大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・希望ヶ丘青春高校有頂天演劇部の鉄火場①とにかく始めてみたぜ!

2018-05-31 06:48:03 | 青春高校

希望ヶ丘青春高校有頂天演劇部の鉄火場

①とにかく始めてみたぜ! 

 
※ 創刊のご挨拶

 なんだか演劇部のブログが流行ってる。たいてい毒にも薬にもならないものばかりだけど、見てる奴が多いんで、我が有頂天演劇部もおっぱじめることになった。絶滅寸前の高校演劇の中で余裕こいてブログやろうっていうんだから、ラストネームは鉄火場だ!

 予定、見通しまるで無し。その日その時、気息奄々の演劇部のことを書き散らすだけ。
 面白いと思ったら読んでくれ。つまんなくてアクセス減ったら、即廃刊。
 え、言葉遣いが悪い!?
 生まれて持った気性だから仕方がねえ、辛抱しろい。
 なんだ、その割にはタイトルの謙譲語が、間違ってる? ご挨拶じゃなくて、挨拶? ゴチャゴチャ言うんじゃねえ!
 要は、心だ心意気だぜ。

 と、このくらい書いときゃいいだろ。あとは適当にやってくんねえ。  

 部長 三好清海(みよし はるみ)


※役者組
 
 お芝居は 下手こそよけれ 心臓の 動き出しては たまるものかは  

 心臓外科医の弁。心臓が体の中を動きだしたら外科手術など出来たものじゃない。という医者の誤解。
「人の心を動かすこと」をみなさんモットーになさっているようですが、ナマッチョロイ高校演劇を観にこようなどというのは、半分感動してる自分に自己陶酔、あるいは集団陶酔したい人ばかりなので、高校演劇の県大会以上では、もう涙と笑いの感動の渦。

 舞台の役者もほとんど自己陶酔。こんな中に並の神経した人間が混じったら気持ち悪いだけ。遅かれ早かれ衰退していく運命の高校演劇だけど、たった一度でいい。超新星のように、宇宙の原初のようなビッグバンになれたらいい。

                                役者組組長  猿飛佐子(さるとび さこ)


※道具その他組

 うちの演劇部は兼業部員を入れて十人。演劇部としては平均以上だけど、とても役者と、それ以外の専門に分ける余裕なんかないし、そうすべきとも思わない。でも分けて書いた方がかっこいいので、そうしてます。
 基本は役者の二軍です。出番の少ない役をやりながら、スタッフの仕事をこなしています。
 将来、芝居で食べていこうなんてバカなことは考えてません。地場産業の零細企業に就職したらなんでもこなさなければなりません。
 でも誤解しないでくださいね、将来を悲観してるわけじゃないんです。それどころか夢と誇りを持ってます。町工場でも、人工衛星を作った実績があります。そういう地域ってか、地元に誇りを持ってるんです。
 まあ、人生勉強が演劇部だと思います。
 でも、本音は、いっぺんテッペンをとることです!

                            道具その他組組長 霧陰才子(きりがくれ さえこ)

※顧問より

 生徒が、なにやら始めました。安月給の教師としては、顧問をしているだけでアゴが出そうなのに……止めろと言ってもやる奴らばかりなので勝手にやらせてます。不穏当なことを書くかもしれませんが、けして教育委員会などに通報なさいませんよう。笑い飛ばして、読み飛ばして、シャレだと思って読んでください。本校をご存じない方は、けして検索などなさいませんように。

                               有頂天演劇部顧問 真田幸雄(さなだゆきお)

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・18』

2018-05-31 06:40:29 | 小説3

高校ライトノベル
『メタモルフォーゼ・18』
        


 カオルさんのお葬式の帰り、思い出してしまった!

 年末には、お父さんと、お兄ちゃんが帰ってくる。あたしが女子になったこと、まだ知らない。
 あたしは、もう99%美優になってしまっていて、バカみたいだけどメタモルフォーゼしてから、ちっとも思い至らなかった。

「どうしよう、お母さん。年末には、お父さんも、お兄ちゃんも帰ってくるよ」
「そうよ、近頃は盆と正月だけになっちゃったもんね、楽しみね。でも男なんか三日でヤになっちゃうだろうな」
「いや、だから……」
「いまや、美優もKGR46のメンバーなんだからさ。胸張ってりゃいいのよ」
「だって、お母さん……進二は?」
「進二……だれ、それ?」
「あ、あの……」
 あたしは一人称として「ぼく」とは言えなくなってしまっていたので、自分の顔を指した。
「美優……知ってたの。あなたが男の子だったら、その名前になってたこと。うちは女が三人続いたから、最後は男で締めくくろうって思ってたんだけどね。麗美は小さくて分かってなかったけど、留美と美麗は『おちんちんが無いよ!』ってむくれてたわよ」
「あたし、最初っから美優……」
「そうよ、それよりゴマメ炒るの手伝って。お母さんお煮染めしなきゃなんないから」
「ダメよ、紅白の練習とかあるし」
「え、美優、紅白出るの!?」
 仕事納めから帰ってきた留美ネエが、耳ざとく玄関で叫んだ。
「うん、三列目だけど……あ、もう行かなくっちゃ!」

 深夜にレッスンから帰ってきて、自分の持ち物を探してみた。

 そこには進二であったころの痕跡は一つも無かった。CDに収まっているはずの進二時代の写真も無かった。
「どういうこと、これ……」
「そういうこと……」
 レミネエが寝言とオナラを同時にカマした。

 二十九日からは、それどころじゃ無くなってきた。

 レコ大(レコード大賞)と紅白への追い込みが激烈になってきた。
 レコ大は大賞こそAKBに持って行かれたけど、KGRも「最優秀歌唱賞」を獲得。その晩タクシーで家に帰ると……。
「美優、おめでとう! しばらく見ないうちに、ほんとにアイドルらしくなったなあ!」
 お父さんが、赤い顔でハグしてきた。お酒臭さがたまんなかったけど……。
「ごめん、あした紅白。ちょっと寝かせて……」
「おお、そーしろそーしろ」
 進一兄ちゃんが、これまた酒臭い顔で寄ってくる。
「悪いけど、お風呂まで付いてこないでくれる!」
「明日起きたら、サインとかしてくれる?」
 あたしは無言でお風呂に入り、鼻の下までお湯に漬かって考えた。

 いや、考えるのを止めた。

 どうやら、あたしを取り巻く環境ごとメタモルフォーゼしてしまったようだ……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『校長になったキミへ』

2018-05-30 07:08:05 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト318
『校長になったキミへ』



 拝啓、退職以来日々世事に疎くなるばかりで、君が真田山学院の校長になっていたのを知ったのは、つい昨日のことです。

 さるバラエティー番組の「学校へ行こう」のコーナーで真田山が取り上げられ、府下でも数少ない女性校長として出てこられたときには本当にびっくりしました。

 もう三十三年、いや三十四年前になるでしょうか、わたしは二十九歳、五回目の採用試験に合格、府下でも指折りの困難校である生駒西高校に赴任しました。
 まだ一学年が十二クラスもある時代でした。生徒は総員で千三百はいたでしょうか。十数人の新転任の教師の中で、女性はキミ一人だけでした。

 生駒西は、並の教師では務まりません。わたしが採用試験に合格しながら三月の終わり近くまで赴任校が決まらなかったのは、出身大学と成績のためであると観念しておりました。
 わたしの前に新採の女の先生が決まっていましたが、若い女性では務まらないと社会科が校長に申し入れ、それで甲子園も準々決勝の日に校長から電話がありました。

 転任者はベテランぞろい、新任は全員体育の格闘技専門かと思われるようなマッチョたちの中で、キミ一人が紅一点でありました。
 正直、あのころのわたしは、おののきながらも「出身大学なんか関係あれへんやんけ」と思っていました。
 社会科の1/3は年下でした。みんな立派な学歴でした。高校は高津、北野、大手前などがゴロゴロ。大学は関関同立は掃いて捨てるほどいました。わたしの隣の又吉君などは高津、京大でした。

 わたしは狭山大学「狭山、和泉が大学ならば、蝶々トンボも鳥のうち」と世間に揶揄された大学です。講師経験こそ三年ありましたが、用はアルバイト。その後の言葉で言えばニートでありました。

