響を与える責任の大きな仕事である。むりやり言えと言われれば「教育職の公務員」である。
詩的な言葉でいえば「先生」である。この言葉だけは幕末から変わっていない。
詩的ではあるが、この「先生」という言葉は垢にまみれ、傷だらけではあるが、学校を学校たらしめる最後の砦のような言葉だと思う。
東京では「机間巡視」のことを「机間支援」というと聞いたが本当だろうか?

言葉には、言霊が宿っている。「仰げば尊し」「蛍の光」は、戦時中に作られた軍歌ではない。日本が、明治に国民国家として自立していく中で作られた、言霊を宿した歌である。
「ビルマの竪琴」という映画で、僧侶になった水島上等兵が、最後無言で竪琴で弾いた曲が「仰げば尊し」である。この曲で、仲間達の兵隊、観客は水島の決意を感じるのである。
「軍艦マーチ」が、海上自衛隊の儀仗曲であることはわりに知られている。
「抜刀隊」が陸上自衛隊の儀仗曲であることはご存じであろうか。この曲は、昭和十八年、明治神宮外苑での雨の学徒出陣壮行会で流された曲で、かなりのご年配の方でも良い印象をお持ちではないと思う。歌詞の冒頭はこうである。
「我は官軍。我が的は、天地入れざる朝敵ぞ……」こう書いただけで拒絶反応であろう。
この曲は、西南戦争のおり、あまりに強い西郷軍に悩まされた政府が、士族が多い警視庁の巡査で部隊を編成したときの曲で、今の警察の公式儀仗曲でもある。

兼好のオッチャンが思ったように、世の中は無常なものである。しかし、その中にけして無常ではないものがある。兼好のオッチャンの心の底にはそれがあったと思っている。
我々も、へたな言葉いじりばかりしていないで、たまには無常ではないものに心を寄せてみてはどうだろう。

一つ思い出した。国鉄がJRになったとき、国電をE電と言うことにしたのではないだろうか。今E電などと言う人はいないと思うのだが……

もう一つ思い出した。
「お父さん、お母さん」という言葉を我々は平気で使う。これは思想信条には関わりなく、この父母への呼称に異を唱える人はまずいないだろう。
しかしこの「お父さん、お母さん」は明治になって、文部省が作った言葉なのである。語源は定かではないが、江戸の下町言葉である「おっかさん、おとっつあん」という説があり、明治の初年「そんな下卑た言葉を学校で教えるとは何事か!」と、怒鳴り込んだ人たちがいた。この人たちは「父上、母上」「おたあさま、おもうさま」と呼んでいた人たちである。

締めくくりなおす。
明治から、この百五十年ほどのスパンで定着した言葉はすでに言霊を持っていると考えていいのではないだろうか。

大橋むつお(劇作家 八尾市在住)
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高校ライトノベル・「GIVE ME FIVE!」(ギブ ミー ファイブ!)

2012-03-07 12:43:39 | 小説
「GIVE ME FIVE!」(ギブ ミー ファイブ!)  

「ねえ、ケント元気!?」
 陽気な声が、梅の花びらといっしょに降ってきた。
 見上げると、ピロティーの上の露天になった渡り廊下から、スーザンがみんなと写メを撮りまくっている。その合間に、中庭でしょぼくれているボクに声をかけてきたのだ。ボクは手の甲の傷をそっと撫でた。
 
 スーザンは、アメリカはシアトルにある姉妹校ヘブンロックハイスクールからの交換留学生。
 普通は、一ヶ月程度の短期なんだけど、こいつは、二学期からずっといて……というか、居着いてしまい、とうとう今日の卒業式まで居座った。
 やってきた時はびっくりした。日本人の血が1/4入っているらしいが、青い目にソバカス、ほどよく上向きの鼻が、いたずらっぽく、なんだかポップティーンの表紙になってもおかしくないほど可愛かった。
 で、当然のごとくクラス、いや、学校中の男子からはアコガレを通り越して、遠巻きに見守られているって感じ。
 最初の挨拶、まさに漢字の挨拶。ぼくたちが、学年始めにやるフニャフニャしたアイサツとは格が違った。
「初めまして。わたしスーザン・モントレーと申します。皆さんご存じのアメリカの姉妹校ヘブンロックハイスクールから、交換留学世としてやってきました。ヘブンロックハイスクールはシアトルにございます。シアトルはアメリカの北西部のワシントン州にあります。えーと、この教室をアメリカだとすると、廊下側の席の一番後ろあたりになります……」
 クラスのみんなは、スーザンの流ちょうな日本語に驚くとともに、彼女が示した廊下側の一番後ろの席に注目した。彼女に悪意はない。たまたま教室の北西部にあたるのが、ボクの席だった。で、ポーカーフェイスを決め込むとか、適度な笑顔ができたらよかったんだけど、ボクはニッコリ笑顔のスーザンとまともに目が合い、自分でもはっきり分かるくらいに真っ赤な顔になって、うつむいてしまった。当然クラスのみんなから、注目されてしまった。
「わたし、アメリカじゃ、スーズって呼ばれていたの。みなさんも、そう呼んで……で、あなたは?」
 救いの手のつもりだったんだろうけど、スーザンはボクに振ってきた。シアトルじゃ救いの手とか、親愛の情とか言うのかもしれないけど。ここじゃ「イジル」ってことになる。ボクは、学校では、ちょっとした「変わり者」で通っている。その理由はおいおいと……。
 ボクがモゴモゴしていると、担任のジュンちゃんが、余計なフォローをしてきた。
「松平賢人、ほんとは前から二番目の席だったんだけど、黒板が見えにくい鈴木さんに席を譲ってあげたの」
「それは偉いわ!」
 スーザンにとっては、自然だったんだろうけど、日本では大げさな誉め言葉(誉め殺し。少なくともイジメの一歩手前のイジルに通じる)とともに拍手した。クラスのみんなも、スーザンのペースに巻き込まれて拍手。
 で、偶然とは怖ろしいモノで、スーザンの席はボクの横になってしまった。

 怖ろしい偶然は、その後も続いた。なんとスーザンは、ボク一人だけが男子部員という演劇部に入ってきた!
 そう、これがボクが「変人」と思われる理由。演劇部は、ボクが入学したころは上級生に男子が居た。だからうっかり入ってしまった。その上級生は、茶花道部とも兼部していて、学校じゃ、ちょっとしたオネエで通っていた。それを知ったのは連休明けに正式入部届を出した後だった。
 でも、その強田剛という、オネエとは、およそ似つかわしくない名前の上級生が居る間は良かった。強田オネエが卒業してからは、演劇部で唯一の男子部員になってしまった。それまでになくてはならない存在になってしまったボクは、クラブを辞めることもできなかった。
 なくてはならない存在というのは、能力のことじゃない。ボクが辞めるとクラブは五人になってしまい、規定によって、クラブから同好会に格下げされ、部室も使えなくなるからだ。
 
 まあ、一ヶ月の短期留学。お客サマのつもりでいた。
 それが、月が変わっても、彼女は居続けた。
 その手伝いをしたのも、偶然だけどボクだった。
 その日は文化祭の振り替え休日で、学校は休み。朝寝坊して、大学を遅刻しそうになった姉貴をバイクに乗せて、駅からの帰り道だった。コンビニの角を曲がったところで出くわしてしまった……スーザンと。
 ブロンドのポニーテールが、道ばたでしゃがみ込み、壊れた自転車と悪戦苦闘していれば、イヤでも目に付く。目に付くんだから、放っておいても誰かが声をかけたんだろうけど、ボクはあまりの突然にブレーキをかけた。自分の直ぐ後ろでバイクが停まったんだから、当然スーザンも振り返る。
「ああ、ケント、ちょうどよかった。神さまのお導きね!」
 胸に十字をきって、スーザンは、バイクの後部座席にまたがった。
「あ、あの、ちょっと……」
「アメリカ領事館まで、お願い!」
 ボクは、日本の道路交通法で、バイクは同乗者でもヘルメットを被らなければならないと言うのが関の山だった。