 正直、北野高校、東京大学出のキミは、眩しくも畏敬の存在で、直接口も利けませんでした。

 キミとの最初の会話は、明日から連休という四限目の授業の終わりでした。
「ようやっと連休ですね」
 思わず階段の踊り場で声を掛けられた時、わたしはなんと答えたのか覚えてはいませんが「この人も、当たり前の人なんだ」と和むような気持ちになったことを覚えています。

 わたしは途中で組合を辞めましたが、キミは管理職になるまで組合員だったのでしょうね。

 教職員に労働組合が必要なのは重々分かっているのですが、あの民主集中制が支配する組合にいることは、わたしにはできませんでした。日の丸・君が代に反対することも、自分の心情ではできませんでした。

――日の丸の掲揚に反対することを、教職員の総意とする――

 これが職員会議で決議されそうになったとき「総意という言葉は外してください。わたしは賛成です」と、わたしは述べました。ほとんどの先生から侮蔑の目でみられました。その目の中にキミがいたことを古参の組合員に睨まれるよりも気になった。本当です。

 今は管理職はおろか、一般の教職員も国旗に敬礼し、国歌たる君が代を斉唱しなければならない時代になりました。キミは校長なのですから、先頭で国歌を歌っておられるでしょう。
 別に、そのことを責めているわけではないのです。時代が変わったのだから仕方のないことだと思っています。

 へんな方向から思い出を語ってしまいました。

 校長はバカでは務まりません。中には限りなくバカに近い校長もいましたが……たぶん同じ校長の顔が浮かんでいると思います。
 真面目でも校長は務まりません。校門をでたらスイッチがかわるような人間でないと、たとえ三年間とは言え校長はもちません。

 ひとときバカになれる、そういう人物になっておられると願っております。

 早期退職者の、いわば引かれ者の小唄のような手紙です。ご一読されたら、どうぞご失念ください。ただ懐かしさのあまり筆をとった次第であります。御清祥を祈っております。

             狩野雅子様

                               大橋睦夫 敬具 


※ この手紙はフィクションです

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『NHKは絶対映らないテレビ』

2018-05-30 06:57:31 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト
『NHKは絶対映らないテレビ』


 NHKは、なにがなんでも受信料をとる腹だ。

 松野はむかっ腹が立った。

 松野は、もう何年も、ひょっとしたら何十年もNHKにチャンネルを合わせていない。
 理由は特にない。強いて言えば「面白くない」からである。
 NHKを面白いと思ったのは、幼いころに観た『ひょっこりひょうたん島』が最後であった。
 それからは、NHKどころか、テレビを観ない生活になってしまった。
 それについては、いろいろ面白いことがあるのだが、先を急ぐので割愛する。

 電気技師であった松野は『NHKは絶対映らないテレビ』を作った。

 アキバに通って部品を集め二週間で作り上げたテレビを、幼なじみの大学教授の研究室へ持ち込み「絶対にNHKは映らない」ことを実証してもらった。
「松野、これは面白いことになるよ」
 大学教授も面白がり、松野を焚きつけ『NHKは絶対映らないテレビ』の新案特許を申請させた。
「こんな特許申請、通らないぜ」
 松野は思ったが面白いので申請をした。
 その様子を動画にして五回連続のシリーズでアップロードした。

 世間は面白いことに飢えているので、動画のアクセスはイイ線をいって、マスメディアも取り上げるようになった。

「こんな面白いことをやっている人がいます」

 NHKも、余裕のよっちゃんで、松野のことを放送したりした。
「しかし、松野さんには気の毒ですが『放送を受信できる設備を設置した者は受信料を支払わなければならない』と定められておりますので、松野さんには受信料をお支払いいただくことになります」
 アナウンサーは気の毒そうな顔はしているが、余裕のよっちゃんで語った。
 ま、ただのトピックニュースの扱いであった。

 松野のテレビは『はらないテレビ』と略され、半月後には、さらに略され『Hテレビ』として認識された。

 面白いことは広まるもので、模造品が出回り始めた。
 そして、ここにきて松野の特許申請が生きてきて『Hテレビ』は一躍ブランドになった。
「『Hテレビ』基盤も液晶そのものもNHKを拒絶するように出来ています。改造等で受信できるようには絶対できません!」
 このキャッチコピーがウケてしだいに売れ出した。

 まあ、シャレで。

 という感覚で数万台が売れてから、世間はかまびすしくなってきた。
「絶対映らないのに、受信料とるっておかしいよ!」
 半年もすると、ネットを中心に声が大きくなってきた。
「そうおっしゃられても、放送法がありますからねえ……」
 NHKは、慇懃にふんぞり返った。

『Hテレビ』が三十万代売れたところで異変が起こった。

「放送法を改正しろ!」
「NHKを解体しろ!」
 
 プラカードやムシロバタを掲げ、胸に『Hテレビ』のシールを貼ったデモ隊がNHK前と国会前に連日押しかけるようになった。

 デモ隊は『Hテレビ』シールから、いつしかシールズと呼ばれるようになり、安保闘争並の賑わいになってきた。

 デモ隊が二十万人を、署名は百万を超え、シールズの勢力は侮りがたいものになり、古い言い回しではあるが「山が動いた」

 一年後、議員立法による『改正放送法』が可決され、百年続いたNHKは事実上解体されてしまった。

 代々木のNHK放送センター跡地には、期せずして英雄になった松野がアッカンベーをしている銅像が建っている。
 

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・17』

2018-05-30 06:50:21 | 小説3

高校ライトノベル
『メタモルフォーゼ・17』
        


 片道一時間ちょっとかけてのレッスンが始まった。

 学校が終わって、4:05分の大宮行きに乗って、東京で地下鉄に乗り換えて神楽坂で降りて5分。放課後は必死。掃除当番なんかにあたると、駅までダッシュ。
 ミキとは別々。下手に待ち合わせたら、いっしょに遅刻してしまうし、みんなの目もある。
 だから一本違う電車になることもあるし、同じ電車に乗っても並んで座ったりはしない。地下鉄に乗り換えても、気安く喋ったりしない。
 これは人の目じゃなくて、自分のため。行き帰りの二時間半は貴重だ。学校の予習、復讐、台本読んだり(演劇部は続いている)レッスンの曲を聞いて歌やフリの勉強もある。

 一カ月が、あっという間に過ぎてしまった。

「美優、明日からチームZね」

 突然プロディユーサーから言われた。普通研究生からチームに入るのには、最速でも三か月はかかる。
 ちなみに、神楽坂46は、チームKからZまである。K・G・Rがメインで、ユニット名もKGR46。Zは、いわば予備軍ってか、劇場中心の活動で、たまにテレビに出ても、ひな壇のバック専門。
 でも、チーム入りには違いない。「おめでとう」とミキが伏目がちに言ったのは戸惑った。
 そのミキも三週間後には、チームZに入った。ただ、あたしは入れ替わりにチームGのメンバーになり、ここでも差が付いた。

 そんな暮れも押し詰まったころ、ミキのお祖母ちゃんのカオルさんの具合が悪くなった。

「ありがとう、大変だったでしょ。二人揃ってスケジュール空けてもらうの」
「ううん、たまたまなの。わたしは完全オフだし、美優は夜の収録までないから」
「そう、よかった」
 カオルさんは、ベッドを起こして、窓からの光に照らされ、あまり病人らしく見えなかった。
「並んでみて、そう、光があたるところ」
「ミキ、こっち」
「う、うん」
「美優ちゃんは、自然と光の当たる場所に立てるのね……」
「たまたまです、たまたま」
「ううん。自然に見つけて、ミキを誘ってくれた。美優ちゃん、これからもミキのこと、よろしくね」
「よろしくって、そんな……」
「ううん、美優ちゃんには、華がある。不思議ね、こないだミキのタクラミでうちに来たときには、ここまでのオーラは無かったのにね。あ、看護婦さん」
「カオルさん、今は看護師さんて言うのよ」

 抑制のきいた笑顔で看護師さんが入って来た。


「はい、なんですか、カオルさん」
 看護師さんは、気楽に応えてくれた。
「このスマホで、三人並んだとこ撮ってもらえませんか」
「いいですよ。じゃあ……」
 カオルさんを真ん中にして、三人で撮ってもらった。
「ほら、これでいいですか?」
「あら、看護婦さん、写真撮るのうまいわね」
「スマホですもん、誰が撮っても、きれいに写りますよ」
「いいえ、アングルとか、シャッターチャンスなんかは、スマホでも決まらないものよ」
「へへ、実は十年前まで、実家が写真屋やってたもんで」
「やっぱり……!」
 カオルさんは、勘が当たって嬉しそう。カオルさんが嬉しそうにするとまわりまで嬉しくなる。さすが、元タカラジェンヌではある。それも、この感じはトップスターだ。
「ほら、見てご覧なさい。写真でも美優ちゃんは違うでしょ」
「確かに……」
 ミキは、わざと悔しそうに言った。
「アハハ、ミキ、その敵愾心が大事なのよ」
「あの、カオルさんの宝塚時代のこと見ていいですか?」
「え、どうやって?」
「あたしのスマホで」
 あたしはYou tubeで、秋園カオルを検索した。
「あら、美優ちゃんのスマホ凄いわね!」
「カオルさんのスマホでもできますよ」
「ほんと、全然知らなかった!」
「カオルさん、思いっきり昭和人間なんだもん」
 そうやって、カオルさんの全盛期の映像を見て、楽しい午後を過ごした。

 そして、その四日後、カオルさんは静香に神さまに召されました……。

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高校ライトノベル・ボクとボクの妹

2018-05-29 06:43:27 | ボクの妹

ボクとボクの        


 ボクの妹は、自分のことを「あたし」という。気持ちの悪い奴だ。

 といって、ボクは男ではない。れっきとした十八歳に成り立ての女子高生だ。
 世間ではボクのようなのを『ボク少女』などとカテゴライズされていて、ネットで検索すると以下のようである。

 ボク少女(ボクしょうじょ)、またはボクっ子(ボクっこ)、ボクっ娘(ボクっこ)、僕女(ぼくおんな)は、男性用一人称の「ボク」などを使う少女のこと。 Wikipediaより

 生まれて気づいたら、自分のことを「ボク」と呼んでいた。
 ボクは、いわゆる「女の子」というのを拒絶している。悔しいことにWikipediaでも同じように書いてある。あれとは、ちょっとニュアンスが違うんだけど、文字にすると同じようになる。

「お姉ちゃんは否定形でなければ、自己規定ができないんだ。そんなの太宰治みたいに若死にするよ」
 とニベもない。
 ボクだって、社会常識はある。「ボク」と言っていけないシュチエーションでは「私」という中性的な一人称を使う。そう、例えば職員室とか、面接の練習とか、お巡りさんに道を聞くとき(まだ聞いたことはないけど)とか。

「春奈なに編んでんのさ?」
「見りゃわかるでしょ」
「分からないから聞いている」
「ミサンガよ」
「やっぱし……」
 風呂上がりの髪を乾かしながらため息が出た。
「なによ、ため息つくことないでしょ」
「なんで、ニサンガぐらいの名称にしないんだ……」
「ニサンガ……なに、それ?」
「六だ、二三が六。九九も知らないの?」
「じゃ、ミサンガは?」
 そう言いながら、赤糸と金糸を器用に編み込みにしていく。
「六にならん。ロクでもない。しいて言えば九だ。苦を編み出しているようなもんだ」
「お姉ちゃん、シャレになんないよ。これ、吉野先輩にあげるんだからね!」
「ああ、あの野球部のタソガレエースか」
「エースはいいけど、タソガレは侮辱だよ」
「事実だ。今年も三回戦で敗退。プロはおろか実業団とか大学の野球部からも引きがない。あいつの野球人生も、今度の引退試合が花道だろ……それも勝ってこそだけどな」
「怒るよ、お姉ちゃん!」
「勝手に怒れ。ボクは真実を言ってるんだ」
「いいもん。あたしは、こういう女の子らしい道を選ぶんだから。行かず後家まっしぐらのボク少女とはちがうのよ!」
「行かず後家ってのは、ちょっち差別だぞ。一生シングルで生きても立派な女の人生だ」
「田嶋陽子みたくなっちゃうぞ!」
「田嶋さんをバカにするな。尊敬する必要もないけどな」
「なによ、十八にもなって、彼氏もいないくせして!」
「春奈は、ボクのことを、そんなに浅い認識でしか見ていなかったのか?」
「だって、吉野先輩のこととか、メチャクチャに言うから」

 ボクは、無言のまま押入から紙袋を出してぶちまけた。

「なに、これ……?」
「こないだの誕生日に男どもが、ボクに寄こしたプレゼント。よーく見なさい!」
 妹は、プレゼントの一つから目が離せなかった。
「こ、これは……」
「そう、春奈のタソガレエースからの」
「くそ……よりにもよって、お姉ちゃんに!」

 妹は、発作的にハサミを持ち出して、編みかけのミサンガを切ろうとした。

 パシーン!

 派手な音をさせて、妹を張り倒した。加減はしている。鼓膜を破ることも口の中をきるようなタイミングでもない。春奈が歯を食いしばったのを狙って張り倒している。

「バカ、春奈は、そういうアプローチの道を選んだんだろう。だったら、そのやり方でやりきってみろ。意地でも、あの野球バカを自分に振り向かせてみろ。運良く、ボクはあんな男には興味ないからな」
「く、悔しい……!」
「休憩して、風呂入ってこい。そいで続き編んで、明日野球バカに渡せ」
「試合は、今度の日曜……」
「だからバカなの!」
「なによ!」
「あげるんなら、早い方がいい。あの野球バカは、ボクにプレゼントするのに一カ月かけて欲しいモノ調べやがったんだよ。赤のシープスキンの手袋……やってくれたね。あやうくウルってくるとこだったよ。がんばれ妹!」
「でも、これじゃ勝負になんないよ」
「バカ春奈。戦う前に負けてどーすんだよ。さ、風呂だ。こうやってる間にも給湯器クンは懸命に風呂の追い炊きやってくれてるんだ……じれったいなあ!」

 あたしは、タンスからパジャマとパンツを出して妹の胸に押しつけ、部屋から追い出した。

 妹は、ほとんど忘れているけど、ボクたちには兄がいた。ボクが四つのとき亡くなった。ボクは、ボクの記憶の中でもおぼろになりかけている兄のためにも生きていかなければと思っている。

 だから「ボク」……バカ言っちゃいけない。ボクたちに、ちゃんとしたアイデンティティーを示してくれなかった大人が……学校が、国が……よそう、これもグチだ。

 あの震災で、パッシブなアイデンティティーと忍耐は学んだ。でも、人間って、もっとアクティブでなきゃいけないと思う。
 あのとき、そのアクティブを見せてくれた兄。うまく言えないけど、自衛隊の人たちにも、それを感じた。
 だから、ボクは自衛隊の曹候補生の試験をうけて合格した。

 入学式は、お父さんと妹と、妹のカレになった野球バカも来てくれた。それから妹はAKBの研究生のオーディションに受かった。妹は、慰問に来てくれたAKBに自分を見つけたようだ。

 神さまは、いつか「ボク」に変わる一人称……言えるようにしてくれると信じて。

 2025年  三島春香 

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高校ライトノベル・秋野七草 その七『ナナとナナセのそれから』

2018-05-29 06:36:06 | ボクの妹

秋野草 その七
『ナナとナナセのそれから』
       

 そのニュースは、30分後には動画サイトに載り、夕刊は三面のトップになった。

『休日のOLとサラリーマン、半グレを撃沈!』『アベック、機転で子供たちを救う!』などの見出しが踊った。

「ナナとナナセさんて、同一人物だったんだ!?」
 山路は事件直後の現場で大感激。ナナが正体がばれてシドロモドロになっているところに、パトカーが到着。ナナは、演習の報告をするように、テキパキと説明。コンビニの防犯カメラや、通りがかりの通行人がスマホで撮った動画もあり、二時間余りで現場検証は終わった。

 帰ってからは、マスコミの取材攻勢。最後に自衛隊の広報がやってきて、ナナはいちいち丁寧に説明をした。
 
「山路君、驚いたでしょ……」
「うん、最初はね……」

 事件から一週間後、山路に済まないと思ったナナに頼まれ、山路にメガネとカツラで変装させて、我が家に呼んだ。

「最初は、酔った勢いで、ナナセって双子がいることにしちゃって、明くる朝、完全に山路君が誤解してるもんで、調子に乗って、ナナとナナセを使い分けてたの……ごめんなさい」
「いいよ、僕も面白かったし。そもそも誤解したのは僕なんだから。あの事件で思ったんだけど、ナナちゃん、ほんとは自衛隊に残りたかったんじゃないのかい?」
「うん、自衛隊こそ究極の男女平等社会だと思ったから……でも、女ってほとんど後方勤務。戦車なんか絶対乗せてくれないもんね。レンジャーはムリクリ言ってやらせてもらったけどね。昇任試験勧められたけど、先の見えてることやっててもね。レンジャーやって配属は会計科だもんね。で、除隊後は信金勤務。で、クサっているわけよ」
「ナナちゃんなら、半沢直樹にだってなれるさ」
 そう言いながら、山路はナナのグラスを満たした。
「こんなに飲んじゃったら、また大トラのナナになっちゃうわよ。もうナナセにはならないから」
 そう言いながら、二口ほどでグラスを空にした。
「まあ、ここで潰れたって自分の家だもんな」
「またまた、あたしのグチは、こんなもんじゃ済まないわよ」