 スーザンがなんの用事で領事館に行ったのか、分かったのは、その帰り道に寄ったマックの二階だった。
「え、じゃあ、卒業まで日本にいるの!?」
「日本人の表情は読みにくいけど、特にケントは、そうね。わたしが卒業まで同じ学校の同じクラスで、同じクラブにいることが、嬉しいの? それとも迷惑なの?」
 スーザンはまともにたたみかけてきた。
「いや、迷惑だなんて……」
 ボクは、平均的な日本人がそうであるように、意味不明な笑顔になった。しかし、彼女は完全な賛意と受け止めた。
「ないんだ! じゃ、わたしの話を聞いて!」
 完全にスーザンのペースだった。
 スーザンは、シアトルで嫌なことがあって、日本への留学を希望したようだった。嫌なことの中身は言わなかったけど、むこうの学校の名前のように「ヘブンがロックされたような事情」らしい。
 一ヶ月の短期留学を、卒業までの半年に延ばしただけでも、ヘブンのロックは取れないような様子だった。 保護者である母親の了解を得られたのが、昨日で、延長許可が認められる最後の日だったようだ。そして、喜び勇んで領事館に行く途中、中古で買った自転車のチェ-ンが外れてしまったところにボクが出くわしたわけ。
 彼女が日本人以上に正しい日本語を喋るのは、母方のお婆ちゃんに、幼い頃から育てられたから。だから「ら」抜き言葉なんか喋らなかったし、朝日新聞のことも正確に「アサシシンブン」と発音していた。

 文化祭で演劇部は、「ステルスドラゴンとグリムの森」という芝居をやった。ボクは優柔不断で、白雪姫になかなかキスをできない王子さまの役だった。言っとくけど、ボク自身が優柔不断で当たり役だというわけでは無い。どうしても男でなければできない役が、これだったから。
 スーザンは中途入りだったので、照明係と、道具係を楽しげにやっていた。特に、後半の山場で、ドラゴンが飛び回り、最後に退治され、本来の姿、これがすごい。数千のゲームソフトやマンガラノベの本。これが舞台一面にぶちまけられる。この仕掛けをスーザンは簡単にやってのけた。どうやったかって?
 コロンブスの玉子! 彼女はネットで、昨年、この芝居をやった学校を検索し、直接交渉して仕掛けごと借りてきた。で、文化祭では大成功!
「ねえ、どうしてケントは、わたしのことスーズって呼ばないの?」
 紙ナプキンで、口を拭きながら、スーザンが聞いた。
「いや……なんとなく、そう呼び慣れちゃったから」
「ま、いいんだけどね。シアトルで、わたしのことスーザンってキチンと呼ぶのは、教会の神父さんと、遅刻指導するときの校長先生ぐらいだから」

 コンクール前に大事件が起こった。
 主役の白雪姫をやる徳永さんが盲腸で入院してしまった。今年は、文化祭でも成功したので、コンクールは自信をもって、みんな張り切っていた。
 本番三日前。もう、こりゃ辞退するするしかないと、部員一同覚悟を決め、期せずしてため息をついた。その時に、スーザンが叫んだ。
「わたしが、アンダスタディやる!」
 ス-ザンの流ちょうな日本語に慣れてしまっていたので、突然の英単語に、みんな戸惑った。
「アンダスタンド?」
 顧問の滝沢先生が、仮にも英語の教師であるのに、中学生並みのトンチンカンを言った。
 これくらいの言葉は通じるだろうと思っていたスーザンも戸惑った。
「Oh it's mean……Daiyaku!」
 この半年で、スーザンが英語を喋ったのは、これが最初だった。青い目玉を一回ぐるりと回すと、日本語で、こう言った。
「わたしが、エリカ(徳永さんのこと)の代わりに、白雪姫やるのよ!」
 アメリカやヨーロッパの芝居では、主役級の役は、あらかじめ代役が決めてあり、イザというときにはいつでも代役が務まるようにしてあるそうで、それをアンダスタディといって当たり前なのだそうだ。スーザンはそのアメリカでの当たり前を口にしたのである。別に、ぜひ代役がやりたくて、徳永絵里香の名前を書いたワラ人形に五寸釘を打ったわけではない。