 ナナは、家事をやらせても、自衛隊のレンジャーをやらせても、金融業務でも人並み外れた力を持っていた。ただ世間の受容体制が追いつかず、ナナはどこへ行っても、その力を十分に発揮できはしなかった。
「僕は、ナナちゃんのことは、よーく分かっている。いっしょにいろいろ競争したもんな。お兄さんだって分かってくれている。人生は長いんだ、じっくり自分の道を進んでいけばいいさ!」
「……そんなことを言ってくれるのは、山路だけだよ。ありがとね!」
 ナナは、握手しようとしてそのまま前のめりにテーブルに突っ伏し、つぶれてしまった。

 そうやって、ナナと山路の付き合いが始まった。

 いっしょに山に行ったり泳ぎに行ったり。二人の面白いところは、いつのまにか仲間を増やしていくところだった。三月もすると仲間が20人ほどになり、自衛隊の体験入隊までやり、自ら阿佐ヶ谷の駐屯地の障害走路の新記録をいっぺんで書き換えた。歴代一位がナナで二位が山路。民間人が新記録を書き換えたというので、広報やマスコミがとりあげ、一時テレビのワイドショ-などにも出まくり、アイドルユニットが、ナナをテーマに新曲を作った。ヒットチャートでAKBと並び、ナナは、山路とともに歌謡番組にゲストで呼ばれ、飛び入りでいっしょに歌って踊った。
「ナナさん凄い。よかったらうちのユニットに入ってやりませんか!?」
 リーダーが、半分本気で言った。ナナはテレビの画面でも栄えた。
「ハハ、嬉しいけど、あたし平均年齢ぐっと上げそうだから。でも、よかったら、そこのゲスト席でオスマシしてる山路、ヨイショしてやってくれる。あいつ、明後日からチョモランマに行くんだ!」
 ナナは、あっと言う間に、山路の壮行会にしてしまった。

 そして、山路が死んだ……。

 チョモランマで、滑落しかけた仲間を助け、自分は落ちてしまった。
「リポピタンDのCMのようにはいかないんだ……」
 ナナの言葉はそれだけだった。

 一晩、動物のように部屋で泣いていた。オレは深夜に酒を勧めた。だがナナは飲まなかった。
「この悲しみと不条理を、お酒なんかで誤魔化したくない。山路とは、そんなヤワな関係じゃない。正面から受け止めるんだ……」
 それだけ言うと、また泣き続けた。

 明くる日にはケロッとし、職場にも行き、マスコミの取材にも気丈に答えていた。

 山路の葬儀の日は、あいつらしいピーカンだった。ナナは、涙一つ見せないで山路を見送った。

 そして、三日後南西諸島で、C国と武力衝突がおこり、半日で局地戦になった。

 阿佐ヶ谷の連隊にも動員が係り、ナナは予備自衛官として召集され、強く志願して、石垣島の前線基地まで飛んだ。
 さすがに、実戦には出してもらえなかったが、最前線の後方勤務という予備自衛官限界の任務についた。

 この局地戦争は、五日間で日本の勝利で終わりかけ、アメリカが介入の意思を示すとC国は手が出せなくなり、誰もが、これで終わったと思った。

 敵は、第三国の船を拿捕同然に借り上げ、上陸舟艇と特殊部隊を積み込み、折からの悪天候を利用し、石垣島に接近すると、上陸を開始した。

 不意を突かれた石垣の部隊は混乱した。海岸の監視部隊は「敵上陸、オクレ!」の一言を残して、連絡が途絶えた。ナナは意見具申をした。携帯できる武器だけを持って、背後の林に部隊全員が隠れた。
 結果、敵はおびただしい遺棄死体と負傷兵を残し、本船にたどりついた残存部隊も、翌朝には、自衛艦により拿捕された。

 日本側にも、若干の犠牲者が出た。林を怪しいと睨んだ敵の小隊の迂回攻撃を受けた。ナナは味方を守りながら戦死した。

 詳述はしない。

 ただ、ナナは、山路を追うようにして死んだ。兄として言えるのは、この事実だけだ。

 秋野七草  完 

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・16』

2018-05-29 06:28:00 | 小説3

高校ライトノベル
『メタモルフォーゼ・16』
        


 火事場のバカ力だと思った!

 歌も、ダンスも、自己アピールもガンガンできた。
 なんたって、ほんの一分前までは、自分はただの付き添いだと思っていた。
 それが、だまし討ちで、あたしも受けることになっていたとは、指の先ほども思っていなかった。

―― 一人だと、とても受ける勇気がでなくって――

 あとで、ミキが言った言い訳。言われなくても試験会場に入る前の、ミキのゴメンナサイで分かってしまった。
 で、受験生五人が並ぶと、やっぱ張り切ってしまう。美優が……って、自分自身のことだけど、こんなに張り切っちゃう子だとは思わなかった。
 コンクールは、学校の看板をしょっていた。直前にS高のAたちに道具を壊された悔しさがバネになっていた。
 でも、この神楽坂46のオーディションは、ミキにハメラレたということはあるけど、しょっている物も、悔しさもない。ただ自然に湧いてくる「負けられるか根性」だけ。
「25番の人。アピールするところは?」
「あ、負けられるかって根性です。競争には勝たなきゃ。根拠ないですけど」
 我ながら、正直な答え。でも、やっぱ火事場のバカ力のガンガンだから、ダメだとは思った。

「ごめんね、美優、言わなくって……!」
 会場を出たとたんに、ミキが抱きついてきた。
「いいよ、いいよ、でもよく決心したね……」
 なんだか前田敦子の卒業宣言のあとの大島優子との感動シーンのようになってしまった。
「美優道連れにしてでも、受かりたかったの。美優すごかったよ! うかったら、いっしょにやろうね!」

「うん!」

 元気に、返事したのが良くなかった……オーディションに受かってしまった!
 で、ネットや、マスコミで流れたので、学校では大騒ぎになった。なんちゅうーか……演劇部のときよりもすごいお祭り騒ぎになってしまった。
 地元の新聞社、ローカルテレビ、受売商店街のミニコミ誌も、受売神社とコラボして、町おこしの種として神社の宮司さんを連れてやってきた。
「日本各地に、受売命(ウズメノミコト)を祀った神社がありますが、うちは年回りもあるんでしょうか、ことのほか霊験あらたかなようです」
 と、宮司さんは鷹揚にに答えた。ま、確かに、あたしを進二から美優にしたのにも、ここの神さまがいっちょう噛んでるよーな気もするし、コンクールも次々に最優秀を取らせてくれた。

 テレビ局の演出で、出演者のタレントさんといっしょに神社にお参りに行った。

――ねえ、神さま。これって、いったいなんなんですか?――
 あたしはダメモトで、柏手打ちながら、神さまに聞いた。
――美優 そなたは人の倍の運……を持って生まれてきた。心して生きよ――
 思わぬ声が頭に響いた。三度目なので、声に出して驚くことは無かったけど、表情に出た。
「あ、美優ちゃん、なにかビビッと来たのかな!?」
 MCのお笑いさんが、すかさず聞いてきた。
「あ、なんだか、その頑張りなさいって……聞こえたような」
 で、ごまかしておいた。
 運のあとに間が空いたのが気になった。でも、言わなかった。だって、思わせぶりすぎるもん!

 その日の帰りは夕方になった。

 テレビのロケ隊も来てるし、あたしのことを知ってる人も居そうだったので、久方ぶりに家まで歩くことにした。

「あ、美優」

 旧集落のあたりを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。この声の主は剣持健介だ。
「こないだのDVDありがとうございました」
「そんな改まるなよ、ただでも、今日の美優は声掛けづらかったんだから」
「え、そんな……」
「取り巻きいっぱいいるしさ、なんだか、美優のオーラが、すごくなっていくんだもん……声かけようと思って、こんなとこまで……おれも気が小さい」
「え、神社から、ず……」
「あ、聞こえにくいんだけど」
 あたしは、顔隠しのマスクをしているのに気がついた。急いで、マスク取ると、溜まっていた息が口からホンワカ出てきて健介の顔にもろに被ってしまった。
 健介の顔が真剣になった……なによ、このマジさは……。

「美優、好きだ……!」

 のしかかるようにハグされ、唇が重なってしまった。数秒そのままで、健介は離れた。
「ごめん……」
「謝るぐらいなら、こんなことしないで……」
「帰り道危ないから……送っていくよ」
「もう、危ない目に遭っちゃったけど」
「いや、もっと危ない奴もいるかもな」
 あたしは、前回のお尻タッチのオッサンのことを思い出して、おかしくなった。

 あたしは、唇が重なっても、それほどにはときめかなかった。

 心のどこかが、まだ女子に成りきっていないのか、神さまの「運……」が、ひっかかっているのか。

 満月と、宵の明星が、そんなあたしの何かを暗示するように輝いていた……。

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高校ライトノベル・秋野七草 その六『ナナかナナセか!?』

2018-05-28 06:32:11 | ボクの妹

秋野草 その六
『ナナかナナセか!?』
        


 妹はテンポの違いとアルコールの具合によって、ナナとナナセを使い分けているようだ。

 もっともナナセという人格は、後輩の山路が家にやってくるまでは存在しなかった。山路が泊まった明くる朝、酔った勢いの口から出任せでナナセを演じざるを得なくなった。山路はナナセがお気に入りのようだ。
 そこで、そのあとは山路を帰すため、ちょっと誇張したナナを演じ、10メートルダッシュから木登りまで山路と競い、オテンバぶりを発揮した。これで山路はナナが嫌いになるだろうと。
 ところが、山男の山路は、そんなナナと気があってしまった。
 昨日再び山路を連れて家に帰ると、ほぼ同時にナナが帰ってきたが、山路はナナの指の傷を見て、ナナセと勘違い。仕方なく、ナナはナナセを演じた……。

「いやあ、夕べのナナセさんは凄かったなあ。仲間の技術屋と話しても、あそこまでは熱くなりませんよ」
 ナナセ(ナナ?)手作りの朝食を食べながら、山路は本気で妹を誉めた。
「お恥ずかしい、みんな父やお祖父ちゃんの受け売りです。女でなかったら、お兄ちゃんに負けないくらいのエンジニアになっていたかもしれませんけどね。なんせ家は女らしさにうるさい家ですから」
「でも、ナナちゃんみたいな妹さんもいるんですよね」
「だから、あの子は自衛隊に行ったんです。あそこなら男女の区別ないですから」
「じゃあ、なんで辞めたんですか? この浅漬け美味いですね」
「あ、それは母です」
「山路さん、ごゆっくり。あたしはちょいと……」
「あ、お母さん、どうもお世話になりました」
「いいんだよ、今日はご町内で、日帰り旅行」

 そう言いながら、オレは、ナナ・ナナセ問題の終息を、どう計ろうかと考えていた。

 結局は、面倒くさくなり、山路の帰りを妹に任せることにした。実際夕べは飲み過ぎて頭も痛く朝飯も抜いていた。妹はナナセだったので、一滴も飲んでいない。山路を送って帰ってきたら朝酒になりそうだ。

「ナナは、入ってみて分かったみたいです。自衛隊でも女ができないとかやっちゃいけないことが、けっこうあるみたいで……詳しくは言いませんけど」
「でしょうね、あの子は、面白いことには、なんでもチャレンジしてみたい子なんですよ、とことんね……でも、そこで女の壁にぶつかってしまうんでしょうね」
「もう子どもじゃないんだから、わきまえなくっちゃやっていけないって言うんですけどね。女でやれることで頑張ればいいって」
「でも、ナナセさんにも、そういうところあるんじゃないかなあ」
「え、わたしがですか?」
「うん、ただ射程距離が長いから、ナナちゃんと違って、時間を掛けて狙っているような気がする。今の勤めも腰掛けのつもりなんでしょ。ゆっくり力をつけて、経営のノウハウを身につけたら、独立するんじゃないかな」
「ナナは現場だけど、わたしは、信金でも総務ですから、そういうことは……」
「いや、総務ってのは会社全体を見てますからね。経営陣との距離も近い。ナナセさんも、かなりしたたか」
「そんな……」

 しおらしく俯いてはいるが、気持ちは言い当てられたような気がしていた。ただ、今の信金に勤めていては、ただの夢に終わってしまうだろうが。

 その時、幹線道路から、線路際の道にドリフトさせながら三台のスポーツカーが入ってきた。歩道の先には、近場の山に登に行く十人ばかりの子供たちが歩いていた。

 危ない!

 妹は、とっさに判断し、ジャンプし最後尾の子ども二人を抱えて脇に転がった。いままでその子どもが居た位置には先頭の車が、高架下のコンクリート壁に腹をこすりつけ停まっていた。どうやら、駆動系のダメージはなかったようで、ドライバーの若い男は。逃げようとシフトチェンジをしているところだった。
「山路、最後尾の車を確保!」
 そう言いながら、妹はコンクリートブロックを運転席の窓に投げつけて粉々にした。そして、中の二人の男がひるんだ隙に、エンジンキーを引き抜いた。
 山路は、ダッシュして三台目の車の後ろに回り。道路脇の店の看板を持ち上げ、ぶんまわしてリアのガラスを破壊。そのままリアウィンドウから飛び込み、ドライバーの男の頭をハンドルに思い切りぶつけ、これもエンジンキーを抜いた。

「なに、しやがるんだ!」

 子供たちが無事だったことに気をよくしたんだろう。二台目の車から男女がバールを持って降りてきた。それに勇気づけられたんだろう、他の二台からも、男三人と、女一人が降りてきた。
「山路、気を付けて、こいつら半グレだ!」
 半グレの六人は、言い訳の出来る道具袋を持っており。手に手に金槌などのエモノを持って立ちふさがった。
 山路は、そのエモノを避けつつ、一人を投げ飛ばし、後ろから振りかぶられた金槌をかわして腕をねじり上げた。ボキっと音がしたんで、男の腕が折れたようだ。
「山路、ネクタイでもなんでもいいから縛着!」
 そう言いながら、三人の男女を倒し、ズボンを足もとまで脱がせて足の自由を奪い、ベルトを引き抜き後ろ手に拘束した。四人目の男はその場にくずおれて失禁していた。妹は、そいつを俯せにして、馬乗りになり、こめかみに金槌をあてがい、スマホを構えた。
「こちら、通行人。状況報告、半グレと思われる車三台○○区A町、一丁目三の東城線東横で、子供たちを轢きかけ、一台中破、二台撃破、犯行の男女六人確保、至急現場に着到されたし、オクレ!」

 妹は、かつての職場の業界用語で七秒で警察に伝えた。

「キミは……ナナ?」
「あ………」

 妹と山路に、新しい転機が訪れようとしていた……。
 

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・15』

2018-05-28 06:22:32 | 小説3

 


『メタモルフォーゼ・15』

        


「そこを右に曲がって……」

 ビックリした。

 いつのまに後ろにいたんだろう、ミキが声を掛けてきた。
 放課後、大事な話があると言うわりには、ミキは普通だった。放課後になっても相談持ちかける気配さえなかった。
 こりゃもう解決したんだな。そう思って一人で学校を出た。すると今みたく、あたしの後ろに忍び寄って声をかけてきた。
 あたしたちは、少し距離を空けて角を曲がった。突き当たり近くにハイカラな一軒家があった。ミキは、あたしを抜いて、その家に入っていった。

「おじゃましまーす」
「カオルさん、奥の部屋借ります」
「はい、どーぞ」
 年齢不詳の女の人の返事が返ってきた。家は遠目にはハイカラに見えたけど、廊下の腰板や窓枠に塗り重ねられたペンキから相当な年代物であることが分かった。廊下を突き当たって奥の部屋に入ると驚いた。庭に面した所は三枚の大きなガラス張り。天井も三分の一が天窓になっていて、半分温室みたく、いろんな花が鉢植えになっていた。
「すごいお花ね!」
「うん、カオルさんの趣味。あたしはゼラニウムぐらいしか分からないけど」