 で、そのスーザンの代役で、地区予選は無事に最優秀。我が校としては十五年ぶりの地区優勝だった。
 ささやかに、祝勝会をカラオケでやった。女の子ばっかのクラブなので、唄う曲は、KポップやAKB48の曲になり、ボクはタンバリンを叩いたり、ソフトドリンクのオーダー係に徹した。スーザンは、この三ヶ月足らずで、新しい日本語によく慣れた。立派な「ら」抜きの言葉になったし、自分のことをときどき「ボク」と言ったりする。もっとも「ボク」の半分は、いまどき一人称に「ボク」を使うボクへの当てこすりではあるけど。スーザンの美意識では、男の一人称は「オレ」または「自分」であった。
 しかし、スーザンの歌のレパートリーも大したものだ。AKB48の曲なんか、ほとんど覚えてしまっていた。

 中央大会でも、出来は上々だった。最優秀の枠は三つあるので、地方大会への出場は間違いない!
 演ったほうも、観ていた観客もそう思っていた。部長のキョンキョンなどは顧問に念を押していた。
「地方大会は日曜にしてくださいね。土曜は、わたし法事があるんで!」
「ああ、法事は大事だよね」
 スーザンが白雪姫の衣装のまま、神妙に言ったので、みんな笑ってしまった。しかし、その笑顔は講評会で凍り付いてしまった。

「芝居の作りが、なんだか悪い意味で高校生離れしてるんですよね。高校生としての思考回路じゃないというか、作品に血が通っていないというか……あ、そうそう。白雪姫をやった、ええと……主水鈴さん(洒落でつけたスーザンの芸名)役としてコミュニケーションはとれていたけど、作りすぎてますね、白雪姫はブロンドじゃないし、外人らしくメイクのしすぎ。動きも無理に外人らしくしすぎて、ボクも時々アメリカには行くけど、いまどきアメリカにもあんな子はいませんね。それに……」

 審査員のこの言葉にスーザンは切れてしまった。

「わたしはアメリカ人です! それも、いまどきの現役バリバリの高校生よ! チャキチャキのシアトルの女子高生よ!」
「まあ、そうムキにならずに」
「ここでムキにならなきゃ、どこでムキになるのよ! それだけのゴタク並べて、アメリカ人の前でヘラヘラしないでほしいわよね!」
「あのね、キミ……」
 そのあと、スーザンは舞台に上がり、審査員に噛みつかんばかりに英語でまくしたてた。アメリカに時々行っている審査員は、一言も返せなかった。史上で一番怖い白雪姫だただろう。


「そんなこともあったわね」
 渡り廊下から降りてきたスーザンがしみじみと言った。
「止めんの大変だったんだから」
「ごめんね」
「もういいよ」
 ボクは、傷の残っている右手を、そっとポケットに突っこんだ。でも、スーザンは目ざとく、それを見つけて、ボクの右手を引っぱり出した。
「傷になっちゃったね」
「ハハ、男の勲章だよ」
「傷にキスしてみようか。カエルだって王子さまにもどれたんだし。ボクがやったら、傷も治って、キミはいい男になれるかもよ」
「その、ボクってのはよせよ。日本語の一人称として間違ってる」
「ボクは、ボク少女。いいじゃん。この半年で見つけた新しい日本だよ。キミも含めてね」
「よく、そういう劇的な台詞が言えるよ。他の奴が聞いたら誤解するぜ」
「だって、ボクはアメリカ人なのよ。普通にこういう表現はするわよ。ただ日本語だってことだけじゃん……あ!」
 スーザンが有らぬ方角を指差した。驚いてその方角を見ているうちに手の甲にキスされてしまった。
「あ、あのなあ……」
「リップクリームしか付けてないから」
「そういうことじゃなくて」
「……じゃなくて?」
 