 そこにカオルさんが、ロングスカートにカラフルなケープを肩に掛けて紅茶のセットを持って現れた。

 

「あなたが美優さんね。美紀が言ってたよりずっと華があるわ」
「ほんと、たくさん花がありますね」
「ミユ、あんたのことよ。華のある子だって」
「華だなんて、そんな……」
「美紀の相談相手には、確かだわ。しっかりお話するのよ。じゃ、わたしは向こうに居るから」

 カオルさんは、そう言うと、きれいなメゾソプラノで鼻歌唄いながら行ってしまった。

「あの人は?」
「カオルさん。お母さんのお母さん……」
「え、お祖母ちゃん!?」
「シ、その言い方は、ここでは禁句だから」
 まだ鼻歌は続いている。
「歌、お上手ね……」
「元タカラジェンヌ……はい、どうぞ」
 ミキがハーブティーを入れてくれた。
「で、なによ、相談って?」
 ミキが顔を寄せてきた。
「実はね……」
「え……!」

 部屋中の花もいっしょに驚いたような気がした……。

 というわけで、あたしは神楽坂46のオーディション会場に居る……ただの付き添いだけど。

 ミキは、アイドルの夢絶ちがたく、このオーディションを受ける。でも前の失敗があるので、受けることそのものにためらいがあった。
 お祖母ちゃん……カオルさんは、ミキが小さい頃から宝塚に入れたがっていた。で、ダンスや声楽なんか中学までやっていた。で、AKBぐらい軽いもんよ、と受けたら、見事に落ちてしまった。
 宝塚とAKBではコンセプトが違う。カオルさんは、それが分かって居なかった。オーディションの評は狙いすぎている。だった。
 カオルさんは、孫を宝塚に入れることは諦めたが(なんせ兵庫県。経済的な問題と、肝心のミキが宝塚にあまり関心を示さなくなったこと)今のアイドルぐらいなら十分なれると、再度のアタックになったわけである。
 だが、最初の失敗がトラウマになり、なかなか次のオーディションを受けられなかった。
――あたしが(あたしの孫が)アイドルのオーディションごときに落ちるわけがない!――
 で、相談を持ち込まれたわけである。
「ねえマユ、あたし、いけるかなあ!?」
「いけるよ、もちろん!」

 それ以外に、答えようある!?

 でも、現場まで付いていくとはね……。
「次ぎ、21番から25番の人……あれ、25番、25番は、渡辺美優さん!」
 係のオニイサンがどなっている。なんであたしが!?

 スタジオの入り口でミキが25番のプレートを持ってゴメンナサイをしていた……。

 つづく

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高校ライトノベル・秋野七草 その五『わたしは、ナナ……セ』

2018-05-27 06:31:05 | ボクの妹

秋野草 その五
『わたしは、ナナ……セ』
        


 秋野七草と書いて「アキノナナ」と読む、元陸自レンジャーの我が妹の名前である。

 今日は、真面目な話があったので後輩の山路をうちに泊めてやると家に電話した。山路は、こないだも終電に間に合わず泊めてやった。

「すみません。今夜もご厄介になります」

 で、不幸なことに、妹のナナが直ぐあとに帰ってきた。「「あ」」と二人同時に声が出た。

「あ、ナナセさんの方ですね?」と、山路が誤解した。

 無理もない。そのときのナナは会社で指を怪我をしてテープを貼ってきていたのである。指を怪我したのは、先日のイタズラでおしとやかな(しかし架空の)双子の姉のナナセだと思いこんでいる。とっさに、ナナも気づき、ナナセに化けた。
「先日は、不調法なことで失礼をいたしました」
「いいえ、お怪我の方は……」
「あ、もうだいぶいいんですが、お医者様が、跡が残ると生けないとおっしゃって、こんな大げさなことをしております」
「そりゃ、あんなに血が流れたんですから、お大事になさらなきゃ」

 まさか、あの時の血が食紅だったとは言えない。

「今夜は、またお世話になります」
「いいえ、先日はまともにお話も出来ませんでしたから、ゆっくりお話ができれば嬉しいです」
 心にもないことを言う。

 ナナがナナセとして二階へ上がると、携帯が鳴った。アドレスでナナと知れる。

「どうした、なんでオレに電話してくんだ(なんせ二階からかけてきている)え、今夜は泊まり? どうして、せっかく山路も来てんのにさ。あ、ちょっと山路に替わるわ」
「もしもし、山路。どうしたナナ……ちゃん。せっかく今夜は大事な話が出来ると思ったのに。ほら、例のチョモランマ……ええ、そういうこと言うかなあ。男一生の問題だぞ。あ、笑ったな! おまえな、そういうとこデリカシー無さ過ぎ。今度しっかり教育してやっから。それに、勝負もついてないしな。次は絶対勝つからな! そもそもナナはな……」

 これで、今夜はナナはナナセで化け通すことになった。オヤジとオフクロには、この間に、話を合わせてくれるように頼んだ。一家揃って面白いことは大好きだ。

「と言う具合で、チョモランマに登るのには、準備も入れて三か月もかかるんです。うみどりの仕事は、その分みんなにご迷惑……」
「アハハ、そんなこと心配してたのか!?」
「だって、僕も設計スタッフの一員ですから」
「最初の三か月なんて、オモチャ箱ひっくり返すだけみたいなもんだ。アイデアを出すだけ出して、使い物になるかならないかの検討は、そのあと、さらに三か月は十分にかかる。それから参加しても遅くはないじゃないか」
「なんと言っても、オスプレイの日本版ですからね、僕だって……」
「気持ちは分かるけどな、A工業には大戦中からのオモチャ箱があるんだ。それこそ堀越二郎の零戦時代からのな。最初のオモチャ箱選びは、オレだって触らせちゃもらえない。オモチャの整理係なんだぞ」
「負けません。整理係でもなんでも」
「そんなこと言ってたら、チョモランマなんて一生登れねえぞ」
「すごいですね、若いのに二つも大きな夢があって」
「あって当然ですよ。僕にとっては、山と仕事は二本の足なんです。両方しっかり前に出さないと、僕って男は立ってさえいられないんです」
「焦ることはない。お前は帰ってきてから、広げて整理したオモチャの感想を言ってくれ。三か月もやってると、好みのオモチャしか目に入らなくなる。新しい目でそれを見るのが山路の仕事だ。うちの年寄りは、そういう点、キャリアも年齢も気にはしない。自分たちも、そうやって育ってきたんだからな」

 ここでナナが化けたナナセが割り込んできた。

「戦艦大和の装甲板を付けるとき、クレーンの操作がとてもむつかしくて、ベテランの技師もオペレーターもお手上げだったんです、俯角の付いた取り付けは世界で初めてでしたから。それを、ハンガーそのものに角度を付けるってコロンブスの玉子みたいなことを考えついたのは、一番若い技師の人だったんです……きっと山路さんにも、そんな仕事が待ってます!」
「ナナセさん。いいお話ですね……でも、そんな話し、どうしてご存じなんですか?」
「あ、これは……父が小さな頃に教えて、ねえ、お父さん……寝ちゃってる」

 それから、オレたち三人は技術や、夢について二時過ぎまで語り合った。山路はナナが化けたナナセの話しに大いに感激していた。ナナは、陸自に居たときも、実戦でも、技術面でも卓越したものを持っていた。だから、女では出来ないことにも挑戦しようとし、挫折して退役してきた。民間と陸自の違いはあるが、熱い思いは同じようだ。

 そして、オレは気づいてしまった。自分の罪の深さに……。

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・14』

2018-05-27 06:20:54 | 小説3

『メタモルフォーゼ・14』


「中央大会のビデオ、You tubeに流してもいいかな……」

 これが始まりだった。
 特に断る理由もないし、実際よく撮れていて、単なる上演記録というのではなく、撮影作品になっていた。
 でも、それだけが理由じゃない。今や、あたしの心の核になってしまった美優には、よく分かっていた。

 思った通り、次には、こう出てきた。

「今度、店のメニューの一新をするんで、試食に来ないか。自分で言うのもなんだけど、けっこういけるよ」
 そう、倉持健介の家は、洋食屋さんで、食べ物屋が少ない街では、割に名前の通った店だ。試食会なら、相手に負担させるお金も気持ちも軽い。うまいアプローチの仕方だと思った。

 さすがに、大正時代から続く洋食屋さんで、何を食べてもおいしかった。進二だったころは、食べ物に執着心はなかった。お母さんやルミネエの水準以下の料理でも満足していた。
 でも、女子になってしまうと、俄然食べ物にうるさくなってきて、下のレミネエとプータレるようになった。
「お家で、こんなの食べてたら、学校の食堂なんて食べられないでしょ?」
「食堂なんて、デカイ物はたべられないよ」
「アハハ、座布団一枚!」
 進二だったころは、この程度のギャグでは笑わなかった。美優になってから、よく笑う。この反応の良さが、単なるミテクレでは無く、クラスのベッピン組のミキたちが友だちにしてくれている理由だと思った。
 でも、相手が男子の場合は、注意しないと、間違ったメッセージを送ることになる。かといって、ツンツンもしていられない。どうも美優というのは人あしらいがうまいようだ。

 そうしているうちに、スライドショーが始まった。

 お店の90年に近い歴史が要領よくまとめられ、ナレーターも倉持先輩自身がやって、二十人ほどの身内とお得意さん達を感動させた。
「こうして、この店は、兄、健太が四代目の店主になることになりました」
 暖かい拍手が起こる。同時に『ボクは気軽な次男坊』とアピールしているように取るのは、気の回しすぎだろうか……と、思っていたら、それは唐突に始まった。

『ダウンロード』受売(うずめ)高校演劇部 主演:渡辺美優

 中央大会の作品が5分ほどにまとめられ、画質がいいので部分的には、かなりのアップもあり、コマワリもよく、実際よりも数段上手く見えた。
「この芝居の主演をやったのが、ボクの横にいる渡辺美優さんです」
 前に増した拍手が起こった。

「あんなサプライズがあるなんて、思いもよらなかった」
 健介は、駅まで送ってくれた。
「ああいう演出も、勉強のうち。それに美優は咲き始めた花だ。見てもらうことで、もっと伸びるし、きれいにもなる」
「きれい、あたしが?」
「うん、ミテクレだけじゃない。内面……ほら、今みたいに、驚いたことや嬉しいことに素直に、敏感に反応する。居るようで居ないよ。そういうのって、ボクは好きだ。今日はありがとう。良い勉強になった」
「勉強だけ?」

 なんてこと言うんだ!?

「美優に喜んでもらって、とっても嬉しい。美優は、そのままでもステキだけど、驚いたり喜んだりしたとき……その……」
「ありがとう。そんな風に言ってもらえたのは初めて(なんせ進二だったころは影が薄かった)」
 だめだ、雰囲気作っちゃ……と思っても、自然に反応してしまう。
「じゃ、これからもよろしくな」
 駅の改札前で手を出され、自然な握手になった。
「あ、うん。ほんとう、今日はありがとう」

 かろうじて、無難な挨拶をして改札を潜った。背中の視線に耐えられずに振り返ると、健介が笑顔で手を振った。反射的に、健介と同じくらいの笑顔で小さく手を振る。
 ホームの鏡で顔を見ると、ポッと上気して、頬が赤らんでいる。

 なんだ、この反応は。絶対健介は誤解する。美優がとても性悪に思えてきた。あたしは、いったいどこへ行ってしまうんだろう……。

 そして、家へ帰ってお風呂に入る。

「美優、なにかいいことあったでしょう?」
 ミレネエが、入れ違いに言った。姉ながら、女の感覚は怖ろしいと思った。

 寝る前に、メールのチェック。

――明日、大事な相談したいの。放課後よろしく。他の人には言わないでね――

 デコメも何にもない、ぶっきらぼうにさえ見えるそれは、ミキからだった……。

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高校ライトノベル・秋野七草 その四『ここで遭ったが百年目』

2018-05-26 06:46:55 | ボクの妹

秋野七草 その四
『ここで遭ったが百年目』
       


 『百年目』という落語がある。

 店では謹厳実直な番頭が、店の丁稚や若い者に細かな苦言を呈したあと「得意先回り」をすると言って店を出る。かつてから、こういう時のために借りている駄菓子屋の二階で、粋な着物に着替え、太鼓持ちや芸者衆を連れ、大川に浮かべた船で花見に出かける。
 最初は、人目にたたぬよう大人しく遊んでいたが、酒が入るに従って調子に乗り、桜の名所で、陸に上がって目隠し鬼ごっこをする。そして、馴染みの芸者と思って抱きつくと、なんとそれは店の旦那であった。
 で、明くる日旦那に呼び出された番頭が、「番頭さん、あの時は、どんな気分だった?」「はい、ここで会ったが百年目と思いました」

 この「会う」を「遭う」にしたような事件が妹の七草(ナナ)と後輩の山路におきた。
 
「やあ、ナナちゃんじゃないか!」
 
 そう声を掛けたときのナナは突然の出会いにナナらしい驚愕と面白さに、一瞬で生気に溢れた顔つきになったらしい。
 あとで、ナナ本人に聞くと、一瞬ナナセに化けようと思ったらしいが(といっても、ナナセが本来のナナの姿ではあるが)一昨日切ったはずの指を怪我していないので……ナナセはナナの出任せで、指を怪我したことになっている。で、山路も、それを確認した上で、ヤンチャなナナと確信して声を掛けたのである。

「なんかテレビドラマみたいな出会いだな!?」
「なんで、山路が、こんなとこにいるのよ!」

 この二言で、ナナといっしょに昼食に出た同僚たちは勘違い。

「じゃ、秋野さん、わたしたちはお先に……」
「すみません。変なのに出会っちゃって……!」
 同僚達は、なにやら勘違いした。
「わたしたちは、いつものとこだから、そっちはごゆっくり!」
 そして、桃色の笑い声を残して行ってしまった。

「おまえ、職場だと、かなりネコ被ってんのな」
「あったりまえでしょ。総務の内勤とは言え、この制服よ。会社の看板しょってるようなもんだもん。何十枚も被ってるわよ。でも、A工業の設計部が、なんで昼日中に、こんなとこに居るわけさ?」
「ああ、今日は防衛省からの帰りなんだ。飛行機一機作るのは、ロミオとジュリエットを結婚させるより難しいんだ」
「プ、山男が言うと大げさで陳腐だね」
「大げさなもんか。じゃ、知ってるだけの日本製の飛行機言ってみろよ」
「退役したけど、F1支援戦闘機、PI対潜哨戒機、C1輸送機、新明和の飛行艇、輸送機CX……」
「そんなもんだろ。あと大昔のYS11とか、ホンダの中型ジェットぐらい」
「そりゃ、アメリカが作らせてくれないんだもん」
「いいとこついてるね。F2は、アメさんの横やりで作れなくなったし、ま、そのへん含めて大変なのさ。ところで、一昨日の延長戦やろうか!?」
「よしてよ、こんなナリで、木登りなんかできないわよ」
「昼飯の早食い。これならできるだろ?」
「う~ん、ちょっと待ってて」
 ナナは、近くの喫茶店に行き、カーディガンを借りてきた。オマケにパソコン用だがメガネも。

「よーし、天丼特盛り、一本勝負!」

 近所の天ぷら屋「化け天」の座敷を借りて、フタも閉まらないほどの洗面器のようなドンブリに入ったメガ盛りで勝負することになった。ご飯は並の倍。天ぷらは二倍半という化け物である。むろん代金は負けた方が払う。
「ヨーイ、スタート!」
 と、亭主がかけ声をかけて、厨房へ。ランチタイム、早食いとは言え、終わりまでは付き合っていられない。三分後に見に来てくれるように言ってある。
 座敷といっても、客席からは丸見えで、一分もすると、その迫力に人だかりがした。

「ご馳走様!!」
「三分十一秒……こりゃおあいこだね」
 亭主の判定と、お客さん達の拍手をうけて、割り勘で店をあとにする二人であった。

 地下鉄の入り口で別れようとしたときに、山路のスマホが鳴った。

「出なくていいの?」
「ああ、これはメールだからな」
「そう、じゃ」
「またな」

 またがあってたまるか。そう思って、いつものナナ=ナナセに戻って歩き出すと、後ろから山路の遠慮無い気配。

「やったぞ、ナナ。チョモランマの最終候補に残った!」

 それだけ言うと、山路は、直ぐに地下鉄の入り口に消えた。

 七草は、ナナともナナセともつかぬ顔で見送った……。
 

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・13』

2018-05-26 06:39:11 | 小説3

『メタモルフォーゼ・13』


 信じられない話だけど、中央大会でも最優秀になっちゃった!