 気の早いウグイスが鳴いた。少し間が抜けた感じになった。

「シアトルには、いつ帰んの?」
「明日の飛行機」
「早いんだな……」
「見送りになんか来なくっていいからね……ここでの半年は、ちゃんと単位として認められるから。秋までは遊んで暮らせる。もちろん、大学いくまではバイトはやらなきゃならないけどね」
 アメリカの学校は夏に終わって、秋に始まるんだ。
「ねえ、GIVE ME FIVE!(ギブ ミー ファイブ!)OK?」
 ボクは勘違いした。卒業に当たって、女の子が男の子の制服の何番目かのボタンをもらう習慣と。で、ボクたちの学校の制服は、第五ボタンまである。なんか違うなあという気持ちはあったけど、ボクは返事した。
「いいよ」
「じゃ、ワン、ツー、スリーで!」
 で、ボクたちは数を数えた。そして……。
「えい!」
 ブチっという音と、ブチュって音が同時にした。ボクは、てっきり第五ボタンだと思って、ボタンを引きちぎった。スーザンは、なぜか右手を挙げてジャンプし、勢い余って、ボクの方に倒れかかってきた。危ないと思ってボクは彼女を受け止めた。でも勢いは止められず、ボクとスーザンの顔はくっついてしまった。クチビルという一点で……。
「キミね、GIVE ME FIVEってのはハイタッチのことなのよ! ああ、こんなシュチュエーションでファーストキスだなんて。もう、サイテー!」

 それから、一年。ボクもスーザンも、お互いの国で大学生になった。
 で、ボクはシアトル行きの飛行機の中にいる。手には彼女からの手紙と写真。写真は少し大人びた彼女のバストアップ。胸にはボクの第五ボタンがついている。スーザンはヘブンのロックを、同じ名前の母校の生活とともにパスしたみたいだった。
 シアトルについたら、スーズって呼べそうな気がする。しかしボクの心って、窓から見える雲のよう。青空の中の雲はヘブン(天国)を連想させるが、実際はそんなもんじゃない。
 前の四列目の座席で乗客が呟いた。
「あれって、積乱雲。外目にはきれいだけど、中は嵐みたいで、飛行機も飛べないんだぜ」
 同席の女性が軽くおののいた。
 ボクの心は、もっとおののいている……。
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高校演劇・絶対評価の勧め

2012-03-05 09:58:05 | 評論
高校演劇・絶対評価の勧め
演劇部を構成する人々の変化
 わたしは、大阪府高等学校演劇連盟が大阪府高等学校演劇研究会と言っていたころからの付き合いで、今年で45年目になりました。
 気になる変化がいくつかあります。
 まず、生徒達が大人しくなったこと。コンクールで、どんな審査結果が出ようと。文句を言いません。講評の席が不穏な空気につつまれるということも近年、寡聞にして知りません。
 我々の時代は、相手がナニサマであろうが、「おかしい!?」と思ったことは「おかしい!」と叫びました。当然論戦になります。そこには、審査員も、顧問もOBもヘッタクレもありませんでした。当時、大阪の高校演劇の天皇(やや不穏当な表現ですが、当時は、そう言ったのでママとします)と言われ、全国高等学校演劇協議会のシンボルマークをお作りになった、O学院のS先生にも遠慮しませんでした。S先生も「なんで、ワシの本があかんねん!?」と、生徒と対等に論議されました。収拾がつかなくなると、沖縄戦の勇士であられた、S高校のH先生や、守口で坊主と兼業されていた府立SE高校のHI先生や、府立N高校のO先生などが仲裁に入られました。
 十年ほどして、そういう生徒は居なくなりましたが、それでも、いいかげんな審査や、不審な審査結果が出ると、講評会場は不穏な空気になり、後で、審査員室まできて「なぜ、うちの学校はだめだったんですか」と、聞いてくる生徒がいました。二等賞である「優秀賞」の受け取りを拒否し、紛糾、審査員が審査をやり直すという局面もありました。
 その次に、講評会では大人しくしているが、審査員が会場を出るときに、歩道橋の上に並び「○○のアホンダラ!」と、罵声を浴びせた学校もありました。