 本番は予選の一週間後で、稽古は勘を忘れない程度に軽く流すだけにしていた。それでも、クラスのみんなや、友だちは気を遣ってくれて、稽古に集中できるようにしてくれた。

 祝勝会は拡大した……って、ややオヤジギャグ。だってシュクショウがカクダイ。分かんない人はいいです(笑)

 校長先生が感激して、会議室を貸してくださり、紅白の幕に『祝県中央大会優勝!』の横断幕。
 学食のオッチャンも奮発してビュッフェ形式で、見た目に豪華なお料理がずらり。よく見ると、お昼のランチの揚げ物や唐揚げが主体。業務用の冷凍物だということは食堂裏の空き箱で、生徒には常識。
 でも、こうやって大皿にデコレーションされて並んじゃうと雰囲気~!

「本校は、開校以来、県レベルでの優勝がありませんでした。それが、このように演劇部によってもたらされたのは、まことに学校の栄誉であり、他の生徒に及ぼす好影響大なるものが……」
 校長先生の長ったらしい挨拶の最中に、ひそひそ話が聞こえてきた。
「あの犯人、みんな家裁送りだって……」
「知ってる。S高のAなんか、こないだのハーパンの件もあるから、少年院確定だってさ」
「どうなるんだろうね、うちの中本なんか?」

 中本は、ちょっとカワイソウな気もした。もとはあたしに興味を持ってスマホに撮った。好意をもって見ているのは動画を見ても分かった。道具を壊したのもAに言われて断れなかったんだろう……って、なんで同情してんだろ。あの時は死んでも許さない気持ちだったのに。

 これが、女心とナントカなんだろうか。あたしも県でトップになって余裕なのかな……そこで、会議室の電話が鳴り、校長先生のスピーチも、ひそひそ話も止まってしまった。

「マスコミだったら、ボクが出るから」

 電話に駆け寄った秋元先生の背中に、校長先生が言った。
「はい、会議室です。外線……はい、校長先生に替わります」
 会議室に喜びの緊張が走る。
「はい、校長ですが……」
 校長先生がよそ行きの声を出した。
「……なんだ、おまえか。今夜は演劇部の祝勝会なんだ、晩飯はいらん。何年オレのカミさんしてんだ!」
 そう言って、校長先生は電話を切ってしまった。
「校長先生、県レベルじゃ取材は無いと思います」
「だって、野球なら、地方版のトップに出るよ!」
「は……演劇部ってのは、なんというか、そういうもんなんです」

 祝勝会が、お通夜のようになってしまった。なんとかしなくっちゃ。

「大丈夫です、校長先生、みんなも。全国大会で最優秀獲ったら、新聞もテレビも来ます。NHKだってBSだけど全国ネットで中継してくれます!」
「そうだ、そうよ。美優なら獲れるわよ。みんな、それまでに女を磨いておきましょ!」
「男もな!」
 ミキが景気をつけてくれて、それを受けて盛り上げたのは……学校一イケメンの倉持先輩だった。

「あの……これ、予選と中央大会のDVD。おれ、放送関係志望だから、そこそこ上手く撮れてると思う。みんなの前じゃ渡しづらくってさ。関東大会の、いや全国大会の参考にしてくれよ」
 倉持先輩が、下足室を出て一人になったところで、声をかけてきた。
「あ、あ……どうもありがとうございました!」
「いいって、いいって、美優……渡辺、才能あると思うよ。じゃあ」
 あたしは、倉持先輩が、校門のところで振り返るような気がして、そのまま見ていた。
 振り返った先輩。あたしはとびきりの笑顔で手を振った。

 好き……というんじゃなくて、あたしの中の女子が、そうしろと言っていた。

「恋愛成就もやっとるからね、うちの神社は……」
 突っ立っていたあたしを追い越しながら、受売神社の神主さんが呟いた。そのあとを普段着の巫女さんがウィンクしていった。

 あたしは真っ赤になった。でも、好きとか、そういう気持ちではなかった。

 そういう反応をする自分にドギマギしている別の自分が居るんだ……。

 つづく 

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高校ライトノベル・秋野七草 その三『ナナ、ナンチャッテ!』

2018-05-25 06:57:56 | ボクの妹

秋野七草 その三
『ナナ、ナンチャッテ!』
        


 まさか、ここまで豹変しているとは思わなかった……!

「オハ、兄ちゃんワルイ。朝飯は自分でやってねえ。で、会場だけどさ……それウケる! ガールズバーで同窓会なんて、男ドモの反応が楽しみだね!」
「アハハ!」
「ウハハ!」
 と、トコとマコもノリが良い。
「あたし、いっしょにシェ-カー振るわよ! たしか、オヤジがシャレで持ってんのがあるから、やってみよ!」

 で、キッチンでゴソゴソやってるうちに、山路が風呂から上がってきた。

「あ、このイケメンが山路、兄ちゃんの後輩。で、水も滴るいいオトコ。朝ご飯テキトーにね」
「いいっすよ。いつも自炊だから」
「ごめんなさいね、同窓会の打ち合わせやってるもんで……ほんと、いいオトコ。あたしやります! ナナ、トコと話しつめといて!」
 マコが、朝ご飯を作り始めた。
「あのう、ナナセさんは?」
「ああ、あいつドジだから、そこで指切っちゃって、休日診療に行っちゃった」
「え、大丈夫なんですか?」
「あ、大げさなのナナセは。マコ、キッチン血が飛び散ってたら、拭いといてね。で、中山センセだけど……」

 キッチンへ行くと、シンクや壁にリアルな血痕が付いていた。

「ナナセさん、一人で大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。大げさに騒ぎまくるから、血が飛び散っちゃって。あんなの縫合もなし。テープ貼っておしまい。ほら!」
 ナナは、偽造したメールとテープを貼った指のシャメまで見せた。
「貧血になったんで、しばらく横になって帰るって」
「だったら、やっぱり誰か……」
「ダメ! 甘やかしちゃ、本人の為にならない。ガキじゃないんだから、突き放してやって!」
「ナナ、壁の血とれないよ」
 マコが、赤く染まったダスターを広げて見せた。
「アルコ-ルで拭けばいいわよ」
「あとあと、それより、そこのハラペコに餌やって、早く戻ってきてよ。で、会費は……」
「包丁にも……」
「大丈夫、ナナセは病気は持ってないから。処女の生き血混じりのサラダなんておいしゅうございますよ」
「おい、ナナ……」

 オレは、なにか言おうとしたが、女子三人の馬力と妖しさに、次ぐ言葉がなかった……いや、半分ほど、この猿芝居に付き合ってみようかという気にさえなってきた。どうも我が家の血のようである。

 マコと山路が朝飯作って、食後の会話で飛躍した。

「へー、山路って、山が好きなんだ!」
「うん、オレの生き甲斐だね。こないだも剣に登ってきたとこ。次は通い慣れた穂高だな」
「国内ばっか?」
「海外は金がね……でもさ、山岳会がテレビとタイアップして、チョモランマに挑戦するパーティーに応募してんだ!」
「じゃ、体とか鍛えとかなきゃ!」
「そりゃ、鍛えてあるさ、ホラ!」
 山路が、腕の筋肉をカチンカチンにして見せた。で、調子にのって、割れた腹筋を見せたとき、これまた、調子に乗ったナナが、ルーズブラウスをたくし上げて、自分の腹筋を見せた。
「おお、こりゃ、並の鍛え方じゃないな!」
「あたぼうよ。これでも数少ない女レンジャーなんだから!」
「じゃ、一発、勝負だ!」

 で、庭で10メートルダッシュをやった。これはナナの勝ち。
 アームレスリングは、3:2で山路の勝ち。
 腹筋は、時間がかかるので、60秒で何度やれるかで勝負。ナナが98回で勝利。
 匍匐前進は、むろんナナ。
 跳躍。指の高さは山路だが、足の高さではナナの勝ち。
 シメは、近所の公園まで行って、木登り競争。ナナが勝って、もう一回やろうとしたら、警官に注意され、お流れ。

 最初は、山路に嫌われるために、始めたのだが、双方本気になるに及び、事態がおかしくなった。

 どうやら、山路はナナが気に入ってしまったようなのだ。

「ナナちゃん。君は素敵だ!」

「ウソ?」

「本気だ!」

「ナ、ナナ、ナンチャッテ……!」

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