 そして、昨今気づくと、生徒達は羊のように大人しくなりました……。
 講評の場で、不穏になることも無ければ、歩道橋に並んで「アホンダラ!」と、叫ぶこともしません。

幕間交流は、生徒だけに限られました
 多分、去年、わたしが、近畿大会で発言したことが原因だと思うのですが、大阪の府大会、近畿大会の幕間交流での発言は、生徒だけに限られることになったようです。この情報は他府県のネット仲間からいただきました。
 わたしは去年の反響の非生産的な結果を見て、もう二度と、ああいうところでは発言しないと決意しましたので、大橋対策だとしたら、意味がありません。他の穏当なOBや顧問、コーチの発言まで封じてしまうことになり、非常に残念です。
 子供たちは、誉め言葉しか言いません。落書きコーナーもそうです。わたしたちの時代は、誰が何を書くかわからず、ああいうものは設置しませんでした。
 批評を書いてもいいのだろうと思い、わたしは思ったことを正直に書きました。むろん誉めるところは誉めております。しかし、前世紀の感覚で書いた、わたしのコメントは、すこし鋭い書き方なのか、ひどく破壊的なコメントととられ、その批判も匿名のネット上のコメントとしていただきました。
 あのコーナーは、感想を書くコーナーであるはずですが、誉め言葉しか見あたりません。前述しましたが、幕間交流でも、講評の場でも、合評会でも、生徒たちは誉め言葉しか言いません。
 いま、少なくとも大阪の高校演劇は誉め殺しのラビリンス(迷宮)の中にいます。そして、他の部活に比べ、しだいに活力を失いつつあります。コンクールに出てくる作品の弱さにそれが現れています。昔の審査員なら、こう言ったでしょう。
「どうしても選ばなあきませんか」
 で、当然の如く、生徒、OB、顧問、審査員の間でケンケンガクガクの論戦になりました。

そこで、絶対評価の提案です
 今のコンクールは相対評価です。ドシガタイ作品がならんでも、審査員は適当な賛辞を述べ、最優秀以下の作品を決定されます。みな、それが当たり前と思っています。

 連盟の組織維持のためには、どうしても上位のコンクールに昇っていく作品を選ばなければなりません。これには、何の異議もありません。コンクールは「研究大会」というケッタイな名前がついていますが、要は競技会です。当然、賞の数だけ選ばなければなりませんし、順位はつくと思います。
 話しは、ここからです。
 最優秀の名に値しない作品ならば、そういう名称を使わなければいいでしょう。単なる優秀賞で良いと思います。最優秀3校などと決めてしまうから、子供たち、最近は先生たちも「コレデイイノダ」と思ってしまうのです。
 優秀校1校、優良校2校。それで上位のコンクールに送り出してやればいいと思います。そうすれば、無条件に「コレデイイノダ」とは思わなくなるでしょう。一等賞の作品でも欠点があるんだ。そういうことを指摘してやる勇気が、教師、審査員を含めた大人には要ると思います。
 そして、全国大会では「最優秀該当作品無し」ということがあってもいいと思います。
 全国的に見て、高校演劇は凋落傾向にあります。コンクールの観客席の入り。NHKの高校演劇のとらえ方、ネットで検索したときの「高校演劇」の少なさが、それを物語っています。

元気な東京
 東京の高校演劇連盟への加盟は増加傾向にあると、ネット仲間から教えられました。増加するための問題も起こっているようです。仄聞ではありますが、東京のコンクールのパンフには広告ものせられないとか。また、アンチ連盟の加盟校もいて、コンクールに出ない(大阪では考えられません)高校もあるとか。また、連盟を批判したアジビラというかパンフというか、そういうものも流布されているとか。遠く大阪から見るとワクワクするような状況であるようです。無論渦中にいる先生方は大変でしょうが、健康的な多様性を感じました。
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